45話 親衛隊と痕跡
※今回、下ネタと思われるような
内容があります。
苦手な方はご注意ください。
現在、ヴィーメランスの案内で
街を抜けた所にある迷宮に向かっている。
(あのまま出て良かったのかな?)
郁人は首を傾げる。
あれから、リナリアとサイネリアが
大勢の者達と戻ってきた。
ジークスは頭巾を起動しバレなかったが、
来る前に前王の死体を置いてたため、
聞いていなかった者達は
死体を見てパニックに陥ったのだ。
パニックした者達は
ヴィーメランスの一喝で沈静化し、
用は済んだとチイトは郁人の手を取り
昨日話したパンフレットに載ってある
材料集めに向かっている。
<気にし過ぎだよパパ。
あの女は良いって言ってたでしょ?>
隣を歩くチイトは大丈夫と告げた。
(たしかに、リナリアさんは
大丈夫と言ってくれていたけど……)
〔なら、良いじゃない。
居ても邪魔になるだけだわ。
それにしても……綺麗な街ね。
戦禍に巻き込まれていたとは思えないわ!〕
(そうだな〕
街並みはライコの言う通り、
3年前、戦禍に巻き込まれていたとは
思えない程、活気に満ちており、
人々の笑顔に溢れている。
石畳の道とシックなモノトーン調の
家々が建ち並び、統一感がある。
カメラがあれば写真を撮りたくなる程。
久々の故郷に後ろのジークスは
興味深く見ており、ポンドも見回し、
声を弾ませる。
「とても綺麗な街ですな!」
「街の復興もヴィーくんがワイバーンの
導入や活用法を考えてくれたおかげで
一気に進んだからね!ヴィーくん万歳!!」
「なぜ貴様がいる?」
隣に居る上機嫌なサイネリアに
ヴィーメランスが眉をひそめた。
「大事なお客様を放っておくのはと、
面識ありの僕に陛下が指示されたんだ!」
親指を立てサイネリアはウインクした。
郁人は不安そうに尋ねる。
「……本当に大丈夫なのか?
ドラゴンは魔力の……」
「大丈夫大丈夫!
僕以外にも騎士はいるから!
ほら!イクトくんを見てた2人いたでしょ?
あの2人もトップの騎士なんだ!!」
サイネリアの言葉に郁人は思い出す。
姉弟と思われる鎧を纏った
男女に穴が開くほど見られたのだ。
姉は艶のある金髪を後ろに結い、
真面目そうだが、柔らかい美貌が
親しみやすさを醸し出していた。
弟も同じく後ろにまとめた髪は
尻尾を連想させ、目付きが鋭く、
ツンと鼻筋が通っており、姉とは
正反対で近づきにくい感じだ。
〔あぁ。あんたをガン見してた2人ね〕
「あの2人は姉弟なのか?
なんでじっと見てたんだ?」
「そうだよ!姉弟なんだ!
で、どっちもヴィーくんの親衛隊!
だから、ヴィーくんの尊き御方の
イクトくんが気になったんだよ」
「親衛隊?」
意外な単語に目をパチクリする。
「街の人達をよく見て。
ヴィーくんを見ている人が多いでしょ」
サイネリアが隣に来て耳打ちした。
見回すと、先頭のヴィーメランスを
熱のこもった瞳で見つめる者が多い。
今にも押し掛けそうな者までいる。
「ヴィーくんはこの国の“英雄“だからね。
苛烈公と恐れられていても、
実力は勿論、見た目も最高だし、
温泉や料理、ワイバーンの導入とか
画期的な案も出してくれたから
大人気過ぎて親衛隊まであるんだ」
自分のことのように自慢し、
胸を張る。
(ヴィーメランスもモテるんだな。
頑張って描いたから誇らしいな)
先導するヴィーメランスを
誇らし気に見る。
「父上、どうかされましたか?」
視線に気づいたヴィーメランスが
振り向く。
「ヴィーメランスのモテ具合を聞いてさ」
「親衛隊の話もね!」
親衛隊の言葉にヴィーメランスは
眉をしかめる。
「親衛隊ですか……。
作る暇があるなら鍛練でもしていろ」
ヴィーメランスが親衛隊を良く
思っていないことは明らかだ。
〔……絶対何かあったわね〕
(だな)
その様子に郁人は尋ねる。
「何かあったのか?」
「……はい」
ヴィーメランスは言いにくそうに
口を開いた。
「俺は当初あの塔ではなく、
こいつと同じ館に住んでました」
「そうだったんだ!」
最初から塔に住んでいたのだと
思っていた郁人は目を丸くする。
「俺は騎士が住む館の1室を借り、
しばらく住んでいたのですが……
その……」
ヴィーメランスは言葉を濁す。
どのように話せばいいのか
躊躇っているようだ。
「ヴィーくんが超肉食系女子に
夜這いされたからね!しかも毎晩!」
しかし、その躊躇いを
あっさりサイネリアが告げた。
「色んな女性が裸で迫ったんだ。
ヴィーくんのお嫁さんになりたい!
結婚して!!って。
後から聞いたけど、媚薬持参だったり
色々と凄かったよ」
女性の本気度が凄まじかったと
サイネリアは語った。
「でも、ヴィーくんは即気絶させて
窓から近くの池に投げていたんだ。
ある日、外を見てたら隣の部屋から
突然裸の女性が出て来て
目を疑ったよ。
しかも、そのまま放置だから
僕が対処して大変だったんだ」
特に女性を運ぶ時がと愚痴をこぼす。
「毎晩ですか?!
私でしたら皆お相手しましたのに……!!」
有りないと言うポンドを余所に、
ヴィーメランスはサイネリアの
顔を鷲掴みにする。
「貴様!!人がどう説明するか
悩んでいたというのに……!!
低俗な言葉で父上の耳が
汚れてしまったらどうする!!」
「パパが穢れる!!」
(チイトに耳を塞がれて
ヴィーくんまで聞こえたけど……)
突然耳を塞がれた郁人は何も聞こえない。
(なんでサイネリアは顔を掴まれて
いるんだろ?)
なぜサイネリアがアイアンクローを
決められているのかもさっぱりだ。
2人の過保護にサイネリアは
反論する。
「いやいや汚れないからね?!
2人共過保護過ぎるでしょ!
イクトくん17くらいだけどさ!!」
「父上の御年は俺の2つ下、23歳だ」
「パパは俺より8才上だ」
「待ってイクトくん23なの?!若っ!!
ていうか、ヴィーくんが僕より年下?!
災厄くん本当に15?!
……そろそろ苦しくなってきたぞい!」
サイネリアが手足を勢い良く振って
喋っているが、郁人には聞こえない。
しかし、苦しそうなのは分かるため、
チイトの手を軽く叩く。
「なにパパ?」
チイトが気づいて耳から手を離した。
「サイネリアは何を話してたんだ?
苦しそうだから離してあげて」
「承知しました」
「あいたっ!?」
ヴィーメランスは顔から手を離し、
サイネリアは地面に尻餅する。
「う~……
ヴィーくん達過保護過ぎるよ~」
「私も同意します。
私の遍歴を話す際、
直球で言おうとしたら、
首を刈り取られかけましたからな。
オブラートに包むのは大変でした……」
「そうだったんだね……」
しゃがみ背中を叩くポンドと
涙目のサイネリアが話しているが、
郁人には内容がわからない。
流れについていけない郁人が
首を傾げていると、チイトが説明する。
「あのね、パパ。
ヴィーメランスは毎晩こいつを慕う
女達が押し掛けて迷惑してたんだって」
「はい。
本当に……迷惑でした」
「……モテるのも大変なんだな」
ヴィーメランスのうんざりした様子に
郁人は当時の大変さを垣間見た。
「俺はその事に辟易し、
城下町に移動したのですが……
更に過激化したのです。
うんざりした俺は国を去ろうとした時
女王が使われていなかった、
現在の拠点である塔をくれたのです」
「英雄が去ってしまうのは一大事だからね。
今はヴィーくんに押し掛ける人はいないよ。
親衛隊も押し掛けない為に作ったそうだし」
サイネリアは尻をさすりながら
立ち上がる。
「だから、見てるだけなのか」
〔そんな理由で去られたら
堪ったものじゃないものね〕
郁人とライコが納得していると
ヴィーメランスが話を変える。
「そろそろ迷宮に着きます」
「ここの迷宮は草原が主体で、
色んな素材があることで有名なんだ!」
サイネリアが自慢気に笑う。
「色んな素材……。
あのさ!ここに来てたか知らない?」
「誰がです?」
ヴィーメランスが問いかけた。
「先生の息子さん!
冒険者であり医者でもあって、
薬の材料探しに旅してるって聞いたから。
ここにも来てるかと思ってさ。
色々と目立つ子だから
噂になってるかもって言ってたし」
「息子さんね!
名前はなんていうんだい?」
サイネリアが尋ねた。
「名前はたしか……”クフェア”さん!」
名前を聞いた途端、2人は足を止め
ピタリと氷漬けされたようになる。
「……どうかしたのか?」
「何かあったのですかな?」
「あったに違いない」
〔絶対にあったわね〕
固まっていた2人だったが、
ヴィーメランスが先に動く。
「……父上はお会いになったことは?」
「ないよ。
会ったら先生に連絡か
会いに行くように伝えるって
言ったから来てたらと思って」
首を振る郁人にヴィーメランスは
なぜか胸を撫で下ろす。
「どうかしたのか?」
不思議そうな郁人に
頭をかきながらサイネリアは口を開く。
「その人なら2年前に来てたよ。
まだ人手が足りなかったから、
その人が怪我人を診てくれてさ。
腕もかなり良いし、そこまでは
良かったんだよ……うん……」
サイネリアが視線を遠くに向け、
乾いた笑みを浮かべた。
「チイト」
ヴィーメランスが目配せすると、
チイトは郁人の両耳を塞ぐ。
「その人、ヴィーくんに向かって、
言ったんだ。
“へえ、君が1人で戦を……興味深い。
うん、実に興味深い。
女王様も良いけど、男なら君が良いな。
良かったら俺と親交を深めないかい?
君の体格や顔が特に好みなんだ。
隅々まで調べてみたい。
竜人と交わったことないから尚更。
君、上下どっちが良いとかある?
俺はどっちでもいけるから。
君に判断は任せるよ”って」
あまりに衝撃的で覚えちゃったと
サイネリアは告げた。
「拒否したが、何度でも来てな……」
「全く諦めなかったよね、彼。
終いには親衛隊と乱闘になって
大変だったよ」
ヴィーメランスは額に手をあて、
サイネリアは肩を落とす。
「……それはすごい方ですな」
「君も言われたか……」
ポンドが苦笑し、ジークスは思い出し
声を震わせた。
話が終わったと認識したチイトは
手を離し、説明する。
「クフェアって奴は、
ヴィーメランスを調べたいって
しつこかったそうだよ。
それで、親衛隊の堪忍袋が切れて
大騒ぎになったんだって」
「そうだったのか。
でも、なんで耳を塞いだんだ?」
「残酷な表現があったから。
パパには綺麗なものだけを
見て聞いて欲しいからね」
〔なら、最初の磔は良かったの?〕
<あれはパパを虐める奴等はこうなるから
安心してって意味だ。問題無い>
〔あんたの基準がわからない!!〕
声からライコが頭をかきむしる様子が
浮かぶ。
チイトは気にせず、郁人に話しかける。
「クフェアって奴、
色々問題あるみたいだよ。
関わらないほうが良いんじゃない?」
「でも、クフェアさんが
世話になってる薬を作ったらしいから。
お礼を言いたくてさ……」
「……言うときは俺が居るときにしてね」
「?わかった」
ため息を吐いたチイトだったが、
郁人が頷くのを見て無邪気に笑う。
「じゃあ、早く行こっ!」
「うわっ?!」
郁人の手を取り、突然走り出す。
「待て!チイト!」
ヴィーメランス達も急いで
後を追いかけた。
ふと思いついたように
ライコは尋ねる。
〔……そういえば、あの女の敵が言う
“チェリー“の意味分かってるの?〕
(分かってるよ。“さくらんぼ“だろ)
〔……あいつらが過保護になる
理由が分かったわ〕
ライコのため息に郁人は首を傾げた。




