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92話 理性を失わないのは珍しい




風呂からやっと上がれた郁人は、

用意された浴衣に着替えてヘッドホンを

首にかける。


〔あんた大丈夫だったの?!

あんな濃厚なフェロモンの中にいて!!〕


瞬間、ライコの声が響いた。


(大丈夫。

体がポカポカしたぐらいだ)


心配するライコに郁人は答える。


〔フェイルートはさ、フェロモンを

常に抑えるのは辛いから平気な人を

探していたそうだ。

で、俺が平気か試したんだって。

平気なのを知って喜んでたよ)

〔分神ごしのあたしでもフェロモンに

当てられてヤバかったのに……

なんで平気なのよ、あんた?〕


なんでなのかしら?

とライコは疑問を口にする。


〔……気になるから記憶を少し

覗いてもいいかしら?

平気な理由がわかるかも〕

(記憶を?)


見れるのか?

と郁人は目をぱちくりさせる。


〔女神だからそれくらい出来るわ。

あっ!裸とかは心配しないで。

見るときに自動で服を着せるアイテムが

配給されてるから〕

(別に構わないけど。

……なんでそんなアイテムが配給

されてるんだ?)

〔クレームがたくさん入ったからだそうよ。

"いくら神様でも見ないでください!"

ってね。

神とはいえ勝手に裸を見られるのは

嫌でしょ?〕

(成る程。

見られるのはちょっとな……)

〔じゃあ、ちょっと記憶を覗かせて

もらうわね。

あんたはあいつらが待ってる

部屋に行きなさい〕


ライコは告げると、ヘッドホンは

静かになる。

ユーは水を飲んだあと、

郁人の肩に乗った。


「ユーおまたせ。

みんなを待たせちゃってるから

早く向かわないとな。

案内してくれる蝶がいるって

フェイルートから聞いたけど……

この子か」


郁人が(ふすま)を開けると、

淡い藤色の蝶がいた。

ヒラリと郁人の周囲を舞い、

通路を進み、郁人はついていく。


郁人はチイト達が待つ部屋に

フェイルートの蝶に案内されながら

進む。

肩に乗っていたユーは

じっと蝶を見つめる。


「蝶々が気になるのか?」


尋ねられたユーは頷くと

蝶の隣にいき、一緒にフワフワ

飛んでいく。


「……チイト達待たせ過ぎてないかな?」


チイト達は先に部屋で待っている。


チイトは郁人を待ってると言ったのだが、

着替えを急かすようで良くないと

フェイルート達に引きずられていったのだ。


(待ってても大丈夫だったんだけどな。

気遣いを無駄にする訳にもいかないし)

〔………………ねえ〕


見終わったライコから声をかけられた。

いつもと様子がおかしいので、

心配した郁人は尋ねる。


(どうかしたのか?)

〔………………なんちゅう妖しい雰囲気

醸し出してんのよあんたらはっ?!〕


驚きに溢れた声が耳をつんざく。


〔びっくりして目玉が飛び出そうに

なったじゃない!!

軽い系かと思ったらガテン系が好きな

油増し増しのガッツリ濃厚過ぎる

ラーメンを食べちゃった気分よっ……!!〕


見ちゃいけないものを見ちゃったわ!

と叫ぶライコに郁人は耳鳴りを

起こしてしまう。

キーンとする耳を抑えながら尋ねる。


(……………なんだその例え?

それに見ちゃいけないって……

裸じゃないんだろ?)

〔あたしが見たのは裸じゃないけど……

そっか、あんたら裸だったのよね……………

怪しさが更に増したじゃない!

なんてもの乙女神に見せてくれてんの!!〕

(見たいっていったのはライコだろ?)

〔たしかに見たいって言ったのは

あたしだけど!

誰があんなの想定出来るかっ!!

バカバカバカーーーーーー!!!〕


最早逆ギレに近い。

ライコが叫び続けるのをなだめようと

郁人は動く。


(落ち着けって!

フェイルートはからかってただけだぞ。

なにより、俺がフェロモンに耐えれるか

試しての事なんだしさ)

〔納得出来るかあーーーーー!!〕

「その貧弱姿は……

チェリーくんじゃねーかっ!!」


聞き覚えのある声に振り向くと、

瞳を潤ませ、ところどころボロボロな

ローダンがいた。


「ローダン!」

「起きたんだな……お前………!!!!」


命からがら逃げたような姿に

郁人はローダンのもとへ足早に駆ける。


「どうしたんだよ一体!?」

「マジで起きてよかったああああ!!

お前が起きるまで俺は……………

あんな場所で………………!!」


涙を滝のように流し、しゃがみこむと

郁人にしがみつく。


「もうあの人達に貰った金を

絶対に……絶対に使わねー……!!

そう心の底から誓った!!」

「お前がそこまで言うなんて……?!

なにがあったんだよ?!」

「……………………………………」


郁人が尋ねると、顔が真っ青になり

体を硬直させ、次第にガタガタと

震え出す。


「お……俺は……お前が起きるまで……

結局……あの店で働く羽目に……!!

女も入れる店だが、あまりいねーし……

野郎ばかりで目をつけられるは、

途中で毒牙にかかりかけたりするは……!!

俺はそれを必死に逃げて……!!

俺は……俺は……!!」


下を向きながら肩を抱き締め、

そして顔を勢い良く上げる。


「とにかく!チェリー!!

お前が起きて本当に良かった……!!」


おいおい泣きながら喜ぶ姿は

まさに九死に一生な体験をしたかのよう。


〔……こいつに一体何があったのよ?〕


ローダンの様子にライコは呟いた。


(気になるけど、今聞くのはやめておこう。

傷を抉ることになるかもしれないしさ)


郁人も気になるが、思い出しただけで

震え出す姿に聞くのをやめた。


「お前はフェイルートさん達のところへ

向かう途中だろ?俺も行くぜ!!」


これであそことおさらばだと

立ち上がり晴れやかに笑う姿に、

余程辛かったことが伺えた。


〔………とりあえず余程嫌な場所だったのは

理解したわ〕

(そうだな)

「ところで聞いたぜ、チェリーくんよお。

あの老若男女を腰砕きにする

フェイルートさんと風呂に入って

何もしなかったらしいな」


ローダンは歩きながら、

腕を郁人の肩に回す。


「なにもしなかったって……

することでもあったのか?」

「いやいや、別にしなくても構わねー。

だがよ、ここでは限りなく珍しいんだ」


頭に疑問符を浮かべる郁人に

ローダンはわかりやすく伝える。


「あの人の色気はえげつねーの

1言に尽きる。

あれでも抑えているらしいが、

それでも理性を失う奴は後を絶たねー。

まれに心酔する輩もいたりするが……。

で、俺の場合は前者。

初めてのときはすぐに失っちまったよ」


この俺が色気、しかも男の色気に失うなんざ

あとにも先にもフェイルートさんしか

いねーわと語る。


「今は短時間ならいけるが、

さすがに長時間は無理だ。

そんなあの人と一緒にいて変化が

無いのはレイヴンさんだけだった。

しかし、お前らが現れた」


ローダンは郁人をビシッと指差す。


「あの災厄もだが……

ジークスやポンドとかいう野郎も

眉1つ動かさねー。


ー そして、お前はあの濃厚なフェロモンを

浴びても平気だ。


その事態はお前の話題で持ちきりに

なるほど、ここじゃ珍しいんだよ。

ほれ、見てみろ」


ローダンが(あご)で示した先には

こちらをじっと見つめる人の山があった。


「あいつがあの……」

「フェイルート様の色香に

飛び付かないなんて本当かしら?」

「けど、従業員からの証言だぜ?」

「事実なのか?それ?」


人々は本当なのかと話している。


「お前を1目見ようと集まるくらいには

ガチで珍しいんだ。

マジで変化無かったのかよ、お前?」

「変化か……綺麗すぎて緊張したな。

あと、体がポカポカしたくらいか」

「…………………マジでそれだけ?」


目を見開くローダンに郁人は頷く。


「うん。そうだけど」

「おーい!聞いたかー!!

こいつあのフェイルートさんといて

緊張と体が火照っただけだとよーーー!!」


ローダンが人の山に向かって叫ぶと、

人々のどよめきが見てとれた。


「マジで?!」

「あのフェイルート様と入浴したのに、

たったそれだけ!?」

「あいつ、煩悩自体が無いんじゃ……?!」

「色香に呑まれないのも可哀想なものだ。

フェイルート様の色香はまさに天国の1言に

尽きるというのに…」

「思考は天国でも、現実は理性なくして

暴れてるけどな」

「あの方はどこかで修行でもして

鋼の精神を手に入れられたのかしら?」

「私もその精神が欲しいわ。

そうすれば2人きりでっ…………!!」

「その考えの時点で手に入らないのは

確実だな」


人々がざわめき、言い合う姿に本当に

珍しい事なのだと理解する。


(本当に珍しい事なんだな……)



ー 「全く。騒がしいかとおもえば」



廊下の先にフェイルートとチイトが現れた。

蝶はフェイルートの指に止まる。


「案内ご苦労。

ここからは私が引き受けよう。

君はゆっくり休んでくるといい」


蝶はその言葉を聞くと、ひらひらと

フェイルートの周囲を飛んで去っていく。

蝶と飛んでいたユーは郁人の元へ帰って

肩に乗る。


「フェイルート様ああああああ!!!」

「なんとお美しい………!!!」

「あの方を1目見れて幸せ……!!」


フェイルートの登場に人々は色めき、

黄色い歓声が飛び、失神する者までいる。


「パパ迎えに来たよ!

浴衣とっても似合うね!」

「ありがとうチイト」


黄色い歓声に圧倒される郁人に

チイトは駆け寄り、フェイルートは

ローダンを視界に入れ眉をひそめる。


「なぜここにいるローダン」

「いや、その……

こいつが起きるまでだったんで……」

「あぁ。そういう約束だったな」

「フェ……フェイルート様あああああ!!」


集団の1人の女性がフェイルート目掛けて

すごい勢いで駆けてきた。

女性の瞳は血走り、獣を連想させ

正常ではないと判断できる。


「フェイルート!!」

「大丈夫ですよ、我が君」


郁人が庇おうと前に出たとき、

何かが女性を捕らえた。


「……蔦?」


何かは蔦であり、壁から生えている。


「君には出禁だと伝えていたはずだが?」


袖から扇子を取りだし、口元を隠しているが

冷たい視線は女性に晒されている。


「仕方がない。破ったのはそちら側だ。

手荒な真似をさせていただこうか」


フェイルートの言葉を合図に蔦は女性を

何重にも縛り上げる。


「~~~~!!!!」


女性がなにかうめいているが、蔦により

遮られ言葉にもならない。


「さあ、お帰りいただこう」


扇子がぴしゃりと閉じた瞬間、蔦は女性を

捕まえたまま壁の中へ消えていった。


「…………何だ……あれ……」


目の前で起きた出来事に口をポカンと

開けたまま動かない郁人にフェイルートは

艶やかに微笑む。


「お目汚し大変失礼いたしました。

さあ、行きましょう。我が君」


その微笑みもまた筆舌に尽くしがたいほど

美しかった。





ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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