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小話 ルビームーン

※チイトが来る前のお話になります




   フクロウが鳴き、星々の輝きが見られる

   星空の下、街を少し離れた丘を歩く

   男が2人いる。

 

   「イクト、あと少しで目的の場所に

   着くが体調はどうだ?」

   「大丈夫。気にかけてくれて

   ありがとうな、ジークス。

   風が涼しいし、鳥や虫の鳴き声が

   聞こえてリラックスできるから」

   「そうか。もし少しでも辛くなったら

   教えてほしい。君の体調が優先だからな」

   「わかった。ちゃんと報告するから」


   2人が夜空の下、丘を歩いているのは

   ある目的があるからだ。


   ーーーーーーーー


   お昼頃、休憩中の郁人はジークスに

   お誘いを受けていた。


   『よかったら今晩、一緒にルビームーン

   を観に行かないか?』

   『るびーむーん?』

   『今日、お月様が赤くなるのよ。

   その綺麗な赤が宝石のルビーのよう

   だからそう呼ばれているの』


   首をかしげる郁人にご飯を持ってきた

   ライラックが教えてくれた。


   『夏から秋へ変わる象徴でもあるのよ。

   だから夏の妖精王が秋の妖精王に季節の

   変わり目の合図を出しているとも言われて

   いるわ』

   『へえ〜そうなんだ!』


   ライラックの言葉に目をぱちくり

   させているとジークスが尋ねる。


   『そのルビームーンが観られるのは

   今日なんだ。この街から少し離れた

   ところにある丘でいい場所を見つけ

   たから、よかったら一緒に観に行か

   ないか?』

   『行きたい! そのルビームーンを見て

   みたい!』

   『君の興味をひいたようでよかった。

   女将さん、今晩イクトをお借りしても

   いいでしょうか?』

   『いいわよ。ジークスくんならイクト

   ちゃんのこと守ってくれるってわかって

   るもの。よかったら、軽い夜食も

   持っていってちょうだい。お月様を

   見ながら食べるのも良いと思うから』

   『母さんありがとう! 』

   『ありがとうございます。イクトは

   必ず無事に送り届けます』


   こうしてライラックの許可をもらった

   ジークスは郁人と今晩出かける約束を

   したのだ。


   ーーーーーーーー


   「イクト、着いたぞ。ここが私が

   君と一緒にルビームーンを見たい

   場所だ」


   ジークスと歩いた先には、大きな木が

   ある場所であった。

   木の葉がさらさらと夜風に揺れて、

   とても穏やかだ。近くに寄ると、ミント

   のようなスッキリとした香りがする。


   「近くに寄ったらスッキリした香りがする。

   どこかで嗅いだことあるような……」  

   「この木が理由だ。この木は"リフューズ"

   という木なんだ。この木の葉は魔物が嫌う

   匂いを放っているため、この近くに魔物が

   近づくことはないんだ」

   「そうなんだ!」

   「君が嗅いだことがあるのは、俺が

   この葉を材料に使われた魔物避けを

   使ったことがあるからだろう。この香りは

   持続性があり、しばらくとれないんだ」

   「なるほどな」

     

   ジークスはまっすぐ大樹の木陰亭に帰って

   きてるもんなと郁人は納得していると、

   ジークスが指差す。


   「ここから見る夜空は綺麗だから間違いない

   と判断していたが、正しかったようだ。

   ほら、イクト。見上げてみるといい」       

   「わあっ……!!」


   郁人は指差す先を見て、目を輝かせた。


   それはそれは美しい景色だからだ。

   星々が輝き夜空を彩る中、ひときわ

   目を引くのは宝石のように輝く赤い月。

   ルビームーンが怪しくも美しい。

   郁人はその輝きから目が離せない。

   感嘆の息を漏らすしかない。

  

   「とても綺麗だろう。君はどう思……

   どうやら君のお気に召したようだな」


   ルビームーンを見つめる郁人の

   様子によかったとジークスは胸を   

   撫で下ろした。  


   「ほら、一緒に女将さんが用意して

   くれた夜食を食べよう。ルビームーンを

   見ながら食べるとまた違う味わいになり

   そうだ」

   「あっ……うん!」


   ジークスに肩を叩かれてやっと気付いた

   郁人は頷き、ジークスから夜食を貰う。


   「たまごサンドだ!」

   「月を見ながらだから、片手でも食べやすい

   ものを選んだのだろう」


   郁人とジークスはたまごサンドを頬張る。

   たまごの濃厚さとまろやかな風味、野菜の

   酸味やシャキシャキとした食感がちょうど

   良い。


   「美味しい! 母さんにあとでちゃんと

   感想とお礼しないとな!」

   「そうだな。そのときは俺も共に

   伝えさせてもらおう」


   2人はたまごサンドを食べながら

   ルビームーンを見つめる。


   (ルビームーンって、てっきり皆既月食

   みたいなものなのかと思ってたが少し

   違ったな。月が欠けていかなかったし、

   肉眼でもこんなにはっきりと赤く見れる

   とは思わなかったからな)


   郁人は自分がいた世界との違いを感じ

   ていると、月が赤から桃色へと変わって

   いく。


   「えっ?! ルビームーンがっ!!」

   「これは……!! イクト、君は運が良い!」

   

   目をぱちくりさせる郁人にジークスは

   説明する。


   「ルビームーンはたまにあのような

   ピンクになることがあるんだ。

   "コーラルムーン"と呼ばれていて、

   淡い色になるのともう1つ特徴が

   あるんだ。ほら」

   「……へ?」


   郁人が驚くのも無理はない。

   なぜなら夜空に虹が浮かんでいるからだ。

   夜でもはっきり見える虹は月を囲むように

   円を描いており、幻想的な光景だ。


   「綺麗っ……!!!」

   「イクト、君は本当に運が良い! この光景

   はめったに見られないものなんだ!

   この光景を見た者には幸福が訪れると

   言われているから」

   「そうなんだ?!」


   郁人は目を輝かせながら、目の前の

   光景を見つめる。


   (この光景も俺がいた世界じゃ絶対

   見られない光景だもんな……!!

   写真とか撮れれば良かったのに!!)


   この世界にカメラがないことを

   悔しく思っていると、ジークスが

   声をかける。


   「このようなルビームーン以外にも

   秋から冬へと季節の変わり目に

   見られる特別な月があるんだ。

   もし、よかったらまた共に見ないか?」

   「! 見たい! 一緒に見よう!!」


   ジークスの提案に郁人は目を輝かせ

   ながら即答した。その姿にジークスは

   微笑ましくなる。


   「では、その際は寒さ対策をしなければな。

   君が風邪をひいたら一大事だ」

   「そういうジークスもちゃんと対策して

   くれよ。俺のことばかりじゃなくてな」

   「君が優先事項じゃないか?」

   「人の心配するより自分の心配しろよな。

   ジークスは自分のこと(ないがし)ろにしがち

   なんだからさ」

   「……気をつけよう」

   「今、目をそらしたろ! ちゃんと自分を

   (いたわ)るのも大切なんだからな!」


   2人は次の約束をしながら、コーラル

   ムーンをしばらく眺めていた。

   

   

 

ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白い、続きが気になると

思っていただけましたら

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