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7話 答えるのにかなり時間がかかった




チイトとジークスの間に張りつめた空気が

流れている。


「なんで貴様まで来るんだ? ホント

邪魔だ」

「君と2人ではイクトがいつ倒れても

おかしくはないからな」


ソータウンにある冒険者専用組合

通称“ギルド“。


そのギルド"ジャルダン“に3人はいた。


郁人は受付前に立ち尽くし、目の前の状況に

頭を抱える。


チイトとジークスが火花を散らしあい

今にもゴングが鳴りそうだからだ。


「おい! もやし! 本当に良いのか?

絶対すぐに壊滅するぞ!!」


受付に居る、頭に狼の耳を生やし、

赤のメッシュが入った髪にホットパンツから

のぞく健康的な足がまぶしい少女

"フェランドラ"は 郁人に耳打ちする。


「俺もそう思うんだけどな……」


なぜこのような状況になったのか……

それは少し時を(さかのぼ)ることになる。



ーーーーーーーーーー



「パパは俺と一緒に旅する事になったから」

「へ?」


カランは急いで上司にチイトのことを

伝えるため、朝食を済ませてすぐに

立ち去ったあとでの発言であった。


突然のことに郁人は思わず声を出した。

そんな郁人にチイトは理由を話す。


「だって、パパがずっとここにいたら

あいつらに見つかっちゃうよ?」

「あいつらって、6人のことか?」

「イクト、その6人とは?」


郁人がチイト以外の攻略対象を思い浮かべて

いると、気になったジークスが質問して

きた。


「その、チイト以外にも 一緒に遊んでた

子達のことだ」


説明時に話した内容と合わせて郁人は

話していく。

チイトはジークスを無視して話を進める。


「あいつらもパパ大好きだから絶対探しに

来るよ」

「なんで見つかったらダメなんだ?

なんかマズイのか?」

「だって……パパをいじめる奴らがいる

街だよ!! そんなことが知れたら絶対に

街ごと潰そうとするよ! 俺はパパがこの街

を気に入っているからすぐに潰さなかった

からね!!」


偉いでしょ! と胸を張りながら説明する

チイトに、郁人は冷や汗をかく。


たしかにチイトの言う通りなら、あの6人も

えげつない力を持ち、実力も十二分に

ある。


ー 街どころか国を1つ簡単に潰せる力を


「イクト、その6人も実力は……」

「うん。俺が知ってる通りなら街1つは

軽くな……」


郁人の言葉にジークスは目を見開く。


「だから、イクトちゃんを連れて行くの

かしら?」


洗い物を終えたライラックが話を聞き、

歩み出た。


「そうだ。こんな場所にいるよりは

安全だろ? この俺がそばにいるからな」

「イクトちゃんの体は旅をするにはとても

危険です。いつ倒れてもおかしくない子を

あなたは旅に連れていくと言うのですか?」


チイトの言い分にライラックは反論した。

それにチイトは鼻で笑う。


「パパが倒れてもすぐ助けれるから問題

ない。貴様がとやかく言う資格はない筈

だが」

「あります。私はこの子の母親ですから。

それに、イクトちゃんの意見も聞かずに

連れていくのはどうなのかしら?

イクトちゃんが押しに弱いから

そのまま連れ出す気なの?」


ライラックは目を細めたあと、 郁人へ

体を向ける。


「私はイクトちゃんの意見を聞きたいわ。

イクトちゃんはどうしたい?」

「俺は……」


ライラックの言葉に郁人は考える。


(この街を離れることなんて考えたことも

なかったしな……)


いきなりの展開で頭が追い付いていない。


(俺はどうしたいのか……俺は……)


深く息を吸い込み、気持ちを落ち着かせる。

自分の気持ちと向き合い、考えをまとめる。


そして、口を開いた。


「俺は……旅に出たいと思う。このまま居て

街が潰される可能性があるなら……

俺はその可能性をなくしたい」

「イクトちゃん……」

「イクト……」


郁人の言葉に、ライラックは両手を

ぎゅっと掴み、ジークスは顔をしかめた。


対照的にチイトの表情はみるみる明るくなり

郁人の手を掴む。


「決まりだね! じゃあ、パパ早くここ

から……」

「でも、きちんとここに帰ってくる」


郁人は自分の考えを言葉に変えていく。


「俺が旅に出るのは6人に会うためだ。

ここに来て街を潰そうとする前に、俺から

会いに行けば問題ないはずだ。1人に会った

ら一旦街に帰ってきて、情報を集めてまた

会いに行く。長く街を離れるのは

寂しいし……なにより母さんやジークス、

皆に会いたいから」


異世界での郁人の故郷はここなのだ。

この街を守りたいから、会いに行く為に

旅に出る。自分を気にかけてくれる人が

いて、帰る家がある。

だから、旅に出れるのだ。


「……パパはこいつらのこと好きなの?」

「うん。大好きだから帰ってきたいんだ。

ダメか……?」

「……………ズルいよ、パパ。

そんな目をされたら、ダメって言える訳ない

じゃん」

「どんな目をしてるの、俺?」

「俺や6人だったら、絶対に願いを

叶えてあげたくなる目」

「どんな目だよ、それ」


チイトが頬を膨らませる姿は拗ねた子ども

のようだ。


「パパが言うならちゃんとここに

帰ってくるし、あの6人に会いに行くのを

俺は手伝うよ。せっかく、パパのこと独占

できると思ったのにな……」

「ごめんな、チイト」


郁人はチイトの頭を優しくなでると、

おそるおそるライラックに尋ねた。


「あの……母さん……。

俺、ここに帰ってきてもいいかな?」

「……当然です!

あなたの家はここなんですから!!」


ライラックは郁人に駆け寄り、あふれん

ばかりの気持ちを表現するように抱き

締める。


「絶対に帰ってくるんですよ!

美味しいご飯を作って待っていますから!」

「母さん……苦しい……!」

「あら、ごめんなさい! 嬉しくて

つい……」


うめき声にライラックは急いで腕を緩める。


郁人は息を整えた後、じっと立ったままで

いるジークスに話しかける。


「あのさ、ジークス。俺ちゃんとここに

帰ってくるから。だから、その時は土産話を

母さんと聞……」

「その必要はない」


ジークスは早い足取りで郁人に歩み寄り、

宣言する。


「俺も君の旅に同行する」

「えっ? いいのか……? ジークスだって

都合とかあるだろ?」

「問題ない。親友の安全が俺にとって

最優先だ。イクトはその……俺が同行する

のは嫌か?」


眉を下げながら、郁人を見つめる。


「別に嫌じゃないけど……」

「ジークスくんがそばにいるなら安心だわ。

イクトちゃんをお願いね」


ライラックはジークスが同行すると聞き、

胸を撫で下ろし花開く笑みをみせた。


「はい。必ず守ります」


頼みを聞いて当然というように頷くと、

ジークスは郁人を見据え、胸に拳を当てる。


「イクト、君のことは俺が必ず守る」

「ありがとジークス。

でも、自分のことをおろそかにするなよ。

俺を優先する癖あるし」

「それは善処するが

ー 俺は君を守る剣であり盾となろう」


ジークスの主君に仕える騎士のような

対応に、郁人はこそばゆいものを感じる。


そこへチイトが割って入る。


「パパは俺が守るから貴様なんか必要ない」

「まずはギルドへ行かないとな。

君の身分証明書が必要だ。俺もパーティーを

組むから手続きをしないといけないからな」

「勝手に決めるな! パパから手を離せ!」


ジークスはチイトの言い分を無視し、

郁人の手を掴みながら店を出る。

チイトは追いかける形で着いていった。


〔あんた……生まれてくる性別を間違えたん

じゃない? まるでヒロインみたいなんだ

けど……〕

(それは言わないでほしいなあ……)


ライコの言葉に肩を落としながら、

流れに身を任せた。




ー そして、冒頭に至る訳だ。




3人が入った当初は騒がしく、チイトがいる

ことでかなり注目の的だったが、今にも

ゴングが鳴りそうな危機的な状況にギルド内

は閑散としている。


そんな中、逃げずにいた受付嬢兼冒険者

“フェランドラ“は郁人に忠告する。


「ランクアップを拒否してるが実力はS級の

ジークス! そしてあの"歩く災厄“の

チイトで実力は充分過ぎるが、絶対に

パーティー組むとか無理だろ!

そこに、ペラッペラの紙耐久のお前が

加わってみろ!! 実力差がありすぎて

死ぬぞお前!」


確かにフェランドラの言う通りだ。


迷宮にはランクがあり、ランクが合い、

実力差のない冒険者やパーティーで行くのが

通常である。


なぜなら、パーティー内で実力差がありすぎ

ると、低ランクの者が仲間が強いからと油断

して死んだり、高ランクの者が庇って死ぬ

ケースが多いからだ。


ゆえに、パーティー内の実力差がないように

ギルドで調整するのだ。


しかし……


〔貧弱のあんたがいないと……

このパーティーは成り立たないのよね〕


ライコの呆れた声がヘッドホンから

聞こえる。


〔あんたが6人に会うために旅に出るのは

あたしは大歓迎なんだけど、このパーティー

は実力がある分、不安ありまくりだわ。

2人が暴れたら大変な事になるもの……〕


前途多難だわ とライコのため息が漏れる。


「心配してくれてありがとう。とりあえず

止めに行かないと」

「おい!危ないからやめとけっ……!」


フェランドラは郁人の腕を掴み、制止する。


「いざとなったらオレはもちろん、

親父も止めるから、もやしはそこで

待機してろ!」

「いや、でも……」

「でも……じゃねーよ!! もやしは引っ込

んでろ!!」


フェランドラと郁人が言い合っていると

扉が勢いよく開いた。


「おーい!依頼を達成して…きた…

って、どんな状況だあ?」


胸元を開けた服を着た、いかにもヤンキーな

男、"ローダン"は場の状況に戸惑い周囲を

見渡す。


郁人達を視界に入れると、ジークス達を

刺激しないよう気をつけて2人に近づいた。


「おい、これはどういう状況だぁ?」

「このもやしがあの2人とパーティーを組む

んだとよ。で、その2人は互いの存在が

気に食わないらしいぜ」

「はあ?このチェリーくんがあ?

ジークスといかにもヤバい感じの奴とお?」


フェランドラの説明を聞き、ローダンは

勢いよく郁人を見る。


「あいつらと組むとかやめとけ。

あの黒マントなんか見るからに協調性皆無。

絶対足手まといを見捨てるタイプだろ?」


ありゃ平然と見捨てるタイプだ

と、ローダンは断言した。


「あと、ジークスはお前の番犬みてーなもの

だが、それは普段の生活だから通じてよ。

迷宮では勝手が違う。お前みてーな足手

まといがいたら全力出せねーで庇ってすぐ

死にそうだあ。あいつはパーティー組んだ

ことないから、尚更だなあ」

「? ジークスはパーティー組んだこと

ないのか?」


郁人は目をぱちくりさせた。


(ジークスは面倒見がいいし、組んだことが

あると思ってたんだけど……)


意外そうな郁人にローダンは続ける。


「ねえぞ、あいつ。まあ、群がった連中が

悪いんだがなあ」


ローダンは郁人の肩を組み、その時の

状況を語っていく。


「あいつ、ムカつくぐらいイケてる面を

してるし、見るからに実力もあるからな。

女共は口説くため、野郎共はあいつに

おんぶに抱っこする気満々でパーティー

なんてもんじゃなかった。魂胆丸見えだか

らよ。あいつは誰とも組まなかったんだあ」

「そうだったのか……たしかに、パーティー

どころじゃないな」


説明を聞いた郁人は納得した。


「お前はおんぶに抱っこする気はないだろう

があ、端から見れば違うだろうよ。やっかみ

とかも増えて、お前が被害受けるからやめと

きな。俺が勝つまでにくたばってもらうのは

困るからよお」


ローダンは郁人を見据える。

その瞳には心配の感情が浮かんでいた。


〔あんた……!! そいつに勝ったことが

あるの?! そいつ態度は明らかに軟派だけ

ど実力はあるタイプなのよ!!〕


ライコの驚く声が聞こえる。


たしかに、郁人とローダンでは勝負しても

郁人の惨敗が目に浮かぶだろう。


ー しかし、郁人はローダンに勝ったのだ。


(力で勝った訳ではないけどな……)


郁人はそのときを思い浮かべる。


「おい、チェリー」


ローダンの声に引き戻される。


「旅に出たいなら依頼でもすりゃいいだろ。

俺とかオススメだぜ。いいネーちゃんが

いっぱいいるとこ紹介してやるぞ、

チェリーくんよお」


ローダンは下卑た笑い声をあげ、

フェランドラは呆れた目で見る。


「こいつはやめとけもやし。

こいつの女関係酷すぎるからな。

刃物持った女に仲間だと思われて

刺されるぞ」

「あれはたまたまです~。

チェリーよぉ、このお兄様が素晴らしい

夜の世界を教えてやってもいいんだぜ。

パンドラ、いや、夜の国でいい店を

見つけたんだあ。依頼すりゃ教えてやるよ」

「絶対俺に払わせる気だろ。

まず行く暇あるならうちの飲食代

払えよな」


郁人は呆れた視線をローダンにぶつけた。


ローダンは実力もだが、金と女にだらしない

ことでも有名だ。


報酬は夜遊びやギャンブルなどで数分で

使い果たす。尚且(なおか)つ借金まみれで、

大抵は彼女の家か、娼館で寝泊まりをし、

彼女からお小遣いをもらっている。

気になる女性がいれば片っ端から声をかけ、

関係をもつ為に修羅場が発生したりと

日々、悪い意味で刺激的な生活を過ごして

いる。


迷宮や討伐依頼には、実力者のため

問題ないのだが、


ー 問題は護衛依頼だ。


依頼した日には夜の店に連れ回され、

金を払わされたり、女性トラブルに巻き込ま

れたりと散々な目にあう。

ゆえに……


ー "護衛依頼をローダンにするべからず゛


ソータウンでは暗黙の了解だ。


「連れないこと言うなよチェリー。

お前に会いたい奴もいるんだぜ?」

「俺に?」


思いがけないことを言われ、郁人は目を丸く

する。


「お前は俺様ほどじゃねーが整っているし、

なにより、童顔だからなあ。人形みてーな

その顔を色んな意味でナかせてみたいと、

おねー様や1部のおにーさまに評判だぞ」

「なんだろ?! 嫌な感じがするん

だけど?!」


郁人の背筋が凍える。


「嫌な感じがするし、絶対行かない

からな!」

「そうだな、俺も行かせはしない」

「そんな場所にパパを行かせるか」


いつの間に話を聞いていたのかジークスと

チイトはローダンの肩を掴み、指をめり込

ませている。


「痛えまじで痛え!!」

「2人共ストップ! ローダンの肩から

えげつない音がしてるからっ!」


郁人に言われ、2人はしぶしぶ手を放した。

2人の前に立ち、郁人は話しかける。


「俺はそういうところ行かないから

とりあえず落ち着け。それと、険悪でいたら

パーティーなんて組めないから。

仲良くしろとは言わないが、協力出来ない

なら俺1人で行く!!」

「それはダメだよパパ!!」

「君を1人で行かせるなど!!」


郁人の言葉にチイトとジークスは取り乱す。


「じゃあ、協力してくれるか?

もちろん喧嘩とか無しだからな」

「でも、こいつ邪魔だし……殺しちゃ

ダメ?」


チイトは首をかしげながら、ジークスを

指さす。


「絶対駄目だ。ジークスは大切な親友だって

言っただろ? それに前も言ったが、すぐ

殺すとか駄目だからな! こうやって会話

できるんだから、まずは会話するようにな。

チイトならできるだろ?」

「……うん、わかった。我慢するし、

会話する。前に約束したからね」

「ありがとチイト」


チイトはしぶしぶ頷き、その頭を郁人は

撫でる。


(チイトは残虐非道な設定にしてたからな。

今思うと物騒なのは当然だからな。

こうやって少し我慢してもらわないと……)

「戦闘なら我慢しなくていい?」


チイトのうかがう声が聞こえた。


「ああ、しなくていいぞ。我慢ばかりは

体に悪いからな」

「やった! ありがとうパパ!」


満面の笑みを浮かべる姿は、まるで無邪気な

子供のようだ。

先程までの殺伐(さつばつ)とした雰囲気は

霧散している。


チイトの様子を見て安心し、ジークスに

尋ねる。


「ジークスも協力してもらえるか?」

「君を1人で行かせるわけにも、彼と2人で

行かせるわけにも行かないからな。

努力しよう」

「ありがとうジークス」


ジークスも気を治め、郁人に微笑む。


2人を止めることに成功した郁人は、これで

先に進めると安堵し、フェランドラに

話しかける。


「よし! これで申請を……」

「お前!あの災厄とどういう関係だよ?!」

「災厄ってあの黒マントがか?!

それにパパってなんだチェリーくんよお!」


フェランドラとローダンからの質問責めが

待っていた。


(いつになったら申請できるんだ、

これ……?)


先が長くなることを予期し、郁人は

肩を落とした。




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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえず、7話まで。楽しくてスラスラ読んでしまいます。 主人公愛されが欲しくて欲しくて飢えてた所にこのようなオアシスが!ありがとうございます! チイトさんの郁人くん以外に容赦ないの好…
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