表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/377

72話 圧倒的な差




後方にいた男が郁人に近付き、

わざと眉をあげて首を傾げる。


「どうせメンバーの手柄を

横取りしたんだろ。この卑怯者が」


ニヤニヤと笑う表情や態度から、

郁人を(あざけ)ている事は明らかだ。


(この人、誰?)


しかし、郁人には見覚えがない。


(母さんのファンか……?

でも、見た覚えはないな……)


ライラック目当ての客は顔を覚えて貰おうと

何度も何度も店に通う。


なので、店を手伝っている郁人も

自然と顔を覚えたりする。


が、男に見覚えはない。


ましてや、このように侮蔑の感情を

向けられる心当たりも無い。


(誰なんだ……?)


疑問符を浮かべる郁人に以心伝心(テレパシー)

チイトは答える。


<こいつを知らなくて当然だよ。

だって、パパは初対面なんだから>


チイトが男の視線から守る為、

郁人の前に移動しながら疑問に答える。


<頭を読んだけど、こいつは

パパが羨ましいみたい。

ジジイといるから楽に金や名誉が

得られるとか思ってるよ>

〔成る程ね。

英雄といたら難易度の高い討伐依頼も

クリア出来るから、お金は勿論、

周りからチヤホヤされて評判は

うなぎ登りだものね〕


そこに猫被りがいれば、向かうところ敵無し

とライコは納得した。


(それで……。

ジークスがいて羨ましがってるって事は

ジークスの知り合いか?)


郁人はジークスに尋ねる。


「ジークス、この人は?」

「先程話した、俺を金で買おうとして

植木に弾き飛ばされた者だ」


ジークスは男の郁人に対する態度に

顔をしかめながら答えた。


〔お前が言うなってやつね〕

「貴様が人にものを言えた立場か?」


ライコが呆れ、チイトが男に鋭い視線を

向ける。


その言葉に男は顔を赤くし、

鼻の穴を膨らませて声を荒げる。


「……うるさい!!

お前らはこいつに金で

買われただけだろ!」


男に指差され、チイトは鼻で笑い、

ジークスは淡々と答える。


「この俺が"金"で釣られると?」

「君の誘いをきちんと断ったが?」

「……っ!!」


地位や名誉、大金も保証された

国からの誘いを全て断っている

"歩く災厄"。


以前、金で何度も買おうとしたが

取り付く島もなく、結局諦めるしかなかった

"ジークス"。


2人の言葉に下唇を噛みながら

たじろぎ、後ろに数歩下がる。


「……黙れ!黙れっ!!」


だが、男は尚も食って掛かった。


「どうせこいつの実力じゃ……!!」

「……負け犬がきゃんきゃんと」

「お待ち下さいチイト殿」


生気のない目で男を睨み、

チイトがマントを揺らめかせると、

郁人の影からポンドが現れ、

制止した。


「ここは私に一任していただけませんか?」

「……いいだろう」


しばらく見たあと、チイトは

マントの動きを止めた。


ポンドは男に話しかける。


「私はマスター、イクト殿と

契約している従魔です。

貴殿はマスターの実力を疑っていると

聞きました」

「……そっそうだ!

こいつがズルしたんだろ!」


突然の黒鎧の登場に面を食らいながらも

男は吐き捨てた。


「それは聞き捨てなりませんな」


ポンドは男の前に出る。


「私はマスターの魔力を得て現界し、

剣を振るった実績ですからな」


疑われるのは心外だと告げた。


「疑われるのでしたら、

私と手合わせしませんか?」

「お前とか?」


ポンドの提案に男は両眉をあげる。


「えぇ。

私の実力は(すなわ)ちマスターの実力。

疑っているのでしたら

手合わせしたほうが

手っ取り早いでしょう?」


名案だとポンドは断言する。


「それとも……

このお2方とされますかな?」


ポンドは横目で後ろに居る

チイト達を見た。


チイトは再びマントを揺らめかせ、

ジークスは背中の大剣に手をかける。


「……上等じゃねーかっ!

お前とやる!!」


2人を見て、顔を青ざめた男は

提案を呑んだ。


「てめえを叩きのめしてやるよ!!」


そして、ポンドを指差す。


「わかりました。

ここでは、迷惑になりますからな。

一旦、外に出ましょうか」


ポンドは扉へ向かった。



ーーーーーーーーーー



いつもと違い、ギルド前は

大勢の人が集まり、おおいに賑わっている。


「おいおい?!

あいつが戦うのかよ?!」

「久しぶりじゃね?

あいつが戦ってたのかなり前だろ?

腕は鈍ってねーだろうなあ?」

「黒い鎧の奴、見たことねーぞ?

誰だあいつは?」

「あいつ、あのライラックさんとこの

ガキの従魔らしいぜ?」

「マジかよ?!人型って珍しいぞ!」

「見応えあるの期待してるぜ!」


つま先を上下に弾ませ、

ギャラリーは今か今かと身を乗り出す。


視線の先には、

明らかに相手を見下している男、

対するは黒鎧の男、ポンドだ。


「おいっ!

もっと距離をとりやがれ!

巻き添え食っちまうだろうが!!」


審判をするため、フェランドラが

戦いやすいように場を整えている。


「……すごいギャラリーだな。

みんな慣れてるし……。

フェランドラも手慣れてるなあ」


フェランドラの少し後ろで

ポンドを見守る郁人はギャラリーの

多さに口をポカンと開ける。


「ここは冒険者の町でもある。

血気盛んな者も居るために

こういった事はよくあるんだ」


ジークスが答えた。


「特にギルドの者同士の喧嘩は多い。

だから、ギルド関係者が審判となって

街に被害が及ばないか監視する。

今の彼女のようにな」

「そうなのか。

だから率先して審判に」


郁人は説明に納得した。


〔まさか街中でやるなんて……

まあ、猫被りが出なかっただけ

マシなのだけど〕


あいつだったら、絶対に街が壊れたと

ライコがため息を吐く。


〔あの男、調べてみたら

実力はあるみたいよ。

強い奴に頼った方が早いと

安易に流れてしまったみたいだけど〕


金で実力を買う方法を選んだと、

ライコは息を吐く。


(そうなのか……。

俺はチイトがいるにも関わらず

食って掛かったのはすごいと思ったけど)


チイトがあの"歩く災厄"だと理解した瞬間

青ざめて逃げる姿を何度も見た事があるから

と郁人は告げた。


〔たしかにそうね。

自分に余程自信があるか、

状況を判断出来なかった馬鹿か

どっちかでしょうけど〕

(……ライコ。

あのタイプ嫌いなのか?)


言葉尻に嫌悪感を感じて郁人は問いかけた。


〔あたしは行動もせずに金で何とか

しようとする根性が大嫌いなの!〕


ライコは理由を告げる。


〔自分で努力して達成するからこそ

良いじゃない!

あたしだって、正式な女神になる為に

何度も何度も挫けそうになっても

努力したもの!〕


あの時の努力があったからこそ、

今のあたしに繋がっているのだと

ライコは述べる。


〔なにより、努力する意思、態度が

1番大事なんだから!

あんたは好印象を持つ訳?〕


ライコの嫌悪感丸出しの声色に、

郁人は首を振る。


(いや、俺も嫌いかな。

金でなんとかしてさ、

どうしようもなくなった時

どうするつもりだ?と思うし。

なにより全て金で解決しようとする

姿勢は嫌だな)


郁人はライコにきっぱり告げていると、

男がポンドに対し、口を開く。


「制限時間は3分にしようか。

お前なんてどうせ見かけ倒しだからな。

3分もあれば十分だ」

「そうですか」


下卑た笑いを浮かべる男に

抑揚(よくよう)のない声でポンドは答える。


ポンドは剣を取る素振りすら見せない。


「お前ら用意はいいか?」

「いつでも始めれるぜ」


男はナイフを取り出し、

剣を取らないポンドを嘲り、

挑発する。


「お前は腰に提げた剣は取らないのか?

それとも……ただのお飾りかあ?」

「こちらも問題ありません」

「……気取りやがって」


挑発をものともしないポンドの態度に

男は舌打ちをする。


「よし。

じゃあ、始めるぞ」


場を整えたフェランドラは片手を上げ、

開始の合図に備えた。


「最初に皆さんに謝罪を」


ポンドはギャラリーに声をかけた。


「?

迷惑かけるかもしれないからか?

なら、問題ないぜ。

全員引き際を見抜けるくらいには

慣れてるからな」


フェランドラは問題ないと言い、

集まっていたギャラリーは頷く。


「迷惑って……

お前の返り血を浴びるからか?」


男はナイフを自慢気に、

大きく構える。


「なら、お望み通り!

お前をズタズタに切り刻んでやるよ!」


下品な笑い声を男は周囲に響かせた。


「ポンド。

剣すら取る素振り見せないけど……」

〔大丈夫なのかしらね?〕


郁人は首を傾げ、ライコも声を出す。


「じゃあ、試合開始だ!」


手が空を切る音と共にフェランドラの声が

辺りに響く。




ー 「え?」




間の抜けた声を郁人は思わず

漏らしてしまった。


「マジかよ…………」


フェランドラは息を呑む。


「……………………へ?」

「うそ………………」

「…………………は?」


ギャラリーも同じ反応だ。


目を丸くする者、信じられないと

ゆっくり首を振る者と驚きを隠せない。


辺りはしんと静まり、

ただ目の前の光景に唖然とする。


その理由は簡単だ。


なぜなら……


(まばた)きした瞬間にはもう、

下卑た笑いを浮かべていた男が

地面に伏していたからだ。


ナイフは男の側でカランと落ちている。



「……はぁ」



ポンドのため息が静寂の中を響く。


「最初に皆様へ謝ったのは、

期待通りにならないと思ったからです。

時間なぞかかる訳がありませんからな」


ポンドは剣すら抜いておらず、

いつの間にか男の後ろにいた。


男の前に、対角線上に先程まで

居たというのにだ。


「貴方程度でしたら、

剣を使うまでもないので

手刀で対応させていただきました」


面白くなさそうに、

機械のように淡々と事実を語った。


「私は加減が……

特に剣で加減するのが苦手でして」


ポンドは地面に倒れる男に視線を向ける。


「貴方程度では(さや)での峰打(みねう)ちですら


ー 確実に命を奪ってしまいますからな」



ただ冷徹に結果を告げた。


ポンドは男との圧倒的な実力差を

ありありとギャラリーに見せつけた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ