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298話 妖精王のお気に入り




   開けた相手がわかっていたチイトは

   ため息を吐く。


   「やはり来ると思っていたが、貴様は

   落ち着いて入れないのか?」

   「わはは! 許せ!! 儂はこんな性格じゃ

   からの!!」

   「悪いな、黒坊主。こいつはこんなん

   なんだよ」

    

   襖を勢いよく開けたのはミョウケンだ。

   その後ろではローテクトが頭をかいて

   いる。

   

   「わが孫……いや、今はチェンジリング?

   加護を授かりし者と呼ぶべきかの?」

   「えっと……イクトちゃん、この方々は?」

   

   ミョウケンのローテクトを見て、只者では

   ないと感じ取ったライラックは郁人と

   デルフィを守るように後ろに庇いながら

   尋ねた。

   そんなライラックを見てミョウケンは

   安心させるように笑う。


   「そんな警戒せんでよい! 儂は

   ミョウケン! 夏の妖精王であり、

   わが孫であるイクトを庇護する者ぞ!

   後ろの此奴は儂の護衛でもある

   ガーゴイルのローテクトじゃ!」

   「安心しろ。俺達はあんたらを

   傷つけるようなことはしないさ」

   <女将さんーこの人達はだいじょうぶよー>


   ローテクトの胸ポケットにいた

   イクタンが大丈夫と言いながら

   ライラックのもとへ向かった。


   <この人達はおりじなるを守ってくれる人

   なのー。だからだいじょうぶー> 

   <うん、そうなの。この人達は良い人達

   なの>

   「あら、じゃあチイトくんが言ってた

   イクトちゃんに加護を授けた妖精王さん

   って……」


   ハッとしたライラックにミョウケンは

   頷く。


   「儂じゃよ。汝がわが孫の母親か。

   わが孫の親はどのような者かは聞いて

   いたが……汝のような魂が凛とした者

   であったことに安心したわい。

   あとで話をせぬか? わが孫の日常を

   聞きたくての!」

   「えぇ、構いませんよ」


   目を輝かせるミョウケンに目をぱちくり

   させながらライラックは了承した。


   「おい。あんたは見に来ただけか?

   どうして変装時がさらに目立つことに

   なるかを言うんじゃなかったのか?」      

   「そうじゃったの! すまんすまん!」


   ローテクトの言葉に咳払いをした

   ミョウケンは説明する。

   

   「わが孫よ。今の姿の汝はとても

   注目、関心を集めておるんじゃ。

   その姿の汝と話したくて指名できる

   日々を待っておる輩も多いと聞く」


   ミョウケンは懐から扇子を取り出すと

   扇子を軽く振るう。

   瞬間、スクリーンが現れた。

   チイトは眉をしかめる。


   「貴様、人の真似を本人の前でするか?」

   「別によかろうではないか。これが

   1番わかりやすいんじゃからの」  

   〔流石、妖精王ね……! あの扇子が

   魔道具かと思ったらただの扇子だから

   あのスクリーンは魔法で出したものよ!〕


   ライコは声を上げた。興奮まじりの

   声なのでミョウケンの実力に感心して

   いるのだろう。

   そんな事は露知らず、ミョウケンは

   続ける。


   「これに表記されているのはその輩の

   リストじゃ。汝のその姿は囮を買って

   出た結果の姿じゃろ? 指名されて接客

   するとなればバレるリスクが高くなる。 

   じゃが、姿を出さなければ怪しまれる

   リスクもある。ゆえに、儂がその姿の

   汝の保護をするのじゃよ!」

   「経緯的にはあんたの勇気や優しさを

   聞きつけたこいつがそのままあんたを

   気に入って身辺保護というていで加護を

   授けてチェンジリングにしたって感じだ」


   ミョウケンはわはは! と快活に笑い、

   ローテクトも軽く説明した。


   「妖精王のお気に入りに手を出すのは

   命知らずのみだから。チェンジリング

   も最近じゃ滅多に見れないものだし、

   さらに目立つことは確定だね。でも、

   それくらいお気に入りってことだから

   指名する客はいなくなると思うよ。

   なにが妖精王の逆鱗に触れるか

   わかったものじゃないから」

   〔"触らぬ妖精に祟りなし"とかの言葉も

   あるくらいだもの。妖精、しかも妖精王

   の機嫌を損なうことをすればどんな災い

   が降り注ぐか……と考えるのは多いだろう

   から指名するなんてしないと思うわ〕


   チイトも指名されない理由を話し、

   ライコが太鼓判を捺した。

   郁人は納得しながら、尋ねる。

   

   「だから、じい……じゃなくて、

   ミョウケンさんが私を保護するのね。

   なら、もし接客することになったら

   相手はミョウケンさんだけなのかしら?」

   「そうじゃよ。蝶の夢のスタッフ全員が

   汝が変装していることは知らぬ。

   じゃから、そのスタッフにもバレぬため

   儂の接客をすることになるの。

   接客する際、儂は目隠しの術をかける

   ためバレる可能性をさらに減らすぞ」

   「よかったわね、イクトちゃん!

   妖精王さんが護ってくださるのだから

   変装時のイクトちゃんもいじめる人

   なんていないわ! 安心ね!」


   ライラックは胸を撫で下ろした。

   その姿から察したミョウケンは

   ライラックに尋ねる。


   「………もしや、わが孫はいじめられ 

   た経験が?」

   「そうなんです。イクトちゃんは

   私の大切な息子なのに、勘違いした

   人達がイクトちゃんを傷つけたの。

   魔道具でそういった心を刺激された

   のが原因なのですけど……」

   「ふむ……。少し汝の記憶を見せて

   もらってもよいか?」

   「もっといいものがあるぞ」


   眉を八の字にするライラックに

   ミョウケンが尋ねたが、チイトが

   遮る。  

  

   「これ頭に装着すればいい。

   貴様の分もあるから付けろ」

   「なんじゃそれは? とりあえず

   頭に付ければよいのか?」

   「変わったもんだな、コレ」

   「……それってまさか!!」

   〔ずっと前にあんたがいじめられ

   てた様子をリアルで見れるっていう

   あの魔道具じゃない!!〕


   郁人は思い出し、ライコは思わず叫んだ。


   〔あんたを孫呼びするくらいなのだから

   勇者が無言で武器をとるくらいに

   キレるものだから間違いなくヤバい

   ことになるじゃない!!〕

   「待って! それを……!!」

   「ダメだよ。邪魔したら」


   郁人が止めようと動く前にチイトが

   その腕を掴んで止めた。


   「知りたがってるんだから、それを

   邪魔したら怒られちゃうかもだよ?」

   「でも……!!」

   「俺達が知ってることだから、仲間はずれ

   にしたらすねて面倒なことになるかも

   しれないよ? 面倒だったけど、一応

   ポンドやストーカーにも前に見せたし」

   「見せてたのっ?!」

   〔いつの間に見せてたのよ?!〕


   チイトの言葉に驚く2人。

   ポンドと篝は見たと頷く。


   「私も見ましたが許せぬ光景でしたな」

   「俺も知ってはいたが、守れていなかった

   ときお前があんな目に遭っていたとは……。

   お前を守れなかった俺自身が不甲斐ない」

   

   眉間にシワを寄せるポンドに

   篝は守れなかったことを謝る。


   「本当に悪かった。俺がもっと……」

   「いや、でも篝は思い出せてなかった

   ときから守ってくれてたんだから!

   それに、俺が抱え込まないでちゃんと

   助けを求めてたらよかった話だから

   謝らないでほしい!」


   頭をさげる篝に気にしないでくれ

   と郁人が必死に説明していると

   ポンッと肩を叩かれた。


   「………ミョウケンさん?」

   

   振り向くとそこには眉をさげ、

   唇を震わせるミョウケンがいた。


   「どうし……」 

   「つらかったのう。痛かったのう。

   今はどこも怪我してはおらぬか?

   後遺症などは残っておらぬか?」


   ミョウケンは郁人を抱きしめ、

   涙をポロポロとこぼす。


   「儂は自分が情けない。わが孫を

   護ってやれなかった自分が。

   まさか暴力を振るわれていたとは

   知らなかった。儂が身近にいては

   過ごしにくいじゃろと加護を授けて

   すぐ離れてしもうた……。もっと

   そばにおったらこんな……」

   「……大丈夫だよ、じいじ。前から

   俺のことを心配してくれる、守って

   くれる人はそばにいたんだから。

   それに、今は怪我は勿論、後遺症も

   全然ないから安心して。

   心配してくれて、ありがとう」


   自分のために涙を流すミョウケンに

   郁人は大丈夫だと抱きしめ返した。


   「だから、もう泣かないで。

   俺はもう大丈夫なんだから」

   「………もし、またいじめられそうに

   なったら儂に言うんじゃよ」 

   「わかった。絶対に言うから。

   その前にチイトが気づいて動くと

   思うけど……」

   「それは違いないのう!」


   涙をぬぐったミョウケンはカラッと

   笑うと、郁人の頭をなでる。


   「これからは儂も守るからの!

   安心するがよい! ローテクトも

   動くじゃろうが」

   「そうだな、安心しろ。このローテクト様

   もあんたの護衛につくさ」

   「ありがとうございます!」


   心配してくれる2人に郁人は感謝を

   告げた。


   〔てっきり暴れるかと思ったけど

   安心したわ。過去は過去と判断して、

   これからいじめられることがないよう

   動くことにしたのね〕

   (たしかにな。妖精王のジイジが

   暴れたらやばいことになりそう

   だもんな)


   郁人はほっと胸を撫で下ろした。


   「では、汝の楽しかった頃の話も

   せっかくじゃから聞かせてもらおう

   かの? わが孫の母も一緒に聞かせて

   くれぬか?」

   「うん……じゃなかった。ええ、

   もちろん!」

   「イクトちゃんのお話なら喜んで!」


   変装していたことを思い出した郁人は

   頷き、ライラックも了承した。

   そこから、ソータウンでの出来事など

   を話し、その会話にチイト以外が混ざり

   賑やかな時間か流れた。


   「そんな割り切ってないんだけど

   ね、あいつ……」


   それを見ながらチイトがぽつりと

   呟いた言葉は誰にも届かなかった。   


   

    

ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白い、続きが気になると

思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!


ーーーーーーーー


「いやあ〜! わが孫の話をたくさん

聞けてよかったわい!」


話を終えたミョウケンは部屋を出て

自身のエリアへと帰宅していた。

その後ろを歩くローテクトはぽつりと呟く。


「似ていたな、やっぱり」

「あぁ。変装したら本当にそっくり

になって驚いたのう。顔立ちなど

本当にそっくりじゃ」


ミョウケンは懐かしそうに、どこか寂しそう

に目を細める。


「じゃからこそ、そんなわが孫を

害した輩がいるのが気に食わんのう……」


だが、先程の雰囲気が一変する。

扇子を口にあて、声は暗く、瞳は

冷たくも怒りに染まっている。


「夏の妖精に告げる。わが孫を害した輩を

調べ、儂に報告しろ。誰ひとり逃すつもりは

ない」


ミョウケンが告げると、ふわりと風が

吹いた。

それは、指令だ。風にのって夏の妖精達に

届けられる指令。


「おーおー。おっかないねえなあ。

夏の妖精総動員じゃねえか。

なら、俺はあとで黒坊主に聞いて

おこうか。あいつならすでに動いて

いるだろうしよ」

「たしかにの。だが、儂も動いておきたい

んじゃよ。気が済まんのでな」

「そうかよ。まあ、俺も動いておくと

するか。テメエがアピールしなかったから、

あの女に見向きもされなかったてのに、

それを八つ当たりかのごとくいじめる

のはお門違いにもほどがあるからよ」

「聞いた情報は儂にも伝えるようにの」

「わかってるよ」


ローテクトは告げると、コンタットで

チイトに連絡をとった。



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