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31話 喚声の主



声のする方を見てみると、

青空のような髪を後ろにまとめ、

左耳にピアス、白銀の鎧を身に纏った

優男がこちらを指差し立っていた。


赤ら顔で勢いよくヴィーメランスに

駆けよる。


「あの(かたく)なに帽子を取らなかった

ヴィーくんが!

帽子をっ!取ってるっ!

そんな髪型だったんだね!初めて見たよ!

超カッコイイ!ヴィーくんらしいね!」


目を輝かせながらヴィーメランスの

周りを優男はぐるぐる走り回る。

まるで飼い主にじゃれつく犬のよう。


「黙れ」


ぐるぐると目障りだったヴィーメランスは

優男の顔を思いきり掴み、持ち上げた。


絵に描いたようなアイアンクローだ。


アイアンクローを決められた優男は

声を上げる。


「ちょっ⁉痛いよヴィーくん!

指とか食い込んでるから!

僕の自慢の甘いマスクに傷が

ついちゃうから!!」


泣いちゃう子がいるから!と、

もがく優男にヴィーメランスは告げる。


「問題ない。

貴様は"口を開けば残念"と有名だ。

いっそこのまま握りつぶして一生

黙らせれば喜ばれるかもしれないな」

「一生黙ってるって……僕死んでるよね?!

いーやーだー!!生ーきてーやーるー!!」

「……よくこの体制で喋れるな、貴様」


顔を力強く掴まれているにも関わらず

自身のペースを崩さない姿に

ヴィーメランスはため息を吐いた。


「ヴィーメランス、その人は?」


優男の登場と2人の交流(?)に

口をポカンと開けていた郁人が尋ねると、

ヴィーメランスは優男を地面に勢いよく

叩き付ける。


「ぐえっ?!」


優男は蛙が潰れた声を出し、

首からしてはならない音を鳴らした。


ヴィーメランスは何事も無かったように

1礼する。


「父上の記憶になくても良い存在です。

さあ、スケルトン騎士から……」

「酷いよヴィーくん!

僕じゃなかったら死んでたぞい!

首からエグい音がしたもん!」


叩き付けられた優男は首を押さえながら

立ち上がるとヴィーメランスに涙目で

詰め寄る。


ヴィーメランスは眉間にシワを寄せ、

鋭い舌打ちをする。


「……しぶとい奴だ」

「ガチの舌打ちやめてー!

僕のハートがブロークンで

ジクジクするから!

あっ!でもあの人達みたいなメンタルを

付ければハッピーな気分になるかもっ?!」


地面に座り込み、両手で顔を覆っていた

優男だったがハッと顔を上げる。


「よし!ヴィーくん!

冷たい態度カモーン!!

ハッピーに変えてやんよ!!」


良いこと思い付いたと瞳を輝かせ、

両手の平を上に向けてカモンと促す。


が……


「気色悪い」


「直球過ぎる罵倒(ばとう)プラス冷たい視線に

僕の精神崩壊寸前っっ!!」


生ゴミを見るような瞳と氷点下の声に、

優男は涙をすすり上げながら地面を

転げ回った。


(テンション高い人だな……)


郁人は思わず固まる。


「あれ??あれれ??」


優男は郁人を見ると動きを止め、

両足を振り上げると、勢いをつけ

立ち上がる。


「もしかしてもしかして……?」


側にやってきて顎に手をやり、

じっと見つめた。


「なんで……しょうか……?」


隣に立つジークスとあまり変わらない

優男の背の高さに驚いてどもってしまう。


胸ポケットに潜んでいたユーも警戒し、

肩に移動して尻尾をピンと上に伸ばす。


優男は探し物を見つけたような表情を

浮かべると郁人の手を取る。


「君がヴィーくんが言ってた

"尊き御方"?!

イメージしてたよりずっと若ーい!

しかも肩に謎の生き物乗ってる!

あっ、僕は"サイネリア"っていうんだ!!

君の名前は?そっちの生き物は

なになに??」


人懐っこい大型犬のような態度に

目をパチクリさせながら口を開く。


「えっと、俺は郁人と言います。

この子はユーです」

「イクトくんにユーくんかあ……

よろしくね!!

ヴィーくんの言ってた御方に会えるなんて

僕、とっっっても嬉しいよ!!」

「パパにベタベタ触れるな」


満面の笑みで郁人の手を握り、

縦に振っていると馴れ馴れしいと

チイトが手を払いのけた。

郁人を庇うように2人の間に立つ。


払いのけられ、目を丸くした優男、

"サイネリア"はチイトを見て顔を

青くする。


「あれ??

君ってもしかして……"歩く災厄"っ?!

うわあ?!なんでスケルトン騎士も

いるの?!」


チイトから後ろに飛び退き、郁人の

後ろに控えていたスケルトン騎士の

存在に2度見する。


サイネリアは今更2人の存在に

気付いたようだ。


「貴様はきちんと目がついているのか」

「いやあ、だってヴィーくんが

帽子取ってるのが衝撃的過ぎて……」


ヴィーメランスの呆れに、

サイネリアは頭を掻く。


「ヴィーメランスが帽子を取ってるのは

珍しいのですか?」

「うん!珍しいよ!

だって絶対に取らなかったから!」


郁人の問いにサイネリアが答える。


「"俺が帽子を取るのは尊き御方に

会えた時のみ゛と陛下を前にしても決して

取らなかったんだから!

そのヴィーくんがだよ!

帽子を置いたままどこかに行っちゃったから

もう城中が大パニックになったよ!!」


ヴィーメランスの真似か、発言のみ

眉をひそめて声音を低くした。

あまり似ていない。


(軍帽が無かったのはそれでか……

迎えに来た人達が驚いていたのも

納得がいったな)


願掛けし、叶ったから外しているのだと

軍帽が無かった理由、驚いていた理由に

郁人は頷く。


心臓が飛び出るくらいだったと

サイネリアは語ると懐から軍帽を

高らかに取り出す。


「じゃじゃーん!!

そしてこれがその帽子でありまーす!!

懐で温めておきましたー!」

「どこから取り出した!」


ヴィーメランスは眉を更にひそめ

帽子を奪い取ると、自身の炎で燃やす。

しかし、どこも焦げていない。


どうやら熱消毒をしたようだ。


消毒されてサイネリアは涙目になる。


「消毒とか酷くない?!」

「誰も触れないように炎で守っていた

はずだが?」


なぜここにと眉をひそめるヴィーメランスに

サイネリアは胸を張る。


「確かに守られていたけど、

そのまま置いとくのもあれかな?って……

僕は水魔術使えるから、帽子が

濡れないように一生懸命、頑張ったんだよ!

帽子に触れた瞬間また燃えたから

大変だったけど……」


僕が丸焦げになるところだったよと

サイネリアは肩を落とす。


「そういえば、貴様は魔術だけ

長けていたな」

「魔術だけじゃなく実力もあるから!!」


ヴィーくん酷い!と喚くサイネリアを

両耳を塞ぎながら鬱陶しそうに

ヴィーメランスは見つめ、黙らすために

(すね)の前側、弁慶の泣き所を蹴り上げた。


「的確に痛いところを……!!

流石ヴィーくんっ……!!

そこに痺れるよ……!!」


サイネリアは脛を押さえて転がる。


先程の様子と今の2人を見て、

これがいつもの事だと察せられた。


(ヴィーメランスはこうやって交流?

してるんだな。

呼ばれ方にはびっくりしたけど……)


郁人はヴィーメランスの設定を思い出す。


(ヴィーメランスは元から悪人では

なかったからな。

悪になる前は英雄として国や人々を

護っていたから交流するのは当然か。

……待てよ。

だとするとなぜヴィーメランスも

世界を滅ぼす1人に数えられているんだ?)


「父上」


ヴィーメランスに呼ばれて、

郁人は意識が戻された。


「どうかした?」

「スケルトン騎士を手合わせさせるのは

いかがでしょうか?」

「手合わせ?」


郁人は目をパチクリさせる。


「契約した以上、スケルトン騎士が

御身の役に立てるのか確かめなくては

なりません。

守れるか力量を確認する為にも、

こいつを使って判断してみては?

こんなですが、戦闘も出来ますから」


痛みをこらえるサイネリアの襟首を

猫のように掴んで提案した。


「わー!ヴィーくん力持ちーー!

でも、僕の首が絞まってきたぞい!!」


サイネリアは楽しそうだったが、

途中から苦しそうに手足をバタバタ動かす。

顔色も悪くなってきたので郁人は慌てる。


「俺は構わないけど……。

苦しそうだから、サイネリアさんを

降ろしてあげて」

「仰せのままに」

「ぶにゃっ!」


ヴィーメランスは手を離し、

サイネリアを落とした。

地面に落とされ再び鈍い音がする。


郁人は慌ててサイネリアに声をかける。


「大丈夫ですか?!」

「うん。僕は大丈夫だよ。

ヴィーくんとのスキンシップの

一環だからね!」


親指を立てるサイネリアは満面の笑みだ。

元気良く立ち上がると、郁人に

ウィンクする。


「あと、僕の事は呼び捨てアーンド

敬語無しで!

君はヴィーくんの尊き御方なんだし、

なにより、僕がフレンドリーに

行きたいからさ!」

「……わかりまし……わかったよ」


敬語を使いそうになった郁人だったが、

涙目で見つめられ、慌てて敬語を外すと

サイネリアは満足げに微笑む。


そして、ヴィーメランスに挙手をする。


「僕も手合わせしたいな!

喋るスケルトン騎士と手合わせって……

とっても楽しそうだからねっ!!」

「私も構いませんよ。

久々ですから、腕が鳴りますな」


スケルトン騎士も頷く。


「パパを守るのは俺1人で充分だけど」


チイトは郁人に抱きつきながらぼやいた。


「君では彼の身は守れても、

精神は別だと思うのだが……」


ジークスの呟きにチイトは鋭い蹴りで

答えた。

蹴りをジークスはかわす。


チイトには見えても、聞こえても

いないはずだが……。


「では、各自剣をとれ。

父上はこちらで御観賞を」


ヴィーメランスは郁人の手をとり、

2人から距離をとる。

ジークスと抱きついたままのチイトも

続いた。


安全な場まで移動したのを確認した後

サイネリアとスケルトン騎士、

両者自身の剣をとり、構える。


その姿を見て、郁人は息を呑む。


「本物の剣を使うのか?!」

「手合わせですが、本気が見られなければ

意味がありませんので」


焦る郁人をヴィーメランスは宥め、

両者に向かい、声を張り上げる。


「貴様ら、手合わせとはいえ手を

緩めたりすれば、俺がその首ごと

燃やし尽くすと思え。



―では、はじめ!!」




合図とともに金属音が辺り1面に

響き渡った。





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― 新着の感想 ―
[良い点] サイネリアさん、楽しい人ですね…そして挫けないヴィーさん、もう少し優しく…w チイトくんとジークスさんの郁人くんをめぐる(見えてないはず)のやりとりも楽しいです。
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