表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
364/377

302話 要件は"あの子"




   不老若酒を味わう一同だったが、

   思い出したとナランキュラスが

   あっと口を開く。


   「お前に言うべき要件がもう1つ

   あったのを忘れていた」 

   「要件?」

   「あ~……もしかしてあのこと?」

   「結構有名だもんねー!」 

   「わらわの予想してるものなら、

   たしかに伝えなあかんことやね」 

   「あっ! それなら私も知ってますよ!」


   首をかしげる郁人にシーラ、モゼ、タカオ、

   満月うさぎは心当たりがあるのかそれぞれ

   呟いた。


   「? 皆、心当たりがあるんだ」 

   「うん! 蝶の夢で働いてる子や常連さん

   ならみんな知ってることだからね!」


   郁人の言葉に知ってるよとモゼは親指を

   立てウインクした。


   「まあ、それぐらい周知のことだから

   お前も知っておいたほうがいいだろう。

   ここに勤めていたら知らないほうが

   おかしいしな」


   ナランキュラスは続ける。


   「お前、前の囮捜査時に絡んできた

   男のことは覚えているか?」

   「絡んで来た?」

   「挨拶道中のときにお前の従魔に

   絡んできた男だ」

   「……あぁ! あのときの!」


   郁人は思い出して声をあげた。


   「方言混じりの意外と若かった人!」

   「お前の中でのあいつはそんなイメージ

   なのか? 怒鳴られて怖かったとか

   ないのか?」

   「いや、びっくりはしたけどポンドが

   いたからそこまで怖いとか思わなかった

   かな」

   〔あの黒鎧があんたが怖がらないように

   完全にガードしてたものね〕


   見えないように自分で隠してたもの

   とライコは呟いた。

   ナランキュラスはそんな郁人を見て

   怖がっていないとわかる。


   「怖い印象がないならいいか?

   で、そいつなんだが今はここで働いて

   いるんだ」

   「そうなの?!」

   〔それは意外ね! あのときの絡んできたの

   言葉も荒々しいし、礼儀作法とか知らな

   そうだからここみたいなきっちりした

   ところで働けるなんて!〕


   郁人とライコは思わず声をあげた。


   「まあ、あんたが驚くのも無理はない。

   会った当初の姿を覚えていたならここで

   働く姿が想像できないのもわかる」

   「ここって礼儀作法とかキビシーもんね。

   あーしも働いてるときはカチッとしてる

   しさあ」


   ナランキュラスは腕を組み、シーラは頷く。


   「じゃあ、その人がここで働いているのは

   礼儀作法とかもきちっとするようになった

   から?」

   「それもある。たまに言葉遣いが乱暴に

   なるが、仕事はきちんとしている」

   「本当に変わったよね、あの子! 口だけ

   じゃなくて、しっかり働いてるもん!」

   「ここで働きたい子って甘くみてるのも

   多いんだよねえ。綺麗にしてたら何も

   しなくていいとか勘違いしてるのいるし。

   その点、あの子は本当に頑張ってるよ」

   「わらわ達と接点がほしいからってだけで

   働きたい言う子もおるもんねえ。あの子は

   わらわ達が目的とちゃうけど」


   モゼ、シーラ、タカオもそれぞれの

   感想を告げた。


   〔なんか意外と高評価みたいね。話してる

   ときの目に嫌悪感とかそんなのがないもの〕

   「その人は本当に真面目に働いてるんだな」

   「あぁ。お前の変装のときの姿に惚れ込ん

   でな」



   「………………え?」



   郁人は思いもよらぬ言葉に一瞬固まった。


   「惚れ込む……?」

   〔どういうこと?〕


   ポカンとしている郁人にナランキュラス

   は告げる。


   「あいつは会ったあのときからお前を

   忘れられないようでな。しばらく物事に

   手がつけられないほどだったらしい。

   それからお前が挨拶道中のときに絡んだ

   ことを思い出してお前の邪魔をしたこと、

   怖がらせたんじゃないかと後悔の念に

   苛まれたそうだ」


   働きたいと頭を下げられたときに

   言っていたぞとナランキュラスは

   伝え、タカオが微笑みながら働く

   経緯を説明する。


   「それからキュラスはんに直接謝りたいから

   働かせてほしいってつきまとってたんよ。

   それはもうすごかったわあ。キュラスはんが

   街に出た途端に頼み込むことの繰り返しや」

   「それでキュラスくんがあまりにしつこい

   から条件を出したんだよね?

   そしたらあの子はその条件を達成して、

   キュラスくん考案の地獄の研修も突破した

   んだよ!」

   「そっからはキュラスの部下みたいな

   感じで働くようになって、今じゃ働き者

   の新入りってことで全員が知ってるよ」


   モゼとシーラもあの子について語り、

   全員の様子をみるに、本気で熱心に

   働いてるようだ。


   〔あんたに会って謝りたいからって

   すごいわね、そいつ。ここの店って

   気軽に働けるような場所じゃないみたい

   だし、それこそお近づきになりたいとか

   下心で入った輩はことごとく心が折られ

   てるみたいだもの〕

   「……そこまであの姿の方を覚えてくれて

   いる人がいたんだな。謝りたいからって

   師匠に頼み込むまでしてくれたんだ……」


   郁人は自分が変装した姿にそこまで

   入れ込むほど覚えていた者の存在を知り、

   息を呑んだ。

   シーラはそんな郁人を見て尋ねる。


   「惚れる人がいるとか思わなかった

   感じ?」

   「はい。その……囮捜査のことばかり

   考えてたので、惚れてくれた人がいる

   とは思わなくて……」


   その後のこととか考えてなかったなあ

   と郁人は頬をかいた。

   そんな郁人にタカオは薔薇のような笑み

   を浮かべる。


   「蝶の夢(ここ)は夢を見させるような場

   でもあるからなあ。惚れ込ませた相手が

   出来たんやからイクトはんはもう一人前

   やねえ」

   「囮とも疑わないで、完璧にスタッフの1人

   として認識されてるんだからスゴいよ!」

   「そーそー。蝶の夢の女冥利に尽きるって

   感じ?」

   〔もう誰も囮とも疑わずに、スタッフの

   1人として認識してるみたいね。あの時

   しか出てないのにこれだけ褒められる

   なんてスゴいじゃない!〕


   タカオ達やライコに褒められ、

   郁人は頬が熱くなる。


   「ありがとうございます……!」

   「他にもお前のあの姿に惚れ込んだ者は

   よく見るが、あいつほど入れ込んでる者

   はなかなかいないぞ。なんせ、偶像崇拝

   の域に達しかけてるからな」

   「へ?」

   〔偶像崇拝?〕


   ナランキュラスの言葉に目を丸くする

   郁人と驚くライコ。

   目を丸くする姿を見ながらナランキュラス

   は続ける。


   「あっちの姿のお前は療養しながら

   働いていると説明していてな。出て

   くるとしたらイベントの時くらいだろう

   とも話しているんだが……」


   ナランキュラスはため息を吐き、

   遠い目をする。


   「そしたらなぜか、お前は妖精か天使で

   イベント事くらいしか出てこれない存在

   だとか、出会えたら幸福になれるだとか

   いろいろ言われるようになってな……。

   特に惚れ込んだあいつはお前の祭壇まで

   作り出しそうで正直怖いくらいだ……」

   「……そこまでなんです?」


   郁人が呆然としているとタカオ達も

   同意する。


   「他にも熱狂的な子はおるよ。ほら、

   イクトはんが道中で食べた和菓子屋さん

   の人。あの人もなんや、あの姿のイクト

   はんに出会ってからアイデアが次々と

   浮かんでくるとかで美味しいもの作って

   はるよ」


   今じゃこの国で人気の店なんよ

   とタカオは微笑み、続ける。


   「しかも、こんな風に繁盛するようになった

   んはあの姿のイクトはんのおかげやから食べ

   てほしいって店に届いたりしとるよ。

   ちなみに、あの子はそこの和菓子屋さんと

   仲良ええからよく話したりしとるって

   聞いたことあるわあ」

   「あの子、その和菓子を食べずに君の写真

   に供えてたよ! キュラスくんの言う通り、

   祭壇作る一歩手前みたいな感じ!」


   供えてるの見たことある! とモゼは

   手を挙げた。あーしも見たよと

   シーラも手を挙げる。


   「あーしはあんたの像みたいなのを

   作りたいけど、作ることが烏滸がましい

   ことなのでとか唸ってたのも見たこと

   あるよ。あそこまで熱狂的なのはなかなか

   いないよ。初イベでそんな熱狂的な子を

   つくるなんてあんた本当にすごいよ」


   あんなの滅多にいないよとシーラは

   ウィンクする。


   「…………とりあえず、変装したときに

   会ったら人間だから祭壇とかいらないし、

   現実にいるってことをまず伝えよう

   かな……?」

   「是非そうしてくれ。いちいち

   俺に相談してくるから面倒なんだ」

   〔あんた……本当に変なのに好かれやすい

   わよね……〕


   郁人があごに手をやりながら呟き、

   ナランキュラスは頷いて、ライコは

   ぽつりと呟いた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白い、続きが気になると

思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ