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小話 温泉での問答




郁人とポンドが話しているのを

ジークスが眺めていると意外な

相手から声をかけられる。


「おい。

貴様に聞きたいことがある」


視線を向ければ、仏頂面した

チイトとヴィーメランスがいた。


チイトから話しかけられる事は

滅多にない。


しかも、聞きたいことがあるという

事に面を食らいながら、

ジークスは警戒する。


2人が自身を良く思っていない事は

明らかだからだ。


ジークス自身も彼らに対して

あまり気を良く思っていない。


実力は認めているのだが、

人間性はまた別の話。


彼も上手く表現できないのだが、

郁人を手の届かない……。

どこか遠くへ連れ出しそうな、

彼が胸を痛める事をしそうな、

そんな予感がするからだ。


(あご)を引き、ジークスは2人に体を向ける。


「聞きたいこととは?」

「認めたくはないが……

貴様のほうがパパと会ったのは

早いからな」


不愉快そうに目を細めた。


「聞くが、パパを虐めていた連中に

対して何か感じたことは無かったか?」

「違和感を抱いた覚えはあるか?」


そして、しかめ面で2人が尋ねた。


「違和感か……

少し思うことはある」


ジークスは思い出しながら、

1つ1つ口に出していく。


「俺が彼らに対処した際に彼らの中に

女将さんと接点が無い者もいた。

女将さんと仲良くするイクトに

嫉妬してというなら、少なからず店に

足を運んでいなくてはおかしいだろう」


見慣れぬ顔ぶれも居たと説明する。


「それが客でない者、ましてや

女将さんやイクトと初対面の者も

皆が口を揃えて“女将さんと仲良くする

イクトが妬ましかった“と言ったからな。

そこに違和感を抱いたことがある」


全員が同じ言葉を繰り返す姿に

ジークスは気味悪さを覚えていた。


他にもあるとジークスは続ける。


「あとは……虐めにしては

肉体面への暴行だけというのも……

少しおかしく思えた」


全員が同じやり方だったと告げた。


「イクトの評判を下げるなどの

精神面への暴行や盗みなどと

いったものは一切なく、

なんというのだろうな……。

いたぶるのが目的かと……

そう思ったこともある」

「……そうか。やはりか」


ジークスの話に確信を得た

チイトは呟く。


「牢屋での面会の際に調べた。

結果、パパをいじめた連中は皆、

軽く精神操作系の魔術を施されていた」

「なに!?」


チイトの発言にジークスは

目を見開く。


「あの女の美貌はあの場所で

知らない者はいないくらいだ。

そこからパパの噂も聞いた連中で

僅かでも妬みを抱いた者に

術を発動するようでな」


魔術についてチイトは説明していく。


「嫉妬心を煽る術ゆえ、

いじめ等の選択肢が無い者には

無効だが、ある奴にはかなり

効果的だ。

手段を暴力へと導くだけで済み、

時期を早めただけだからな。

施された者も気付かず、

周囲にも一切バレない」


内容を聞かされたジークスは

事実に片眉をあげ、

険しい目つきになる。


ジークスにとって郁人は

大切な親友だ。


どんな理由があろうと

危害を加えることは絶対に許さない。


怒りに打ち震えるジークスに、

チイトは話を続ける。


「それだけではないぞ。

パパへの暴力シーンをそいつの視界を

通して観察していたみたいだ。

どうすればパパが痛みを

感じるのかをな……」


チイトの口調は淡々としているが

顔をこわばらせ、目つきだけで

人を殺せそうだ。


「どういう理由かは知らないが……

パパを狙うなど……

許すわけがないだろ!!」

「気持ちはわかるが落ち着けチイト。

父上に知れたらどうする!」


声を荒げるチイトを

ヴィーメランスが宥める。


ヴィーメランスの言葉に

ジークスは目をぱちくりさせながら

問いかける。


「イクトに知らせていないのか?」

「自身が狙われてると知れば、

父上は先に周囲を心配し、

なにかあってはならないと

周囲を遠ざける可能性がある。

相手もそれを望んでいるかもしれない」


だから知らせないと

ヴィーメランスは述べた。

額に手を当て、ため息を吐く。


「父上にはもっと御身を大切にして欲しい。

が、あれは生まれつきだろうからな……」

「それには俺も同意見だが……

なぜ俺に教えた?」


彼らの自身への態度からして、

聞いただけで説明などしないはず。


その事に疑問が浮かび尋ねたのだ。


返答があるとは期待していないが……。


「……貴様がその事に疑問を抱き、

パパに尋ねたりしないようへの対策だ」


意外とすぐに返答がきた。


「パパは勘が妙に鋭い時もあるからな。

貴様が尋ねたことにより、

気付かれる可能性もある。

気付けば、迷惑をかけないように

1人になるかもしれないからだ」


正確な答えがきたことに

目を丸くしつつ、可能性に同意する。


「成る程。

その為に話しかけたという訳か」

「……壁は多いにこしたことはないからな」

「貴様に流れる竜の血は、

特に防御へ突出していると聞いた。

精々、父上を守る壁にでもなるんだな」


チイトが眉をひそめ、

ヴィーメランスはしかめ面だ。


ジークスの事は気に食わないが、

郁人を守るために仕方なく

といった様子が伺える。


「守ることに関しては言われなくても

そうするつもりだ。

彼を守るためなら……

この命、喜んで差し出そう」


自分の胸、心臓に手を当て、

はっきりとジークスは告げた。


彼にとって郁人は、

なによりも大切で、守るべき者だ。


もし、自身の命で郁人が助かるなら、

ジークスは迷い無く、

その命を差し出すだろう。



ー「……気に食わないな」



ジークスの態度に、

チイトは冷たい視線を向ける。


「守る為に命を捨てる等、

美談でもなんでもない。

ただの自己満足だ」


エゴだとチイトは吐き捨てる。


「第1、残された者はどうなる?

望んでもいないというのに、

生きていて欲しかったというのに、

自分の為にと命を捨てられた者は

一体どうすればいいんだ?

自分の為だからと、捨てられた命を

一生背負って生きろというのか?

だとすれば、押し付けがましいにも

程がある」


骨に食い込むような、

鋭い怒りが言葉に込めれている。


「残された者の望みは命を捨てずに、

ただ生きていてほしいに決まっている。


ー守るというなら、格好悪くとも

力の限り生き抜いて、そばにいるべきだ」


チイトは断言した。


そんなチイトの言葉に、

ジークスは思わず凝視してしまう。


てっきり、肉壁にでもなれと言うか、

流されるかと思っていたからだ。


彼の言葉にはなにか、

自身が体験したような重みを感じる。


「……意外だな。

貴様からそのような言葉が出るとは」


ヴィーメランスも思わず

片眉をあげた。


「…………………」


チイトは鋭い舌打ちをし、

押し黙った。


一瞬、チイトが素早く瞬きをしたのを

2人は見逃さなかった。



ー彼にとっても、自分の言葉に

驚いているように伺えた。


「…………………」

「…………………」


2人は追及したかったが、

チイトの様子を見て無理だと諦め、

温泉で寛ぐことを選択した。




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