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88話 予期せぬカミングアウト




とても甘く、上品な香りが鼻孔を

くすぐる。


「……ん」


郁人が目を覚ますと、視界1面が

真っ白だった。

目を擦ってみるが、変化はない。


「夢……か……?」

〔夢じゃないわよ〕


首を傾げていると、ライコの声が

聞こえてきた。


見ると、手元にヘッドホンがある。


「もうぬいぐるみじゃないのか……」


手をグッパと握ったり開いたりしたあと、

郁人はヘッドホンを首にかけ、声をかける。


「おはよう、ライコ」

〔色々と言いたいことはあるけど。

とりあえず、おはよう〕


ぐっすり眠れたようね

とライコは告げた。


〔まあ、これはあんたが夢だと

思ってもおかしくない状況よね。

とりあえず、その白いのに触れてみなさい〕

「わかった……」


夢心地で頭がしっかり働かないが、

ライコの言うように触れてみた。


「うわっ!?」


すると、その白が倒れていった。


慌てて拾おうと手を伸ばし、

正体に気付く。


「……花……びら……?」


郁人がいたのは人を余裕で包める程の

大きな花の中だったのだ。


見渡すと今居る場所が旅館の1室だと

いうこともわかったが、なぜこのような

状況下に居るのかわからない。


「俺が居るのは花の中?

旅館の部屋に花が咲いているの?

なんで花の中で寝てるの俺?」


夢心地からは解かれたものの

状況を理解できずにいる郁人に

声がかかる。


「起きたか、イクト」


すーっと息を引くような音とともに

襖が開く。

声をかけたのはジークスだ。


「物音がしたからもしやと思い

入ってみたが起きたようで安心した」

「おはようジークス。

ここはどこなんだ?この花は?

その……俺はあれからどうなった?

フェイルートに煙を吹き掛けられた

ところまでは覚えているんだけど……」


頭が追い付かない郁人は頬をかく。


「では、状況の整理をしながら

話していくとしよう」


ジークスは口を開く。


「ここはレイヴンとフェイルートが

経営する旅館の1室だ。

そして、君は3日間眠っていたんだ」

「3日も……?!」


1度も起きること無く眠り続けていた事実に

郁人は目をぱちくりさせる。


「気力だけで動いていた事により

溜まっていた疲労が原因だ。

君が眠っていたこの花は、中で眠る者の

体調等を完全に治療するため特別に

用意されたものだ」

「……そうだったんだ」

〔少しは自愛しなさい。

丸3日眠りっぱなしになる程、

あんたは疲れてたんだから。

まあ、眠ったら体の調子も

良くなったんじゃない?

その花は体調以外に美容にも効果が

あるみたいだし〕


ジークスやライコの言葉を聞き、

腕を回したり、頬に触れてみる。


「体の調子はたしかに良さそうだ。

肌は……どうだろ?」

「肌か?

血色はいつもより良いほうだ」

「そうか。

ジークスが言うならそうだろうな」


安心する郁人にジークスは述べる。


「そして、君の記憶に関する細工は

1/3は解除出来たらしい。

しかし、君がこちらの世界に来た

きっかけ等は不明だ」

「そうか。

よかった……って……


え?」


ジークスから出た言葉に耳を疑った。


「こちらの世界って……」

「君が別世の界から来たことを災厄達が

教えてくれた。

彼らは君が描いたきゃらくたーという事も

全て聞いた」


淡々と答えるジークスに郁人は

息を止めてしまう。


(いつのまに話して……

いや、俺が寝てる間に話したのか?

……俺が異世界から来たことを知ったんだな。

チイト達を描いたことも)


鼓動が激しくなる郁人は目をぎゅっと

閉じたあと、謝罪する。


「……黙っていてごめん」

「イクト?」

「ジークスは身の上とか全部

話してくれたのに、俺は隠していた。

ここの世界の人じゃ無いこととか……

チイト達の事とか全部隠してた。

……言い訳になるけど、

いつか話すつもりだった。

けど、どう説明したら分からなくて……

親友じゃなくなる事が怖くて……」


郁人はジークスに頭を下げた。


話すきっかけはいくらでもあった。

しかし、郁人は怖かったのだ。


心を開いた者達に嫌悪されるかも

しれないことが。


ー 郁人がこちらに来た頃、

皆に遠巻きにされ、自身を見てひそひそ話も

されていた。


しかし、ライラックが身元引き受け人に

なってからは次第になくなっていった。


いじめはあったが、親切にしてくれる者達も

増えていき、家族や親友、友達が出来た。


ー けれど、自身が異世界から来た存在、

この世界では異物なのだと知られたら

どうなる?


また逆戻り?

いや……それ以上に嫌悪され、

自分達を騙していたのかと罵倒されたら

どうする?


ライラックやジークスなどの近しい者に

そのような態度をされたらどうなる?


考えただけでも喉が苦しくなり、

涙がボロボロと出てきそうになる程。


郁人はとても怖くて今までずっと

言えなかったのだ。


「本当に……ごめん」


言葉を震わせ、目を固くつむる郁人に

待っていたのは自身の手に重なる

大きな温かい手だった。


「イクト」


顔を上げた郁人にジークスは

優しく話しかける。


「君は気にしすぎだ。

君がどのような存在、ましてや

別の世界から来た人物だろうと

変わりはしない。

ー 私は君の、イクトの親友だ」


真剣な瞳でジークスは告げた。


「でも、俺は隠していて……」

「以前、君が私に言ってくれた言葉を

君に返そう。

それが私の気持ちでもあるからだ。

"別に私はイクトがどういう立場の人

だろうと気にしない。

隠し事があることが後ろめたいとは

思わない。

隠し事がない奴なんていないと思うが"」


ジークスは郁人の手をとり、

両手で包む。


「それに、私は君に嫌われたくないと

思われる程の立ち位置にいて嬉しいと

感じたくらいだ。

だから、君が頭を下げて謝る必要は

さらさら無いんだ」


ジークスの言葉が胸にずっとあった

重りを雪のように溶かしてゆく。


「……ありがとう、ジークス」

「君に礼を言われる事もしていない。

当たり前のことだ、親友としてな」


当然だと微笑む姿に筋肉が緩み、

ゆっくりと郁人は微笑んだ。


〔よかったわね、嫌われなくて。

あたしはこいつがそれぐらいで

嫌うなんて到底思えなかったけど〕

(心配なものは心配なんだよ)


杞憂だったと言うライコに郁人は

答えながらも、体が軽くなったのを

感じる。


「なんか安心したら喉が乾いた……」

「君は心配性だからな」


安堵した様子にジークスは笑いながら、

立ち上がる。


そして、冷蔵庫から水を取り出し、

コップに入れて渡す。


「ありがとうジークス」


郁人は受け取り、一気に飲み干した。

冷たい水が体に行き渡り、

心地よさを覚える。


「俺としては、別の世界にいた君が

俺を嫌悪しない事に改めて驚いたよ」

「?

なんでだ?」


ジークスの言葉に郁人は首を傾げる。


「災厄達に聞いたが、君のいた世界は

思考の違い等、他にも様々な理由で対立し

差別があると聞いた。

そんな世界にいた君が、獣人や俺といった

竜人等の人間と違いが多すぎる種族に

差別どころか嫌悪感を抱かない事にだ」


人間は違いがある者を恐れる習性が

見られるのにと述べる。


「この世界でも差別は存在するが、

同じ種族だというのに差別がある世界にいた

君がそういった感情を抱いた様子が

無いからな」


郁人の接客態度や普段の様子を知る

ジークスは自身の感想を述べた。


「たしかに、自分と少し違うだけで

差別する人はいるが、しない人だって

勿論いるからな。

それに十人十色、皆違って当然。

同じ奴ばかりじゃ面白くない」


そんな世界は退屈過ぎると語る。


「それに、獣人とか竜人達は

能力や体質とかが凄いだけだろ?

それだけで差別なんてしないぞ。

むしろ羨ましいと思うくらいだし

特にジークスの丈夫さとか」


郁人は自身の体の弱さを振り返った。

そんな郁人を見て、ジークスは顔を

輝かせる。


「今の話を聞いて、君と親友になれた事を

ますます誇りに思う。

この世界には"人間至上主義"を(うた)った国が

あったからな」

「人間至上主義?」


聞きなれない単語に、疑問符を浮かべる。


「人間以外の種族を亜人"デミ"と呼び、

忌み嫌って全て排除しようとした主義だ。

昔は差別が当たり前だったらしいからな。

今では普通に過ごせているが、

当時は堂々と歩く事も難しかったそうだ。

隠れるのは当たり前、見つかれば

処刑される。

そんな主義が昔は存在し、国があったんだ」

「……怖いな、その主義」


話を聞いた郁人は顔を青ざめる。


「ちなみに、災厄が滅ぼした国が

その主義を現在までも謳った国なんだ。

彼は人間、しかもとても強いから

戦力として欲しかったのだろう」

「けど、俺の悪口を言って滅ぼされた……」


郁人の言葉にジークスは頷く。


「そうだ。その国は彼によって滅ぼされた。

災厄は国をたった1晩で滅ぼした恐ろしい

存在だ。

本来なら指名手配され、追われる身で

あってもおかしくない。

しかし、その国が他国から良く

思われていなかった為に、今のような

対応になっている部分も少なからず

あるだろう」


彼が怖いというのもあるだろうが

とジークスは述べる。


〔こいつの考えも一理あるわ。

滅ぼされた国が良く思われて

いなかったから、今の形で済んでいる

部分もあるの。

あの主義、獣人や竜人など様々な種族が

一緒に暮らしている今の時代では

相当嫌われていたから。

……あいつが怖いというのが大部分を

占めているけど〕


ライコがジークスの意見を後押しする。


(そうなのか。

……自分と少し違うだけで嫌がるなんて

勿体ないな。

違うからこそ、意見を交換出来るし。

ぶつかり合うことだってあるかも

しれないけど、新しい見方も得られるのに)

〔あんたみたいな考えの奴ばかりじゃ

ないってことよ〕


それこそ十人十色ね

とライコは呟いた。


「さて、難しい話はこれで終わりにしよう。

彼らに君が起きたことを伝えないとな」


ジークスは立ち上がる。


「そうだな。

あっ!ポンドに俺が別の世界から来た事とか

どう話そう……!!

先伸ばしにするのもあれだし、早く

母さん達にも言ったほうがいいよな?!」


どう説明しようか頭を捻る郁人の肩を

ジークスが叩いた。


「その事に関しても問題ない。

災厄が君の関係者全員に報告済みだ」

「嘘っ?!」


郁人は目をぱちくりさせる。


「そして全員が

"君が別の世界の者だろうと、

態度は変わらない。

逆に変わると思われていた可能性が

あることに驚き"だそうだ」

「……俺が悩んでいたのって」

〔確実に徒労ね〕


郁人は肩を落とすが、

気持ちはとても晴れやかだった。





ここまで読んでいただき

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