下界と出会い
一章 虐げられた獣人親子
1話 下界と出会い
「久しぶりに、気持ちのいい空気に触れた気がするな」
アスタルテに転移されられてからどれほどの時間が経ったのかは分からないが、何はともあれ無事に転移出来たようだ。
常にどんよりと重たい空気の住処とは違い、この森は空気が澄んでいて美しい。太陽の光など、いつぶりに浴びただろうか。
だが、その美しい森には似つかわしく無い人間もいるようだがな。
「もう少しここに居たいが、どうやらそういうわけにもいかなそうだ」
ちょうどこの世界の住民の実力を確認出来るいい機会でもある訳だし、少々面倒だが介入するとしようか。
………………
…………
……
逃げなきゃ! 逃げなきゃ逃げなきゃ! このままだと、殺されてしまう。このままだと、父さんとの約束を果たせなくなる。
「何逃げようとしてんだよ、この獣人が! 」
お腹に強い衝撃が走る。これは普通の蹴りじゃない、強化された蹴り。肋骨が折れてる。
だめ、立ち上がれない。今の攻撃が、効きすぎたみたい……。
次まともに受けたら、死んでしまう。
「父さん……ごめんなさい」
ボクが高く超えられない壁の前に諦めて膝を折った。生きる事を諦めたその時。
「何をしている、その足を下げろ」
白髪の髪に黒のローブ。
大きくて何故か安心する、その背中はまるで……。
「父さん……?」
幼い頃、人攫いにあったボクを助けに来てくれた、ボクがずっと見たかったヒーローの姿がそこにあった。
「お前、誰だ!」
「俺か? 俺の名はアレミス・リリシアーヌ。魔王だ」
「魔王だと? 何を言っているんだ。魔王なら3年前に勇者が討伐した。頭がおかしいんじゃ無いのか?」
「討伐? 聞いていた話と違うな……。まあいい、お前にはここで死んでもらう」
ボクを蹴っていた男は、ケラケラと笑い転げるように言った。
「俺が死ぬだ? Aレート冒険者のこの俺が、ホラ吹き男に殺されるとでも言いたいのか? バカバカしいにも程があるぞ」
「お前はそんなに強いのか? そうは見えないが」
「言ってろ、直ぐに気づかせてやる。喧嘩を売った相手を間違えたってな!」
男は、ボクを蹴った時のように足を強化して魔王と名乗る男――アレミスさんの顔を目掛けて蹴りを放った。
「遅いな」
アレミスさんはその足を手で止めると、人差し指を男のおでこに静かに添え、何をしたのか分からないけれど、その瞬間に男は吹き飛んで後ろの木に叩き付けられた。
「口ほどにも無い。Aレートとやらは、ホラ吹きに指1本で殺されるような奴なのか?」
アレミスさんは、男の持ち物の物色を始めた。
………………
………
…
俺は殺した男の持ち物を入念に漁っていた。理由は単純に金が欲しかったからだ。だいたい、俺は前の世界の金もろくに持っていない。そもそも人間と関わる生活をしていなかったが故に、金銭が必要無かったのだ。
だが、人間と共に生活をする以上必ず必要になる。前の世界では、街に入るだけで金が必要だった筈だ。
まだ俺が魔王になる前、街に入ろうとしたら金を要求された記憶がある。
鞄を漁り服へと手を伸ばすと、胸の辺りにコインが入った麻袋を見つけた。
「これか、あったぞ」
中を開いてみると、金の貨幣が2、銀の貨幣が3、その半分のものが5、銅の貨幣が3、銅の半分ほどの大きさのものが5枚入っていた。
「それにしてもだな……」
価値がさっぱり分からない。前の世界で金を使っていたら凡その推測ができただろうが、俺はそもそも人では無いため生まれてこの方金を使ったことなどない。
仕方が無いか……。
「そこの女」
俺は、先程Aレートの男に蹴られていた耳と尾のある少女に声をかけた。




