293話 前冬の妖精王
前の妖精王との言葉にライコは息を呑んだあと、
声をあげる。
〔ちょっと!? どういうこと?! そいつを
創るのに前の冬の妖精王を材料にした
ってこと?!〕
「先代冬の妖精王"レヴィセンド"。
"その者の怒りに触れた者は誰だろうと
魂ごと凍らされ、氷の牢獄から永遠に
抜け出すことは出来ない"と謂われている。
あのとんでもない妖精王さんがまさか
あの子に混ざっているとはね」
「たしかその妖精王の逆鱗に触れた末路が
永遠に氷柱が降り注ぐ国だったな」
「妖精の中で最強と謂われ、誰からも恐れら
れていたと文献に書いてあった、あの?!」
前の冬の妖精王、レヴィセンドについて
知っていたチュベローズは片眉をあげ、
サフュランとジークスはそれぞれ妖精王の
ことを思い出して声をあげた。
「ユーってそんなすごい前の冬の妖精王
だったのか?!」
郁人は思わずユーを抱っこして見つめ
ると、ユーはどう説明しようか悩んで
いるようだ。うーんと考えているユーを
郁人が静かに待っているとミョウケンが
告げてしまう。
「正確にいえば、前の冬の妖精王の籠
が混ざった融合体と言うべきかの?
其奴はいろいろ混ざっており、その
1つが前の冬の妖精王なんじゃよ。
まあ、実力や記憶はあるようじゃし、
それになにやら魂が……ってやめぬか!
汝の攻撃は儂に効くんじゃぞ!!」
余計なことを言うなと言いたげに
ユーは尻尾でミョウケンをバシバシ叩き、
ミョウケンは扇子で防いでいる。
郁人は思い出したように声をあげる。
「じゃあ、ユーが前に氷でテーブルや
グラスを作ってくれたのは先代冬の
妖精王の力を使った感じなのかな?
記憶とか魂ってどういう……」
聞きたいことがたくさん浮上した
郁人が尋ねるとユーはミョウケンを
叩くのをやめて郁人に近づくと頷く。
そしてうるうると目を潤ませた。
「……ユーはユーだもんな」
「我が孫!? そのように流され……
痛っ?!」
〔あんた……可愛さで流されてたら
あとあと大変だと思うのだけど〕
いろいろ聞きたかったが郁人はやめた。
ユーは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
そんな流されている郁人にミョウケンは
告げようとしたが頭上から氷が落ちてきて
頭をさする。
ポンドは思い出したようにあっと声を
あげる。
「以前、聞いたのですがユー殿を作る際に
使用したという妖精の籠が前冬の妖精王の
籠だったのですかな?」
ポンドの言葉にチイトは頷き、答える。
「そうだ。パパのプレゼントを作る際に
いろいろ混ぜたかったからな。その混ぜ
るのにちょうどいい妖精の籠がないか尋ね、
行った先にその籠があったから使った」
「えっと……それって使っても良かった
のか?」
ユーを撫でながら、首をかしげる郁人に
ミョウケンは答える。
「別に構わぬよ。だって、あのままだと
爆破しとったからの」
「爆破っ!?」
〔いきなり物騒すぎじゃないかしら?!〕
思いもよらない言葉に郁人とライコは
声をあげた。
「まず、妖精の籠とは古くなった体を
新しく作り替える為のものでもあるん
じゃよ。精神面の負担や自身の魔力量
に体が耐えきれなくなりそうなときに
籠を作ったりするんじゃが……」
ため息を吐いたミョウケンは続ける。
「儂といった王クラスとなると体の負担
の場合が多くての。もう大変なんじゃよ。
じゃから、魔力を大量に使うことで体の
崩壊を防いだりする」
儂の場合は星祭りのときとかじゃな
と笑いながら説明していく。
「で、此奴は魔力が多過ぎて体の負荷
が凄まじかったため、作り替えようと
したんじゃが……籠の段階でもう耐え
きれなくなっておったんじゃよ」
儂もいろいろと手を尽くしたんじゃ
がなと目を伏せた。
「魔力に耐えきれなくなった籠は
爆破し、籠にある魂は消滅。周囲には
生き物どころか草すらなくなり、籠が
あった周囲一帯がしばらく生き物が
息をすることすらできなくなる場所と
なってしまうところじゃった」
「……もしや、"禁域"と呼ばれる場所の
発生理由は」
「うむ。籠の爆破が原因じゃよ」
顔を青ざめるジークスにミョウケンは
頷いた。
「禁域って……?」
「禁域とは足を踏み入れただけで
呼吸が出来なくなり、生き物がいた
痕跡すらなくなってしまう恐ろしい
場所のことだよ、仔猫ちゃん」
郁人の問いにチュベローズが答えた。
「魔道具や錬金術など、どのように
対処しても効果がまったく無くてね。
時間だけが治してくれる唯一の方法
とも言われている場所のことだよ。
発生理由は今まで謎だったのだけど、
まさか妖精の籠の爆発とは予想外
だった」
妖精学の連中に教えたらひっくり返る
だろうねとチュベローズは微笑む。
「しかも、禁域が増えそうになって
いたのをまさかのチイちゃんが解決
していたとは。そんな禁域が出来る
原因でもあった籠にどうやって近づい
たんだい? なかなか簡単にはいかないと
思うんだけど」
「たしかに……チイトはどうやって
近づいて回収したんだ?」
郁人が尋ねるとチイトは答えてくれる。
「簡単だよ。近づくのに籠の魔力が
暴走していて嵐みたいになっていたから
俺の魔力をぶつけて相殺した」
「…………まさかそのような荒業だった
とは。此奴が妖精王のとき魔力量は
妖精で1番だったんじゃが」
〔こいつ……とんでもないやり方を
したわね?!〕
ミョウケンは頬をひきつらせ、ライコは
声をあげた。
(えっと、魔力をぶつけるって?
魔力ってそこまで影響を与えるもの
なのか?)
〔本来魔力ってそこまで影響を与えないわ。
あっても魔力を持ってる本人しか影響は
ないの。具合が悪くなったりとか体調面
に見られるわ〕
魔力酔いって症状もあるわよと
ライコは説明する。
〔けど、それを外にまで影響を与える
こと自体が凄まじい魔力量の証拠。禁域を
作るほどだからそれは凄まじい魔力量よ。
それを自身の魔力で相殺したってことは
……そうね、台風に台風をぶつけて消した
みたいな荒業でありえないことね〕
(説明ありがとう。かなり荒業でありえない
ことってことがわかった)
チイトがとんでもないことをしたのだ
と郁人は理解し、息を呑んだ。
「チイちゃん、随分ととんでもないこと
をしたもんだ」
「それでお前にとんでもないほどの
恩があると妖精達が言っていたのか」
「道理で妖精が反則くんに協力的な
訳だわ。なんせ、自分達の王の魂を
消滅から救い、禁域ができてしまう
ところを防いだんだからよ」
チュベローズはアハハと笑い、フェイルート
とレイヴンが納得していると足音が近づい
てくる。
「……ミョウケン、迎えが来たようだぞ」
フェイルートが告げた瞬間、襖が
勢い良く開いた。
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