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287話 源氏名




   ライラック達といったん離れた郁人達は

   フェイルートが待っていた部屋で

   座りながら話をしている。


   「ご足労いただきありがとうございます、

   我が君。仕事の話もありますので……」

   「いいよ、気にしないで。仕事って、

   前に定期的に顔を出さないと言ってた

   やつのことか?」


   郁人が尋ねるとフェイルートは頷く。


   「はい。我が君が以前囮捜査の際にしていた

   格好のことです。またあのような事件が

   起こった際に協力してもらうためにも

   彼女はここにいるのだと主張しなければ

   なりませんので」


   疑われることを避けるためにと

   フェイルートは続ける。


   「それにあの姿の我が君はとても評判が

   良いですから。今回は建国した記念の

   祭とともに源氏名を送らせてもらおう

   かと」

   「パパ、またあの格好するの?」


   フェイルートの言葉にチイトが

   目を輝かせる。


   「だったら、俺と一緒にあの格好で

   お出かけしてほしいなあ!」

   「ジークス殿には慣れてもらわねば

   なりませんな」

   「……ポンド、君には迷惑をかけて

   しまうな。そのときは頼む」

   「あの格好?」


   苦笑しながらジークスはポンドに

   頼んでいた。篝だけは不思議そうに

   しながら尋ねる。


   「? おい。囮捜査とはなんだ?」

   「そういえば、カガリ殿がまだ加入して

   いなかった頃の事でしたな」

   「君のことだからイクトに付いて

   きていたと思っていたのだが……。

   知らなかったのだな」

   「途中まではいたが、厄介な奴に

   見つかってな……。お前らがここを

   出るまでずっと逃げ回っていた」


   その当時を思い出したのかため息を

   吐く篝にポンドは目をぱちくさせる。


   「隠密に長けたカガリ殿を見つけるとは

   ……すごい方なのですな!」

   「あいつ……なんで俺を見つけれるのか

   聞いても訳わからねえこと言いやがる

   し……本当に理解不能だ」


   訳わからねえと頭をかく篝。苦虫を

   噛み潰したような表情に本当に意味が

   わからない方法で見つかっているのだ

   とわかる。


   「いっそスキルとか言ってくれたほうが

   100倍マシだ」

   「本当にどんな理由で見つかっている

   のだ、君は?」


   ジークス達が困惑しているとフェイルート

   が咳払いする。


   「話はもういいか?」

   「すまない。話の腰を折ってしまった」

   「その祭はどのようなものなのですかな?」

   「祭りもだけど、そのときに源氏名も

   送るって?」


   ポンドと郁人の問いにフェイルートが

   答える。


   「まず、祭りは夜の国全体で行われる

   ものになります。期間は3日間。その

   期間は朝から晩まで賑わうものになる

   でしょう。なんせ夜の国すべてのものが

   参加するものになりますから」

   「いやあ〜参加者を募ったらまさかの

   全員が参加したいと言ってな!

   屋台はもちろん、踊りもありゃあ、

   各箇所を巡ってスタンプを押してもらえる

   リレーもあったりするんだぜ? しかも

   食い倒れコースもあるんですよ?」


   レイヴンが人数分の茶を持って入ってきた。

   女将が内容をまとめたリストを郁人達に

   渡す。


   「まさに国全体での祭りだあ。こりゃ

   見応えありますよ?」

   「本当に国全体なのだな……!」

   「夜の国の民でなくとも、事前に

   参加の意思を蝶の夢に申請し、金額を

   払って参加証明書をもらえば、すべての

   店で祭り限定のお手頃な値段で買い物が

   可能になると……! なんとも大盤振る舞い

   ですな!」


   ジークスとポンドは内容に目を見開き、 

   一緒に見ている郁人は尋ねる。


   「開会宣言の際にフェイルートが

   出るのか……その、大丈夫なのか?」

   〔パニックにならないかしら?〕

   「大丈夫なんでご安心を。そんときは

   警備万全にしときますんで。あと、

   倒れたり発狂などしても自己責任と

   事前に承知の上ですんで」


   開会宣言を見に来る奴らは了承の

   うえなんでとレイヴンは親指をたてる。

   

   「この蝶の夢主催の演芸歌謡にパパが

   出るのか?」

   「そうだぜ。そのときにぬし様の

   源氏名、蝶の夢での名前も発表する

   予定だ」

   「お祭りのときにか?」


   郁人の言葉にフェイルートは頷き、

   説明する。


   「えぇ。源氏名とは蝶の夢で正式に

   働く者、見習いを卒業した者につけ

   られる店での呼称です」

   「じゃあ、タカオさんの名前は……」

   「源氏名になります。あの者の場合、

   この店に骨を埋める覚悟があるとの

   ことで本名もタカオですが」


   源氏名を本名にする者もいます

   とフェイルートは告げ、話を続ける。   


   「源氏名を送る際は大々的にすることに

   してます。ですので、この祭りの際に

   送るのが最適かと思いましたので」

   〔調べたけど、源氏名を送るとき

   本当に大々的にしてるのね!

   トップの太夫に源氏名を送る際は

   もう国中の人が見に来てそれはもう

   すごかったようよ! これもお祭りみたい

   なものね!〕


   調べたライコはすごいすごい! と

   声を弾ませる。その声色から

   本当に賑わっているのだとわかる。


   「そして、その後に行われる挨拶回りも

   参加してもらいますので」

   「……………ハードだなあ」

   「ぬし様の体が覚えていればまだ楽だと

   思いますよ?」

   「大丈夫です。思い出しますように

   またしますから」


   レッスン漬けの日々を思い出した郁人は

   うなだれ、レイヴンとフェイルートが

   励ます。


   〔大丈夫よ! ほら! あの俺様人魚のとき

   と比べたら全然マシよ!! あいつは授業の

   合間の息抜きだってなかったじゃない!〕

   (……たしかに。エンウィディアよりは

   マシ……なのかな?)

   <やっぱりあいつパパのこといじめて

   たんだね……!>


   エンウィディアの授業のときの様子を

   記憶から見たのかチイトはムッとする。


   <あいつ音楽に関しては全然手を

   抜かないし、パパのこと自分と並び

   立てるようにしようとしてたからね!

   本当に俺がそばにいたら守れたのに!!>

   (いじめじゃないからな。ただエンウィディ

   アは俺に怒ってたのもあると思うから……)

   <それはあると思うよ。パパの才能を誰より

   も認めて、羨んでいたから。あの才能を

   あっさり磨かずに放置しやがって! って

   ずっと怒ってたもん>

   (…………音楽のレッスンも合わせて

   出来るように頑張ろ)


   エンウィディアの気持ちを改めて思い、

   郁人は告げる。


   「あのさ、授業に関してなんだけど

   音楽に関しても、少し取り組みたいん

   だけどいいかな?」

   「音楽……あぁ、あの音楽バカに会ったん

   でしたっけ? それなら歌います?

   音楽バカからきっちりしごかれてると

   思うんで、その成果を皆に見せましょう

   や」

   「それはいいな。レイヴン、スケジュール

   を1部変更しておくように。俺は女将から

   我が君に合う歌の候補を提出してもらい、

   選んでおこう」

   「なりゃ、あの音楽バカにも話を通し

   といたほうがいいよな? 後から知った

   もんなら絶対にうるさくなると思うんで」

   「たしかに。あいつ、耳元でずっと

   不快音を響かせるまくるぞ」

   「じゃ、俺様が連絡しとくんで!」


   こりゃ忙しくなるぞとレイヴンは

   部屋から走り去っていった。


   〔……あんた、なんで自らハードコースに

   行くのよ! 倒れたらどうするのよ!!

   そこの猫被りが暴れる可能性だって

   あるじゃない!!〕

   (……そうだな。ごめん)


   本当になと郁人は頬をかく。  

   すると……


   「…………この気配は」


   篝が立ち上がると郁人に近づき、

   突然抱きついたのだ。

   郁人は篝の様子に目を丸くする。

   

   「? どうかしたのか?」

   「…………嫌な予感がする。ちょっと

   こうさせてくれ」


   襖を見て、篝は警戒心マックスだ。

   こっそり茶菓子を食べていたユーに

   頭をベチベチ叩かれても警戒を  

   ゆるめない。


   「なんでそんな警戒心むきだし?

   それに嫌な予感って……」



   ー「ここにいるな」



   聞き慣れない声とともに襖が勢いよく

   開いた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白い、続きが気になると

思っていただけましたら

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