290話 面を食らった
その後、話し合いは続き、無事
まとまった。
「では、挨拶回りの際に我が君は
夜の国のスタッフであるサフュランと
組んでいただきます。よろしいですね?」
「うん。大丈夫」
フェイルートに聞かれ、郁人は頷く。
心配そうにチイトは尋ねる。
「パパ、本当にいいの?」
「大丈夫だよ。それにまだきちんと
話してないからどんな人なのかそこまで
わかってないだろ? だから、ちゃんと
話してみたいし。お酒に関しても
聞いてみたいから」
「……俺がお酒呑めたらパパがつられ
なかったのに」
チイトはムっと頬を膨らませて
不満げだ。篝も不満なのか声をあげる。
「俺も一緒に呑めるだろ! だから
あいつと呑むな!」
「たしかに一緒に呑めるけどさ……。
篝は俺が神々の生き血をもっと
呑もうとしたら止めるじゃないか!」
「それは誰だって止めるだろ!
まるまる1本呑み干してなお、呑もう
とするんだからな! あの酒はそこまで
呑むもんじゃねえ!」
あのときは本当に驚いたんだからな!
と篝は真剣に告げた。
「俺は呑んでも平気なんだってば!」
「それでもダメだ!!」
「マスターはハイペースで1本
空けますからな……。見ているこちら
が不安になりましたな」
「私も呑めたらよかったのだがな……」
あるときの飲み会を思い出したポンド
は苦笑し、ジークスはポツリと呟いた。
胸ポケットから出てきたユーが郁人を
つついて、自身を指差す。
意図を理解した郁人は口を開く。
「ユーも一緒に呑んでるもんな。
ユーは神々の生き血を呑めるけど、
その……呑める友達をもっと増やしたく
てさ。グロリオサともまた呑みたいん
だけどなあ」
「おや、ユーくんも呑めるのかい?」
こいつは驚きだとチュベローズが
片眉を上げる。
「はい。ユーも呑めますよ。前に神々の
生き血を呑もうとしたときに呑みたいと
言われまして。ほんの少しあげてみて
判明しました」
「……そいつ本当になんの生き物なんです?
色香大兄はご存知?」
「いや、知らないな。詳しく診てみたら
わかるかもしれないが、見た目から
判断しても骨格など俺の知っている
生き物と当てはまらないからな」
郁人の言葉にレイヴンはフェイルートを
尋ね、フェイルートは首を横に振った。
少し考えていたチュベローズは提案する。
「じゃあ、今度うちの店で飲むかい?
うちの店まで行くのが心配な子達もいる
だろうからここで飲むのもありだ。
なんなら、挨拶回りの子達やチイちゃん
達といったパーティメンバーも一緒に
飲んで親睦を深めるのも有りじゃないか?」
どうだろう? とチュベローズは続ける。
「俺達といった上司、上のメンバーはこう
やって話しているが他の子達はあまり交流
が無いだろう? いっそ蝶の夢と若色で交流
するのはどうだい?」
「それはいいな。挨拶回り前に交流していた
ほうがいろいろとスムーズに進むだろうし。
色香大兄はどう思います?」
提案にレイヴンは乗り気で、フェイルート
にも聞くとフェイルートも頷く。
そしてチュベローズに尋ねる。
「いいんじゃないか。では、今晩辺りに
予定しておこう。今日顔合わせして、
その流れのほうがいいだろう。若色も
今日は休みにしており、このあと予定は
無いだろう?」
「あぁ。このあとの予定は無いよ。
こっちから交流会を提案しようとしていた
からね。君達の提案は歓迎だとも。結構な
大所帯になるけど構わないかな?」
「問題ない。スペースなら最近いいところを
女将が協同で作ったからな」
チュベローズの言葉に答えると、
フェイルートは女将に伝える。
「女将、あそこを宴会場に使う。準備を
お願いしてもいいかな?」
「たしかに、あそこなら広さも
文句なしだ!」
その言葉に女将は蔦で頷くとスススと
壁に消えていく。はてなマークを
浮かべながら郁人はレイヴンに尋ねる。
「あそこって?」
「じつは最近、夜の国と同盟を結びたい
って手紙が来たんです。で、会った結果
同盟を結ぶことにしたんですよ」
どちらにも利がある同盟でしたね
とレイヴンは笑いながら続ける。
「で、その同盟を結びたい者達は
この夜の国に居住区が欲しいとのこと
で認めたんです。その者達がいれば
この国はさらに安全になりますから。
で、あそことはその者達の居住区に
あるのです」
「許可を取らなくてもいいのか? 勝手に
しては怒られるのでは?」
ジークスが尋ねるとレイヴンは
問題ないと笑う。
「それが問題ないんだよなあ。なんせ、
ぬし様がいらっしゃるから!」
「俺?」
〔なんでなのかしらね?〕
郁人はキョトンとし、ライコも不思議がる。
そんな郁人にレイヴンは語る。
「じつは、向こうが同盟を持ちかけた
のはぬし様のことも関連しておりまして。
向こうはここが他に比べたら自然が多く、
いろんな魔物も住んでいてここなら同盟
組んでも害を与えなそうなうえ、ぬし様が
定期的にこちらに来ると知ってですので。
ぬし様の拠点があるソータウンはいろいろ
と目立ちやすいので」
冒険者と関わりたくないようですし
とレイヴンは説明した。
「…………本当になんで俺? 心当たりは
まるでないんだけど」
「同盟を持ちかけたのはどこなんだ?」
頭上に疑問符を浮かべる郁人、篝は
レイヴンに尋ねた。
「そこは……おっと、向こうからお出まし
だ。どうやらぬし様に相当会いたかった
ご様子」
こちらに来る気配に気づいたレイヴンは
悪戯な笑みを浮かべる。
「女将から聞いていたが……ぬし様は
相当好かれやすい体質、いや気質の持ち主
のようでございますれば」
「? それって……」
郁人が尋ねようとした瞬間、襖が勢い
よく開く。
「ここにおるな! いやはや待ちくた
びれたぞ!!」
そこには浮き世離れした美青年がいた。
その青年は獣耳風の髪型に乳白色の髪が
フワリと揺れ、前髪で左目が隠れている。
金色の瞳はまるで夜空に浮かぶ月のよう。
服装も和と軍服が混ざったような格好で
青年の魅力を引き出していた。
そんな美青年は郁人を見つけ目を輝か
せる。
「久しいの! 現世で会えて嬉しく
思うぞ!!」
わはは!と笑いながら近づくと、豪快に
郁人の頭を撫でる。
「ちゃんと飯は食っておるのか? 汝は
細いから見ていて心配になる。それに
あまり体も丈夫ではないのだろう?
ほれ甘酒だ! 米が見つかったから作れる
ようになったのだ! 前とは違ってちゃあん
と甘酒ゆえ安心して飲むが良い!
儂お手製ゆえ効能もバッチリじゃぞ!」
ほれほれと甘酒を郁人に手渡し、わはは
と笑う姿はまるで親戚のよう。
「えっと……どちら様でしょうか?」
困惑しながら尋ねた郁人に青年は
あっと声を上げる。
「すまんすまん。解くのを忘れておった
わい。ほれ、今から解こう」
青年はほいっと指を軽く振るう。
ー『良いものを食わせてもらった。
本当に感謝する。おかげで良いものに
気付くことも出来た。
この出会いを汝はしばし忘れるが
儂は覚えておこう』
ー『息災であれよ、別世界の迷い子よ』
瞬間、郁人の脳裏に呼び起こされるのは
あの星祭りの夢の出来事。
「えっ……あのときの?! でも、あれは
夢じゃ……!!」
「本当のことだよ、パパ。
パパはこいつの領域に迷い込ん
じゃったことがあるみたいだね」
混乱する郁人にチイトは説明する。
「こいつ、夏になると力が更に増す
から。そして、領域もさらに力を増し
ているところに好かれやすいパパが
魂だけ迷い込んじゃったんだよ」
「魂だけとはどういうことだ?」
「それにこの者はいったい……?」
篝とジークスが疑問を口にする中、
ポンドは目を丸くしている。
「……まさか貴殿は?!」
「やはり、儂を知っておるか。まあ、
儂は千年に1人の美男子じゃし、顔を
知っているのも珍しくはなかろう。そこ
の魔人も儂を知っているようじゃしの」
青年は誇らしげに胸を張ったあと、
チュベローズに目をやった。
チュベローズはもちろんと口を開く。
「まあね。君、いや貴方の伝説は聞いた
ことがあるからね。貴方のような有名な
方に会えるとは思いもしなかったよ。
お会いできて光栄だ、夏の妖精王
ミョウケン様」
〔妖精王"ミョウケン"?! 妖精王のなか
で1番強いと言われているあの?!〕
ライコが声をあげるなか、チュベローズは
微笑みながら尋ねる。
「そして、ミョウケン様はこちらの
仔猫ちゃんとはどういうご関係で?」
全員が尋ねたかったことを聞いた
チュベローズ、夏の妖精王ミョウケンは
夏空が似合う笑顔で答える。
「うむ。よくぞ聞いた! この者は儂の
孫である!! イクト、儂のことは遠慮せず
ジイちゃんと呼ぶが良い!!
もちろん、敬語は無しじゃぞ!!」
「……………え? 孫?」
郁人は思わず固まってしまった。
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