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一瞬の恋人
不老不死。
それは、皆が憧れるほど良いものではない。
私の身になってみれば分かる。
生命の完成形などとも呼ばれているが、少なくとも私にはそう思えない。
長く生きることに意味なんて無い。それならば、さっさと死んでこの世から解放されたほうがよほどマシだ。
私は幾度となく死を見てきた。
瞬きの間に人が生まれ、瞬きの間に死んでゆく。
同じように死ねない私には、羨ましさと寂しさが募ってゆくばかりだった。
仲の良かった友人が先立たれる悲しさを、もう味わいたくなかった。
もう人付き合いはやめよう。そんなことを考えていると、1人の青年が私の前に現れた。
あんた、自殺でもしようかって目をしてる。
その言葉を聞いた時は、思わず嗤ってしまった。
自殺か。出来ればいいのだけどね、私は死ねないんだ。
彼にではく、自身の運命に嗤ってしまった。
寂しいのか。
彼が的確に私の気持ちを言い当てる。
そうだよ。キミには理解出来ないことさ。
そう言い返すと、彼は歩み寄ってきて私の手を握った。
理解出来なくてもいい。それでも、俺はあんたのことが好きだ。
突然の告白で呆気に取られてしまった。けれど、永遠の時を生きる私と瞬きの間に死んでしまう青年とでは、同じ時を共有することが出来ない。
私は化け物だよ。そしてキミはすぐに死んでしまう人間だ。恋仲になんてなれると思うかい?
断る為の言葉だった。しかし彼は、一瞬も迷うことなく返答した。
なれる。
その力強い瞳には、私しか映っていなかった。
そして恋仲となった私達は、数十年の時間を楽しく過ごした。
けれどやはり彼は、すぐに青年から老人になってしまった。
彼はベッドの上で枯れた声を出す。
俺の人生は、あなたの記憶に残りますか?
聞き取るのもやっとな声に、私はハッキリとした声で返事をする。
あぁ。キミは私の中で永遠に生き続けるよ。
その言葉を聞いて満足したのか、彼はあの世へ旅立った。
彼の亡骸を山に埋め、彼に貰った指輪を月夜に翳す。
人なんて、瞬きの間に死んでしまう。
そう思いながら瞬きをすると、いつも瞼の裏にキミが映し出された。




