309話 魔王様の相談
レイヴンは女将に追加の茶請けを頼む。
「悪いな、女将。話が長引きそうな
予感がするから追加で頼むわ。
あと、俺様もちょうど休憩なんで飯も
頼んまーす」
女将は頷くと壁へと消えていく。
「ドライアドがこうして人と共存してる
のは驚きだよね〜。前はこうじゃなかった
のに」
「色香大兄のおかげですかね? 色香大兄は
契約しなくても意思疎通できるすごい方
なんで」
「契約しなくても!? そりゃすごい!!」
「テメェらくっちゃべってんじゃねえよ。
おい、テメェは相談とやらをさっさとしろ」
エンウィディアはレイヴンとアマポセドを
睨んだあと、アストに早くしろと急かした。
「はっ、はい! ……その、皆様は僕の国を
忌み嫌っている国があることはご存知で
しょうか?」
急かされたアストは出されたお茶を
飲んで落ち着いたあと、話を切り出した。
郁人はその問いに答える。
「アスト様は魔族の国の王様ですから……
その国を忌み嫌うとなるとノアライト
という国でしょうか?」
〔絶対そうでしょうね。あそこはもう本当に
忌み嫌っているもの。そこまでって不思議に
思うくらいよ〕
ライコもそこだろうと告げ、アストは
郁人の言葉に頷く。
「はい。その国になります。その国で
なにか悪いことがあればその度に僕の仕業
だ、魔族の仕業だと騒がれていまして……」
「海の中でも聞くけど、ひどい言いがかり
ばっかだよね〜。そっちとかなり距離が
ある僕でも思えるくらいだからさあ」
「俺様も情報収集がてら聞くが、マジで
言いがかり過ぎて笑えるくらい」
アマポセドは苦笑し、レイヴンは
笑っちまうよと続ける。
「だって、農作物が不作とか隠していた
光属性の魔物が消えた、天候不良に流行り病
とかマジで関係ねーのに全部イーヴィルム
国のせいにしてんすからねえ〜。
おっ、悪いな女将。ご飯ありがとよ」
(もしかして……隠していた光属性の魔物
って……)
〔カラドリオスのことね。あたしが前に
言ってた独占してる国はノアライトの
ことだもの。あの国でのカラドリオスの
環境は良くなかったから猫被りが奪って
くれて助かったわ〕
良いことしてたわね、あの猫被り
とライコは告げた。
2人の間で濡れ衣が1つ証明されたことを
レイヴンは知らず、女将から受け取った
おにぎりを頬張りながら続ける。
「しかも農産物は天候不良の影響ですし、
その天候不良も自然が原因なんすからねえ。
とくに笑えるのは“我が国の勇者が夜の
国へ亡命したのはイーヴィルムがよからぬ
ことを吹き込んだからだ”とかほざいてた
やつ! 来たのはあいつの考えだってのに
なあ」
レイヴンはちゃんちゃらおかしいと
笑う。
「あいつがずっと前から国自体を疑ってる
ことにすら気づけていなかったからよ。
節穴なのは確実だわなあ」
「ノアライトの勇者がこちらにおられると
聞いたとき僕はとても驚きましたけど」
とても良い方でしたしと
アストは思い出しながら続ける。
「それで、そのノアライトなのですが
いちゃもんをつけて、戦を仕掛けてくる
ようなことも日常茶飯事でして……」
もう面倒臭いとアストは呟く。
「全て防いではいるのですが、いずれ戦に
発展してしまう可能性もあります。
それに相手に好き勝手する言い分を
与えるようで嫌でしたので、どうしようか
考えた末、誘拐しようと思ったんです」
「……へ?」
〔ちょっと?! 相手にし過ぎて疲れて
頭が回らなくなったの?!〕
「それこそ相手に攻め入る機会を
与えるようなもんじゃねえか」
誘拐の言葉に郁人は固まり、ライコは叫び、
エンウィディアがため息を吐いた。
その反応にアストは説明する。
「その、誘拐といっても2日だけです。
僕達はいつでも侵入することは可能だ
という事実を突きつけ、好きなタイミング
で貴方達を排除できるのですよ?
と暗にお伝えしようと思いまして……」
「……相当怒りが溜まってたんですね」
「目が笑ってないね、彼」
アストの瞳が笑っておらず、声色が
とても冷たいことからかなり頭にきていた
のが容易に伝わった。
「それで、僕は誘拐への準備のために
誘拐対象である姫に手紙を送ったのです。
こちらの都合で貴女を誘拐することへの
謝罪と、こちらの都合に付き合ってもらい
ますので、こちらで過ごすときの部屋の
テイストの好みや食事の好き嫌い、イー
ヴィルムの観光スポットをリストアップ
したものも同封しました。誘拐された際
にどちらへ行きたいかなどを知りたかった
ので……」
「それ誘拐じゃなくて招待っ!!」
「誘拐対象にわざわざ聞くことじゃねえ
だろ!!」
「誘拐なんだから適当なボロ屋に放り
込んどいて、いつ自分がひどい目に合
うのか怯えさせといてなんぼでしょ」
〔誘拐の意味わかってんのこの魔王?!〕
真面目な顔で告げるアストに思わず
全員が指摘してしまった。
「そんなボロ屋なんて……!!! 女性をそんな
場所に放り込むなんてひどいじゃない
ですか!!」
〔こいつ、誘拐の意味を調べてきたほうが
いいわよ〕
「ひどいことをするから誘拐と言われて
いるんですけど……」
なんてことをっ?! と顔を青ざめるアスト
に郁人は告げ、レイヴンは苦笑する。
「ほら、こんなに種族が違う奴らが
いて、善人なぬし様でさえもそれは
誘拐じゃないって言ってるだろ?
ほら、作戦を練り直したほうがいい
んじゃないですかねえ?」
「うぅ……姫、ルバサムさんにも同じ
こと書かれました……。誘拐の定義を
きちんと調べなさいと……」
「誘拐対象からも指摘されてんじゃ
ねーよ」
「しかも、名前で呼んでるじゃん。
親愛度あげてるでしょ、これ」
エンウィディアとアマポセドはもう
呆れていた。郁人は思わず尋ねる。
「えっと、お姫さまと手紙を交わして
るんですか? 一方的に送って終わりでは?」
〔誘拐なら魔王から送る一方通行で
終わりだものね〕
「その、好みなどを聞きたかったので
返事を書いてもらえるように私の使い
魔を通して送れるようにしました。
今でも交流してまして、1年程経って
ます……」
「きちんと文通してんじゃねえよ」
「もう普通に交流してるじゃん」
エンウィディアとアマポセドはさらに
呆れた。
「それで気になることがありまして……」
アストは真面目な顔をして告げる。
「その、交流していくうちにですが
手紙からでも相手の状態がわかるよう
になりまして……」
「話してる内容的にアストの旦那の
魔眼が成長したってことか?」
レイヴンの言葉にアストは頷く。
「はい。僕も交流していくうちに
魔眼が成長してわかったことです。
それで……ルバサムさんが呪われて
いることがわかりまして……」
「呪い?!」
〔あの国だから呪われててもおかしく
ないわよ。結構恨み買ってるし〕
郁人は顔を青ざめ、ライコは納得した。
アマポセドは目をぱちくりさせる。
「へえ〜そんなことまでわかるように
なってんだ」
「はい。よく手紙を見てみますと
彼女が狙いというよりも、こう……
全体が狙いといいますか……。
はっきりとは言えませんので、
呪われていると伝えてよいものか……」
ー「伝えんで良い」
突然、聞き覚えのある声が聞こえた。
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