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63話 月は優しく見守る




城のにある庭を離れ、

背の高い木々を抜けると

国を見下ろせる見晴らしの良い

小高い丘がある。


「…………………」


風が髪と頬をかすめ、

青白い月が照らす中、

そこにジークスはいた。


あるものの前で(たたず)み、

じっとしている。


「いた!」


聞き覚えのある声にジークスは

振り向く。


「イクト!?」


そこには大量の料理が盛ってある

大皿をもった郁人がいた。


後ろには触手で同様の量が盛ってある

大皿3つと小分け用の小皿を持ち、

瞳をサーチライトのようにして

周囲を照らすユーもいる。


「なぜここに!?」

「ジークスにも料理とかで

場の雰囲気を味わってほしくてな。

ユーがここまで案内してくれたんだ。

それに何も食べてないだろ?

一緒に食べよう」


歩み寄る郁人は驚くジークスに

大皿を見せる。


「……君の気遣いに感謝を」


ジークスは嬉しさで口角を上げた。


〔この生き物……

本当になんなのかしら?

サーチライト機能があって、

匂いで居場所を特定するし……〕


ライコは(いぶか)しげに呟いた。


ユーはもう大丈夫だと

サーチライトの役割を終える。


鬱蒼(うっそう)とした木々の中とは違い、

見晴らしの良い場所なので

サーチライトが無くても問題ない

明るさになったからだ。


「ありがとうな、ユー」


郁人はユーに礼を告げ、

辺りを見渡したあと、口を開く。


「テーブルがいるな。

ジークス、少しの間これを

持ってもらってもいいか?」

「構わない」


郁人はジークスに大皿を持ってもらう。


そして、郁人はペンを出現させると、

右手の指輪にペン先を当て、

ノートを手に取り描き出した。


「これでいいな」


郁人は頷き確認したあと、

描いた紙をノートからちぎり、

地面に置く。


すると、紙が光りだし

瞬く間にテーブルが出現する。

 

「おお!?」


ジークスは目を見開く。


「君のスキルは材料や情報が

無ければ出来なかった筈ではっ?!」

「俺もそう思ってたんだけど。

材料は描くものに使われているものじゃ

なかったみたいなんだ」


気まずそうにしながら

郁人は言葉を紡ぐ。


「どうやら材料っていうのは

俺の血に含まれる"魔力"で、

情報は俺の血に含まれている

"知識"らしい」


びっくりだよなと郁人は続ける。


「チイトが分析したから間違いない。

あと、ペンはインクを浸けるように

血を浸けないと使えないようなんだ」


ちなみに以前使えたのは、

郁人の血がペンに変化する前の

木の棒に付着していたからだ。


「……君の血が……材料………」


分析結果を聞いたジークスは

顔を青ざめる。


「それは大丈夫なのか?!

描く度に血を必要とすることになる!!

君が傷ついてしまうじゃないかっ!!」


どこか怪我をしているのではと、

注意深く確認するジークスに

郁人は首を横に振る。


「大丈夫。

怪我はしてないからさ」


心配そうなジークスに

気付いたきっかけを話す。


「このグラススイーツのグラスを

作ろうとしたときに気付いたんだ」


グラスの説明をしているときに

描いたら出来たと説明する。


「チイトが指輪を改造して、

この宝石に俺の血が集まるように

してくれたから。

補充も指輪が勝手にしてくれて

怪我することもないんだ」


左手にはめていた指輪を

右手に付け替えたことで

ペン先をすぐに宝石、郁人の血を

浸けれるようにしている。


「この宝石が……君の……」


一見、ルビーのように輝いてみえるが

郁人の血だと知ると心苦しい気持ちに

ジークスはなる。


「まあ……

使いすぎたら貧血で倒れるから

慎重にしないといけないけどな」


頻繁(ひんぱん)に使うつもりはないと

郁人は頬をかく。


そして、ハッとしたあと

慌てて口を開く。


「言っとくが、グラススイーツの

グラスは全てチイトに作ってもらった

ものだからな!

俺の血じゃないから安心して!」


食べ物に触れる物に血で作った物を

使うのは衛生的にも気味が悪いと

郁人は説明し、あっと声を出す。


「今更だけど、

テーブルも嫌な気分になるな……

すぐに下げ」

「その必要はない。

君の大切な血で作られた物に

俺が気分を害す訳がないからな。

例え、食べ物だろうとなんだろうと

俺は、私は(こころよ)く受け入れよう」


下げようとした郁人を遮り、

ジークスはテーブルに大皿を置き、

真っ直ぐ郁人の目を見つめた。


「……そうか?」

「あぁ。そうだとも」


ジークスの本心だと瞳からわかる。


「……食べ物は受け入れなくて

大丈夫だからな?

じゃあ、いただきます」


ジークスの信頼の厚さと真剣さに

戸惑いながらも、郁人は手を合わせた。


〔相変わらずいろいろと重いわね。

あんたの血で作った食べ物でも

きちんと完食しそうだわ。

"君の血を無駄にはしない!"

とか言って〕

(それはやめてほしいかな!

……食べ物を作れなくて

本当に良かった)


チイトに見てもらってわかった事だが、

郁人のスキルはテーブルなどの物は

作れるが、食べ物や生き物は作れない。


郁人が知らないものだと血に含まれる

情報が無いので作れないそうだ。


郁人はその事に胸を撫で下ろす。


「君が持ってきてくれたからな。

有り難くいただこう。

いただきます」


ジークスは礼を言うと、郁人にならい

手を合わせた後、料理に手をつける。


「っ?!」


瞬間、キラキラと目を輝かせた。


「やはり!

この国の料理はとても発展している!

以前とは雲泥の差だ!

力添えしてくれた彼に感謝しないと

いけないな」


嬉しそうに頬張るジークスは

グラススイーツの1つ、

イチゴのグラスを手に取り、観察する。


「これが君の言っていたグラススイーツか?

まるで小さなパフェみたいだ」

「見た目にもこだわったからな。

自信作でもあるぞ」


誇らしげに郁人は告げた。


「そうか。

それは味も楽しみだ」


微笑ましげに郁人を見つめながら、

ジークスは食べる。


「美味いっ……!」


イチゴの酸味とクリームの甘さが

口内に優しく広がる。


食べ進めていけば、

イチゴのムース、グラノーラと

飽きさせない工夫がされていた。


ジークスはそのままペロリと完食し、

また1つと手をつけた。


「このグラススイーツは

目でも楽しめ、味もとても

素晴らしいものだ!」


君のおかげでスイーツ好きになったと

頬を緩める。


ユーもいつの間にかジークス同様、

1つめを完食し、2つめに進んでいた。


「君の腕前にはいつも

惚れ惚れするばかりだな」

「褒めてもらえるのは嬉しいけど、

少しこそばゆいな。

そういえば、ここはどこなんだ?」


目が暗さに完全に慣れた郁人は辺りを

見渡し、あるものに視線を集める。


「これって……もしかして……?」


名前が彫られた大理石は掃除が

行き届いており、とても大切に

されていることがわかる。


その彫られた名前を郁人は

知っていた。


「この"アナスタリア"さんって……」

「君の察しの通り。

俺の"母上の墓"だ」


頷くジークスに郁人は謝る。


「ごめん……!

墓参りの邪魔しちゃった!

これもどこかにどけたほうが……!!」


慌てながら片付けようとするが、

ジークスが制止する。


「いや、このままで構わない。

母は食事を共にとる事を好んでおり、

俺に友が出来たら一緒に食べたいと

話していたからな。

ここで食べさせて欲しい」


母の望みを叶えたいと告げるジークスに

郁人は片付けようとした手を止める。


「……わかった。

じゃあ、一緒に食べないとな」


郁人は小皿に料理を盛り、

墓前に供える。


「お口に合えば良いんですが……。

どうぞ召し上がってください」


ユーもどこからか花を持ってきて

一緒に供えた。


「ありがとうイクト、ユー」


郁人とユーに感謝しながら

ジークスは墓に話しかける。


「母上、彼は俺の自慢の親友。

私の唯一無二の大切な宝である

"イクト"だ」

「こんばんは。

俺は郁人です。

息子さんと仲良くさせて

いただいております。

こちらはユーです」


郁人は頭を下げた。

ユーもそれにならってお辞儀をした。


「母上。

俺にも大切な宝、親友が出来ました。

それと……やっと……

父上とお呼びする事が出来ました」


亡き母、アナスタリアに報告する。


「邪竜の件もあるため、色々と

(おおやけ)にはされない事もありますが、

準備が出来次第……

父上は貴女の隣に埋葬されます」


ジークスはポツリポツリと語りだす。


「貴女は生前、父上は俺を愛していると

言っていましたね。

ようやく俺にも理解できました。

俺はあの方に……

父上に愛されてました」


母上の言った通りでした

とジークスは告げる。


「私を大切な宝だと……

産まれてきてくれて……

ありがとうと……

愛しい……と言ってもらえました。

けれど……私は……そんな父に……

刃を……命を……」


ジークスは次第に声を震わせ、(うつむ)く。

そして、涙ぐみそうになり唇を噛んだ。


郁人は丸まったジークスの背中を軽く叩く。


「言ったろ、我慢しなくて良いって。

泣きたいときに泣いた方が

気持ちも楽になる。

無理して抑えなくていい」


慰めるように優しく背中を軽く

ぽんぽんと郁人は叩き続ける。


「それに、ジークスは父親を

邪竜から助けたんだ。

父親の頼みを聞いて、邪竜から解放した。

ジークスが言葉に耳を傾けたから

父親を助けることが出来たんだ」


優しい声色で言葉を紡いでいく。


「ジークスが耳を傾けなかったら、

父親が邪竜に操られていた事や

そのせいでジークスや国を追い詰めて

しまった事は誰にも知られないまま、

ずっと闇に(ほうむ)られていたんだ。

だから、ジークスは父親を

邪竜から助けただけでなく、

名誉回復に貢献した。

少なくとも、俺はそう思う」

「イクト……」


ジークスは顔をあげ、郁人を見る。


「だからさ、自分を責めるな。

それに……

聞けてよかったじゃないか。

ジークスはちゃんと愛されてたんだから」

「……!!」


郁人の言葉にジークスは目頭を熱くさせる。


「……あぁ。

聞けて……よかった。

最期に話せて……本当に良かった……」


ジークスは泣きそうなほど

顔をしかめ、郁人に話しかける。


「すまない……。

君の隣を……しばらく借りる。

大の男の情けない姿を……

君に見せることになる」

「全然いいよ。

いくらでも貸すから」


柔らかな瞳を向けながら、

郁人は告げた。


「それに前にも言っただろ?

きっちり受け止めるからって」


どんと来い!と

自身の胸に郁人は拳を当てた。


「……ありがとう、イクト」


墓前に(たたず)む2人を

青い月が優しく見守っていた。





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