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序章

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序章 転移




「これでちょうど100人目の勇者か」


俺が魔王になってから、早くも800年の時が流れた。振り返れば長いものだが、実際のところそれほど長く感じない。


その間、人族が俺を殺そうと勇者という者を仕向けてきたが、どれも今ひとつ強くない。よくもまあ、揃いも揃って雑魚ばかり集められるものだ。


いや、俺が強いのか。


左手にはめている5つの指輪。1つで自分の力を10分の1にするものだが、遂に外すことは無かったな。


「とりあえず、勇者の死体を……」


突然足の力が抜け、右膝を地面に付いた。


なんでだろう、急に眠たくなってきた。やばい、視界がぼやけてきた……。体が、重い。



………………

………



さて、目を覚ましたはいいのだけどここはどこだろうか。俺の住んでいた屋敷――人間共には魔王城と呼ばれているらしいのだが。まあ、そんなことは置いておいて、あの黒を基調とした空間とは打って変わって、何がなにやら真っ白な空間にいる。


「何が起きたのだ?」


身体は思うように動くか……。


「ライトニング」


指先から放たれた一筋の雷。


ふむ、魔法も問題なく使用出来るな。良かった、俺は死んだわけでは無いようだ。


となれば、思い当たる節は一つしかないな。まさか本当に実在していたとは思わなかったが……。天の世界――ファフリシア――


「そこに居るのだろう? 姿を表せ」


「流石、魔王殿ですわね。私を見つけることができるなんて」


誰もいなかった空間に、自身の身丈程あるであろう大きな翼を持った1人の女が現れた。


「買いかぶりすぎだ。残念ながら、お前の姿は捉えられなかった……微かに魔力が歪んでいたからわかっただけだ。創造之神アスタルテ」


創造之神、この世界を作りそれに連なる様々な神を生み出した全ての始まりと言われている存在。


「あら、史上最強の魔王様が私をご存知で?実に光栄な事ですわね」


「貴様が寄越した勇者共が、死に際によく口にしていたからな。それに、勇者の持つ魔力とお前の魔力はとてもよく似ている」


「そうですか。ところで、どうして魔力を操っていらっしゃるので? よもや、私と一戦交えるおつもりでしょうか?」


「ハッハッハ、面白い冗談を。なに、少しばかり当たりを見回しただけだ」


実際、俺がアスタルテと戦うことになれば、命を代償に片腕をもぎ取れるかどうかだ。

幸運な事に相手も殺し合うつもりは今のところ感じられないし、出来る限り平穏でいたい。ただ、神が考えていることなど到底分からないから、周囲への警戒は怠れない。


これでも、ほんの僅かな魔力をバレないように慎重に操ったつもりだったのだが……。


「それでだが、なぜ俺をここに呼んだ?」


勇者の復讐か、神の計画を妨害した腹いせか、或いは俺を神へとする為か。

俺としてはどれもお断り願いたいところであるが。


「そうですね……簡単に言うと、最強の魔王を殺して欲しいのです」


「どういうことだ?」


つまりは、俺が俺を殺すと言うことにならないか? それとも、俺よりも強いやつが居るのだろうか。


「正確に言うと、別の世界の厄介な魔王を殺して欲しいのです。その世界にも、貴方のように勇者をもろともしない魔王がいますの」


「要するに、厄介者同士殺し合わせようって事か」


「ふふ、理解が早くて助かりますわ」


「だが、残った方はどうするんだ? また勇者を寄越すつもりか?」


「いえ、残った方には神になって貰います」


やはり、そうなるのか。

そもそも、俺達魔王がこうも執拗に狙われる理由は、世界の均衡にある。

一般的な世界では、数百年に1度現れる魔王を神が送り込んだ勇者が殺す。これの繰り返しなのだが、ごく稀に俺のような存在が現れる。

その場合、その世界の均衡が偏るのだ。

だが、神は直接的に世界には干渉できない。それを良しとすれば、必ずどこかのバランスが崩れるからたま。

故に神は、天使という神未満の存在を使徒として生み出し下界に送り、こうしてファフリシアに呼びつけるのだ。


まあ、ファフリシアであったとしても、こちらから手を出さない限り向こうは何も出来ないのだが。


要するに――だ。


「生き残った方を神に仕立て上げて、どちらも世界から消すということか」


「ええ、丁度神の椅子が一席空いているのですわ。でも一席だけですから、片方には死んでもらわなければならないのです」


「随分と勝手なやつだな」


「ええ、神ですから」


この神、本当にいい性格してやがる。本来ならこんな奴直ぐにでも消してやりたい所だが、今の俺では手に余る。


「それで、どうなさいますか? と言っても選択権はありませんが、異世界に転移すると言う手間をかけるお詫びに多少の融通なら聞いて差し上げますよ」


「お前に何かを望むほど、俺は落ちてはいない」


「あらあら、失礼な御方ですね。これでも私、色々な種から崇められているのですよ?」


「そんな物好きがいるのか。俺には理解できないな」


「ふふっ、まあいいです。では、早速転移をさせていただきますね」


「拒否権は無いのだろ。ならば、さっさと転移させるがいい」


「潔が良いですね。では、行ってらっしゃいませ」


アスタルテがそう言うと、視界が光に包まれて、俺の意識は途切れた。


「ふふ、貴方には素敵なプレゼントを与えておきましたわ。愛……これを持って、貴方はさらに強くなるでしょう。勇者がそうであったように……」


囁くように言った言葉は、何も無い真っ白な空間に静かに消えた。


物音ひとつない静かな空間で、アスタルテは一冊の本をどこからか取り出した。

タイトルも何も書かれていない、真っ白な本を。そして、アスタルテはそこに書き記した。


「運命」


と。


本に記されたタイトル。

名を得た本は光り輝き、1ページ目の1行目には、こう記された。


「これは創造神アスタルテが定めたものなり」


と。

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