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80話 俺様登場!




郁人の胃が落ち着かないまま、

パンドラの門前にユーは降り立つ

準備に入った。


地面が近づくごとに、

人々の慌ただしげな声が耳に入る。


「?

なんか騒がしくないか?」

「そりゃあ、こんな見たことねー生物が

突然空から現れたら驚くだろうよ」


首を傾げる郁人にローダンが説明した。


「言われてみればそうか……」


人々を見ればこちらを見て動揺して

いるのがよくわかる。


しかし、ここまで動揺している理由が

もう1つあるように思えた。


(なんだろう?

ユーだけではない気がする……)


「………が来られる……!」

「嘘……マジ……?!」


聞こえてきた単語から、

動揺にはもう1つ理由があると

顎に手をあて考える。


(誰かが来るから

驚いているのか……?)



ー 「ぬし様!

会いに来てくださり俺様大感激っ!!」



突然声が聞こえ、後ろから抱きつかれた。


「?!」


一瞬、郁人の呼吸が止まる。


目を後ろにやると、

頭にターバンを巻き、

深い緑から下にかけて

淡い黄色の長髪をなびかせた、

飄々(ひょうひょう)とした美丈夫が

郁人を抱きしめていた。


「夢にまで見た生の"ぬし様"に

お会い出来るとはっ……!!」


猛禽類を思わせる瞳にはあたたかさを

感じる。


〔こいつ誰?!

気配すら感じなかったんだけど?!〕


突然の登場にライコは声をあげる。


「この者は一体っ……!?」

「見たこと無い顔だ。

イクトに対し好意的だが……」


音も無く現れた美丈夫に

警戒し、剣に触れるポンドとジークス。


「こいつは大丈夫だ。

問題ない」


構える2人にチイトは面倒くさそうに

告げた。


「ひっ?!

まさかの御本人登場かよ?!

そりゃ驚くわ!!」


ローダンは顔を真っ青にした。


(この見た目は……)


郁人は美丈夫を見て、

記憶が甦る。


ー 『イメージカラーは緑!!

服装は洋風っていうより、

異国情緒ある感じのやつ!!』


ー 『髪は長くてグラデーションが

かかってるの!

あっ!

こいつは頭脳派だけど、

肌の露出は多めがいいわ!!

その方が頭脳派には見えなそうだし!』



「もしかして……

"レイヴン"かっ!?」



外見から導きだした美丈夫の名前を

郁人は呼んだ。


「……ぬし様に名前を呼んでもらえたー!」


レイヴンと呼ばれた美丈夫は

声を弾ませ、郁人を抱きしめる腕に

力がこもる。


(嬉しそうな様子からレイヴンと

間違いない。

だけど、レイヴンは……!!)



ー 「中身が違って驚いちゃいました?」



心を見透かしたような言葉に

郁人の心臓が跳ね上がる。


「俺様は自室でダラダラと惰眠を

貪ってる奴でしたから」


ぬし様は俺様を怠惰な奴と

設定してたしとレイヴンは

細い三日月の笑みを浮かべる。


「こうやって積極的に絡んだり……

ましてや、こんなテンションじゃなかった」


郁人の肩に顎を置きながら、

レイヴンは耳元で囁く。


「でも、ぬし様の為なら俺様は

こうやって積極的に動くんですよ?


……誰かに盗られでもしたら

(かな)わねーからなあ」


レイヴンの声が耳をくすぐる。


最後の声のトーンは郁人が描いた

気だるげな姿を連想させた。


「パパから離れろ鳥野郎」

「いてっ!?」


冷たい声でチイトがレイヴンを

引き剥がす。


「パパにいつまでも馴れ馴れしく

抱きつくな。

焼き鳥にされたいか?」

「ほお……

ワガママなおこちゃまは随分

お口がご達者になったもんだあ」


郁人を挟んで火花を散らせる2人を

止めようとしたが、ふと思いだした。


「……これも2人なりの交流なのか?」

「そうだよパパ」

「いやあ~!!

こうでもしねーとなんか

落ち着かないといいますかあ」


チイトは頷き、レイヴンはカラッとした

笑みを見せる。


そこで郁人の頭に疑問が浮かぶ。


「あれ?

そういえばなんでレイヴンが

ここにいるんだ?」


頭に疑問符を浮かべる郁人に

レイヴンはピタリと固まる。


「……もしかして、俺様が居る事

手前言ってなかったのか?」

「あぁ。言っていない」


レイヴンは、ぜんまい仕掛けの

オモチャのように首をチイトに向けた。


チイトは伝える意味がわからないと

言いたげだ。


「パパ達はフェイルートが夜の国に

居る事しか知らん。

だから貴様に会いに来たという

訳ではないな」


ハッキリとチイトは述べる。


「まず、貴様らが連れてくるように

言っといて何を白々しい」

「……言っとけよ!そこはよおっ!!

俺様の早とちりとか……

マジ恥ずっっ!!」


レイヴンはその場にうずくまり、

両手で茹でダコのように赤くなった

顔を隠してしまう。


「レイヴン」


郁人はそんなレイヴンと視線を

合わせるためしゃがむ。


「その、俺も会えて嬉しいからさ。

そこまで恥ずかしがる必要は……」

「ホントに……?

ぬし様は俺様に会えて嬉しい?」


目を子犬のように潤ませながら

レイヴンは尋ねた。


「うん。嬉しいぞ」


問いに郁人は頷く。


(居たのはびっくりしたけど、

こうやって自分が描いたキャラが

生きている姿を見れて、

会えて嬉しくない訳がない)


自身の気持ちを込めて郁人は

レイヴンの頭を優しく撫でた。


「~~ぬし様ああああ!!」

「うぐっ?!」


レイヴンは郁人に飛び付き、

はしゃいだ声を出す。


「ぬし様マジでぬし様!

俺様超嬉しいっ!!

この場で躍りだしたいくらい!!

……………………あれ?」


今にも小躍りしそうなレイヴンだったが

郁人を両手で抱えた瞬間、

目をぱちくりさせる。


「反則くんからデータ貰ってたけど、

ぬし様…………なんか痩せてね?」


一旦郁人を下ろした後、

首を傾げながら郁人の腰を掴んだ。


「明らか前より痩せてんじゃん!!

前でも折れないか心配だった腰が

更に細腰にっ?!」


力込めたらパキっといくやつじゃんと

顔を青ざめる。


「"百聞は一見にしかず"と言うが、

データ以上じゃね?!

ぬし様……なんと御痛わしい……!!」


細腰をそのまま掴みながらさめざめと

泣きだした。


「……あの、マスター」

「彼は一体?」


しばらく蚊帳の外だったポンド達が

頬をかきながら尋ねた。


「紹介するな。

こいつは"レイヴン"。

俺が会いに行くうちの1人だ」


紹介されたレイヴンは

涙をぐいっと男らしく片腕で

拭った後、勢いよく2人を見る。


「はじめまして!皆々様!!

俺様は"レイヴン"と申します!

以後よろしくなあ!」


ニカッと眩しい笑顔で

2人の前に進み、挨拶した。


「私はマスター、イクト様に

お仕えしております。

ポンドと言います。

こちらこそよろしくお願い

いたします」


人懐っこい笑みを浮かべながら

握手を求めるレイヴンに

ポンドも自己紹介し、握手に応えた。


「お、俺はイクトの親友である

ジークスだ。

……客将のように敵視されると

思ったのだが」


ジークスは戸惑いながら応えた。


〔こいつすごく友好的ね!?〕


レイヴンの態度にライコは

声をあげる。


〔あんたのキャラ全員超がつく程の

ファザコンだから、猫被りや軍人みたいに

バリバリ敵視すると思ったのに!!

ホントにあんたのキャラ?!〕


ジークスと同様にライコも戸惑い、

そして驚いていた。


「……で」


人のいい笑みを浮かべたレイヴンは

そろりそろりと離れていた

ローダンに首を向ける。


ー 「おい、ローダン」


底冷えする声を出し、

ローダンに迫った。


人のいい笑みは霧散し、

黒い迫力や凄みが(にじ)み出ている。


あまりの違いに皆は思わず

レイヴンを2度見してしまう。


皆の視線を背中に一身に浴びながら、

レイヴンはローダンの肩に腕を回す。


「手前にはぬし様を連れてくるように

依頼し、そして超安全かつ快適な

馬車を買えるよう金も渡したんだが……」


逃がさぬようにガッシリと

腕に力を込める。


その姿はまさに"借金の取立て"だ。


「なんだ?この有り様はよお?

確かに連れて来たようだが……

な・ん・で馬車じゃないんだ?」

「そっ……それは……!!」


ローダンは瞳を泳がせ、口ごもった。


「女遊びに使っちまったか……?

なあ?」

「申し訳ございませえええええええん!!」


地獄の底から響くような声と

感情を写さぬ凍りきった瞳に、

ローダンはおびただしい量の汗を

かきながら、素早く土下座した。


「これっきりと俺様達は

きちんと伝えた筈なんだがよお?

その耳は飾りか?あぁ?」


レイヴンはヤンキー座りすると、

ローダンの耳を勢いよく掴み、

無理矢理顔を上げさせる。


ローダンは歯をカチカチと鳴らしながら

許しを乞う。


「どっどうかお許しを!

どうか……どうかあっ……!!」


顔を涙と汗と鼻水でぐしゃぐしゃに

しながら必死に必死に許しを乞う。


態度や声色からレイヴンを

恐れているのは明らか。


反省している事も見てとれ、

これからローダンがレイヴン達からの

依頼を真摯にこなしていくに

違いない。


だが、レイヴンは許さない。


「手前みてえなお使いもきちんと

出来ねえ野郎に言われてもよお。

これっぽちも信用出来ねーんだわ」


馬鹿な事を言うなとレイヴンは吐き捨てる。


「ところで……

知ってるかローダン?

ここの臓器、肺が1つになっても

生けていけるんだってよお」


そのまま耳ごと持ち上げ、レイヴンは

自身の胸元、肺を指で示しながら笑う。


「でも、手前の借金じゃあ……


ー もっといるなあ」


「ひぐっ……!!」

「レイヴン!ストップ!!」


虚ろな瞳と声に郁人が思わず

駆け寄る。


「レイヴン、そこまでにしよう。

このローダンがかなり怯えてるし

こんなに怯えてるなら反省してるよ」


もう止めようと訴える郁人の瞳に

レイヴンは頭をかく。


「……クズにも気を配られるとは、

ぬし様の心は御広くいらっしゃる」


耳をこちらに引き寄せ、

ローダンに耳打ちする。


ー 「次は無いと思え」


そして、ローダンを思いきり下に

叩きつけた。


「ではでは!

ぬし様方を俺様達の楽園にご招待ー!!」


勢いよく立ち上がり、

くるりと体を郁人達に向け、

ニカッと快活な笑みを浮かべた。


声色から雰囲気までもがガラリと

変わり、先程の姿が幻のようだ。


しかし、ローダンが助かったと

安心から涙をこぼしている姿から

幻ではなく現実なのだと

証明している。


〔……前言撤回。

間違いなくあんたのキャラだわ〕


ライコは声を震わせた。




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