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不満なホワイトデー

ハッピーホワイトデー!




   ホワイトデー当日。

   郁人は以前から約束していたので篝の

   部屋に遊びにきているのだが……


   「篝……いつまでそんな不貞腐れてる

   んだよ」

   「…………」


   招待した本人が見事に不貞腐れていた。

   お菓子やケーキが並んだ華やかな

   テーブルに肘をついていかにも

   不機嫌さ全開な姿に郁人は苦笑する。


   「バレンタインもらったんだから

   お返しは必要だろ? だから、お返し

   しに行っただけじゃないか」

   「なんであの女が最初に貰ってるんだ!」

   「最初は妹だけど?」

   「あいつは同じ家に住んでるんだから

   ノーカンだ! だから俺が1番だと思って

   いたらまさかあの知らない奴が1番に

   貰われるとは……!!」


   本当に悔しいのだろう、歯を食い

   しばり今にもテーブルを叩きそうだ。


   「……そんなに悔しかったのか?」

   「当たり前だ!! 妹が1番最初なのも

   100歩譲ってしぶしぶ認めているん

   だからな!!」

   「俺が渡すのって認可制だったっけ?」

   「なんであの女が……!! 下足箱をもっと

   念入りに見ておくべきだった!!」

   

   篝の物言いに頬をかきながら、郁人は

   テーブルから身を乗り出すと自分が

   作ってきたオランジェットを、前に座り

   まだ不満を告げる篝の口に放り込む。


   「気配すら感じたら遠ざけ……」

   「ほら、機嫌なおして。な?」

   「……………」


   まるで子供をあやすような対応に

   ひとこと言おうとした篝だったが

   眉を下げて柔らかな微笑みを浮かべる

   郁人に何も言えなくなった。


   「どうだ? 美味しいか?

   篝のリクエストに答えて作ったん

   だけど。自信作でもあるんだぞ」

   「…………うまい。俺の好みど真ん中

   の味だ」


   篝はオランジェットを味わったからか

   気分は少し和らいだ。


   「よかった! じゃあ、一緒に食べて

   ホワイトデーを楽しもう!

   篝が用意してくれた美味しいお菓子を

   不機嫌なまま食べたら勿体ないだろ?」

   「………このオランジェットは俺だけの

   だよな」

   「うん。妹はプリンが食べたいって

   言ってたからプリンを渡したし、

   佐倉さんはなにが好きなのかわからな

   かったからクッキーを渡したんだ」

   「……そうか。お前の作ったプリンと

   クッキーも食べたかった」

   「よくばりだなあ」

   「お前限定だ」


   篝は足りないと告げながらテーブル

   の上にあるプリンをスプーンですくい

   口に入れる。


   「うん。美味いが……やはりお前が作った

   もののほうが俺の好みだな」   

   「そう言ってもらえると嬉しいけどね。

   うん! このガトーショコラもいける!

   チョコの苦みと甘さがマッチして食べ

   やすいな!」


   美味しいと目を輝かせながらパクパクと

   食べ進める郁人を篝は柔らかい瞳で見つ

   める。それに気付いた郁人は声をかける。


   「そうやって見られていると食べづら

   いんだけど…」

   「気にするな。こうやって美味しそうに

   食べるお前を間近で見れるのは俺の特権

   だからな。ほら、これも美味いぞ」

   

   篝はマカロンを掴むと郁人に食べさせる。


   「あっ! このマカロン、ラズベリーの酸味が

   あって美味しい!」

   「よかったな。お前はこの酸味は気に入る

   だろうと思っていた」

   「……篝は食べないのか?」

   「食べてほしいか?」

   「そりゃ一緒に食べたいよ。こうやって

   お菓子がいっぱいあるんだし」

   「じゃあ、お前が食べさせてくれたら

   食べる」


   篝は郁人の隣に移動すると、口を開けた。


   「……なんか妹に似てきたな、篝」

   「あいつが俺に似てるんだ」

   「似たもの同士ってやつなの?」

   「似てるから厄介なんだ」

   「なにが厄介なんだ?」

   「いろいろだ」

   

   眉をしかめる篝の口にマカロンを放り

   込む。


   「いろいろってなんなんだ?」

   「……いろいろはいろいろだ。俺が俺の

   ために作ったオランジェットが食べたい

   んだが」

   「わかった。って膝に寝っ転がるなよ」


   篝は郁人の膝に頭をおいて寝転がった。

   郁人は膝を占領する篝のおでこをペチン

   と叩く。


   「コラ、そのまま食べるってなら行儀

   悪いぞ」

   「俺とお前しかいないんだから別にいい

   だろ」

   「まったく…」


   自分の膝からのこうとしない篝に郁人は

   ため息を吐きながらオランジェットを

   篝の口に入れた。


   「寝ながら食べたら牛になるかもだぞ。

   なっても知らないからな」

   「食べたぶん動けば問題ない。明日、

   バスケ部から学校対抗の試合に助っ人

   として来てくれって頼まれたからな」

   「……ほどほどにしておけよ。前に篝が活躍

   しすぎて部活の勧誘が激しくなったって

   言ってただろ?」

   「……他の奴らが頑張りゃいいだけだ。

   オランジェットおかわり」

   「もう、わかったよ」


   篝の態度に郁人はしかたないとまた

   オランジェットを食べさせた。


   ーーーーーーーー


   「あらあら」


   2人に紅茶はいかが? と持ってきた篝の

   母親、真姫はある光景にふふふと微笑む。


   それは篝が郁人の膝枕でぐっすり眠っている

   光景だ。

   真姫はゆっくり足音をたてないように近づき

   ながら紅茶をテーブルに置き、郁人に小声で

   話しかける。


   「寝ちゃったのね。こんなふうに気持ち良さ

   そうに寝るなんて。本当に郁人くんのことを

   信頼しきってないと見せない表情だもの」

   「そうなんですか」

   「そうよ。この子がこんなふうに人前で

   リラックスするなんて珍しいもの」

   

   真姫は篝のゆったりとした表情を見て

   優しく微笑む。


   「これからも仲良くしてあげてね。

   でも、この子が暴走しちゃったらえいっ!

   ってこらしめてもいいからね」

   「こらしめるって俺に出来ますかね?

   そうならないのが1番ですけど……」


   頬をかく郁人に真姫は大丈夫と親指を

   たてる。


   「大丈夫よ。だって、この子が貴方に勝てる

   わけないもの。ほにゃららしたほうが負け

   っていうから。この子は貴方に出会った

   ときから負けっぱなしだものね」

   「ほにゃらら? 負けっぱなし?」


   どういうことかと首をかしげる郁人に

   真姫は悪戯っ子みたいに微笑み教えて

   あげなかった。


   「こういうのは他所が言うのは野暮だもの。

   この子の口から言うのが道理よ。

   でもでも、外堀から埋められていって気付い

   たときには逃げ道すらなくなってるから

   気をつけてね。経験者からの忠告よ」

   「はい? わかりました?」


   意味深な真姫の言葉に郁人はますます

   はてなマークを浮かべた。



   

ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白い、続きが気になると

思っていただけましたら

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