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81話 思い出せない理由




パンドラも高い塀に覆われており、

入口を常に門番が目を光らせ、

入国者を警戒している。


ー のだが……


「レイヴン様?!

この者達は……ひっ?!

もしや……"歩く災厄"っ?!」


レイヴンの姿に目を丸くし、

チイトを見て喉をひきつらせた。


先程までの鋭い目は恐怖に染まり、

今にも逃げ出しそうだ。


大袈裟にため息を吐いたレイヴンは

門番に告げる。


「このクズ以外は全員俺様の

大事な"客人"だ」

「わかりました。

レイヴン様の客人でしたら……

どうぞお通りください」

「へ?」


そして、ローダン以外がすんなり

通されたのだ。


郁人達はローダンを待つことになり、

現在、門前にいる。


〔門番って、あんたのいた世界、

空港の入国審査官みたいなものよ。

審査だってきっちりするはずなのに

なんでこんなあっさり……〕


ライコと同じ疑問を抱いていた

郁人は質問する。


「なあ、レイヴン。

なんであっさり通れたんだ?」

「俺様が森側の者だからですよ」


疑問にレイヴンは答える。


「俺様の客人であるぬし様達が

こちらに留まる訳がないって

あいつらはわかってますから」


この国の門番全員わかってますし

と、述べた。


「なにより、ぬし様方が何かしても

招いた俺様達の責任であって、

こちらさん、パンドラの門番は

関係無しと決まっているんで。

だから、この様にあっさりと

通れるんですよ?」

「決まっているって?」


決めたとは?と首を傾げると

後ろから声がする。


「レイヴンさん達がパンドラの王様と

話して決めたことだからなあ」


面倒だったとぼやきながら

ローダンが審査を終えてやって来た。


「レイヴンって……

王様と話せる関係なのか?!」


口をポカンと開ける郁人に

レイヴンは笑う。


「まあ、俺様達は一応、

森側、夜の国側のトップなんで。

トップと言っても王様ではなく、

国民の代表的な?」

「いや、一応じゃなくレイヴンさん達は

間違いなく王様ポジションっしょ。

国作りしたのあんた達なんだし」


あんたが王様とローダンは告げた。


「随分面倒な立場になったもんだな」

「国を作ったつもりはなかったん

だけどなー。

俺様達は自分が住みやすい場を

作っただけがいつの間にか」


チイトの言葉にかったるいもんだと

ぼやくレイヴン。


「俺様達と言っているが、

君と誰かが一緒に行動したのか?

……もしや、フェイルートという者か?」

「察しが良いなジークスの旦那!

その通り!」


お見事とレイヴンは手を叩く。


「俺様と色香大兄が一緒に

楽園を作っちゃいました~!

ぬし様も気に入ること間違いなし!!

ではでは!まずは森へ向かいましょう!」


レイヴンは快活に笑うと、

街中を堂々と歩いていく。


「あの方ってレイヴン様?!」

「レイヴン様ー!こっち向いてー!!」

「ひっ……?!

なぜあの方がこっちに……?!」

「もう返したから……

もうしませんから許して……!!」


道中、黄色い歓声を浴びせる者や

顔を青ざめる者と反応は顕著だ。


「レイヴン殿を見た反応が見事に

分かれておりますが……

なにか理由でも?」


反応が気になったポンドが尋ねた。


「そりゃあ、俺様が

"始末屋"だからだな」

「始末屋?」


聞き慣れない職業に郁人は首を傾げる。

ユーも不思議そうだ。


〔なにその物騒な名前?!

もしかして気に食わない奴は

全員暗殺してるとか!?〕


物騒な名前にライコは悲鳴をあげた。


(え?!

そんな怖いことするのか?!)


ライコの言葉に顔を青くする郁人。

郁人の姿を見たレイヴンは慌てて

説明する。


「あっ!

始末屋と言っても内容は

主に無銭飲食といった

金を払わない連中に対し、

店に代わって金を取り立てる

もんですよ?

他にも新聞配ったり、宅配したりとか」


ですので大丈夫

とレイヴンは郁人に弁明した。


「始末屋とはそういった内容なのか。

名前から誤解されるのでは?」

「確かに誤解されやすいが、

無銭飲食した客とかの

後"始末"みたいな感じだから

ピッタリだろ?」


ジークスの問いにハツラツとした笑みを

レイヴンは見せる。


「そして、後始末ばかりしてると、

自然とこうなるって訳だ。

なっ、ローダン?」

「ういっす」


レイヴンからの視線に冷や汗を流し、

ローダンは目をそらした。


ー 後ろめたい事を山程しているらしい。

いや、している。確実にだ。


見た者がすぐにわかるくらいの

汗の量をローダンは流す。


「手前はよお~……

ぬし様と唯一縁があったから

手前に依頼を出したんだぜ」


俺様達は慈悲深くも機会を

与えてやったのにと告げる。


「お迎えまで出来ねーよーなら、

"若色"で働いてもらおうか?

あそこの旦那が1度手前を味見したい

と言ってたからなあ。

旦那が満足いくまでつきあったら

借金を肩代わりして貰えるかも

しれねーぜ?」


チャンスを掴めるなと

口を三日月に歪めた。


「そっ……

それだけはマジで許してください!!

きちんと支払いますから!!

あそこだけは……あそこだけはっ!!」


店の名前を聞いたローダンは

顔色を悪くし、今にも死にそうだ。


〔若色?〕

「なんの店なんだ?」


尋ねる郁人にレイヴンは答える。


「率直に言えば"衆道"の店ですよ。

ぬし様には"男色"、"BL"と

言えばわかりやすいですかね?」


森側にあるんですよと説明した。


「作って欲しいと嘆願された上、

金をたんまり積まれちゃーな。

だから区域をって……

何してんだよ手前ら?」


親指と人指し指で金マークを作っていた

レイヴンは郁人を見て首を傾げる。


なぜなら、チイトが郁人の耳を塞ぎ、

ジークスも更に上から塞いでいるからだ。


「パパには早いから」

「イクトは知らなくていい事だ」


キッパリ断言する2人にレイヴンは

きょとんとしたあと、

頭をガシガシとかく。


「はあ~……

相変わらず過保護過ぎるな

反則くんは。

おまけに、更に過保護が増えてるし」


ため息を吐いたあと、

レイヴンは意見を述べる。


「ぬし様は無垢な存在だが、

無垢過ぎて酷い目に合ったら

どうするよ?

というか、男色とか妹さんの友人の

大好物だったろ?

これぐらいいいんじゃねーの?」


過保護過ぎて草生えるわ

と、レイヴンは笑う。


チイトは手を離して、レイヴンに

詰め寄る。


「駄目だ。

あの友人もパパを気遣って、

妹を原稿とやらに手伝わせた際、

パパに知られないようにしてたぞ」

「いや!

最終的に間に合わないから手伝いに

ぬし様も駆り出されてただろ!」

「手伝いの時は問題無いページだけを

パパに頼んでいた!

問題のあるページは妹と自称パパの

護衛の金魚の糞がしてた!!

だから、パパは知・ら・な・い!!」


レイヴンの説明を聞くより前に

耳を塞がれた郁人は心配になる。


(……すごい言い争いをしてるけど

大丈夫なのか?)


聞こえないが、表情からして

熱が入っているのは一目瞭然。


(離して貰えるかな……?)


郁人はいまだに自身の耳を塞ぐ

ジークスの手を軽く叩き、

目で伝えた。


見たジークスは頷くと、

2人に声をかけた。


「すまないが2人共。

郁人が不安がっているみたいだ。

だから、今の話は……」

「わかったわかった。

ぬし様に話すかどうかは

しばらくお預けってことだな」

「俺に伝えてくれたらいいのに……」


レイヴンは渋々、チイトは頬を膨らませ

了承した。


2人の様子を見てジークスは手を離した。


「その、言い争っていたけど

どうかしたのか?

結局、どんな店なんだ?」


不思議そうな郁人にレイヴンは

口を開く。


「話に熱が入っただけですので、

ぬし様が心配するようなことは何も。

どんな店かは反則くんが」

「店はなんというか……

パパは絡まれちゃう可能性があるから

行っちゃ駄目な店だよ」


レイヴンは飄々(ひょうひょう)とした笑みを見せ、

チイトは絡まれたら大変と注意した。


「わかった。

絡まれたくないから気を付ける」


頷く郁人の後方で、

ローダンはあっと声をあげる。


「そういや、あの旦那がチェリーくんを

狙ってたな。

旦那に紹介すれば借金ごふっ⁉」


ローダンが企んでいるとユーが再び

コークスクリューブローをお見舞いした。


そして、ローダンは再び地に伏した。


「ユー⁉

いきなりどうしてローダンを⁉」

「よくやった」


ユーの突然の行動に目を丸くする

郁人だったが、チイトはユーを褒めた。


「知ってはいたが、これが

反則くん手作りの贈り物1か。

いや、そのジャケットや指輪を

入れれば3か。

えげつない物を贈ったもんだ」


レイヴンは贈り物を見ながら

しみじみと呟く。


「でも、俺様的に1番ドギツイのは

やっぱあのキューブだな。

あれはヤバい」

「レイヴン殿ももしや、

キューブを飲まれたので?」

「飲みましたよ。

俺様達に連絡が来たあと

反則くんから送られてきてな。

2日酔いよりかなりキツかった、

マジでキツかった」


悪意を感じざるを得ないと

ぼやく。


「……あっ!

ぬし様、それ改造しても

よろしいですか?」

「へ?」

〔え?〕


レイヴンは閃いたと、

にんまりしながら

郁人のヘッドホンを指差した。


「いや~、やっぱり俺様からも

贈りたいんですよ。

ぬし様にプレゼント。

ですので、俺様がヘッドホンを改造して、

機能を色々と付け加えようかと」


ぬし様の助けになる機能を付けますよ

とニカッと笑う。


〔絶対に駄目だからね!!

あたしの分神でもあるんだから

何されるか……!!〕

(大丈夫。渡さないから)


ライコが震えた声で伝え、

郁人は自身の意思を告げた。


「これは大事なものだから。

気持ちは嬉しいけど、

あまり付け加えるのは……」

「なぜ大事なんです?」

「なぜって……それ……は……」


理由を述べようとしたが

出来なかった。


(あれ……?

理由……ライコの分神だからって

以外に理由はあった。

だから、ずっと……大切にしてて……

なんでだ……?)


思い出せない自分に、

郁人は気味悪さを感じる。


(なんで……だ?

なんで……俺は………??)


頭を必死にかき回しても

理由が見つからない。



ー 「パパ!!」



「っ?!」


肩をいきなり掴まれ意識を戻すと、

心配そうに見つめるチイトの顔が

近くにあった。


「………どうかした?」


全員が心配そうにこちらを見ており、

郁人は訳がわからず首を傾げる。


「鎌をかけたはいいが……

こりゃ、予想以上にヤバイな」


郁人を見つめ、レイヴンは真剣な面持ちで

呟くと、指笛をした。


上空から音がして見てみると、

1羽の黒い鳥がレイヴンのもとへ

真っ直ぐ飛んできていた。


黒い鳥は肩に止まり、

レイヴンの瞳を覗き込む。


「ちょいと伝言頼むわ」


しばらく見つめあった後、

黒い鳥は羽ばたいていった。


「観光してから色香大兄のところへ

行きたかったが、直行コースに変更だ」


伸びていたローダンを担ぐと歩みを

早めた。


「?

そんなに急ぐことなのか?」


きょとんとする郁人の腕を

チイトが掴み、歩く。


「パパ。

そのヘッドホンはパパにとって

とても大切なものなんだ。

理由を忘れるなんて……

あり得ない」

〔あんたの記憶が薄れてるのよ。

しかも、元いた場所の事が。

薄れていく人もいない事もないのだけど

少しおかしいわ……〕


ライコが真剣な声色で語りかけた。


「とにかく急ぎますよ」


郁人達はレイヴンを先頭に

街中を突き進んだ。




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