308話 真眼の大天使
アストを呼びに部屋へやって来た
レイヴンが郁人に声を掛ける。
「ぬし様に悪いことしちゃいましたねえ」
「すいません。つい……」
アストは申し訳なさそうに眉を八の字に
した。郁人は本音を告げる。
「本当に心臓に悪いよ……」
「せめて言っておくぐらいしとけ」
「旦那様が気遣うなんて珍しい〜」
苦言を呈すエンヴィディアにアマポセドは
おっと声をあげた。
〔本当に驚いたわよ。まったく……〕
ライコも思わずこぼすのは先程のこと。
ーーーーーーーー
『貴方様は絵が上手いのですね、
“イクト”さん』
アストの言葉に郁人が呆然としていると
『そろそろ休憩なんですが……って、
どうしたんです? 固まっちゃって』
休みだと伝えに来たレイヴンが襖を
開けて、目の前の状況に首をかしげた。
『あぁ! もしかして……』
不思議そうにしていたレイヴンだったが、
アストを見たあと納得したように頷く。
『アストの旦那、名前がわかっても
声にだしちゃいけねえってお伝えした
はずなんだがねえ?』
『申し訳ございません。口がすっぱくなる
ほどおっしゃっていたというのに……』
『まあ、いずれこうなるかもしんねえから
その状況を作ればいいとこっちが手を回し
たんで謝らなくていいぜ。あんたは1回
間違えたらもうしねえだろ?』
『僕の行動は読まれていたのですね。
もしや、僕が1人のときにエンヴィディア
殿がおられることを知りえたのは……』
『そういうことだ』
『えっと……どういうこと?』
告げるレイヴンに成る程と納得するアスト。
そんな2人を見て首を傾げる郁人にエンヴィ
ディアはわざとため息を吐く。
『テメエがバレたのもあの孔雀頭の計算
だったってことだ。俺を利用したから
には説明してくれんだよなあ?』
『そうカッカッしなさんな。ぬし様にも
言わずにやったことだ。ちゃんと説明し
ますよ? 女将、茶菓子を持ってきちゃ
くれねえかい?』
レイヴンの言葉に壁から生えてきた
女将は一礼するとまた壁に消えていく。
『さて、お話しますんでぬし様は
座ってくだせえ』
レイヴンはニカッと笑い説明して
くれたのだ。
ーーーーーーーーーー
と、レイヴンの話を聞いた郁人は驚きで
声をあげそうになったが、ライコが
先に声をあげる。
〔まさか、この魔王が天使族でも
滅多に現れない、天使族でも上位の
大天使で、その大天使でもごく1部に
しか現れない"真眼”の持ち主だった
なんて!!〕
ーライコはありえない確率じゃない!
と続ける。
〔しかも真眼って真実を見抜く眼と
言われていて、見ただけで相手のプロ
フィールやどんな状態かも全てわかり、
嘘をついているかもわかるってかなり
上位の魔眼よ!! 調べたけど、持ち物も
見ただけで所有者とかの情報もわかる
っていう反則級の魔眼じゃない!!〕
(そんなすごい魔眼なんだ……!!
だから俺のこともわかったのか……!)
自分の名前が呼ばれた理由が魔眼と
わかり、郁人は目をぱちくりさせた。
そんな郁人にアストは謝る。
「すいません、イクトさん。
勝手に貴方のことを見てしまって……。
しかも隠していらしたのに名前まで
呼んでしまいました……」
「気になさらないでください。
働いているときではなかったので……」
「テメエの魔眼でこいつの名前とかが
わかるのはわかったが、どこまでわかる
んだ? たとえば、こいつはどうだ?」
「え? 僕?」
突然名指しされたアマポセドは自身を
指差しながら目をぱちくりさせた。
アストはそんなアマポセドを見る。
「えっと、この人は……え? 待って?」
アストはギョッとしながらマジマジと
アマポセドを見る。
「あの……口に出しても怒りません?」
「べつに伏せ字にしてるからいいよお」
「その伏せ字が怖いんです……!!
僕の瞳はだいたいのものを見れる瞳に
なります! それが見えない……ましてや、
伏せ字なんて……もしかして?!」
「君の憶測は正しいよ。けど、口に
出さないほうが賢明かな?」
アマポセドはヘラっと笑い、アストは
アマポセドの正体を察して顔を青ざめる。
「…………まさかこの時代にお会い出来る
とは思いもしませんでした」
「僕のことは内密でよろしくねえ。
あと、君の瞳はまだまだ強化できるよ。
これからもバンバン見ていくことが
オススメだよ。けど、僕みたいに
隠してるのを見過ぎたら反撃食らう
可能性あるからそこは注意かな。
目を潰されるかもしれないし」
「そんなことがっ……?! ご忠告ありがと
うございます。反撃されないように
気をつけます」
アストは目を押さえながら顔を
ますます青ざめさせた。
「そんなに顔を青ざめるんなら、
身代わりになる魔道具とかあったほうが
いいんじゃね? これとかオススメです
けど」
「これは良いですね……!!」
「オイ! セールスしてんじゃねえよ。
テメェはわざとこいつらを会わせて
名前を呼ばねえようにするためにここへ
来させたのか?」
「それと手前はぬし様を休ませる
気がなさそうなんで、それの邪魔を
しようと思ってな」
「……相変わらず小賢しい真似を
しやがる」
当たりだろ? と笑うレイヴンにエンウィ
ディアは舌打ちした。
そんなエンウィディアを笑いながら
レイヴンは話す。
「その休憩ついでにこの人の相談に
乗ってほしいんだわ。ぬし様は人間の
中でも善人だし、人魚の手前やそこの
従者気取りくんと考え方や人種が違うの
ばかりだろ。だからいろんな意見を
聞けるからいいと思いますよ?
どうです? アストの旦那」
「……たしかに、相談するにはいいかも
しれませんね。イクトさんはレイヴン殿
のお墨付きをいただけるほどの方のよう
ですし。
その……よろしいでしょうか?」
「俺は構いませんけど……」
〔魔王の相談ってどんな内容か
気になるものね〕
アストは郁人達に尋ねた。郁人はちらっと
エンウィディアを見る。
エンウィディアの顔には面倒だと書いて
あるからだ。
レイヴンはエンウィディアが頷くように
アストの後押しする。
「ちなみに、手前が頷かなかったら他の
奴をこっちに寄越すぜ?
たとえば、反則くんやらぬし様の
ストーカーやらを」
「……………いいだろう。聞くだけ聞いて
やる」
エンウィディアはそっちのほうが
面倒そうだからとしぶしぶ頷いた。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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