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37話 凶行に至る訳



リナリアは胸元を覆うように、

肩を前に丸めながら重い口を開く。


「……イクト様はご存知ですか?

ドラケネス王国、いえ……

竜人にまつわる禁忌を……」

「禁忌……?

聞いたことないかな」


郁人は頭をフル回転させるが、

何も思い付かない。

心当たりは無いと首を横に振る。


リナリアは禁忌について口を開く。


「それは……

"忠誠を尽くす相手を(けな)すこと"

なのです。

私達、竜人は忠誠心が高く、尽くす相手が

貶されたとなれば殺傷沙汰になる事

間違いありませんから……」

「もしかして……?!」


禁忌の理由を聞き、

流れで理解した郁人は青ざめる。


「お察しのとおりです……。

その者達はイクト様を貶して

しまったのです」


わずかに体を震わせながら

ポツリポツリ語っていく。


「その者達は王族に忠誠を誓った身。

ヴィーメランス様が王族である

私の前でも帽子を取らないことや、

変わらない態度に苛立ちを

感じていたのでしょう。

あろうことか、ヴィーメランス様の前で

禁忌を犯してしまったのです……!!」

「だから……灰に……」


郁人は顔を青ざめ、

声を上ずらせてしまう。


「えぇ。

今でも脳裏に焼き付いております……」


リナリアはうつむく。


「いつも冷静沈着なヴィーメランス様が

イクト様への罵詈雑言を聞いた途端、

白目も見えるほどに目を見開き、

火の粉を舞い散らせながら一瞬で

その者達を灰塵(かいじん)に還した様子を……」


場面を思い出したリナリアは、

声を震わせる。


「そして、イクト様への罵詈雑言に

協調した者、共に嘲笑し罵った者達を

誰1人見逃すことなく、全員燃やして

いきました。

ー"父上を愚弄(ぐろう)する輩は全て燃やしてやる!

生きた証すら残ると思うな……!!"

と、激昂しながら……」

「誰も……!!

ヴィーメランスを止めなかった

のか……!?」


ヴィーメランスの凶行に、

鼓動が耳にはっきり聞こえながら

郁人は問いかけた。


「禁忌を犯してしまった者の対処は

全て被害者側が行うこと。

誰も介入することは決して

許されないのです。

……介入した事で戦争に発展した事も

ありましたから」

「……そうだったのか」


止めなかった理由に郁人は

目を伏せた。


リナリアは話を続ける。


「それからヴィーメランス様は

苛烈公(かれつこう)“と呼ばれるようになり、

皆に恐れられるようにもなりました。

ですから、ヴィーメランス様の

尊き御方であるイクト様も

恐れているのです。

無礼を働けば、ヴィーメランス様の

逆鱗に触れる事は間違いありませんから」


リナリアが桜色の唇を震わせて話した内容は

郁人にとって自身の立場を再確認させる

内容だ。


チイトと同様、ヴィーメランスも

郁人が唯一無二の存在であり、

郁人に何かあれば即行動に出る。


それが屍の山を天高く築くといった

最悪の結果を招いたとしても、

郁人が無事ならば、彼らには全く

問題ないのだから。


(俺……

行動1つ1つに注意しないと

いけないな……)


郁人が気を引きしめる中、

リナリアは呟く。


「ですが、私は……

イクト様が羨ましいのです……」

「へ?」


リナリアの言葉に鳩が豆鉄砲を

喰らったような気分になる。


ポカンと口を開ける郁人に、

リナリアは語る。


「ヴィーメランス様は表情もあまり

変化が無い方なのですが……

イクト様の事を語られる時だけ、

瞳がまるで夕焼けのように

とても優しくなるのです」


瞳が熱を帯び、夢みるような表情を

浮かべた。


「サイネリアからも聞きましたが、

イクト様が来られてから表情が

コロコロ変わられ、初めて見た

笑みもあったと……。

それが……私には羨ましいのです。

皆はそれを見て、ますますイクト様への

対応に慎重になり、怯えている

ようですが……」


羨望と寂しさが同居した瞳を

郁人へ向けた。


「と、これらがイクト様に対する

態度の理由です」


咳払いをし、頭を下げる。


「長々と失礼しました」

「こちらこそ。

教えてくれてありがとう」


郁人も頭を下げる。

そして、頭を上げて目があうと

リナリアは微笑む。


「イクト様が私の想像していたよりも、

お優しい方で安心しました」

「俺のイメージってどんなだったんだ?」


頬をかきながら尋ねた郁人に

リナリアは答える。


「私よりも数倍年上で、覇気のある

近づきにくい方と思っておりました。

ですか、想像以上に若くて話すと

親しみやすく……

そして、懐と見聞の広さに驚いて

しまいました」


桜色の唇をほころばせた。


「悪いイメージを持たれてなくて安心した。

表情筋が死んでるに等しいから

不気味がられてないか心配だったんだ」


感想を聞いた郁人は胸を撫で下ろす。


「イクト様は目に感情が浮かんで

おりますから。

表情が無くとも、目を見れば

よくわかりますよ」

「……そうか」


リナリアの言葉に、

思わず涙腺が緩みそうになる。


郁人は自身が思っている以上に、

不気味がられる事を気にしていたようだ。


「サイネリアもイクト様は目で語っている

と申しておりました。

ですから、そこまで気にしなくとも

大丈夫です」


郁人の心中を察したのか、

優しい声色で語りかけた。


優しい微笑みと言葉に、

郁人の心は温かくなる。


「ありがとう、リナリアさん。

そういえば、サイネリアと仲が良いのか?」


ふと、リナリアの口からサイネリアの

名前がよく出るので尋ねてみた。


「サイネリアとは乳兄妹なんです。

小さい頃から一緒なのですよ」

「成る程」


今振り返ると、2人の雰囲気が家族の

ようだったと郁人は納得する。


(乳兄弟か……。

聞き慣れない言葉だし、身近にないから

ここが異世界だと実感するな)


郁人が腕を組み頷くなか、

リナリアは唇を尖らせる。


「サイネリアったらズルいのですよ!

最初、私がヴィーメランス様と気軽に

お話し出来る立場ではない為

“僕がヴィーメランス様の様子を

教えるよ!“と言っていたのが次第に……

“今日ヴィー君と一緒に

鍛練したんだ!“とか……

“ヴィー君の1番の親友になるから

応援よろしくね!“とサイネリアも

ヴィーメランス様のお人柄に

どんどん惹かれていって……!!」


サイネリアの声色を真似しながら、

リナリアは抗議する。


「しかも、いつの間にかヴィー君呼びを

公認され、ヴィーメランス様との

仲の良さや今日もカッコ良かった等、

自慢していくのですよ!

本当にズルいです!!」


頬を膨らませ、子供のように

拗ねる姿にどこか懐かしさを感じ、

微笑ましくなる。


「2人は本当に仲が良いんだな。

それなら、リナリアさんも

サイネリアみたいに、ヴィー君とか

呼んでみたら?

本人の前が無理でも、心の中なら

どんな呼び方してもバレないしさ」


郁人の言葉にリナリアはハッとする。


「たっ、たしかにそうですわね!

サイネリアのように御本人の前では

無理ですが、ヴィー様と

お呼びしてみます!」


親しみを感じていいですね!

とリナリアは目を輝かせた。


「いいと俺も思うよ。

……チイトが心配するだろうし、

そろそろ戻ろうかな。

リナリアさん、話してくれて

本当にありがとう。

それじゃあ」


リナリアの様子に和みながら、

郁人は頭を下げると、背を向け歩き出す。


(そういえば……

リナリアさんのお付きの人は

どうしたんだろ?

城内は安全だから付いていないのか?

それとも、1人で考えたいことでも

あったのかな?

あの庭園を眺めながらだと落ち着くし……。

俺……邪魔したかもしれないな……)


申し訳なさに胸を痛め、

いつの間にか胸ポケットに居たユーに

心配そうに見つめられながら足を進める。


「……イクト様っ!」


呼び掛けられ振り返ると、

ドレスを握りしめたリナリアがいる。


「どうかしたのか?」


なにかあったのかと郁人はリナリアの元へ

足早に戻った。


「気のせいだと思っていたのですが……

話していてハッキリとわかりました」


リナリアは瞳を凛とさせ、

真っ直ぐ郁人を見つめて口を開く。



「どうして……!どうして………!!!

貴方様からお兄様の力を感じるの

ですか……?!」




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