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33話 茶請けとキューブ




塔に戻った郁人達は、2階にある広間にて

ヴィーメランスが淹れた紅茶を(たしな)み、

茶請けにバームクーヘンをいただきながら

ユーの様子を観察していた。


あれから郁人は必死で止めたのだが、

剣のほとんどがユーの胃袋に収まって

しまったのだ。


(スキルが試せないのは残念だけど、

また機会はあるだろうし。

1番の問題はユーだな……。

剣なんて食べて体調は大丈夫なのか?)


ユーの体調に変化が見られないか、

郁人は些細な変化でも見逃さないよう

観察しているが変化は全く見られず、

悠々と空中散歩をしている。


「ユーって金属が主食なのか?」


郁人はユーをじっと見つめ、

首を傾げた。


見つめられたユーは呼ばれたと思い、

郁人の肩に乗り、甘えた仕草を見せた。

甘えられ、郁人は心を温かくしながら

尋ねる。


「体調は大丈夫か?しんどくない?」


問いに、ユーは大丈夫だと頬をなめる。


そして、紅茶が気になるのかじっと見つめ、

フワフワと持つ手に近づくと許可を

求めるようにチラリと見る。


「……ユーって紅茶飲んでも大丈夫かな?」


んー、と唸っていると右に座るチイトが

口を開く。


「大丈夫だよ。

そいつ、パパにあげる前から色々

食べてたし。

なにより、嫌ならそんな反応しないから」

「……そうか。

じゃあ、少し飲んでみるか?

ちょっと熱いから火傷しないように

気を付けてな」


チイトの言葉にホッとした郁人は

紅茶にフーフーと息を吹き掛けて

冷ましてから、カップをユーに近づける。


言われた通りにユーは気を付けながら、

尻尾で器用にカップを持つと

恐る恐る口をつけた。


カップを置いたユーは尻尾をブンブン振ると

次にバームクーヘンも見つめる。


「これも食べてみるか?」


フォークで食べやすいサイズに分け、

郁人は食べさせてみた。


ユーはバームクーヘンを1口で頬張ると、

またブンブンと尻尾を振った。


もっと食べたいと瞳を輝かせる姿に、

郁人は切り分けていると、

テーブルに新しい紅茶とバームクーヘンが

置かれた。


「そいつの分も用意いたしました。

今の様子では、父上のを全て飲み食い

しそうですから」


郁人の前に座っていたヴィーメランスが

いつの間にか席を立ち、ユーの紅茶と

バームクーヘンを用意したのだ。


ユーはヴィーメランスに頭を下げる。


1等身なので体全体を下げているように

見えるが……。


そして、尻尾でフォークを取ると

器用に切って食べ始めた。


「ありがとうヴィーメランス。

この紅茶やバームクーヘンも美味しいよ。

また食べたいから、どこで買ったか

教えてもらってもいいかな?」


郁人はヴィーメランスに尋ねた。


バターや卵が丁寧に焼かれ、素材の良さを

引き出しており、口溶けの良い、

しっとりとした味わいを気に入ったのだ。


「お褒めいただき、恐悦至極。

ですが、俺が作りましたので

売っておりません。

また食べたい時はおっしゃって

いただけましたら、作らせていただきます」


笑みを隠そうと唇をぎゅっと結びながら、

ヴィーメランスは答えた。


答えに、郁人は目をパチパチさせ、

じっと見る。


「ヴィーメランスが作ったのか?!」

「父上もなされる料理が俺も

気になりましたので……。

俺なりにしていたら自然と出来るように

なりました」

「君が作ったのか……?!

人は見かけによらないものだ……」


口をポカンとジークスは開ける。


「マスター!?この方は?!」


郁人の後ろに控えていたスケルトン騎士が

突然現れたジークスに警戒し、

ユーもビクリと体を跳ねる。


郁人には見えていた為、分からなかったが

どうやらジークスが頭巾を解いたようだ。


郁人の左隣に座っていた事実に

チイトとヴィーメランスは顔をしかめる。


警戒するスケルトン騎士に郁人は振り返り、

説明する。


「警戒しなくても大丈夫。

俺の隣に座っているのは親友のジークス。

姿を見られたら大変だから、顔無し頭巾で

隠れてもらってるんだ」

「イクトの親友、ジークスだ。

よろしく頼む。

君の腕を見させてもらっていた。

今度、俺とも手合わせを願いたい」


ジークスは立ち上がり、振り返ると

手を差し出す。


「マスターの友でしたか……

これは失礼しました。

こちらこそよろしく願います」


吐息を洩らしたスケルトン騎士は

その手を取り、握手を交わした。


「そういえば、お2人の名も聞いて

ませんでしたな。

名はなんとおっしゃいますかな?

マスターを父と仰ぐ理由も

是非伺いたく……」


ハッとしたスケルトン騎士は2人に

尋ねた。


尋ねられたチイトは両眉を寄せ、

紅茶を嗜む。


「名乗るなら貴様から名乗ればどうだ?

それに喚ばれた時からパパの名前を

知っていたのはなぜだ?

喚ばれた際、誰もパパの名を

言ってないだろ」

「そうだ……」


チイトの言葉に郁人はあっと

声を出した。


郁人を名前で呼ぶのは3人の中では

ジークスのみ。

ジークスが頭巾で姿を消していたので

声は認められた郁人にしか届かない。


しかし、スケルトン騎士はサイネリアに

自己紹介する前に知っていたのだ。


疑問にスケルトン騎士は答える。


「契約相手の名前といった情報は、

契約の際に自動で手に入るのです。

ですから、私はマスターの名前を

知っておりました。

……私は名前を忘れていますので、

名乗れない無礼をお許しください」


スケルトン騎士は頭を下げた。


忘れているの言葉に、チイトは

ようやく振り返る。


「スケルトン騎士になった場合、

人であった記憶が薄れると聞いたが、

貴様は名前を忘れているのか」


チイトの言葉にスケルトン騎士は頷く。


「はい。

私の場合、武芸など体に染み込んでいる

ものや、他にも覚えている事は

あるのですが……

肝心の名前やどこで生まれたのか等は

さっぱりでしてな」

「成る程……。

俺達の名やパパと呼ぶ事はこれを

飲めばわかる」


無愛想な口調でチイトは空間からなにかを

取り出し、放り投げた。


「これは……?」


スケルトン騎士は難なく受け取った。

なにかは小指の先程の黒いキューブだった。


正体が分からず、不思議そうにじっと

見つめる。


「話すのも面倒だ。

とっとと飲め」


チイトに促され、

スケルトン騎士はおそるおそる飲み込む。


(口に入ったものは見えなくなるのか……)


郁人がちょっとした発見をしていると、

スケルトン騎士の様子がおかしい事に

気づく。


突然膝をつくと、こめかみを押さえ

見るからにとても苦しそうなのだ。


慌てて席を立ち、そばに駆け寄る。


「どうした?!大丈夫か?!」


声をかけるも、スケルトン騎士は答える

余裕は無く、歯を食い縛り、ただただ

耐えている。


原因はわかっているので、

チイトに尋ねる。


「チイトさっきのは……?!」


顔を青くしながら心配する郁人に、

チイトは虫も殺さぬような顔で答えた。


「記録をまとめた物だよ。

飲み込む事で一気に情報が入るから

頭がびっくりしてるだけ。

だから、健康面とかに問題ないよ」

「どこが問題ないだ。

飲み込んだ瞬間、知らない映像や文章が

脳に雪崩(なだ)れ込み、脳を直接(いじ)くり回される

感覚に吐き気や意識が飛びかけたりと……

かなりえげつない代物だぞ」


ヴィーメランスがチイトの言い分に

唇をひん曲げた。

その姿と言葉で、郁人の頭にぱっと浮かぶ。


「もしかして……

チイトが一緒に送ったデータって……」

「先程のキューブです。

スケルトン騎士も今その症状に襲われて

いるのでしょう」


ヴィーメランスは当時を思い出し、

今にも胃から込み上げてきそうになり

口に手を当てる。


「あれぐらいで情けないものだな。

それでもパパの子か?」

「チイト……貴様は表に出ろ!!

その性根を叩き直してやる……!!」


鼻で笑うチイトに、青筋を立てながら

ヴィーメランスは斜め向かいに座るチイトの

胸ぐらを掴み、立ち上がる。


掴まれたチイトは臆することなく、

見下すような冷笑を浮かべている。


「2人共、落ち着いてっ!」


郁人が慌てて間に入る。


間に入ったことでヴィーメランスは手を

離したが、睨むのをやめてはいない。


「……そういう事でしたか」


すると、スケルトン騎士は症状が

治まったのか、ふらつきながらも

なんとか立ち上がる。


「このようなものがあるとは……

随分発展しているようですな」

「大丈夫か?」


ふらつくスケルトン騎士にジークスが

近寄り肩を貸す。


「えぇ。

まだ吐き気などはありますが……

問題ありません。

ジークス殿もありがとうございます」


支えてもらいマシになったスケルトン騎士は

礼を告げるときちんと立つ。


「マスターがチイト殿やヴィーメランス殿の

他に、5人の方にお会いする為に旅に

出ている事。

街で多数の者達の悪意や誹謗中傷を

受けていた事。

今回ドラケネス王国に来た目的など……

全て理解しました」


理解したと頷くスケルトン騎士。


(俺が異世界から来たこと、

チイト達が俺の描いたキャラクターだと

言うことは伏せているようだな。

まだ言う覚悟が出来てないから

ありがたい)


自身はこの世界では異端な存在、

皆に告げて嫌われたら……と言えず

終いだったのだ。

嫌な想像をしてしまい、目眩(めまい)がする。


「マスター」


声をかけられ、顔を上げると

スケルトン騎士が郁人の前に跪いていた。


「迷宮で会ったおり"貴方を守れ"と

今は無き心臓が打つのを感じ、

許可なく契約させていただきました。

我が名を忘れている身でありますが、

全身全霊をもって貴方をお守りいたします。


ーどうかよろしく願います、マスター」


「……こちらこそ。

よろしく……お願いします」


騎士の誓いのような雰囲気に呑まれ、

郁人は目をパチパチさせながら頷いた。


「彼が加われば守りは強固なものに

なるに違いない。

よかったな、イクト」


仲間が増えたことを喜び、

ジークスは郁人に笑いかける。


「パパを守るのは俺だけでいいのに……

また変なのが増えた」

「おい。

変なのに俺が含まれている気がするのだが?」

「………」

「本当にいい度胸だなチイト」


頬を膨らませ目をそらすチイトに

ヴィーメランスは睨み付ける。


郁人が落ち着かせようとする前に、

スケルトン騎士が動く。


「お2人共、落ち着いて。

喧嘩する程仲が良いとは言いますが

ほどほどに。

なんせ、兄弟なのですからな」

「兄弟?」

「兄弟だと?」


スケルトン騎士の言葉に、

体を一瞬こわばらせた2人が勢いよく

こちらを見た。


2人の態度に、不思議そうにしながら

スケルトン騎士は語る。


「はい。

お2人がマスターを親以上に

大切にしているのは明らか。

小さい頃から一緒に育った仲なので、

兄弟と私は認識したのですが……。

マスターはどのようにお思いですかな?」

「俺?

まあ……兄弟に近い感じかな……」


尋ねられた郁人は顎に手をあてる。


(一緒の時期に描いてたし、

この2人と他のキャラも加えると

チームのような、兄弟のような……

そんな感じがする)


ピッタリだと郁人は何度も頷いた。


「こいつが兄とか嫌だ!」

「弟がこいつとか願い下げです!」


郁人の言葉に、2人は相手を同時に指差し、

再び睨みあう。


「息ぴったりだな」


ジークスは思わず苦笑する。


「兄弟か……」


郁人は妹のことを思い出す。


(妹はどうしているだろう……

元気にしてるかな?

俺がいなくても大丈夫か心配だ……)


考えていたら、呼吸が速くなるのを感じる。


「マスター!!」


スケルトン騎士に声をかけられた。

声色から焦っているのがわかる。


周囲を見るとチイトやヴィーメランス、

ジークスも心配そうに見ていた。


「ん?

どうした?」


周囲の様子に郁人は頬をかく。


「いえ……あの……

私の名を決めてくださいませんか?」

「名前?」


スケルトン騎士は咳払いをし、

郁人に尋ねた。


「たしかに……

いつまでもスケルトン騎士呼びはな」


郁人は話の流れに首を傾げるも、

頷き了承する。


「じゃあさ、覚えている限りでいいから

スケルトン騎士の話を聞かせてくれないか?

スケルトン騎士はデータから俺達の事を

色々知っているかもしれないけど、

俺達は知らないからさ」

「……はい!喜んで!!」


スケルトン騎士は声を弾ませた。


「ほら、みんなで思い出話を聞こう!

2人も席につこうな!」


未だに睨み合うチイトとヴィーメランスを促し、

全員が席に座り、スケルトン騎士の

思い出話を聞いた。




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