294話 ローテクト
襖を開けたのは、ミッドナイトブルー
の髪色に、左耳に房のついたピアスを
つけ、サングラスをかけた偉丈夫だ。
服の上からでもわかる筋肉や、サングラス
からのぞく眼光の鋭さから只者ではない
ことが明らか。
なにより特徴的なのは頭に生えた山羊の
ような角に、狼の耳と尻尾だ。
(なんか雰囲気がある人がきたな。
尖った人の耳もあるし、魔獣族かな?
腰にさげてる瓢箪も様になってるし、
タバコとか吸っても様になりそうな
気がする……)
〔……なんでしょうね。女誑しというか、
ヒモしてるのが似合いそうだわ〕
郁人はポカンとしながら見つめ、
ライコはなにげに失礼なことを呟いた。
そんなことを思われているとは
知らない男はミョウケンを見て
頭をかきながら近づく。
「やっぱり、ここにいたか」
「来たのか」
ミョウケンはその男を見ながら
うへえと言いたげに口を曲げた。
「迎えは頼んでおらんぞ」
「迎えとかじゃねえよ。いつまで
居座ってんだお前は。蝶の夢と
若色の奴らの交流会の邪魔すんな。
お前はそろそろ出ろ。場所だけ
貸しゃいい」
「しかし、我が孫との交流を……」
「孫ぉ?」
郁人を抱きしめ渋るミョウケンに
片眉をあげた男は郁人を見る。
「こいつがあの孫の"イクト"か?
……たしかに似てるなあ」
男はしゃがむと郁人の顔をのぞき込み、
鼻をひくりと動かす。
「それに、いかにも妖精が好みそうな
お人好しな匂いがする。頭で考えるより
先に動いて人を助け、自分より他人を
真っ先に心配する。自分より他人が
傷つくほうに心を痛める、生きるのに
苦労しそうな匂いだ」
そこまで似なくてもいいだろ
と息を吐いた男だったが、片眉を
あげる。
「……ん? お前、四季全部の祝福もらって
やがんな? こりゃますます……。
うん、苦労するだろうな。お前は」
「えっと、どちら様でしょうか?」
同情する眼差しを向ける男に郁人は
尋ねた。男はそれに答える。
「俺か? 俺は"ローテクト"。そこの夏の
妖精王サマの護衛のガーゴイルだ」
「ガーゴイルっ?!」
「マジかよ?! 激レアじゃねえか!!」
ガーゴイルの単語を聞いて目を見開く
ジークスと声をあげたグロリオサ。
「ガーゴイルって? 聞いたことは
あるけど……」
「ガーゴイルは妖精犬っていう妖精の
ボディガードをしている種の進化系って
言えばわかりやすいかな?
妖精でもやっぱり戦闘に向かないのが
いるからね。それを護る役割もしている
んだよ。あの鬼がびっくりしたみたいに
出会えるのは本当に稀なんだ」
首を傾げた郁人にチイトが教えてくれた。
〔ガーゴイルって本当にレアよ!!
居たとしてもごく僅か!! 会えること
すら一生に1度あるかのくらいなん
だから!! それに、妖精犬が進化する
にしてもかなりの鍛錬が必要だから、
ガーゴイルがかなり強いことは確実
なのよ!!!〕
ライコも驚きながらも補足してくれた。
「説明ありがとよ、そこの底しれぬ
ガキンチョ。お前、かなり強いだろ?
あとで一戦やるか?」
「興味ない。ポンドとすればいい。
貴様の興味を惹くだろうよ」
「チイト殿?!」
チイトに売られたポンドは思わず
声をあげてしまった。
そのポンドを見て、ローテクトは目を
見開くと、にやりとまるで悪人のような
笑みを浮かべてポンドに近づく。
「……ほう。なるほど、いいぞ。
一戦やるか」
「場所なら儂が用意してやろう。
儂も此奴の実力が気になるのでな」
ミョウケンも扇子で口元を隠しているが
笑っているのは明らか。
しかも、絶対に断らせない圧を感じる。
「……これは断れませんな」
ポンドは額に手を当てた息を吐いたあと、
郁人に声を掛ける。
「………マスター、すいません。
少し離れます」
「わかった。ポンド……本当に気を
つけてね」
〔そこのガーゴイル、手加減しないで
ボコボコにする気満々だものね。
目ががん開きで怖いもの〕
ローテクトの圧に郁人は心配になって
声を掛けた。ポンドは胸に手を当て、
人を安心させる笑みを浮かべる。
「マスター、ご安心を。私もただ一方的に
伸されはしませんので。むしろ返り討ちに
してやりますとも」
「ほぉ……いい度胸だ。よし、ミョウケン。
ちょっとやそっとじゃ壊れねえ場所にしろ」
「元からそのつもりじゃよ」
ローテクトは好戦的な笑みを浮かべ、
ミョウケンは郁人の頭を撫でて
立ち上がる。
「すまぬが少し席を外す。あと此奴、
ユーも少し借りるぞ。混ざっておるとは
いえ、久しぶりに話したいのでな。
またゆっくり話そうの、我が孫よ。
儂オススメのすいーつも用意しておこう。
ほれ、ユーも……本当に嫌そうじゃな。
昔話に花を咲かせたいだけじゃ」
指名されたユーは顔をしかめて嫌そうに
しながら、しぶしぶ大皿にご飯を盛って
ミョウケンの元へ向かう。
「そこは冬の妖精王の部分が出とるが
そこは出さなくてもよいじゃろ、ったく。
それじゃ皆の衆、儂は離れるがここは
好きに使ってくれて構わん。またの」
ミョウケンはひらひらと手を振ると、
手からふわりと煙が出てくる。
その煙はローテクト、ポンド、ユー、
そしてミョウケン自身を包み込むと
3人と1匹はまるで最初からいなかった
ように消えた。
「うそっ?! 消えたっ?!」
〔あれ高度な転移魔法よ?! 妖精だから
できるのでしょうけど、あれほど高度な
ものが出来るなんて……!!〕
郁人は目を見開き、ライコは思わず
叫んだ。
「転移魔法っ?! あんな簡単に出来る
ものなのか?!」
「いや、そう簡単に出来るものじゃ
ないよ」
同じく声をあげたグロリオサに
チュベローズは説明する。
「流石妖精王。コレはいいものが見られ
たね。あの魔法はかなり高度だ。
魔道具という媒体がないのもだけど、
彼が出した煙は具現化した彼の魔力。
魔力を誰にでも見えるようにするなんて
難しいのに、それを具現化したうえで
媒体にして転移したんだから。相当な
技術だよ」
チュベローズは感心しながら酒を煽る。
「そういう旦那も一目見ただけでそこ
までわかるとは。恐れいるもんだ」
「ありがとう。昔取った杵柄という
べきかな?」
レイヴンの言葉にチュベローズは
微笑んだ。
「さて、妖精王達が去ったことだ。
祭りの話、道中どうするのかも
友好を深めながらまとめるとしよう。
とくに我が君はあの妖精王に構われる
ことは確実ですので」
「あのエセ獣耳なら絶対に来るよ。
パパとこうやって会うの楽しみに
してたから」
「たしかに、あの様子では頻繁に仔猫
ちゃんに会いに来るだろうね。傍から
見ててもわかりやすいほどだったから」
フェイルートの言葉にチイトと
チュベローズは太鼓判を押した。
「それにしても、あそこまで気に
入られる理由がお前の性格以外に
ありそうだが……心当たりはあるか?」
「………残念ながらないかな」
篝は不思議そうに尋ね、郁人は頭を
ひねったがわからなかった。
(あと、似てるって言っていたけど
誰となんだろ?)
疑問の花が咲いたが、答えれる者は
ここにいなかった。
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