第三節 遺書
『私達は自分たちの行っている事を正しいとしてきた。ゾムビーこそ悪で、悪は倒す、悪は全て殺す、そうしてきた。だが、正義の反対は悪ではない。正義の反対はもう一つの正義だ。片方に家族、友人、恋人がいる様に、もう一方にも家族、友人、恋人がいる。私たちとて同じだ。私達に家族、友人、恋人がいる様に、ゾムビー達にも家族、友人、恋人がいるかも知れない。双方が対決するのが歯がゆく、厄介で、煩わしい。
さて、この星には、多種多様な生物が生息している。互いに共存している部分もあれば、殺し合い、命を奪い合って生きている部分もある。更に人々は、犯罪に手を染め、他人を無暗に殺す事だってある。何故そうなってしまうのか……。犯罪者について少し考えてみよう。彼らも、生まれたての頃はどんな汚れ無き眼でどんな明るい未来を夢見ていたかは、犯罪に手を染めた後では当の本人すら分からないだろう。
物事には必ず原因と結果がある。ヒトラーを知っているか? ユダヤ人等に対する組織的な大虐殺、ホロコーストを引き起こした張本人だ。彼は幼少期、酷いいじめに遭っており、彼を助ける者は、誰一人として居なかったという。彼に救いの手を差し伸べる者が居れば、ホロコーストは起きなかったかも知れない。少し重たい話で済まない。
もう一度言う。物事には必ず原因と結果がある。犯罪に手を染めた者も、幼少期や今、抱えている問題が有るのかも知れない。
そこで、だ。手を差し伸べる、という道は無いだろうか? 犯罪者になってしまいそうな状況に立たされている者、過酷な状況に置かれている者らに手を差し伸べるという道だ。そうやって手を差し伸べていくうちに、犯罪という行為は消えてなくなっていくのではないだろうか?
それはゾムビーとて同じかも知れない。攻撃や威嚇に対して返って来るものは攻撃だ。元々ゾムビーの住処に無断で侵入して行ったのは私たち人間だ。ゾムビー達が大切にしている石を奪ったのも私たち人間だ。そこは反省すべき点だと、私は切に思う。ゾムビーにも手を差し伸べる、共に歩んでいくという道もあるかも知れない。そこで具体的な方法を何か模索してくれないだろうか? 身体副隊長、サケル隊員、ツトム隊員、その他の隊員達でも構わない。何か策を考案して欲しい。そしてそれを実行に移し、ゾムビー達との戦いに、終止符を打ってくれ。私から言える事は以上だ。健闘を祈る』
身体は遺書を読み終え、続けて言う。
「と、内容はこういったモノだ。隊長の遺志を継ぎ、個人的には不本意だが、ゾムビー達と和解する方向で指揮を執って行く。そう、本当に不本意だがな……」
(回想)
河川敷をランニングしている身体。ふと、何かの気配に気付く。川の方を見るとそこには紫色をした、得体の知れない生物がたたずんでいた。
「! 何だコイツは⁉」
その生物はじりじりとこちらへ近寄ってくる。
「ゾム……ゾム……」
「くっ来るなぁ‼」
怯える身体。
「……バースト」
「ボボン!」
得体の知れない生物は爆発するかのように弾け飛んだ。声のした方へと身体が顔を向ける。
「危なかったな、青年。もう大丈夫だ」
そこには、若かりし頃の爆破がいた。
「あ、貴女は?」
「ん? 私は爆破スマシ。ストレス解消と趣味で、さっきのような生物を駆除している者だ!」
「ケガの調子はどうだ? 副隊長」
爆破が問う。
「ええ、お陰様で、後はリハビリを残すのみとなりました。この通り、引っ付いています」
答え、手を動かして見せる身体。
「そうか……それは良かった。しかしまぁ、なんだ。クリスマスの夜と言うのに、お前はリハビリにトレーニングばかりなんだな……この後、食事にでも行かないか?」
「‼」
爆破の言葉に衝撃を受ける身体。
「何だ? 嫌か?」
「いいえ! 滅相もございません!」
爆破に咄嗟に言う身体。
「そうかそうか。じゃあ、30分後くらいに出発しよう。また後でな」
「まずは副隊長」
「は、ハイ……」
反応する身体。
「今まで私の右腕として良くついてきてくれたな、ありがとう」
「滅相もございません!」
「私にもしもの事があれば、この部隊を仕切ってくれるのはお前だ。宜しく頼むぞ」
「は……ハイ‼」
(回想終了)
(隊長……隊長の命を奪ったのはゾムビー。そのゾムビー達と、どうしても和解しようと言うのならば、私は私情を捨てて和解の道を歩んでいきます)
身体はひっそりと思うのだった。
「副隊長、スマシさんは……」
主人公は口を開いた。
「何だ? ツトム」
身体が問う。
(回想)
「さて、私は様々なゾムビーを倒してきた。時には同胞さえも……しかし、他の方法があったのではないかと、時々、思うんだ」
(回想終了)
「スマシさんは、ゾムビー化した人間だった人を、いいえ、元々ゾムビーだったゾムビーすら、殺すことをためらっていたのかもしれません。本当は嫌だったのかもしれません。だから……」
「今回、和解という指令を出してきた、と?」
主人公の言葉を遮って、言う身体。
「はい……!」
何か思いつく主人公。
「どうした? ツトム」
身体は問う。
「ゾムビーの発生源は、宇宙にあったウイルスなんですよね?」
「そうだ、それがどうかしたか?」
主人公に返す身体。
「和解の具体的方法として、あの石を、ロケットに載せてゾムビーの住処へ返すというのはどうでしょうか?」
「!」
「‼」
主人公の言葉に反応する身体と逃隠。
「そうか! ウイルスも石も、元は宇宙にあったゾムビー達の物。それを返すことで地球を襲わさせない様、協定を結ぶことが出来たら……!」
身体は声を上げて言う。
「はい……スマシさんの遺志も引き継いで、和解できる可能性があります」
「だい!」
主人公と逃隠は口々に言う。
「よし! 早速行動に移すぞ! あの石はここ、狩人ラボにはもう一つも有りはしない。急いでN州支部に連絡だ!」
身体の指示で、狩人隊員達が動き出す。
N州支部の者にビデオ通話するべく、準備を始める。モニターを通信用に切り替え、通話を始めた。
「How are you! Everyone」
通信がつながった様だった。身体は英語で対応する。
『もしもし、狩人副隊長の身体だ』
『oh! そちらからの連絡とは珍しいデスね』
『今回は、込み入って頼みがある』
N州支部の者に相談を持ち掛ける身体。
『? ナンでしょうか?』
『例の、ゾムビーの能力を高める石を、宇宙に還して欲しい』
『……』
『……』
暫くの間、沈黙が続いた。先に口を開いたのは支部の者だった。
『何故デショウか?』
身体は返す。
『ゾムビー達と、和解するためだ』
『……』
再び黙り込むN州支部の者。遂には口を開く。
『……何でデスカ?』
「!」
その表情は酷い憤りを感じていた為か、非常に険しいものだった。
『今まで戦ってきた敵と! どうやって和解しろと⁉ これまでに数万人の被害者を出してきた敵が! そんなことで攻撃の手を緩めるとでも! 本気で思っているのデスか⁉』
N州支部の者の言葉をしっかりと聞いた上で、身体は口を開く。




