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70話 改造祝い




月が街を照らすなか、無事に改造を終えた

大樹の木陰亭では、関係者だけで

改造祝いを行っていた。


「母さん、俺も運ぶの……」

「イクトちゃんは食べてて」

「はーい……」


手伝おうとする郁人の肩を

ライラックは押して座らせた。


(量が多いから運ぶのを

手伝いたかったんだけど……)

〔女将さん、あんたを気絶させたから

気にしてるんじゃない?〕

(そうなのかな……?

俺は気にしてないのに……)


ライラックの後ろ姿を見つめる郁人に

サイネリアは声をかける。


「イクトくん!これは何?」


サイネリアは興味津々で

春巻きを指差した。


「それは春巻きといって、

具材を小麦粉の皮で包んで

揚げた料理だ」

「春巻きかあ!

教えてくれてありがとう!」


礼を告げると、サイネリアは

大皿の中から春巻きをとり、

自身の皿に盛り付けた。


「どんな味かな?」


ワクワクしながらサイネリアは

春巻きを口に入れた。


「?!」


瞬間、目をキラキラと輝かせる。


「うわあ~!!

外はパリパリで、中はジュワーで

すっごく美味しい!」

「ありがとう。

味が違うのもあるから」


感想を聞いて、心が温かくなる郁人。


「そうなの?!

よし!探そう探そう!」

「サイネリア!

全て取ろうとするな!」

「私も気になりますので!」


ある春巻きを全て取ろうとする

サイネリアにヴィーメランスは

眉をしかめ、ポンドは慌てる。


「たくさんの料理が並んでいるが、

食材はあったのか?」


テーブルに溢れんばかりの料理を

見て隣に座るジークスが尋ねた。


「チイトが用意してくれたんだ。

しばらく休業していたなら

食材は無いでしょ?って」

「そうだったのか」

「食材をありがとう、チイト。

おかげで、母さんと一緒に

たくさん作れた」


感謝する郁人にチイトは

腕に抱きつく。


「パパが喜んでくれて俺も嬉しい!」

「父上に馴れ馴れし過ぎるぞ」


無邪気に笑うチイトに

前に座るヴィーメランスが注意する。


「父上の食べられる邪魔にもなる。

もっと距離をとれ。

なんなら、俺と席を替わればいい」

「それ、ヴィーくんが替わりたいだけ

あ痛っ!」


サイネリアの足をヴィーメランスが

容赦無く踏みつけた。


「大丈……」

「ほら、パパ!

いっぱい食べよう!

あいつに全部食べられちゃう」


心配して声をかけようとした郁人を

チイトは遮り、指差した。


指差した先には、嬉々とした様子で

各料理を皿に盛り続けている

ユーがいた。


「ユー殿はたくさん食べられますからな」

「あの様子では全て食べられそうだ。

イクト、これを。

君の好物はこちらに取ってある」

「ありがとうジークス」


ジークスは盛り付けていた皿を

郁人に手渡した。


「いただきます」


盛り付けてあった白身魚のフライを

口に入れた。


衣のサクサクとした食感、

白身とタルタルソースの相性は抜群だ。


「いやあ~!

こんなに美味しいなんて……‼

陛下、悔しがるだろな~」


サイネリアは冷えたお茶を

飲み干しながら、春巻きが刺さった

フォークを片手に笑う。


「今度は陛下さんと来てくださいな。

腕によりをかけて振る舞うわ」

「ありがとうございます!」


料理を運ぶんできたライラックに

サイネリアは尋ねる。


「……女将さんって、もしかして

"拳神(けんしん)"って呼ばれてませんでした?」


拳神の言葉にライラックは

目をパチパチさせる。


「あら!

久しぶりに呼ばれたわ!」


ライラックは懐かしいと微笑んだ。


「やっぱり!

昔、陛下の御母様に聞いた通りだったから!

ステゴロ最強と(うた)われた伝説の拳神さんと

お会い出来て光栄です!!」

「女将さんがあの有名な……?!

あの1擊の鋭さに納得がいった」


サイネリアは更に目を輝かせ、

ジークスは頷く。


(けんしん??)

〔調べたけど、拳の神と書いて

"拳神"みたいよ。

拳だけで数々の魔物を仕留めてきたから

そう呼ばれたみたいね)

(だから、ステゴロ最強かあ。

いじめてきた人達を瞬殺してたからな)


ライラックの強さを見たことがある

郁人は頷く。


〔……異名が理由で結婚してないのかしら?〕


ライコは疑問を口にした。


〔あれ程の美人で、あんたへの愛情の

注ぎぶりから愛情深い人だとわかるわ。

しかも料理も上手くて、性格も良しだし〕


引く手あまたに決まってる

とライコは告げた。


〔だから、結婚しててもおかしくないのに

変だと思ったのよ。

異名を(おそ)られているからかしら?〕

(単純に母さんが結婚したいと思う

人がいなかったんじゃないか?)


疑問に答えている間にポンドが

席を立ち、ライラックに自己紹介を

していた。


「はじめまして、マスターの母君。

私は契約させていただきました

"ポンド"と申します。

以後、よろしくお願いいたします」

「ポンドくんね。

私はライラックよ。

イクトちゃんの事をよろしくね」

「はい。

誠心誠意尽くさせていただきます」


ポンドはライラックに1礼する。


そしてまた料理を持ってこようと

戻っていくライラックを見送ってから

席に着く。


「てっきり口説くと思ったのに」

「たしかに、ライラック殿は

とても麗しい女性ですが、

マスターの母君ですからな」


立場を(わきま)えておりますと

ポンドはサイネリアに話した。


〔弁えてるなら胸に埋もれたこいつを

羨ましがるのは変じゃないかしら?〕

(公私混同はしない感じじゃないのか?

今は仕事中とか……)


ライコの的確な意見に

郁人は思わず苦笑を漏らす。


「あら?イクトちゃん、その子は?」


運んできたライラックは

食べ進めているユーを見て

首を傾げた。


「ユーって言うんだ。

ユー、この人は俺の母さんだ」


食べていたユーはライラックに

お辞儀する。


「賢い子ね。

ユーくんもイクトちゃんと

契約してるのかしら?」

「いや、契約は……」


ユーが郁人の袖を引っ張り、

蛇の尻尾で指輪に触れた。


すると、指輪からスクリーンが

浮かび上がる。


【契約:ポンド(スケルトン騎士)

ユー(?)】


「あれっ?!

契約出来るのは1人だけの筈じゃ!?」

「マスターの魔力量では

私で限界なのですが!?」


スクリーンの内容に2人は

声を上げた。


〔あんたに従魔スキル無いのにどうして!?

死霊なら従えれるけど……

って、もしかして……

こいつ死霊も混ざってるの?!〕


ライコも驚きの声をあげるなか、

チイトは郁人に説明する。


「契約は魔力供給源、契約者が

必要なだけだから。

そいつは魔力供給が必要ないから

契約出来るんだよ」

「魔力が必要ないとは……

魔物ではないのか?」


ジークスにじっと見つめられているユーは

自慢気に郁人に契約書を手渡した。


契約書に書かれているのはただ1言。


【可愛がってね】


「……こんな簡潔な契約書は

初めて見ましたな」

「当たり前だけどいいのか?」


ポンドは目を丸くし、

郁人は首を傾げる。


郁人にとって、ユーはチイトがくれた

大切なペットであり、いわば家族同然。

可愛がるとは当たり前だ。


そんな郁人にユーは頷き、すり寄る。


「良いみたいね。

貴方もイクトちゃんをよろしくね」


ライラックに向かいユーは頷いた。


「パパ、前にも言ったけど、

俺以上に可愛がるのはダメだよ」

「一緒くらいはダメか?」

「ダメ」


頬を膨らませ抱きつくチイトに

ジークスは尋ねる。


「気になっていたのだが、

妖精族はどうしてこちらに?

君か客将のどちらかと関係が?」

「僕も気になってた!

妖精族は滅多に出てこないのにさ!」

「あっ、俺も気になる」


ジークスは問いかけ、

サイネリアと郁人も便乗した。


ヴィーメランスが答える。


「あの者達はチイトが呼んだ。

チイトに返しきれない程の恩がある為、

妖精郷から出てきたそうだ」

「俺は助けたつもりなかったけど」


結果的に助けた事になってたと

告げた。


「妖精族は義に厚く、恩には恩を、

仇には仇で返すと有名ですから。

チイト殿に恩があったのなら納得ですな」


成る程とポンドは頷く。


「妖精族ってそんな性格なんだ」

「聞いた話だが、仲間に危害を加えれば

倍にして返すそうだ。

昔、妖精から刻印を奪った魔術師が

一族郎党皆殺しにされた事がある」


妖精を拐って道具扱いした国は

助けにきた妖精達の手によって

滅ぼされた事もあったと

ジークスは話した。


(妖精のイメージが変わるな……)


砂糖菓子やケーキなどの甘くふわふわした

イメージが一転、かなり(いか)つい、

腹にドスンとくるものへと変わる。


〔妖精はあんたの世界のイメージと違うわ。

会う機会があれば細心の注意を払うことね。

無礼を働いた者は指づめ、もしくは

腹を切らないといけないらしいから〕


説明を聞き、郁人の頭の中に任侠ものの

BGMが流れた。


「改造くらいなら俺の魔法でも

よかったんだけど……

ここ、パパ以外も使うでしょ?

となると、どうしてもやる気が出なくて

あいつらに手伝ってもらったんだ」

「あの者達は統率もとれており、

仕事も想定より早く終わらすなど

見事でした」

「ヴィーくん!僕も頑張ったよ!!」


サイネリアが挙手しアピールした。


「………………」


ヴィーメランスは横目でみる。


「貴様の働きも認めんことはない」

「やったあ!

ヴィーくんに褒めてもらえたー!!」


勢いよく席から立ち上がり、

サイネリアは万歳した。


「陛下に自慢しよー!!」

「かなり羨ましがりそうだな……」


リナリアの悔しがる顔が容易に

郁人の頭に浮かんだ。


「父上。

俺達は明日も仕事がありますので

そろそろ失礼させていただきます」

「えー!?急過ぎない?!

もうちょっと食べていこうよー!」


ヴィーメランスの言葉に先程とは

うってかわり、サイネリアは眉を下げる。


「お持ち帰りしたいものを選んでもらえたら

持ち帰れるようにしますよ。

勿論、陛下さんの分も」

「ありがとうございます!

是非お願いします!!」


喜びのオーラを全開に、サイネリアは

持ち帰りたい料理を皿に盛り始めた。


「サイネリア殿、こちらもどうです?」

「イクトの作ったハンバーグは絶品だぞ」


ポンドとジークスも手伝う。


「ヴィーメランス、チイト……

本当にありがとう」


賑わう光景を見て、

郁人は2人に感謝を告げた。


2人がいなかったら、

この光景を見られるのは

遠い話だったかもしれない。


短時間で見れるようになったのは、

間違いなく2人のおかげだ。


「どういたしまして」

「父上に喜んでいただけたなら

なによりです」


チイトとヴィーメランスは

優しく微笑んだ。




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