299話 久しぶりの対面
その後、ミョウケン達と解散し、
チイトはポンドと共に篝とジークス
が郁人の変装姿に慣れるために
手伝っており、郁人と別行動だ。
「やっと戻った……!! 道中でスタッフと
すれ違うからバレないか緊張した……!!」
薬の効果がきれた郁人はもとの姿に
戻っており、用意された部屋にて
倒れている。ここまで来るまでもだが
バレないよう気を張っていたので気疲れ
したのだ。
(それにしても、チイトがジークスと
篝の手伝いをするなんて意外だったな)
〔あんたの変装姿に慣れたら
あんたのそばにいれる時間が増え
そうだからじゃないかしら?〕
(なるほど)
お疲れな郁人にユーが飴を渡す。
「ありがとう、ユー」
〔そういえば、こいつもだけど黒鎧と
一緒に夏の妖精王に連れられてたけど
なんの話をしたのかしら?〕
(そういえば、そうだな)
郁人は思い出し、ユーに話しかける。
「ミョウ……じゃなかった、じいじと
話したみたいだけど、妖精王の話
をしたのか?」
郁人が尋ねるとユーは頷き、身振り
手振りで伝える。
「成る程。冬の妖精王さんについて
聞きたかったことがあったみたいで
ユーはわかる範囲で答えたんだな」
〔あんたなんでわかるの?! あたしには
さっぱりなんだけど〕
本当になんで? とライコは不思議そうだ。
ー「イクト、いるか?」
すると、襖を叩く音とともに聞き覚えの
ある声がした。
「その声は……キュラス師匠!
入っても大丈夫!」
「では、失礼するぞ」
ナランキュラスは入ってくると、
郁人に近づく。
「久しぶりだな。きちんとケアしている
かの確認にきた。うん……意外とやって
るんだな。だが、ところどころ油断が
現れている。日焼け止めなどはきちんと
しているようだが、その後のケアもきちん
とするように。それ以外は……及第点
だな。よくやっているほうだ」
「ありがとうございます!」
肌のケアを怠っていないか確認した
ナランキュラスは頷くと、箱を手渡す。
「今のお前の肌にはこれを試してみる
といい。あと、最近蝶の夢では化粧品
を販売している。宣伝にもなるから使う
ことを推奨しよう。肌に合うかきちんと
試すことも忘れないように」
「わあ!こんなにいいの!」
「問題ない、受け取れ。これらは蝶の夢
スタッフ全員に配られているものだ。
持っていないと知らないスタッフに怪し
まれる可能性だってあるからな」
「ありがとうございます!
助かるよ!」
郁人はナランキュラスから化粧品を
受け取り、ユーものぞきこむ。
「ん? お前は……たしかユーだったか?
お前も気になるのか?」
ナランキュラスが尋ねると、ユーは
携帯を取り出し伝えたい内容を打ち込む
と画面を見せる。
「えっと、なになに……"御主人の肌に
合うかどうかは自分がチェックしている。
御主人の肌の管理は任せろ!”と。
お前、従魔に見てもらってるのか?」
「ユーは俺の肌がもちぷになのが
1番みたいで。よく化粧水とか乳液は
もちろん、美容液や日焼け止めとかも
チェックしてくれてるんだ」
郁人が伝えると、ユーは自慢げに
背中のチャックからいろんなケア用品
を見せる。
「ほう……なかなか目の付け所が良いな。
俺も気になっていたものまで持っている
とは。ん? 試供品を貰ったからあげる
だと!! 感謝するぞ!!」
ユーは試供品をナランキュラスに
渡すと、ナランキュラスは嬉しそうに
受け取った。
「あの〜……わたし達はいつまで
待てば……」
〔あら! かわいい!!〕
そんなナランキュラスの背後、襖から
ひょこりと顔を出したのはうさぎの
耳を生やした月をイメージさせる髪色を
した幼い少女だ。
その後ろにはうさぎ達が鼻をヒクヒク
させながらこちらを見ている。
〔小さくてふわふわね! 丸いし
抱っこしてみたいわ!!〕
庇護欲をかりたてるほどの可愛さで
ライコも思わず声を上げるほど。
「はっ! すまない! つい美を促進させる
アイテムに心を奪われていた!」
ナランキュラスは頭を下げると、
咳払いして気持ちを切り替える。
「俺が抜き打ちチェック以外にも
お前に要件が2つある。
1つ目はこの方、満月うさぎがお前に
会ってみたいとのことだ」
「はじめまして、恩人さまの大切な
御方。一族を代表してあいさつさせて
いただきます。わたし達は"満月うさぎ"
と申します。名前は秋の妖精王さまから
名乗らないように言われていますので
名乗ることができません。ぶれいに
値しますがお許しを」
ナランキュラスに紹介された
満月うさぎの少女とうさぎ達は
ペコリと頭を下げた。
「はじめまして。俺は郁人です。
事情があって名前を伝えれないことは
気にしてないから謝らないで」
郁人も自己紹介をしたあとナランキュラス
に尋ねる。
「その、満月うさぎって?」
「満月うさぎは秋の妖精王の庇護下に
ある種族で魔物の1種だが、こうして
会話することも可能だ。フェイルート様
に助けられてから交流がはじまり、度々
遊びに来られている」
「じゃあ、この子が言っていた恩人様
って……」
「フェイルートさまのことになります。
フェイルートさまには攫われそうになった
ところをお助けいただいて以来、仲良く
させていただいております。
それにしても……」
満月うさぎはうさぎ達とともに郁人の
周囲をくるくる回る。
「やはり、フェイルートさまの言う通り
とても心根の綺麗な御方なんですね!
わたし達を庇護していただいている秋の
御方のご加護もありますから!」
「わかるの?」
「はい! わたし達を庇護してくれて
いる御方の気配ですから! 見ればすぐ
わかります!」
満月うさぎは自慢げに胸を張ると、
あっと声を上げる。
「あの、今からお連れしたいところが
あるのですがお時間は大丈夫でしょう
か?」
「うん。このあとは何もないから
大丈夫だよ」
「ではでは、ご案内させていただき
ます!」
「道中、段差が多いところがある。
この子達を抱えても?」
ナランキュラスが尋ねると、満月うさぎは
頷く。
「はい! こちらからお願いしたいくらい
でしたので!」
「じゃあ、俺も抱っこしてもいいかな?」
「大丈夫ですよ!」
郁人の言葉に頷く満月うさぎ。
ナランキュラスと郁人は満月うさぎの
少女の後ろにいるうさぎをそれぞれ
慎重に抱える。
「わあ……!!すごいふわもふ!!」
「触り心地に夢中になって落とさない
ように」
「わかってるよ。そんなことは
しないから」
頬を緩める郁人にナランキュラスは
注意し、郁人は大丈夫と告げた。
「それではご案内しますね!」
満月うさぎが先導し、ナランキュラスと
郁人はあとに続く。
(うさぎってこんなにふわもふなんだなあ!
頬ずりとかしたいけど嫌がられる可能性が
あるから我慢だ、俺!)
〔………あんた、他に気にすることが
あるんじゃないかしら?〕
(なんのこと?)
〔あんたの肩を見なさい〕
郁人はライコに言われた通り、見てみる
とユーが何か言いたげな目でじっと
見ていた。
「あの……ユー……?」
郁人が声をかけても不満ありありな目
で見つめることをやめない。
この浮気者! と言いたげだ。
「ユー、これはその……! 満月うさぎ達が
段差とかで怪我しないようにだから!!
これは決して俺のふわもふを触りたい
気持ちを優先した訳じゃ……!!」
郁人は弁解するがユーの機嫌は治らない。
「本当なんだってば! 信じてよ、ユー!」
「……なんだこの浮気現場を見た感じは」
「ふふふ。先代さまにとっても大切な
御方なのですね!」
ナランキュラスは首をかしげ、
満月うさぎは微笑ましげに見ていた。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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