彼は入念に準備していた
2月14日。バレンタインデー。
想い人へ気持ちを込めて渡す者もいれば、
感謝の思いを込めてチョコを渡す者、
自分へのご褒美に爆買いする者もいる
この日。
とある中学校の校舎の1角でそれは
行われていた。
「あの……ずっと前から気になってて
あなたのそばにいたいって思ったの。
私をあなたの彼女にしてください!」
勇気を振り絞って手作りと思われる
チョコを渡す女子の顔は真っ赤だ。
「…………」
渡す女子の前には1人の男子。
この中学校で知らぬ者はいない、文武両道、
眉目秀麗、家は超金持ちとまるで少女マンガ
に出てくるキャラクターのような男子で、
この男子の彼女の座を狙っている女子は
とても多い。そんな有名なモテモテ男子は
口を開く。
「悪いが、俺は郁人以外から受け取る
つもりは毛頭ない」
ー モテモテ男子の名前は"桃山篝"。
"三河郁人の番犬"と陰で呼ばれている篝は
バッサリ断った。
ーーーーーーーー
放課後、部活に行く道中にて郁人は
恨めしそうな目で篝を睨む。
「なんで俺を理由にして断るんだよ!
そのせいで篝のファンの女子の視線が
怖いんだけど!」
「脈もねえのに受け取って期待させる
ほうが悪いだろ?」
「俺が言ってるのはその断り方!」
「俺の気持ちを素直に言ったまでだ。
俺はお前のチョコが欲しいからな」
「……ったく、どうしてそんなに欲しがる
んだよ」
胸を張る篝に郁人はため息を吐いた。
そんな郁人を見ながら篝は尋ねる。
「で、お前はどこに行ってるんだ?」
「どこって……部室だけど?」
「今日、女子部員はバレンタイン女子会、
他の奴らはイベント限定キャラがほしい
からイベを走らねえとって帰ってるぞ」
「そうなの?!」
「連絡がきてるだろ」
篝は携帯を取り出して、部活のグループ
ライムを見せた。
「ほらな」
「……篝はイラスト部じゃないのに
グループライムに入ってるのなんで?」
「お前がいるから」
「どんな理由……? えっと、じゃあ今日は
部活なしか。帰って妹がくれたチョコ
食べようかな」
「そんな妹からしかチョコを貰えない
お前に提案がある」
篝は郁人の肩を抱いて自分の携帯の
画面を見せる。
「俺の家にお前のために用意した
チョコがある。しかも、お前が以前に
気になっていた店のフォンダンショコラ、
チョコケーキ、マカロンや他にも揃って
いる」
篝が見せた画面には篝の言葉通りに
郁人が以前テレビで見て美味しそうと
こぼしていたチョコのお菓子が写って
いた。
「あっ! 本当だ! 前に俺が気になってた
やつだ! 篝、覚えてたの?!」
「お前が気にしてたやつだからな。
俺もどんなものか気になったから
覚えていたんだ。で、どうする?」
「………これ、俺のチョコで釣り合うか?
明らかに貰いすぎなんだけど……」
頬をかく郁人に篝は問題ないと頷く。
「俺はお前のチョコが欲しいんだ。
だから気にしなくていい」
「けどなあ……」
「じゃあ、ホワイトデーも俺と一緒に
過ごせばいい。それならいいだろ?」
「篝はそれでいいのか?」
こんなに用意してくれたのに?
と首をかしげる郁人に篝は告げる。
「お前はいつも妹優先だからな。
そんなお前を独占できるんだ。
十分だろ? あと、ホワイトデーにも
美味しいものを用意しておくから
一緒に食おう」
「美味しいもの用意されたら俺が
貰いっぱなしなんだけど……」
眉を下げていた郁人だったが
あっと声をあげる。
「せめてホワイトデーは篝のリクエスト
に答えさせて! 食べたいものを作るから!」
「! それはいいな! お前が作るものは
なんでも美味いからな!」
上機嫌になった篝は郁人の肩を抱いた
まま、方向を変える。
「じゃあ、早く行くぞ! 貰えてない者
同士でバレンタインを過ごすか!」
「俺と篝で貰えてないの意味が違うから。
俺は普通に貰えてないんであって、
篝は断ってるのが理由だから」
意味が全然違うとこぼす郁人に篝は
眉をしかめる。
「まだお前から貰ってないのにか?」
「………本当に俺のチョコが欲しいんだな」
郁人は苦笑するとカバンから包装
されたチョコを手渡す。
「今回はブラウニーにしたんだ。
食感とかも楽しめるようにナッツを
たっぷり入れてあるよ」
「! それは美味そうだ!」
篝は受け取ると、頬を緩めた。
本当に貰えて嬉しいのだと表情や
雰囲気から見てわかるほどだ。
「ありがとうな、郁人!
よし! 早く帰るぞ!! 早く食べたい
からな!」
「わかったから! 腰に手を当てながら
押さないで! 力が強くてこけるから!」
嬉しさ全開の篝に郁人は押されながら
玄関へと向かった。
ーーーーーーーー
イラスト部の部員である男子生徒3人は
自室でゲームの周回をしながら呟く。
「それにしても、モテ男な桃山氏の
執着っぷりには驚かされるよなあ」
「ホントホント。女子達には欲しがってた
1番くじのグッズ渡して、妹さんを女子会に
誘うように指示、俺達には欲しかった
キャラを当てて部活動を無しにする
とかさあ〜」
「郁人氏を独占したいからって凄まじい
行動力と財力」
「そこまで金はかからなかったそうだぜ。
1番くじやったら1発で当てたそうだ」
「俺達のキャラも桃山氏が俺達の欲しい
キャラを当てたら協力しろって言って
俺達が頷いた瞬間、当てたもんなあ」
「顔よし、家柄よし、頭よし、運動よしで
運まであるとかどんだけ持ってんの?」
マンガのキャラでもこんだけキャラ付け
しないんじゃね? としゃべりながら周回
する3人。
「そんな桃山氏に執着されてる郁人氏……
逃げ場なしじゃね?」
「あのブラコン様がいても時間の問題な
気がしてならぬ」
「郁人氏……いずれ監禁されんじゃね?」
「桃山氏の用意したお部屋で?」
「わあ〜犯罪臭がぷんぷんするう〜」
「郁人氏は友達ですが、俺達じゃ
桃山氏の相手は無理無理。ラスボス相手に
木の棒で装甲なし、残機0で挑むような
ものなので」
「まあ……愚痴ぐらいは聞いてやろうぜ」
「すまぬ、郁人氏。俺達に桃山氏を
倒すとか無理なので」
3人は郁人にごめんと手を合わせた。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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