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86話 残酷な記憶




郁人の異変に気づいたジークスは

急いで鳥籠に駆け寄る。


「イクト!?

しっかりしろ!イクトっ!!」


煙を吹き掛けられた郁人の様子が

おかしい。


「……………………」


いつもならすぐ答えてくれたり

してくれるというのにジークスの言葉に

反応を示さない。


ユーにつつかれても微動だにしない。


ー 普段ではあり得ない、

本当にぬいぐるみになってしまったようだ。


「っ……………………?!?!?!」


その異常な様子にジークスの体は芯から

冷えていく。


「こうなれば……!!」


ジークスは鳥籠を壊そうと背負っている

大剣に手をかけた。


「ちょっ?!

落ち着いてくれジークスの旦那!!」

「これも治療の一貫なんだ」


レイヴンが鳥籠の前に出て、

フェイルートが説明する。


「今から我が君の記憶について

質問していく。

その為に煙で意識を混濁(こんだく)させただけだ。

我が君の意識が曖昧(あいまい)なほうが

すらすらと答えてくれて治療にも

役立つからな」


素直に答えてくれるのが1番だから

とフェイルートは話す。


「それに、我が君に異常があれば

鳥籠の花が赤く変わる。

白のままということは、我が君に異常は

ないということだ。

だから、背中の剣から手を

放してもらえるかな?」

「………」


フェイルートの説明に、ジークスは

ゆっくり剣から手を放した。

そして謝罪する。


「……すまない。

早とちりしたようだ」

「気にしてねーよ。

説明を忘れたこっちも悪いからよ」

「君達2人が冷静なのは驚いた。

1番暴れそうなのが約1名いるからな」


フェイルートの視線はポンドとチイトに

向けられていた。


ポンドとチイトはそれぞれ答える。


「契約でマスターに何かあれば

わかりますからな」

「鑑定して安全だと把握済みだ。

それに、貴様らがパパに危害を加えるとは

考えにくいしな」

「そこは考えられないと断言するとこ

じゃねーの?」


チイトの言葉に苦言を呈しながら

レイヴンは郁人を見る。


「さて、ぬし様の記憶を把握しようかね?

色香大兄よろしく!!」

「あぁ。

ここからは俺の仕事だ」


ひらひらとレイヴンは手を振り、

椅子を用意する。


用意された椅子にフェイルートは座り、

鳥籠の中に居る郁人を見つめた。



ー 「では、はじめましょうか」



フェイルートの1言で空気が一変し、

張り詰めたものになる。


「今から我が君に質問していきますので、

正直にお答えください。

では、まずは自己紹介から参りましょう。

年齢、家族構成など覚えている範囲で

構いませんのでお話しください」


フェイルートの言葉に郁人は反応を示す。


「名前は三河郁人。年は23才。

家族はじいちゃんとばあちゃん、

双子の妹だ。

父さんと母さんは小さい頃に交通事故で

他界し、妹と共におじいちゃん達に

引き取られて暮らしていた。

今はライラックさんという母さんが

出来て嬉しい」


抑揚がなく、まるで機械のように

郁人は答えた。


郁人が話すと同時に、鳥籠からスクリーンが

浮かび上がり、話した内容が画像付きで

表示される。


フェイルートから離れて、

後ろで見ていたポンド達は驚く。


「これはすごいですな……!!」

「俺様が鳥籠に細工したものの1つだ!

どうよ?すごいっしょ?」

「君も彼と同じ事が出来るのか!!」


目を見張るジークスの言葉にレイヴンが

キョトンとする。


「え?

もしかして、反則くんも出来んの?

うわあ…………真似すんなよ手前」

「それはこちらの台詞だ。2番煎じ野郎」

「うわっ、ちょいとカチンと来たかも」


チイトとレイヴンが彼らなりの交流なのか、

それとも本気なのか互いに睨み合う中、

治療は続けられていく。


「今までどのような生活を過ごして

おりましたか?」

「小さい頃は裕福な暮らしだったと思う。

アルバムを見るとそのように感じられる

部分があった。

けど、じいちゃん達との暮らしのほうが

合っている気がする。

縁側で家族とゆったり過ごすのが

好きだったから」


スラスラと書面を読み上げるように

自身について述べていく。


「では、好きなことはなんですか?」

「さっきも言ったけど、縁側で

ゆったりする事。

友達と遊ぶのも、1人でのんびりするのも

好きだ。

絵を描くのも大好きだし、時間さえあれば

ずっと描いていられる。

またゆっくり出来るときがあれば

描きたいな」


郁人の言葉にチイトは目を輝かせる。


「最近ゆっくり出来てなかったもんね!

時間が出来たら俺のお気に入りに

案内しよっかな!」

「ちなみに、どちらへ御案内を?」

「パパから聞いてそう呼ばれている事を

知ったが"死の渓谷"にだ。

あそこは煩わしいのもいなくて

静かでいいからな」

「絶対に行かせるものか」

「ぬし様にはキッツい場所だから

やめとけ。

倒れるから、マジで」


ジークスとレイヴンは速攻で却下した。


普段なら郁人も慌てて拒否するが、

気にした様子もなく話を続ける。


「料理を作るのも、食べるのも好きだ。

料理のレパートリーを増やしたいな。

あと、桜も好きだ。

桜には良い思い出ばかりだから。

俺が死んだら桜の下に埋めてほしいかな。

最期は笑って逝きたいし、

花見がてら墓参りしてほしい。

湿っぽいのは嫌だからさ」


郁人の言葉に、ポンドは呟く。


「……今の御年齢で最期の事を考えるのは

早過ぎるのでは?」

「パパはいろいろと達観してるからな。

でも、パパは最期まで生きるのを

決して諦めたりはしないぞ。

だから、今こうして生きている。

まず、俺が死なせないがな」

「……食べさせる血肉の量を

もっと増やしたほうがいいか?」

「ジークスの旦那……

サラッと何かとんでもない事を

言いませんでした?」


断言するチイトに、(あご)に手をやり

考えるジークスにレイヴンが突っ込む。


「では、嫌いなことはなんですか?」

「そこまで嫌いという訳ではないけど

カラオケかな?

歌うのは……ちょっと。

あと、たまに会話に混ぜて

もらえないのは寂しい。

仲間外れにされてる気がして。

何を話してるのか聞いても

答えてくれないし、はぐらかされる

理由もわからないから」


聞き慣れぬ単語に疑問符を浮かべる

ジークスとポンド。


「からおけ?」

「なんでしょうか?

歌うと言いますから……

吟遊詩人の職の1つですかな?」


レイヴンはチイトに訴える。


「ぬし様寂しがってるじゃんかよお!

やっぱり教えたほうが……」

「パパがすっごく聞いてくるかも

しれないがいいのか?

そういった方面の知識はあいつの影響で

皆無だから、ただ純粋に知りたくて、

下心無しでガンガン聞いてくるぞ。

……耐えられるのか貴様は?」

「……………俺様には無理っ!!」


キラキラした目で聞いてくるに違いねーもん

と、レイヴンは顔を覆い首を横に振った。


「………………ずっと賑やかだな、お前達。

治療に支障は無いから構わないが」


フェイルートは視線を後ろにやり、

息を吐いた。


再び郁人を見ると、口を開く。


「さて、では1番記憶に残っているものを

教えてくださいませんか?

我が君の根幹に関わりますから」

「……1番……記憶……」


郁人は呟き、ピタリと固まった。



ーすると、スクリーンに映像が流れ出した。



おそらく子供から見たものなのだろう。

大人の視点に比べれば色々なものが

大きく感じ、歩幅もとても小さい。


視点の持ち主はふらふらと暗い廊下を

明かりが漏れる方向へ進んでいき、

部屋を覗きこんだ。



ー そこにいたのは人の皮を被った

"化け物"だった



『遺産は欲しいが子供が邪魔だ』

『子供は施設に押し付ければいい』

『いっそ、山とかに捨ててこよう。

行方不明扱いにすればいいだろ』


酒を飲みながら笑い声をあげている。


『いや、子供は使えそうだから

置いといても良いんじゃないか?

あの見た目だ、特に女のほうは

上物に育つだろ』

『あら、あんたそんな趣味があったの?

まあ、使っても良いんじゃない?

だって、保護者がいないのだから』

『守る奴がいないのはいいもんだ。

しばらく楽しめそうだからな!』


ギャハハと笑う者達を他所に、

女はドンと机に拳をぶつける。


『あたしはあの上の子がムカつく!

全てがもう苛立たしいのよ!

才能をこれでもかと見せびらかして、

あたしに自慢するように

トロフィーを持ってきちゃってさ!

なによ!簡単に大会で優勝しまくって!!

全てが憎くて仕方ないわ!!』


怨嗟(えんさ)を溢れさせながら女は酒をあおる。

そんな女の肩を男が叩く。


『おたくが先生だからだろー。

そりゃ見せるって』


男は上物だと笑った男を見る。


『なあなあ、楽しむなら子供だけ

引き取りな。

金はこっちが貰うからよ』

『いやいや、金がなけりゃ意味無いだろ。

所詮、子供は付属品なんだからな』

『そりゃそうだ!!』


耳を塞ぎたくなるような笑い声が

響き渡った。


子供には到底聞かせられない内容を

楽しそうに語り、しまいには子供の

始末の仕方について語りだす。



ー その様はまるで醜い化け物共の宴だ



これは欲にくらみ歪んだ者達の

なれの果て……。


その宴を目にし、子供の視界は歪み、

ガタガタと小刻みに震えている。


内容は理解しきれないがわかるのだ。


これが恐ろしいものなんだと、

幼いながらも本能でわかっているのだ。


恐怖で足がすくんでその場から動けず、

ただ化け物共の宴を眺めることしか

出来ない。


これは、この視点の持ち主は……



「パパ……」



郁人の幼い頃の、1番の、忘れられない、

脳裏に刻まれた、残酷な記憶。





ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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