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46話 竜人の価値観




晴れ渡る空と青く茂る草原。

涼やかな風は大木の葉をさらさら揺らし、

郁人の頬も撫でていく。


「綺麗な迷宮だな。

ピクニックにぴったりだ。

そう思わないか?ユー?」


郁人は大木の下で

ユーと迷宮の風景を楽しんでいた。


ドラケネス王国の迷宮は、

試しの迷宮とは違い、

外にいるのではと錯覚させるほど。


ヴィーメランスが事前に

迷宮を管理しているギルドに

手続きをしてくれていたおかげで、

すんなり入れたのだ。


郁人以外のメンバーはパンフレットに

書いてあった材料を集めており、

郁人は大きな木の下で待機している。


(ここが迷宮なんて

誰も思わないだろうな)


ーしかし


「消え失せろ」

「邪魔するなら灰にしてやる!!」

「彼の為だ、剥ぎ取らせていただく!」

「試し斬りにはまだ足りませんな!」

「よし!じゃんじゃん行くよー!!」


チイト達が魔物達を狩る姿が

ここが迷宮である事を証明している。


あまりにも一方的な蹂躙(じゅうりん)

郁人は魔物に同情する。


「全て狩り尽くす勢いだな……」

〔魔物が可哀想になる光景ね。

あんたはあの鎧がどれだけ動けるか

テストする為、体力温存しなくちゃ

いけないから待機してるけど……

正直暇じゃない?〕

(うん。暇だな。

魔物がこっちに来ないか緊張してたけど

全然来ないし)


郁人はどうしようか考えていると、

ユーが頬を突っついた。


「どうかしたのか?」


見ると柔らかそうなボールを

持ってこちらを見ている。


「ボール遊びでもしようか」


意図を理解してもらい、

ユーは尻尾を揺らしながら

距離をとる。


「行くぞ!」


投げるとユーは危なげなく小さな手で

キャッチして、こちらに投げる。


「ユーは上手だうぐっ!」


郁人は顔面キャッチした。


〔大丈夫?!〕


綺麗に顔に当たったので

ライコが心配し声をかけた。


(大丈夫だ。

このボールもマシュマロみたいに

柔らかいしさ)


郁人は平然とボールを投げる。


ユーはオロオロしながらも、

もう1度キャッチし投げた。


が、またしても郁人は顔面キャッチだ。


何度キャッチボールしても、

郁人は全て顔面キャッチになる。


〔なんで顔面キャッチするのよ?!〕

(わざとじゃないぞ!

ただ、取ろうとしても顔に……あっ)


郁人は球技に関して思い出した。


走るのはいいのだが、球技はどうしても

上手く取れず、顔面キャッチしてしまう。


面白がったクラスメイトが

嫌がる郁人にどれだけ顔面

キャッチするか試そうとした時、

誰かが助けてくれたのだ。


〔それいじめじゃない?!

向こうでもいじめられてたの?!〕

(俺と妹は二卵性双生児でさ。

妹がかなり美人でモテたから。

双子と思われなくて妬まれてな)


助けてくれた誰かが思い出せず、

郁人は思い出そうと唸る。


(いつも助けてくれたのは覚えてるんだが。

なんでこんな曖昧に……)


曖昧(あいまい)さに体が冷たくなるのを感じると、

ユーがこっちに戻ってきた。


頬にすり寄り、背中から氷を

取り出し郁人の顔を冷やす。


「痛くないから大丈夫。

さあ、もう1回……」


郁人がボールを手に取ると

ユーが奪い取り、チャックから出た

触手でバツをする。


「駄目か?

1回ぐらいキャッチしたいんだけど」

〔全て顔面になりそうだからやめなさい。

ほら、猫被りが見てるわよ〕

<顔に傷がついたらどうするの?!

Yパッドに色んな機能があるから!

それ見てて!>


戦闘中でも余裕があるようで、

チイトは以心伝心(テレパシー)で訴えた。

ユーもじっと見つめて訴える。


(わかった。

じゃあ、飛べるかやってみようかな)


郁人はもらった指輪に触れ、

Yパッドを出した。

そして、ジャケットの機能欄を

スクロールしていく。


欄を見てみると、

飛行形態を設定できるようで、

イメージ図を描くスペースがあった。

液タブのように反応し、

ペン等の設定も変えれる。


ライコは機能に息を呑む。


〔あいつの作る物や行動に

驚いてたらキリがないけど……

本当にスゴいわね。

こんな最先端な魔道具、ここに無いわよ。

盗まれないよう注意しないと〕

(そうだな。

盗難防止欄があるからチェックしておこう。

……内容がえげつないから控えめにして)


盗もうとした者の手首を切り落とすや、

縛り上げて血を抜くなどがあるため、

まだマシものに設定する。


「ふぅ~

一旦休憩っと」


サイネリアが汗を拭いながら

郁人の元へやって来た。

隣にドサッと座り込む。


「お疲れ様。

すごい回収してるな」

「彼らに比べたら全然だよ。

皆、体力ありすぎるよ!!

ヴィーくんはわかってたけど、

災厄くんもジークスさんも

尋常じゃないね!

見てると自信なくなりそう」


まだ狩り続けるメンバーの姿を

見ながら肩を落とす。


その姿を見て、郁人は1粒の果実を

差し出す。


「俺からしたらサイネリアもスゴいぞ。

魔術を使いながら的確に仕留めてるし、

見てて綺麗だと思った」


サイネリアの戦闘スタイルは

氷で相手の動きを封じたり、

氷を張りスケートリンクを滑るように

相手に向かっていく等、

舞っているような優美さを感じた。


郁人は感じた事を素直に告げた。


「ありがとう、イクトくん。

そう言って貰えると嬉しい!

僕は褒められて伸びるタイプだから!」


サイネリアは頬を緩めながら、

郁人も賛辞する。


「イクトくんもスゴいよ!

ポンドさんがあんなに動けてるからね。

って、なにこれ!美味しい!!」


手渡された果実を食べた

サイネリアは目を見開く。


「美味しいよな、これ」


サイネリアの様子に満足しながら、

郁人も1粒を口に放り込む。


見た目の大きさとは裏腹に、

果汁が一気に口内を潤し、

甘味と酸味が程好いバランスで

舌を刺激する。


「小腹が空いたと思ったら、

ユーが取ってきてくれたんだ。

程よく凍らせると絶対に美味しいので、

サイネリアよろしく!!」

「任せて!」


郁人の手のひらにある果実を

サイネリアは魔術で冷やしていく。


2人とユーは冷えた果実を口に入れる。


瞬間、淡雪のように舌の上でとろけていき、

果実の美味しさを更に引き立たせている。

まさしくシャーベットだ。


「うん!

やっぱり冷やしたほうが良い!」

「すごい!一気に美味しくなってる!!」


2人は目を輝かせながら食べていく。

ユーも先程までと食べるスピードが違う。


「イクトくんも食べ物にこだわる

タイプと見た!

ヴィーくんのこだわりぶりにも納得だよ」


サイネリアは頷きながら食べていると、

思い出したようにイクトを見る。


「あっ!

そういえば安置所に行く途中で

言いかけていたけど何かな?」

「えっと、その……」


突然話を振られ、驚きつつ

聞きたかった内容を思い出した。


〔宰相の件ね。

周りに誰もいないから聞いても

いいんじゃないかしら?

腹を割って話すにはいい状況よ〕

(ライコの言う通りだな。

……聞いてみるか)


郁人は尋ねてみることにした。


「あのさ、ヴィーメランスは

俺の悪口を言った人達を

消していったんだよな?

宰相とサイネリアは

知り合いみたいだし……

怒ったりとか無かったのか?」


質問に目を丸くし、果実を口に放り込む。

そして、姿勢を正した。


「そうだね……

何も思わなかったと言えば

嘘になるかもね。

彼とは昔からの顔見知りだし。

けど、彼の方が圧倒的に悪いから。

殺られても仕方ないかな」

「……止めようとも思わなかったのか?」


淡々と語るサイネリアに

息を呑みつつ郁人は尋ねる。


「君達からしたら薄情に見えるだろうね。

でも、僕達には当たり前の事。

僕達ってハッキリ言えば、

忠誠を尽くす相手以外どうでもいいから」


サイネリアは竜人(じぶんたち)の価値観を述べていく。


「尽くす相手以外の価値は皆同じ。

相手がどれだけの地位にいようとね。

それに、止めたら戦争になる可能性が

あったし、天秤にかければ尚更だよ。

まあ……

宰相は陛下に対してもあまり

良い態度では無かったからなあ」


サイネリアは思い出し、

眉をひそめる。


「彼、陛下を政略結婚の道具だと

見下してたから。

でも、言葉にしてなかったから

保留にしてたんだ。

宰相っていう重要な役職だから

簡単に殺れないだろうし。

けど、彼がもし陛下を侮辱してたら

ー僕がとっくに殺ってたよ」


だから時間の問題だったねと

綺麗に微笑む姿に背筋が泡立った。


竜人と人間の価値観の違いが

サイネリアの言葉に染み出ている。


たとえ顔見知りだろうが、

侮辱すれば容赦はしない。

彼らには忠誠を尽くす相手以外

皆平等。

地位も関係ないのだ。


しかし、郁人はそこに疑問が浮かぶ。


「ヴィーメランスはいいのか?

態度が違う気がするけど……」


ヴィーメランスに対しての態度だ。


リナリアに対して敬う態度を

示していない。

言葉通り、他はどうでもいいなら

ヴィーメランスも放っておけばいい筈。


しかし、昨晩郁人がヴィーメランスから

聞いた話では、彼から積極的に

馴れ合ってる気がしてならない。


「だって、陛下はヴィーくんに

ぞっこんだからね。

それに、僕もヴィーくんと

仲良くなりたいと思ったから」


宰相の件と違い、人懐っこい表情で

目を輝かせる。


「最初は、陛下とくっつけようと、

好みを探るために近づいたんだ。

けど、ヴィーくんと話していると

仲良くなりたいなって思ったんだ。

陛下には永遠の忠誠を、

ヴィーくんには限りない友情をとね。

だから……君が羨ましい」


サイネリアは真っ直ぐ郁人を見つめる。


「ヴィーくんの感情を動かせる君が。

ヴィーくんの行動理念には常に君がいる。

竜人(ぼくたち)にはそれが当たり前だと

わかってるけど、君が羨ましいよ。

友達だと思ってるのは……

僕だけかもしれないから」


サイネリアは微笑むが

それが作り笑いだとわかる。

瞳が寂しいと訴えていたからだ。


「あのさ……

ヴィーメランスも友達だと思ってると思う」

「え?」


サイネリアは郁人の言葉に目を丸くした。




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