44話 鑑定ではなく推理
郁人はユーに起こされた後、
朝食中にサイネリアに呼ばれ、
ドラケネス王国の前王の遺体を置きに
安置所へ向かっている。
〔まさか……夢に入って来るなんて!
しかも、中から起こすなんて相当よ!!〕
ライコはヘッドホンごしに
胸ポケットにいるユーについて話す。
(そうなのか?
だとするとユーって、
何が混ざってるんだろ?)
不思議そうにしていると、
後ろに居るポンドが声をかける。
「マスターどうかされましたか?
もしや具合でも……」
「大丈夫。
城の中を見てただけだから。
滅多に見れるものじゃないだろ?」
「確かにそうですな」
ポンドに話しかけられ、
意識をこちらに戻す。
城の内装は外観同様、
白を基調にされており、
気品を感じ、目を奪われる。
前に居るチイトも珍しく
じっと見ているくらいだ。
しかし、それ以上に
目を奪われるものがあり、
使用人も見とれてため息を
こぼしてしまう。
その正体は、
リナリアとヴィーメランスだ。
先導する2人は治水事業などの
政策について討論している。
内装も合わさって、1枚の絵のようだ。
(こう見ると、紅白でめでたい
色合いの2人だよな。
美男美女でお似合いだし。
話している内容は政治だけど)
〔色恋とは程遠い話ね。
というか、客将に政策とか国の
根幹に関わる事を聞いて大丈夫なの?
そういうのは宰相とかに
聞くんじゃないのかしら?〕
(そういえば、そうだよな)
ライコの疑問に、郁人も同意した。
「いや~!
やっぱり陛下とヴィーくんが並ぶと
一気に場が華やかになるねえ!」
サイネリアはニマニマしながら、
後ろから2人を見ている。
「イクトくんもそう思わない
って、どうしたの?
気になることがあるのかい?
目に書いてあるよ」
サイネリアが笑顔で振り返り、
郁人に話しかけてきた。
「その……ヴィーメランスに
政策とか話しているけど、
本来は宰相とかじゃないのかと
思ってさ」
「なるほどね……
イクトくんはヴィーくんが
苛烈公と呼ばれてる事や
原因は知ってるかい?」
郁人の言葉に両眉を上げると、
側に来て耳打ちした。
言葉に郁人は頷く。
「リナリアさんから……」
「なら、話しは早いね。
宰相も君の悪口を言ったんだよ。
だから、その時にね。
彼がヴィーくんの態度とかに不満を
持っていたのは知ってたから……。
言う前に止めれたら良かったんだけど」
サイネリアは口をへの字に曲げ、
肩を落とす。
「まだ宰相の役職は空いてるし、
陛下のお母様も不在だから
ヴィーくんに聞いてるんだ。
僕はそっち方面さっぱりだから。
ヴィーくんにはホント助かってるよ!」
そう言って笑うサイネリアに
郁人は疑念が浮かぶ。
(サイネリアもヴィーメランスの
態度に不満を抱かなかったのか?
リナリアさんと乳兄弟で1番近いのに……。
宰相についても思うことはある筈……)
〔たしかにね。
こいつ、あんたの言うように
1番女王と近い存在だもの。
どうやら宰相と話する仲みたいだし〕
疑問の花が郁人の頭に咲く。
「あの……」
「着きましたわ。
ここが安置所になります」
郁人は尋ねようとしたとき、
リナリアの声が響いた。
「着いたみたいだね。
僕は扉を開けるから」
サイネリアは郁人に手を振ると
リナリアの元へ向かう。
そしてサイネリアは扉を開き、
全員を中に迎え入れた。
安置所は城の内観とは違い
重厚感があり、見ているだけで
息がつまりそうになる。
中央には一際大きな空間が空いており、
前王を置く場所だと一目でわかった。
「こちらにお願いします」
「死体はこのままでいいのか?
ドラゴンの死体は魔物にとって餌同然。
おびき寄せてしまう可能性がある」
「そうなのか?!」
ヴィーメランスの言葉に
郁人は目を丸くする。
〔それもそうよ。
ドラゴンの……〕
「ドラゴンの死体は云わば、
魔力の塊だからね。
他の魔物からしたらご馳走なんだ」
「そうなんだ」
ライコの説明を遮り、
横に来たチイトが説明する。
「心配には及びません。
この壁は外に魔力を漏らさない
“遮断石“が使われておりますので」
リナリアは壁の材質について話した。
チイトは壁をじっと見て、頷く。
「なるほど。
遮断石で部屋に溜めた魔力は
邪竜の封印に使うか。
隠すには最適で効率も良い」
「……?!」
「なんで知ってるの?!」
チイトの言葉にリナリアとサイネリアは
息を呑んだ。
「チイト……勝手に見たか」
ヴィーメランスはため息を吐く。
「パパに危険があってはいけないからな。
この1帯は火山が近いゆえ、
地熱を魔力に変えてこの地下にある
封印場所に魔力を入れていたようだが。
結構考えたものだ」
チイトは下を見て、感心している。
「……チイト待って。
情報が一気に来て、頭が全然
ついていけてないから
説明してもらってもいいかな?」
チイトが1人で納得しているが、
郁人にはさっぱりだ。
「うん!いいよ!」
郁人に頼られチイトは目を輝かせる。
指を鳴らして空中にスクリーンを出し、
図を見せる。
図には、ドラケネス王国の城の内観が
描かれ、安置所が拡大されている。
「俺達がいるのはこの安置所。
安置所には遮断石という
特殊な石が使われているんだ」
チイトはスクリーンに触れ、
遮断石の画像を上げる。
「遮断石について補足すれば、
洩らさないんじゃなく、
内部に溜め込む性質があるんだ。
だから、外にバレないんだよ」
「じゃあ、遮断してる訳じゃなく
溜め込んでるいるのか。
だから洩れないと」
「そういう事」
郁人の理解に微笑む。
「一般には遮断していると
思われてるけどね。
安置所の製作者は遮断石の性質を
正確に理解していたから
この部屋に用いたんだよ。
地下にある封印に利用する為にね」
スクリーンを切り替え、
城の図を下にスライドし、
封印場所を見せる。
「安置所と封印場所の間に
空間があるんだ。
ここに遮断石に溜め込んだ魔力を
流しているんだよ。
魔力溜まりを発生させる為にね」
「魔力溜まり?それって……?」
はてなマークを乱舞させる郁人に
チイトは先生のように説明する。
「魔力溜まりっていうのは、一定の場所に
溜まり続けたら起きる現象だよ。
魔力が溜まり続けたら、その場所の
空間が歪んで、人が入れば空間で
彷徨う事になるんだ」
<ここに残留思念とか材料があれば、
迷宮が完成する。
魔力溜まりは謂わば、迷宮の下準備かな?>
郁人と約束しているので、
迷宮の根幹に関わる部分は以心伝心で
郁人にだけ伝えた。
(約束守ってくれてありがとう)
<パパとの約束だもん!>
チイトは柔らかな瞳で郁人を見る。
そして、説明に戻る。
「床を壊して入るのを防ぐ対策だよ。
そして、魔力を更に封印場所にも流し
封印が解けないようにしてあるんだ。
安置所に魔力がずっと流れてくる
訳でもないし、封印の魔力が
足りなくなる可能性を考えて、
地熱を魔力に変換して封印を強固なものに
してるんだ」
更に下にスライドさせ、地層を示す。
「この島が火山帯だから出来た事だけどね。
機能が作製した当時のままなら、
封印が解ける事は無かったけど……。
メンテナンスして無かったから、
逆に邪竜にこのシステムを利用されて、
邪竜は力を溜め込み、封印を解かせた
みたいだよ」
「……待ってください!!」
放心した表情を見せていた
リナリアが声を上げる。
「邪竜が利用していたとは一体?!
メンテナンスもしていましたし……!!」
「……ここを見ろ」
チイトは鼻で笑うと、壁の1部を指差す。
「壁の石の1部が魔力を貯蓄できる
状態ではなく、逆に空間を経由し
魔力をかすかに放出している。
ここから邪竜は外の情報を仕入れ、
システムを利用したんだ。
微量だが邪竜の魔力痕もある。
メンテナンス者は節穴か?」
指差した先をリナリアが虫眼鏡型の
魔道具をサイネリアから貰い、
確認する。
「……チイト様のおっしゃる通りです。
魔力痕があり、石も機能しておりません」
リナリアは顔を青ざめた。
(魔力痕って?)
わからない言葉に郁人は首を傾げる。
〔それは……〕
<魔力痕っていうのは、
簡単に言えば足跡みたいなものかな?
魔力が流れた所とかに痕が残るんだ。
それを“魔力痕“って言うんだよ>
またしてもライコの説明を遮り、
チイトが説明をした。
郁人が説明を聞いていた中、
リナリアは白い肌を更に青白く
させながら、指示を飛ばす。
「至急取り替える用意を!!
このままでは、魔物を呼んでしまいます!」
「かしこまりました!
前のメンテナンス者はたしか……
戦争で死んでるかあ……
もう!きちんとしてよ!!」
首の付け根に触れながら、
サイネリアは急いで安置所を出た。
リナリアも頭を下げると急いで
サイネリアに続いて出る。
「封印場所や安置所の件は
国家機密だと記憶にあるが……。
見ただけでわかるとは、
彼には何でも見えているのだろうか」
ジークスは苦笑する。
「何でもって訳じゃないと思うぞ。
……多分」
「どうしたのパパ?」
チイトは不思議そうに尋ねた。
「その、鑑定で封印場所とかまで
分かるのに驚いてな」
「え?
見たのは安置所に使われている
材料だけだよ」
キョトンとしながらチイトは話す。
「封印場所は城の外と中を見たり、
歩いたときの音の反響や部屋の配置で
安置所の下に何かあるなと推理したんだ。
鑑定を使ったのは本当に材料だけ」
他は鑑定していないと、
首を横に振る。
「流れてくる魔力の質から地熱が
使われているのは一目瞭然。
邪竜の魔力痕もあったから間違い
なかったけど、パパに間違えた事は
教えたくないから念のために
透視したらやっぱり合ってたんだ」
無邪気に笑うチイトに、
全員開いた口が塞がらない。
〔どれだけ頭の回転早いのよ?!
城の外と中を見ただけで
空間があると判断できるかっ!
材料とその魔力や質だけで
推測したとか有り得ない……!!
しかも透視って何よ!!
こいつ規格外過ぎるわ……!!〕
信じられないとライコが声を上げる。
(そういえば……
チイトは攻略最難関だから頭も良い
設定にしてたけど、良すぎるだろ……!?)
郁人は開いた口が塞がらない。
「彼は本当に15歳なのか……?」
「チイト殿は15歳なんですか?!
……今はこんなに頭の良い若者が
いるのですな」
「こいつは例外だ。
こいつを基準にしてみろ。
全員能無し判定だ」
呆然とし、うっかり頭巾を
解除してしまったジークスの言葉に
ポンドは声を上げる。
その言葉にヴィーメランスは
ため息を吐いた。




