表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/377

84話 セカンドオピニオン




「ふわあ……」


郁人が目を覚ますと、

全員に覗き込まれていた。


「?

どうかしたのか?」


尋ねると、郁人は違和感に気づく。


「あれ……?」


自身の視点がいつもより低い。


ユーが自身と大きさがあまり変わらず、

しかも全員がかなり大きくなっている。


「……皆でかくないか?

ユーが大きくなったのか?

いや、それにしても……」

「……イクト、これを見てほしい」


首を傾げる郁人にジークスが後ろの

窓を指さした。


「なに?」


振り返り見れば、窓の向こうには

桜のトンネルと共に街を一望できた。


瓦屋根が続いており、桜もあるからか

古都を思い出す。


「どうしてあたしが入れないの?!」


古都に似つかわしくない耳をつんざく

金切り声がした。


「働いてやっても良いってこのあたしが

言ってあげてるのよ!このあたしがっ!!

頭がおかしいんじゃない!!」


見てみると、貴族の令嬢が着物姿の

スタッフらしき人と揉めている。


すごい剣幕で今にも暴れだしそうだ。

あまりの凄まじさに窓から離れる。


「あれ大丈夫なのか?

すごい剣幕だけど、あの人……」

「あれはいつもの事なので。

暇なんかね~あの癇癪(かんしゃく)嬢ちゃん」


頭をかきながらレイヴンは息を吐く。


「パパ、信じられないのはわかるけど、

ちゃんと窓を見た方がいいよ」

「何の事……だ……」


あるものを見て脳がショートしかけた。


窓に部屋の内部が映っていた。

診察室だと察せられるものが

揃っており、和が感じられ所々に花が

咲いていたが気になるのはそこではない。


窓に映る自身の姿がいつものではなく、

ガーベラが作った自身の“ぬいぐるみ“

だったからである。


「え……?」


自身の顔に触れるが、ぬいぐるみの

手触りだ。


「嘘……」


色々と動いてみたが、やはり自身の行動で

ある。


「なんで……こんな……」

「我が君を休ませる為です」


混乱する郁人にフェイルートが

真剣な面持ちで口を開いた。


「先程までの我が君の体は“気力“だけで

動いていた状態です。

そこの竜人の血肉にヴィーメランスの鱗が

我が君の気力をバックアップしていたから

ここまで、夜の国まで動けていたのです」


フェイルートの言葉に郁人は一瞬、

息を止める。


「でも、先生は大丈夫って……」

「その医師からセカンドオピニオンを

頼まれています」

「え?」


フェイルートは机の引き出しから封筒を

取り出した。


「我が君の主治医は、我が君が

気力だけで動いている事に

気づいておりました。

しかし、我が君に事実を伝えれば気力が

途絶え、最悪寝たきりになる可能性が

ある為、私にセカンドオピニオンを

頼んできたのです」

「色香大兄の医療技術は世界トップ

ですからねえ。

色香大兄に頼んだほうが最悪の事態を

免れると判断したんでしょうよ」


医師はきちんと見抜いていた

と、レイヴンは説明する。


「自身の技術では最悪な事態を

防げない可能性がある。

その為、今までの我が君の体調などを

細かく記した情報提供書に現在の様子も

記した書類を私に宛てたのです」


この封筒が届いたときは驚きました

とフェイルートは話す。


「大抵の医師なら見逃していたでしょう。

しかし、我が君の主治医は我が君が

摂取している竜人の血肉や鱗も知らない

というのに、何かの力が我が君を

支えていると判断しております。


ー良い先生に出会えましたね、我が君」


フェイルートは月明かりのように

優しげな笑みを浮かびた。


「……うん。

先生は本当に良い先生なんだ」


アマリリスの気遣いや行動に自然と

目頭が熱くなる。


「それと、ぬし様の母様もな!」

「へ?」


レイヴンの言葉にキョトンとした。


「我が君の御母堂からの手紙も

同封されておりました。

“息子をよろしくお願いします“

といった内容でした」


郁人にその手紙を手渡す。


渡された手紙をみれば、

郁人を心配する気持ちと愛情が

伝わるものだった。


「母さん……」

「文から我が君に対する愛情が

溢れていましたので、大切にされて

いるのだとわかりました。

御母堂も良い方なのですね」

「俺の自慢の母さんだからな……」


ライラックの愛情に胸がいっぱいになり、

更に目頭が熱くなった。


「お2人の気持ちを裏切らぬよう、

誠心誠意、我が君の治療に

尽くさせていただきます」


フェイルートは胸に片手をあて、

落ち着いた声色で話した。


「こちらからもよろしくお願いします。

フェイルート先生」


頭を下げる郁人の頬にフェイルートは

手を伸ばす。


「呼び捨てで構いませんよ。

貴方は私の我が君なのですから」

「なんだよそれ」


フェイルートの言葉に郁人はくすりと笑い、

2人は力強い握手を交わした。



ーーーーーーーーーー



郁人は疑問を口に出す。


「ところで、なぜ俺はぬいぐるみに

なっているんだ?」


きっかけを思い出そうとしても、

フェイルートに会った瞬間からの

記憶がない。


なぜだと頭をひねる郁人に

チイトは答える。


「パパ自身がぬいぐるみに

なった訳じゃないよ。

ほら」


チイトがあるものを指差した。


「あれって……俺?!」


その先にはベッドに横たわる自身の姿が

あった。


そばにヘッドホンが置いてあり、

ライコの声がかすかに聞こえた。

が、何を言っているかはわからない。


柔らかそうな布団もかけられている事から

丁重に扱われているのがわかる。


「はい、ぬし様の御体です。

色香大兄は主治医からの書類でぬし様の

御体の一大事を知ってましたから

早めの治療をせねばと出会って早々

香りで意識を失わせたんですよ」


心当たりが無いのは当然ですと

レイヴンは述べたあと、

ジロッとフェイルートを見る。


「色香大兄……報連相はきちんとして

下さいませんかね?

俺様知ってたらもっと早く来たんですけど」

「文が届いたのは今日だったんだ。

無断で我が君を迎えに行ったお前に

俺はいつ伝えられるんだ?」

「色香大兄ならちょちょいと簡単に

出来るでしょーが」


俺様に早く伝えてほしかったと

レイヴンはぼやく。


ごほんとレイヴンは咳払いしたあと、

続きを語る。


「そして、ぬし様が意識を失った後、

緊急事態を知らされた俺様も色香大兄に

助力し、ぬし様の精神だけをぬいぐるみに

移動させたんですよ?

気力だけで動いていたんで、その精神を

移動させないと体は休めませんからね」


分離しないといけないくらいに

疲れてたんですよと話した。


「そんな事が出来るのか?!」

「精神を引き離すのはレイヴンの協力も

あって出来る事ですがね。

我が君の精神を肉体から引き離した際の

副作用等は全くございませんので」


驚く郁人に対し、心配いりませんと

フェイルートは艶やかに微笑んだ。


「精神だけを移動させるなど……

かなり高度の魔術、いえ魔法ですな」


ポンドは凄さを理解し、思わず唸る。


「精神とは実体がないものですから。

その存在を証明、物質化した上に、

肉体には死んだと認識させない為にも

精神の代用が必要となりますからな」

「彼らにしか出来ない。

……まさに神業だ」

「……凄いな、2人共」


あっさりと語るフェイルート達に

圧倒されるポンドとジークス。


その2人の表情を見て、

事態の凄さを改めて理解した郁人は

息を呑む。


「いやあ~ぬし様の驚く顔が見れるだけで

嬉しいものでございますな!」

「我が君には驚いてもらいたい事は

まだまだありますので、

これはほんの序の口ですが」


レイヴンは悪戯っぽい笑みを、

フェイルートは蠱惑的に微笑んだ。


「序の口ってなんだか怖いな……

あれ?このぬいぐるみって誰の?

チイトのか?」


郁人はふと気になりチイトに尋ねた。

チイトは首を横に振る。


「ううん。

このジジイのだよ」

「彼はぬいぐるみに色々と細工を

してそうだからな」


俺のぬいぐるみの方が安全だと

告げるジークスの横顔にチイトは

冷たい視線を突き刺す。


「……どういう意味だ?」

「言葉のままだが?」

「落ち着いてください2人共!」


睨み合い、険悪な雰囲気になる

チイトとジークスをポンドが制止する。


「そうだぞ2人共!喧嘩禁止!」


ぬいぐるみの体で必死に止めようと

郁人は動く。


「おわっ?!」


倒れそうになっても、

ユーが支えているから問題ない。


「ありがとうユー」

「……………」


その様子を見たジークスは

ぬいぐるみ(郁人)を突然抱え、

撫で始めた。


突然の行動に郁人は目をぱちくりさせる。


「ジークス、どうかしたのか?」

「……癒されるな」


ジークスはぬいぐるみ(郁人)の頭を

優しく微笑みながら撫でた。

そして、頬をすり寄せる。


「ぬいぐるみには癒し効果もあると

聞いた事があるがその通りだな。

これは癒される。

君が中に居るからかもしれないな」


190cmを優に越した男がぬいぐるみを

抱え、ふにゃりと微笑みながら撫でたり

頬ずりをする光景は2度見ものだ。

実際にユーは2度見している。


「おい!パパを離せ!!」

「もとは私のぬいぐるみだ。

抱えていても問題ないだろう」

「そういう問題じゃない!!」


額に青筋を立てたチイトとジークスが

ぬいぐるみ(郁人)の奪い合いを始めた。

ポンドはあわてて制止に入る。


「お2方!少し落ち着いて!

マスターを奪い合わないでください!

ぬいぐるみは意外と脆いのですから!!

ああっ!?マスターが空中に!!」

「2人共!

落ち着っ……うぇ……

なんだろ……気持ち悪くなって……」

「マスターっ?!

今お助けします!!」


しばしの辛抱ですからなとポンドは

救出に入った。

ユーも郁人の様子を見て助太刀に入る。


「……ぬし様、体だけじゃなく気力面も

休んだほうがいいんじゃね?」

「体も勿論だが、気力面も休ませる方向で

進めるか」


そんな3人を見て、レイヴンと

フェイルートはこれからの方針を

固めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ