表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/377

91話 絶世の誘い


※今回、腐を匂わせる表現があります。

苦手な方はご注意ください。




温泉の周りを囲む岩の厚板、

熱い湯があふれ、視界は温泉から

ゆっくりと立ち上がる湯気で満ちていた。


旅館には様々な温泉が存在し、

効能も見事に多種多様。


「温泉ってやっぱりいいな」


その中から郁人とユーが選んだのは、

空を拝め、高い壁に囲まれているが

桜を1望出来る白く濁った露天風呂。


「本当に綺麗だ」


空と桜、白い湯のコントラストは

頬を緩ませる程に美しい。


景色を楽しみながら、近場の岩に

背中を預け、湯の中に体を沈めて

心身共に和んでいる。


「温まるぅ」


濃く湿った空気を吸い込み、

深々と気持ち良さそうに郁人は

息を吐く。


幸福感を味わっているとユーが

桜の花びらと共にこちらにやって来た。

いや、流れてきたというのが正しい。


「大丈夫か?」


のぼせているのではと心配になった郁人は

ユーを掬い上げる。


小さな音を立てながら(こぼ)れる湯は、

普通とは違い少しとろみがあった。


心配されたユーは、平気な様子で手の平から

勢い良く湯に飛び込む。


独特な湯の感触が楽しかったのか、

郁人の隣にある岩に上がると

飛び込むを繰り返し楽しんでいる。


「今はいいけど、人が来たらダメだからな」


注意するのをためらうくらい楽しそうだが、

貸しきりではないので心を鬼にし、郁人は

注意した。

ユーは頷くと、再び行為を繰り返す。


「……まあ、いいか」


人が来たら止めようと、

郁人は近くに置いた水を飲んだあと

桜を見上げる。


(こうやって温泉に浸かりながら

桜を見るのもありだな)


温泉の端にある岩にお湯が打ち寄せる音を

聞きながら目を閉じた。



ー 「お隣、失礼します」



鼓膜を低く艶やかな声が刺激した。


「フェイルート?!」


目を開け隣を見ると、郁人に微笑みかける

フェイルートがいた。


「突然すいません、我が君」


微笑みは艶にあふれ、濡れた髪から

肩に水が落ち、湯気によって温めれた

肌もあいまってひどく艶かしい。

あまりの艶かしさに目が潰れそうだ。


「我が君と話がしたく、

こちらに来させていただきました」

「そ……うか……」


至近距離にいるフェロモンを垂れ流した

絶世の美男に郁人は声が裏返ってしまう。


(あの時は自分の記憶や体調で

いっぱいだったが、本当に綺麗だな……!!

自分が描いたけど更に綺麗になってる

気が……!!

あまりに綺麗過ぎて緊張するし、

体がポカポカしてきたし、

本当にキラキラが半端ない……!!)

「どうかされましたか?」


心配そうに郁人を見る姿もまた

国宝級の絵画のよう。


フェロモンとキラキラ全開の瞳は、

逸らされることなく真っ直ぐ郁人を

射ぬく。


「いや、その、フェイルートのそばに

いると体がポカポカするなって」

「体が……ですか?」


フェイルートは顎に手をやり、

考える素振りを見せる。


「御尊顔に触れることをお許しください」


郁人の頬に触れ、額に自身の額をくっつけ

熱を計りはじめた。


「………?!?!」


あまりに突然の事態に固まる郁人を余所に、

長い睫毛を伏せ、集中する。


「……確かに、平熱より上がって

おりますね。

私のフェロモンが我が君の体温上昇に

役立つ。

このような活用方法があったとは……

私自身も驚きです」


睫毛に縁取られた瞳を開け、

フェイルートは優しく微笑んだ。


すると、視界が真っ暗になる。


「ユー!?」


郁人が意識を失った訳ではなく、

ユーがフェイルートの顔にへばりつき、

物理的に真っ暗になったのだ。


「……邪魔しないでもらいたいのだが」


声を凄めたフェイルートだがユーは

微動だにしない。


「ユー大丈夫だぞ。

びっくりしただけだからな」


郁人を心配しての行動だと察知し、

ユーを胸元に引き寄せ抱き締めた。


「フェイルートは俺の体調を気遣って

した行動だから。

心配しなくても大丈夫だぞ」


郁人の言葉に、胡乱(うろん)な視線を

フェイルートに送りながらもユーは

大人しく抱っこされる。


「あいつ……厄介なものを我が君に

渡したな。もしや(はば)むためか?」


フェイルートは考える素振りを見せながら

ポソリと呟いた。


「話があるって言ってたけど……」

「我が君に関することです」


郁人に声をかけられ、考えるのはやめた

フェイルートはこちらを見る。


「あの竜人から聞いているとは思いますが、

医師として直接話したいと思いましたので」


姿勢を正し、真剣な面持ちで口を開く。


「我が君、貴方様の記憶にかけられた術の

1/3は解除出来ました。

しかし、こちらに来たきっかけ等の記憶は

未だに不明です。

……力不足で申し訳ございません」

「頭を上げてほしい!

フェイルート達がしっかりしてくれたのは

わかるし、記憶だっていつか思い出せる

ようになるって。だから大丈夫!」


頭を下げるフェイルートに、

郁人は気持ちを伝えた。


「……いつかですか。そうですね。

急いては事を仕損じますし、

我が君に御足労おかけしますが

月に1回は通院していただきます。

体調の事もございますから」

「ありがとう。頼りにしてる」


自身の体が以前と比べようがないほど

良くなっており、自身ではどうしようもない

記憶について1/3も解除してくれたのだ。


郁人にとって頼りにするのは確定だ。


「そのように言っていただけるとは、

とても光栄です。

ー 我が君」


フェイルートは郁人の顎に手を添えて

軽く引くと、自身に向けさせる。


「よければ、いっそ健康管理だけでなく、

心身共に私に(ゆだ)ねてみてはいかがでしょう」

「へ?」


フェイルートの突然の言葉に口をポカンと

開ける。


「これまた一興(いっきょう)かと。

なに、悪いようにはいたしません。

極上のひと時を我が君、

貴方様に捧げましょう。

……全てをこのフェイルートに」


整った美しい相貌を寄せられ、

かなりの近さに体温の上昇を

更に感じる。


(この距離はまずくないか?!

口に吐息があたるくらいだし距離を…!!)


急いで距離をとろうとするも既に遅く、

腰に手を回され逃げられない。

ユーも郁人を助けようとするも、

郁人が緊張で思いきり抱き締めてるので

動こうにも動けない。


腰に回された手は宝物を扱う繊細な

動きながら、郁人を逃しはしない。


「ちょっ……!」


手の動きにぞわりとしてあわてふためく

郁人を見て、フェイルートは艶やかな

笑みを更に溢れさせる。


(フェイルート……

さては楽しんでるな俺の反応を!!

なんか甘い匂いもしてきた気が……!!)


からかって遊んでるのだと推測できたが、

軽く流せたり、ノリに乗れたりなど、

こういった事に慣れていないので不可能。


絶世の美男で艶男のフェイルートだから

だろうか。

妖しい空気が漂っている気がして

仕方がない。


(どうやってこの状況から抜け出す?!

考えろ!!頭をフル回転させるんだ!!)


せめてもの抵抗と、頭をやや後ろに

そらせる。


しかし、フェイルートは郁人を逃さない。


ー 「我が君」


目が輝き、艶めいて柔らかくなり、

更に距離が縮まった。



ー「パパから手を離してもらおうか?」



かと思われたが、眼前を黒いものが

猛スピードで横切り、ガツンと硬い音が

響く。


「この杭は……」


フェイルートは一瞬顔にぎゅっと

皺を寄せる。


「これって……!!」


郁人は音が響いた先を見てみると

見覚えある杭が岩壁に突き刺さっていた。


「勝手にパパに触れるな」


杭が投げられた先には顔を歪めた

チイトがいた。


「チイト!」

「危ないな。

我が君に当たったらどうする?」

「俺がパパを傷つける訳が無い。

貴様のほうが余程危険だ」


睨み付けるチイトの後ろから

バタバタと複数の足音が聞こえる。


「色香大兄!

抜け駆けはいただけないって……

すごいフェロモンが漂ってんなあ?!」

「マスター大丈夫で……

なんでしょう頭がくらくらと……?!」

「イクトなにがあっ……た……

この香りは……!?」

「色香大兄、フェロモンの濃度を

上げやがったな!?

うわ!?従業員が腰ぬけて

理性蒸発寸前じゃねーか!?

至急窓を開けろ!!

獣になりたくないなら早くしな!!

理性が危ない奴はそこら辺の壁に

頭ぶつけとけ!!」


チイトを急いで追ってきたレイヴン達は、

フェイルートのフェロモンで大騒ぎだ。


「フェロモンの濃度が上がったって……」

「常日頃、私は抑えて過ごしております。

しかし、ずっと抑えるとは辛いもの。

誰か耐えれる相手が欲しくなり、

我が君なら耐えられるのではと考え

少しずつ濃度を上げていたのです」


キョトンとする郁人に

フェイルートは説明する。


「過度な接近もフェロモンが

効いているか判断する為。

そして、結果はこの通り。

我が君は普段と変わらぬご様子。

その事を心より嬉しく思います。

……我が君に効かない事実は残念でも

あるのですが」


ポソリと呟いた言葉は湯が流れる音に

掻き消された。


「我が君を試すような行為……

誠に申し訳ございません」


フェイルートは謝罪する。


「いや、気にしなくていいぞ。

我慢が辛いのはわかるからさ。

もしかして、俺の表情があまり動かないから

目を見るためにあんなに近……く……………

あの、フェイルート?」

「どうかされましたか我が君?

なにか気になるの事でも?」

「……今も近いかな。うん」


郁人は現在、フェイルートに両腕で

抱き締められ硬い胸板に押し込まれている。


フェイルートの肉体も神の芸術品の如く

見事に完成されたもので、ライラックに

抱き締められた際は窒息だが、

フェイルートの場合は別の意味で

窒息していまいそうだ。


(体も完璧とか描いた俺が言うのも何だが

本当にすごいな!?

筋肉もバッチリで完成されてるし!!

綺麗過ぎてなんだか呼吸が……!)


老若男女を惑わす色香に指や爪先がうずき、

呼吸がうまく出来ない。


「本当に近い。パパから離れろ」


チイトが力付くで引き剥がす。


「貴様は良くて俺は駄目だと言うのか?」

「貴様から不健全さをかなり感じる。

パパに良くない」

「反則くん珍しく言い分が理に適ってるな。

色香大兄だとアダルティが駄々漏れで、

ぬし様には早いと俺様も判断しますよ?」

「家族が抱き合うに早いも何もないだろ」


3人が言い合うのを前に、郁人は思う。


(このままじゃ逆上(のぼ)せそうだし

風呂から上がりたい……お腹空いた……)


3人の渦中にいる為、しばらく無理だと

郁人はユーと一緒に水を飲んだ。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ