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93話 試す以外にも理由はあった




郁人より先に意識を戻したライコは

声を上げる。


〔あれなんなのよっ!?

人が壁の中に入っていったわよ!?

しかも、蔦が生えてくるなんて……!!

ここは迷宮だとでもいうの……?!〕

(あの人はどうなったんだ……?!)


郁人の頭がぐるぐると回転しているなか、

エスコートしていたフェイルートが

声をかける。


「着きましたよ、我が君」

「あっ、うん。ありがとう」


柔らかな笑みを浮かべていた

フェイルートだが、ローダンの足元を

見て柳眉(りゅうび)をひそめる。


「………ローダン。

靴を履いたまま、また入ってきていたのか。

館内では靴を脱げと何度言わせるつもりだ」

「す……すぐに脱ぎます!!」


蔦がしゅるしゅると自身に這いよるのを

見て、ローダンは急いで靴を脱ぐ。


「すまないが、この靴を玄関に

置いてきてほしい」


フェイルートの言葉に蔦は靴を掴むと

壁に消えていく。


「……あの蔦はなんなんだ?

引きずり込まれた人は大丈夫なのか?」

「そこは大丈夫だよ。

この旅館は人を食べたりしないから」


首を傾げる郁人に

大丈夫とチイトはクスクス笑う。


「食べたりって……

まるで生きてるみたいだな」

「生きてるからね、この旅館」

「それってどういう……?!」


言葉に目をぱちくりさせた。

瞬間、襖がスパンッと勢い良く開く。


「ぬし様!湯加減はいかがで……

おい、ローダン。

なんでぬし様と手前が一緒にいる?」


開けたレイヴンはフェイルート同様、

ローダンを見ると眉をひそめ、

不愉快と表情にだした。


「俺の扱いひどくないっすか?!

フェイルートさんやレイヴンさんも!!」

「手前の今までの行動を振り返んな。

……そうか、ぬし様が起きるまでだったな。

じゃ、次の仕事だ」

「えっ?!

もう終いじゃっ……!!」


げっ!?と声にだしたローダンに

レイヴンはわざと眉を上げて

首を傾げる。


「終いだあ?

手前の借金が3日働いた程度で

返せる金額じゃねーのは手前自身が

1番よくわかってるよなあ?」


あっ、そういやとレイヴンは

ニヤリと笑う。


「すぐに返したいなら、あの旦那が

"味見させてくれたら肩代わりも

考えてあげなくもないよ"

と言ってたぜ?

もしくは、臓器をくれても……」

「馬車馬の如く働きますっ!!

ですので、どうか……!

この哀れな俺に仕事をください!!」


レイヴンの言葉に、風の早さで

綺麗な土下座を決めた。


フェイルートは扇子で口元を

隠しながら告げる。


「では、地下にお住まいの彼女達の

世話を頼もうか。

新しい世話係がそろそろ欲しいと

ため息を吐いていたからね」

「地下というと……まさか?!」


顔を真っ青にさせながらローダンは

問いかけた。

フェイルートとレイヴンは

頷く。


「貴様の想像通りだ。

彼女達の給料払いはとても良い。

早く返すならピッタリだろ?」

「精々頑張んな!

あの淑女達は礼儀に厳しいからよお!」

「マジかよおおおおおおおおおお!?!?」


ローダンは突然現れた蔦に引きずられ、

廊下の奥へ消えていった。


目の前で起きた光景に体を硬直させた

郁人は思わず呟く。


「……ローダンがすごく青ざめてたけど

大丈夫な場所なのか?」

〔……こいつらの言葉に含みを感じたわ。

間違いなく何かあるわね〕


絶対にあるわとライコが告げるなか、

レイヴンは快活に笑う。


「心配なさらずとも大丈夫です!

あいつは働くだけですので!」

「…………そうなのか?

あいつは確かに色々とアレだけど。

その、ほどほどにな」

「わかりました。

ほどほどにと彼女達にお伝えしておきます。

君、地下の彼女達に言伝てを頼めるかい?」


フェイルートは廊下を飛んでいた蝶を

呼び止め、言伝てを頼んだ。

チイトは頬を膨らませる。


「パパはクズにも優しいんだから」

「……ぬし様と知り合っといて

命拾いしたなあ、あいつ」


ポソリとレイヴンは呟くと、

郁人を見る。


「さあさあ、奥へお入りくだせえな。

お仲間が首を長くして待っておりますよ」

「さあ!パパ入ろう!」

「わかったよ」


2人に手を引かれて入ると、

ポンドとジークスが出迎えてくれた。


「マスター、おかえりなさい」

「イクト、おかえり」

「ただいまポンド、ジークス」


ジークスは郁人が着ている着物を見て

にっこり笑いながら軽く頷く。


「君が着ているのはユカタというそうだが。

大変似合っている」

「ありがとう。

そう言ってもらえると嬉しい」


あっ!と郁人は思い出した。


「2人はフェイルートのフェロモンに

当てられたみたいだけど大丈夫だったか?」


獣のように襲いかかってきた女性を思い出し

心配になったのだ。


「頭がくらくらした程度でしたからな。

問題はございませんとも。

長時間いたら保証はしかねますが……」

「俺もポンド同様の症状だった。

君こそ大丈夫だったのか?」


ジークスは郁人の肩を掴み、

唇を一文字に結ぶ、


「体がぽかぽかしたぐらいで、

特に変わった症状は無かったぞ」


だから大丈夫と伝える郁人の横で、

吹き出した声がする。


「ぷくく……あーもう我満できねー!!

まじで腹筋崩壊寸前ですわー!」


あひゃひゃひゃ!

とレイヴンは腹を抱えて笑いだす。


「色香大兄の濃厚なフェロモンを浴びて

それだけって……ぬし様マジ半端ねえ!!

色香大兄の立つ瀬無いんじゃねーの?

マジ草生えまくり!!草原だわ!

1面グリーングリーン!!

ヤバイ……!腹がよじれる……!!」

「笑いすぎだレイヴン。

貴様の笑い声は響くんだ。

静かにしろ」


畳に転がっても笑い続けるレイヴンに

フェイルートは冷たい視線を浴びせる。


「その口を縫いとめもいいんだぞ?」

「それはやめて!勘弁してちょ!!

色香大兄マジでやりかねねーもん!」


あー笑った笑った

とレイヴンは涙を指で拭く。


「あれに耐えれるのは俺と反則くん、

あいつら含めて8人くらいだと

思っていたんですけどね?」

「フェイルート。

俺達以外があんな反応をするのか?

あの女性みたいな……」


涙を拭いながらのレイヴンの言葉に、

郁人はフェイルートに問いかけた。


「はい。全員似たような反応です」


フェイルートはため息を吐く。


「失神するならまだ楽なのですが、

診察する際に襲いかかられたりもします。

街中を歩いていてもですから、

気が休まる時間はなかなか少ないですね」

「そうなんだ……」


日常を聞いた郁人は息を呑んだ。

ライコも思わず呟く。


〔それって……かなりキツいわよね。

街は人が多いから尚更気が抜けないもの。

ずっと警戒しとかないといけないなんて……

背筋がゾッとするわ〕

(……そうだな。

俺がそういう風に設定したから、

そんな弊害が)


申し訳なさに郁人は胸を痛める。


「我が君が気にされる事はございません」


心中を見抜いたようにフェイルートは

話し出す。


「我が君にこのようにあれと考えて

いただけたからこそ、私は今の立場で

無事に暮らしております」

「けど……」

「気に病まれるのでしたら、

このように触れる許可をいただけませんか?」


フェイルートは郁人の頬に触れる。


「私とて情がありますから。

ふと、人肌が恋しくなる時がございます。

それに……我が君、貴方様の側は

心がとても安らぐのです。

ですから、どうか……

ー 私に慈悲をくださいませんか?」


乞うような瞳に郁人は頷く。


「これぐらいなら構わないよ」


頬に当てられた手に触れた。


(俺をからかって楽しんでるようだしな)


フェイルートの気分転換になればと

考えたのだ。


「ありがとうございます、我が君」

「わぁっ!?」


キラキラした眼差しを向け、フェイルートは

郁人を抱き締めた。


「我が君の慈悲をいただき、

感謝の極みでございます」

「っ?!」


耳元で甘く囁かれ、背筋がぞくりとする。


(フェロモンが平気だとしても

この声やキラキラには慣れないな……!!)


間近にある国宝級の美形と

低くも艶やかな声に緊張して体が

固まってしまう。


「どうされましたか?

体が強ばっておりますが……」


強ばりに気付いたフェイルートは

郁人の顎に手をやり、軽く持ち上げる。


「このように強張られては、

不調をきたす原因になるやも

しれません。

身も心も解きほぐしてさしあげましょう」

「貴様がそれの原因だろうが」


チイトが無理矢理郁人をフェイルートから

引き剥がした。


「パパに悪影響だからやめろ」


ユーは尻尾を立て警戒しており、

ジークスは庇うように前に出る。


「……人肌が恋しいなら、彼らにも

求めればいいのではないか?

君の接触の仕方はその……だな……

誤解をされそうな気がする。

彼にも影響を与えかねない」


抗議するジークスの言葉を

フェイルートはキッパリ切り捨てる。


「断る。

男に抱きついて良い気はしない」

「発言に矛盾が生じているのだが?!」

「家族のスキンシップを他人の君に

とやかく言われる筋合いは無い」

「家族にしては過剰だと思うが」

「それは俺もジジイと同意見だ」


3人は郁人の接し方について討論

し始めた。


その光景を後ろから見ていたポンドは

笑うレイヴンに尋ねる。


「……レイヴン殿。

フェイルート殿の接し方ですが……。

マスターをまた試されているので

しょうか?」

「試したのはついでよ、ついで。

色香大兄の接し方にはちゃんとした

本命の理由があるぜ」


もう試す必要はないのでは

と尋ねるポンドに、ニヤリと笑いながら

レイヴンは語る。


「だって、大切な相手は誠意を持って

大事に扱いたいだろ?

色香大兄にとってもぬし様は

超特別な存在だからな。

その他大勢と一緒くたには

したくねーんだよ」

「……それにしては誤解を受けそうな

接し方ですな」

「それは言えてらあ」


ポンドの言葉にレイヴンは

アハハと笑った。





ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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