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67話 灰となった居場所



祭りを楽しんだ郁人達は、

土産も購入し終え、塔内で

ヴィーメランスが淹れてくれた

紅茶を(たしな)み、(くつろ)いでいた。


「ヴィーメランスの淹れてくれた

紅茶本当に美味しい!」

「よろしければ、同じ茶葉を

お渡ししましょうか?

こちらの茶葉はドラケネスで

しか購入出来ませんので」

「ありがとう!

明日、帰ったら母さんにも

淹れてあげたかったから」


どの茶葉かわからなかったから

ありがたいと告げる郁人。


「えー?!明日帰っちゃうの?!」


目を見開いたサイネリアが

声をあげた。


「もうちょっといようよー!

折角仲良くなれたのにー!

なんなら、こっちに住もうっ!!

ヴィーくんの塔内にイクトくん達の

部屋もあるんだしさー!!」


サイネリアは不満げに口を尖らせ

訴えた。


「ごめん。

待ってる人がいるから。

それにまた遊びに来るしさ。

なんなら、俺の家にも遊びに

来てほしい」

「……本当に?」

「本当」


頷く郁人の目をじっと見つめた後、

表情が明るくなっていく。


「……やったー!!絶対に来てよ!

また一緒に迷宮行きたいし!

あと、絶対遊びに行く!

ヴィーくんや陛下と

一緒に行くからね!」


万歳しながら、目を爛々(らんらん)とさせる

サイネリア。


「おや?

ヴィーメランス殿はこちらに

残るのですかな?」


ポンドは不思議そうに尋ねた。


「ヴィーメランス殿は客将です。

そちらに所属している訳では

ありません。

ですから、共に来られるのかと

思っていたのですが……」

「えっ……?!

ヴィーくんこの国を去っちゃうの?!」


ポンドの言葉にサイネリアは

ヴィーメランスを勢いよく見た。


考えていなかったのか、

サイネリアの顔が青ざめている。


「俺はここに残る。

まだこの国が完全に復興したとは言い難い。

外交、軍事など他も改良の余地はある。

内外共に完全とは言えないものを

放っておくわけにはいかないからな」

「ヴィーくん……!!」


ヴィーメランスは紅茶を飲みながら

答えた。

その言葉にサイネリアは瞳を潤ませる。


「そこまで国の事をヴィーくんが

思ってくれるなんて……!!

なにより、ヴィーくんが残ってくれて

良かった……!!」


感謝感激雨あられとサイネリアは

自身の気持ちを全身でアピールした。


ヴィーメランスは席を立つと、

郁人の前に進み、頭を下げる。


「父上、申し訳ございません。

私情を優先してしまい……」

「頭を上げてほしい。

俺は残るだろうなと思っていたから。

だったらあの提案しないだろ?」

〔たしかにそうよね。

居る前提じゃないとプロポーズ紛いの事

しないわよ〕


頭を下げるヴィーメランスに、

郁人は気にしてないと伝える。


ライコもそうだと同意した。


「それは……無意識でした。

俺の考えもお見通しとは……

父上の慧眼には感服極まります!」


ヴィーメランスは目を見開き、

頬を紅潮させ郁人に膝まずく。


「膝まずかなくていいから!

ほら!なっ!!」


ヴィーメランスの行動に

動揺する郁人。


「……父上。

あの言葉、想いは今でも変わりません。

もし、気が変わりましたらいつでも

ご連絡下さい。


ー すぐに馳せ参じます」



立ち上がる際に、ヴィーメランスは

耳打ちした。


瞳からヴィーメランスの想いは

いつまでも不変であるとわかった。



ーーーーーーーーーー



翌日、晴れ渡る空の下。

塔前には郁人達を見送りにヴィーメランス、

リナリア、サイネリアが来ていた。


「本来ならもっと大勢で

見送るべきなのですが……

兄様もいらっしゃいますので」

「見送りのときくらいは顔を

見たいですからね」


リナリアとサイネリアは微笑む。


「兄様……

また来てくださいますか?」

「王子としての俺は死んだ身になっている。

堂々と来るのは難しいが、

彼らと共にまた来ると約束しよう」

「はい!楽しみにお待ちしております!

兄様!」


目を輝かせるリナリアに

ジークスは頬をかく。


「その……兄とは……」

「大丈夫です!

きちんと場を(わきま)えますから!」

「……わかった」


リナリアの胸を張る様子に

諦めたジークスは苦笑した。


「皆、絶対にまた来てね!

というか、遊びにも行くから!!」


サイネリアは泣きそうになりながら

袖で目を拭う。


「イクトくんと話したいこと

山程あるし、ポンドと再戦したいし!

チイトくんにエリクサーのお礼を

し足りないし!

ジークスさんとも手合わせしたい!

だから、絶対だよ!!」

「泣きながら言うなよ。

今生(こんじょう)の別れじゃないんだからさ。

それに絶対に来るから。

遊びに来るのも待ってる」


サイネリアに郁人は

大丈夫と告げた。


「再戦しに来ますから」

「俺も手合わせしたいな」

「……フンッ」


ポンドとジークスも笑いかけ、

チイトはそっぽを向く。


「父上、また来られる事を

御待ちしています。

その……俺も遊びに行っても

よろしいでしょうか?」


不安そうに尋ねたヴィーメランスに

郁人は了承する。


「いいよ。歓迎するから」

「ありがとうございます。

その際は連絡させていただきます」


郁人の言葉にとろける笑みを

浮かべるヴィーメランス。


「……はうっ!」

「陛下!!しっかり!!」


笑みを見て、倒れそうになるリナリアを

サイネリアが支える。


「今倒れたらいけません!

お見送りが出来ませんよ!!

それに……」


今にも意識を飛ばしそうなリナリアに

耳打ちする。


「早く慣れないと……

慣れた人達に先を越されるかと」

「……そっそうね!!失礼しました」


その言葉に目を見開き、

なんとか立ち上がると

咳払いをして気を取り直した。


「皆様のまたの御来訪を

お待ちしております」

「僕も待ってるからね!」

「では、父上。

俺が下までお送りしましょう。

それと……」

「その必要はない」


ヴィーメランスがブレイズを

呼ぼうとするのをチイトが遮る。


「ユー、やれ」


チイトが郁人の肩に乗るユーに指示すると、

ユーは肩から降り、みるみるうちに、

ブレイズ程の大きさになる。


「パパは俺が抱えるから。

他はユーに乗れ」


チイトは指を鳴らした。

瞬間……


「うわっ?!」

「なにっ!?」

「なんと?!」


それぞれの体が宙に舞い

郁人はチイトの腕の中へ。

2人はユーの背中に運ばれた。


ユーは結界を張り、

風の壁対策を万全にする。


「これって結界っ!?」

「こんな綺麗な結界を……

すごいですわ?!」


口をポカンと開けるサイネリアと

リナリアはじっとユーを見る。


「乗り心地は良いですな」

「君達は本当に何でもありだな。

……この背中のものは一体?」


ポンドは愉快そうに笑い、

ジークスは背中のチャックを

気にしている。


「びっくりした……」

「ごめんねパパ。

俺とも空の旅をしよう。

花火は昼間だから出来ないけど」


花火の言葉に郁人は目をぱちくりさせる。


「……見てたのか?」

「ううん。

少し意識を覗いただけ」


勝手にごめんねとチイトは謝った。


〔うわあ……

下手したら全て筒抜けね。

ストーカーなの?〕

「パパ、ヘッドホン投げていい?」

〔ちょっと?!

風の壁に投げようとしてない?!

やめてー!!〕

「チイト駄目だからな」


無邪気な笑顔で額に青筋を

立てるという器用なチイトを

郁人は制止した。


「ちぇー……

じゃあな、戦馬鹿」

「待て糞餓鬼……!

まだ話が終わってな……!!」


チイトはヴィーメランスを

鼻で笑いながら風の壁に飛び込み、

ユーも続いた。


抱えられた郁人は勿論、

ユー達も問題なく進んでいる。


「本当にすごいなチイトもユーも」

〔風をものともしないなんて……

製作者がいたら絶対に涙目ね。

簡単に突破されてるんだもの〕

(たっ……たしかに)


製作者の気持ちを思えば

涙ものだと郁人は感じた。


「パパが気にすることないよ。

それより、パパは高いところ平気?」

「?平気だけど?」

「良かった。

折角の空中散歩だからね。

思いっきり楽しもう!」


チイトは郁人を抱きしめ、

ユーは触手でジークス達を掴むと、

景色が一瞬で変わる。


先程まで風の壁の中だったが、

いつの間にか突き抜けて青空が

広がっている。


本来なら、その空をゆったりと

眺めているのだが……

それどころではない。


「うわああああああああ!!!」


凄まじいスピードでチイト達が

飛んでいるからだ。


ジェットコースターやスポーツカーなど

目ではない。


チイトとユーは音速で戦闘機のように

突き進み、郁人達はそれに

しがみついているようなものだ。


風が危険ではない程に当たるよう

チイト達は調整したようだが、

風が肌を容赦なくつんざき、耳鳴りが響く。


〔いやああああああああああああああ!!〕


ライコは悲鳴をあげた。

いや、あげることしかできない。


「…………!!!!!」


郁人はもう叫ぶことも出来ず、

必死でチイトにしがみつく。


パニックにならずに済んだのは、

チイトなら大丈夫という

信頼があるからだ。


「街に着地するから。

舌噛まないようにね」

「こ……のまま……?!」

「パパが気にするだろうと思って

人払いはしてるから」


大丈夫と笑ったあと、勢いはそのまま

真っ直ぐ下に落ちていく。


少しでも気を抜けば意識、いや魂ごと

全てが振り落とされてしまうだろう。


そんな事など露知らず、

チイトは段々、音速から

速度を落として着陸する。


衝撃は大地を滑ることにより

無くすことが出来た。


ー 肉体的には無事だが、

精神的には正反対だ。


「着地成功!

どう楽しかった?

結構爽快感あったでしょ?」

〔し……死ぬかと思った……!!〕


ライコは叫ぶ元気もなくなり、

心底から呟く。


「イ……イクト……無事……か……?」

「いやあー!実に爽快でしたな!」


ジークスは三半規管(さんはんきかん)が乱れたのだろう、

足取りが覚束(おぼつか)ない。


相反してポンドは生き生きとしている。


「な……なんとか」


郁人も胃の不快感を覚えながら

なんとか返事をした。


「もしかして苦手だった?!

ごめんねパパ!大丈夫?!」


チイトは郁人の様子に今気付き、

顔を青ざめる。


「……大丈夫。

俺の事を楽しませようとしてくれたんだろ?

気持ちはすごく嬉しい。

次からは前もって言ってくれると

ありがたいかな」


郁人はチイトの頭を撫でる。


「わかった。

またやるときは言うね!

あと、酔い止めも用意するから!」

「……もうしないでくれると

ありがたいんだが」

「ジジイには聞いてない」


顔を青ざめるジークスの言葉を

チイトは切り捨てた。


「私はもっと速くても大丈夫ですな!」

「マジで?!」

「本当かっ?!」


楽しげに笑うポンドを

郁人とジークスは凝視してしまう。


「イクトちゃん!」


そこへ聞き覚えのある声が響いた。


「母さん!」


振り返るとライラックがいた。

郁人の様子に慌てて駆けつける。


「どうしたの?!顔色が悪いわ!

すぐに先生のところへ……」

「大丈夫。

少し酔っただけだから。

ー ただいま、母さん」


声を弾ませる郁人に

ライラックは微笑む。


「おかえりなさい、イクトちゃん。

少しでも変だと感じたら言うのよ」


郁人を優しく抱擁したライラックは

ユーとポンドに気付く。


「あら?この子達は?」


新しいお友達?と尋ねるライラックに

郁人は告げる。


「その事についても含めて

ゆっくり話したいから、

家に……あれ?」


郁人は違和感に気付いた。


自身の家、大樹の木陰亭がある場所に

なにもないのだ。


隣近所も同じなのに、

あるのは湿った大地と焦げた木片のみ。


不思議そうに辺りを見渡す。


「母さん、大樹の木陰亭は?」


ライラックは郁人の問いに、

顔を曇らせ、答える。





「大樹の木陰亭は……燃やされたの」





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