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59話 地面から噴き上げたもの




地面が更に大きく揺れ、

踏ん張っていた足は黄金に(すく)われる。


「うわっ?!」

「イクト!!」


ジークスが手を伸ばしたが間に合わない。


郁人は転がっていき、

黄金の山にダイブしてしまった。


が、背中には柔らかい感触がある。


「ユー!」


郁人が怪我しないように自身が

クッションとなって守ったのだ。


「ありがとう、ユー。

痛くなかったか?」


体を起こし、ユーを抱える。

ユーは大丈夫だと郁人にすり寄った。


「よかった……」


甘える姿にホッと息を吐く。


「それにしても、何が……」


噴き上げたものの正体を見極めようと

視線を向ける。


「なんだ……あれ……?」


天高く噴き上げたものの正体は

鉤爪と鱗に覆われたとても大きな

赤い手であった。


手だけでも、4人の中で1番高身長の

ジークスを包める程だ。


見つめている間にも、地面は揺れて

赤い手から順番に腕、肩とどんどん

姿が見えてくる。


そして全貌が露になった。



ー「ドラゴン……?!」



その正体は、業火のように赤い

"ドラゴン"であった。


思わず郁人は息を呑む。


〔こいつよ……!!

前に言った、もう1つの禍々しい気配の

正体は!!〕


あー!!とライコは叫んだ。


〔なんでこんな近くにいたのに

気づかなかったのよ!!

あたしはっ!!〕


そして、悔しさを声ににじませた。


赤いドラゴンは先程の前王に

比べても明らかに大きく、

威圧感も比べ物にならない。


(これが……ドラゴンっ?!)


映像や死体ではない、

生きているドラゴンを初めて見た。


郁人はただただ圧倒的な存在感と

異常なまでの重圧に潰されそうになる。


じりじりと恐怖が郁人の肌と心を

焼いていく。


こうして息をしていられるのも、

奇跡に近いと感じてしまう程。


遠くから見ているにも関わらず、

肌にヒリヒリと熱が

伝わる。


そして間違いなく、近寄れば

命の保証が無いことがわかる。



ー なぜなら、近くにあった財宝が

氷のように溶けてしまっているのだから。



「このドラゴンはなんだ?」

「知らん。俺も初めて見た」


チイトは見据え、ヴィーメランスは剣に

手を携え、いつでも抜ける準備に入る。


「もう1体居たというのか……?!」

「危険であることは間違いありませんな」


ジークスは大剣を構え、

ポンドも剣を構えた。


ドラゴンは視線を気にすることなく

周囲を見渡し、郁人に目を止めた。


瞳は燃え盛る炎のように揺らめき、

見られているだけで心臓が止まり

そうになる。


「…………っ!」


見られた郁人は息をするのも

やっとだ。


まさに"蛇に睨まれた蛙"である。


頭には自身がドラゴンにより

無惨に殺される姿が

はっきり浮かび上がる。


「っ……!!」


自然と歯がガチガチと鳴った。


ドラゴンはしばらく見つめると、

顎を開く。


熱が集中していき、太陽のような

火球を作り出す。


そして、煌々とした火球を郁人に向かい

吹き出した。


〔イクトっ!!〕


ライコの悲鳴が頭に響いた。


(逃げないと……!!)


恐怖で支配されていた意識は

ライコの声で払われたが、

足が縫い止められたように

動かない。


息をするのもやっとな郁人に

逃げるという行為は到底出来ない。


(足よ……!動け!!

動け動け動け……!!)


郁人の意思に抗い、

体は全く動かない。


「イクトっ!!」


ジークスの悲痛な叫びが耳に入った。


「父上!!」


ヴィーメランスが声を上げた。


「マスター!!」


ポンドの切羽詰まった声が響く。


3人は郁人を助けようと、

動くが間に合わない。


(せめて……ユーだけでも!)


腕の中にいるユーを守らなければと

郁人は自身を盾とした。


火球の猛々しい光に堪えられず

目を閉じてしまう。


絶望的な火球は郁人を

たやすく飲み込んだ。



ー ように思えたが、現実は違う。



「………熱く……ない?」


郁人は一向に来ない熱と、

眩しさが失せたこと、

体を包むほのかな温かさに

目を開ける。


そこには夜のような闇が広がっていた。


郁人には見慣れた姿で、

守るように郁人を抱きしめて

闇を、マントを盾のように広げていた。



ー チイトがあの火球から守ったのだ。



マントは郁人を守るように

視界1面を包み込んであり、

用は済んだと元に戻っていく。


郁人に迫った火球はもう無い。


炎の脅威から助かったのだとわかった。


「……助かったんだな」


上等な毛布に包まれたような心地を

覚えながらチイトに礼を告げる。


「ありがとう。

チイ……ト……」


頭を上げた郁人はチイトの顔を見て

ピタリと固まる。


表情は氷のように冷たいが、

相反して瞳は激しく興奮しており、

ドラゴンにも比毛をとらない程に

燃え盛っている。


そして、拭えないほどの暗く、

背筋が凍りつく闇のようなオーラを

身にまとっていたからだ。


〔ひっ……?!〕


あまりの表情とオーラに

ライコがうめき声を上げた。


「貴様……」


声はあまりに冷たく、

聞いたもの全てが凍えそうだ。


郁人自身に向けられたもの

ではないのに、心臓を

握りしめれたように感じる。


ぞくりとした感覚から、

ユーを更に抱き締めた。


「パパを……狙ったな」


憎悪と怒りに染まった瞳が

ドラゴンを射ぬいた。


「……パパは下がってて。

こいつの狙いはパパだから」


強張っていた郁人を安心させようと

チイトは郁人の背中を軽くポンポン

と叩き、ヴィーメランスを見る。


「ヴィーメランス……行くぞ」


そして、チイトは前へ進む。


「元からそのつもりだ」


ヴィーメランスはチイトのもとへ進み、

後方に居る2人へ指示を出す。


「2人は父上の警護にあたれ。

……俺は自身を制御出来る自信が

無いからな」


巻き添えを食っても知らんと、

ヴィーメランスは火の粉を舞わせ

武器に手を添えながら、

前方に居るドラゴンを見据える。


夕日のような瞳は、炎の揺らめきとなり

チイトと同じ光を宿していた。


指示に、ジークスとポンドは了承する。


「了解した。

脅威があのドラゴンだけとは限らない

可能性もある。

なにより……

君達の足を引っ張りそうだ」

「承知しました。

警護に当たらせていただきます。

助太刀したら巻き込まれそうですからな」


2人は郁人のもとへ駆け寄る。


「イクト、大丈夫か?!」

「お怪我は?」


郁人は問題ないと頷く。


「大丈夫。

チイトが守ってくれたから」


3人が集まったのを確認したチイトは

ユーへ指示を飛ばす。


「ユーは全員を上に運び、

念のため張っていろ」


ユーは頷くと、郁人の腕の中から

離れてみるみる大きくなっていく。


「うわっ?!」

「なにっ?!」

「なんと!!」


そして、郁人を背中に、

2人を尻尾で巻いてから上へと

浮かび上がる。


3人が驚いているなか、

ユーは上にある、空間への入り口、

全員が飛び降りた場へエレベーターのように

進み、ゆっくり降ろした。


「運んでくれてありがとう」

「感謝します、ユー殿。

ここなら巻き添えは食らわないでしょう」

「ここまで上がるのは大変だからな。

助かったよ、ユー。

ここから彼らを見守るとしよう」


3人が窓のように空いた穴から

チイト達を見守る中、

手の平サイズに戻ったユーは

尻尾の先を光らせ、空間を区切るように

線を描く。


すると、線はみるみるうちに

光の壁へと変わっていく。


「これは……?」


透明なので目ではわからないが、

手を伸ばすと当たった感触があり、

強固な壁で護られていると

なにより肌で感じる事が出来る。


〔これって……まさか"結界"?!

ここまでの結界を張れるなんて

ごく(わず)かなのよ!?〕


ライコは思わず叫んでしまう。


(これが結界っていうのか?)

〔えぇ、そうよ。

結界はいろいろな魔術で

代用されているけど、

本来は光属性の魔術なの〕


キョトンとする郁人に

ライコはわかりやすいように

説明する。


〔結界というのは、

あらゆる攻撃を防ぎ、味方を護る。

魔力が多ければ多いほど

頑丈なものになるのよ〕


氷の壁とかで護るものもあるけど、

光属性の結界は断然に性能が違う

と語る。


〔普通に出来ても中に居られるのは

1人が限度なんだけど……。

3人も入れるなんて凄い事だわ!

魔物で唯一張れるとなると

ガーゴイルくらいだし……

混ざってるのかしら?〕


ライコはユーに混ざっている魔物を

推測する。


「これはなかなかだな……!?

このような結界は見たことがない!」

「ユー殿にはチイト殿と同様、

いつも驚かされますな」


ジークスは感心し、

ポンドはユーを見つめる。


「ユー。

結界まで張ってくれてありがとうな」


郁人はユーの頭を撫でると

ドラゴンと対峙する2人に

声をかける。


「チイト!ヴィーメランス!

無茶はするなよ!」


心配そうな郁人に、

2人は返事をする。


「うん。わかってるよパパ」

「かしこまりました」


そして、真剣な面持ちで

ドラゴンを見据える。


「ヴィーメランス。

足を引っ張るなよ」

「それはこちらの台詞だ。

チイト」


チイトはマントを(うごめ)かし、

ヴィーメランスは剣を抜いた。


対峙する2人を見ながら

ライコは呟く。


〔猫被りと軍人の共闘ね。

共闘なんてできるのかしら?〕

(チイトから声をかけてたし、

出来ないことはないんじゃないかな?)


想像は出来ないけどと郁人は答えた。


(応援しか出来ないのは歯痒いけど……

頑張れチイト、ヴィーメランス!)


郁人は2人の姿を見守る。


様子を見ていたドラゴンは

場に残った2人に用心深く、探るような

視線を向ける。


向けられた2人は臆することなく

堂々と立ち向かう。


両者、地面を踏みしめると

稲妻のようにドラゴンへと迫った。


ドラゴンも魂を吹き飛ばすような咆哮と

ともに戦闘に入った。





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