282話 もう1人の加護持ち
顔を真っ青にし、郁人の肩を掴む
フェランドラに郁人は落ち着いてと
声を掛ける。
「落ち着いて、フェランドラ。
どうしたんだ? 顔が真っ青だけど……」
「お前! 加護を貰うためには神に
認めてもらう必要がある! だから
そのためにえぐい試験を受けたりする
とか聞いたことあるぞ! 死者だって
出ているってのにそんな危険な
ことをしたのかよ!! 死に急ぐような
ことしてんじゃねえよ!!」
「待って! フェランドラ! 俺、そんな
危ないことしてないから!」
貧弱もやしのくせに! と心配する
フェランドラに郁人は説明する。
「あの、加護って水中でも大丈夫
みたいなやつだよね? それなら
エンウィディアが俺にしてくれたのだよ。
飲まされただけで危険なことはしてない
から」
「エンウィディアは俺やヴィーメランスと
同じだ。パパに危害を加えたりしない」
「お前やあの威圧野郎と同じ……
ってことは、あの楽神って奴もお前が
描いたのかよ?!」
フェランドラは目を見開き、郁人を
指さす。
「なんつーか……お前、とんでもない
のばっかり描いてんな。神まで描く
とか……」
<ママすごーい!!>
「いや、神様として描いてはいないよ。
実力が認められて神様になったみたい」
「それでも十分スゴいんだよ……」
どんだけだよとフェランドラは
頭をかいたあと胸を撫でおろす。
「でもまあ、安心したぜ! 貧弱もやしが
試練を受けるとなりゃ、確実に死に
かけるだろうからよ。まじで心配した!」
〔たしかに、加護を貰うためにはこの世界の
神が考えた試練を受けないといけないわ。
神によって内容は様々だけど基本的にかなり
キツイものばかりよ。だって、死人が出る
くらいだもの。死んでなくても意識不明の
重体なことも多いわ〕
そこの受付嬢が心配するのも納得ね
とライコは告げた。
〔でもまあ、例外があるのなら、今までの
功績を認められて試練を受ける必要がない
と判断された場合は加護を貰えるわ〕
(でも、俺は試練を受けてないぞ?
それに功績もないし……)
<パパは試練を受けてるよ。ほら、神殿で
スパルタレッスン受けてたでしょ?>
(たしかに……って、あれが試練に
カウントされるのか?!)
目を見開く郁人にチイトは頷く。
<うん。命の危険は無かったとしても
キツかったでしょ? パパの記憶をチラッと
見せてもらったけど、他の奴なら逃げて
もおかしくないくらいのハードスケジュール
だったからね。パパの体調とか労って
ないよ、あの魚野郎!>
どれだけ詰め込んだんだ! とチイトは
舌打ちする。
<まず、あいつが聞けるくらいになるまで
ってのもかなりハードルが高いからね。
それをクリアしたから、試練をクリア
したとカウントされたんだ>
(なるほど。そうだったんだ!
……あれ?)
郁人は気になったので聞いてみる。
「ポンドも試練を受けたりしたのか?
加護もってるけど……」
「私ですかな? 私は受けてませんな。
功績から加護を授かったので」
「そうなんだ! 功績ってどんなことを
したんだ?」
「そこまで詳しく思い出せておりませんが
海関連なのは間違いないでしょうな」
海に関連する内容ですのでと告げる
ポンドにフェランドラは待ったをかける。
「………………待て。お前も加護持ち
なのか?」
「えぇ。プリグムジカに行った際に判明
しまして、どうすればフェランドラ殿
にもわかりやすいでしょうか? 水辺に
行き、その上を歩けば証明になります
かな?」
「そこのクリスタルに手を当てたらいい
だろ」
「従魔の私にも使えるのですかな?!」
「問題ない。だから当ててみろ」
「……あぁ。付いてきた説明書にもそう
書いてある。おら、触れてみろよ」
「かしこまりました」
チイトの言葉にポンドは驚きながらも
フェランドラの許可も貰ったのでクリスタル
に手を当てる。
「マジで持ってんのかよ?!」
「おい。タブレット見せろ」
「わ、わかった」
タブレットをじっと見つめるフェランドラ
にチイトは声をかけ、タブレットを奪う。
「見て、パパ! ここだよ! 見やすいよう
にスクリーンに投影するね!」
「ありがとう、チイト!
本当だ! ちゃんと書いてある!」
「本当に従魔の私でも見れるのですな!」
「従魔のステータスは契約した本人しか
見れないものだと思っていたのだが……」
「あいつ、本当になんでも作るな」
チイトが指差した画面にはたしかに
表示されていた。全員が覗き込み、
確認する。
【従魔:ポンド
・海神の加護を持つ者
・歴戦の猛者
・百戦錬磨の強者
・全ての武器に通ずる者
所持スキル
・野営作成
どのような場所でも仮住まいを建て、
しばらく滞在可能。】
「ポンドもユニークスキルを
持ってたんだ!」
「私も今思い出しましたが、チイト殿が
おられますので使う機会は無さそう
ですな」
「たしかに、俺がいれば使う機会は
無いだろう。パパが帰りたかったら
転移で帰ればいいし」
「でも、どんなのか気になるな……。
キャンプみたいなものなのか?」
野営がどんなものか気になる郁人は
首をかしげる。
「でしたら、木陰亭の地下で試して
よいか母君に許可をとらなければ
なりませんな 」
「え? 見てもいいのか?」
「勿論。スケルトン騎士になっても
使えるのか気になりますからな」
「やった! じゃあ母さんに聞いてみる!」
「俺もキャンプ参加するからね!」
<俺もキャンプしたいー!>
「おい! 和気あいあいするな!
他に気にすることがあるだろ!」
そんな3人にフェランドラが声をあげた。
「こいつがジークスに勝てるほどバカ強い
のに戦闘スキル0なことに驚けよ!!」
「加護を貰うには戦闘スキル持ちなのが
必須と読んだことがある。戦闘スキル
無しでは不可能とも書いてあった」
「それをスキル0で、しかも功績が認め
られて加護持ちになってるんだぞ!!」
〔そうよ!! そこに注目しなさいよ!!
その黒鎧はとんでもない偉業を成し遂げた奴
なのよ!! さっき英雄も言ってたけど加護持ち
は全員戦闘スキル持ちなの!! そういった
スキルを持ってないと試練を達成出来ない
し、功績なんてあげることはあり得ない
ことなの!〕
フェランドラに同意するようにジークス、
篝、ライコが説明した。
「てか、まず猛者とか強者っつう肩書
あってなんで戦闘スキル無いんだよ!!」
「君は戦闘経験が豊富だと判断するが
そういった経験が豊富だとスキルが
後から付くと思うのだが……」
「スキルは後から勝手についてたり
するからな」
〔スキルは後天的につくこともあるわ!
本人の経験を踏まえて、それに適したスキル
がつくように前の神が設定しているのに
どうして無いのよ?!〕
フェランドラ、ジークス、篝、ライコが
疑問を口にする中、ポンドはあっさり
答える。
「たしかに後から付きますが、拒否すること
も可能なんですよ。思い出しましたが、私は
スキル無しでどこまでいけるか興味がありま
して、戦闘系は勿論、それ以外でも付きそう
になる度に断りの意志を強く持って拒否して
ましたな」
「拒否できるの?!」
「たしかに出来るよ。俺もやったから。
でも、かなり強い意志がないと出来ない
かな。まあ……後天的につく、しかも戦闘
系ってバフみたいなものだから、拒否する
奴がいなかったから知られてないけど」
驚く郁人にチイトは出来ると頷いた。
「拒否できるなんて聞いたことねえぞ?!」
「だが、災厄が言うなら真実なのだろう。
彼はイクトに嘘はつかない」
「そうだな。こいつが虚言を吐く理由
もねえからな。で、疑問が芽生えたん
だがいいか?」
フェランドラは頭を抱え、ジークスが
告げる中、篝はポンドに尋ねる。
「お前は何度も拒否した口ぶりだったが、
もし断ってなかったらどれだけスキルを
持っていたんだ?」
「たしかに、それは気になるかも。
戦闘系以外のも断ってるみたいだし」
〔あたしも気になるわね。猛者と強者とか
書かれてある奴のスキルって気になる
もの!〕
「スキルですか……」
全員の視線を浴びる中、ポンドは
顎に手を当て考え込む。
その姿に郁人は声を掛ける。
「そこまで思い出せてなかった?」
「いえ、そうではないのです。
ただ……その……」
ポンドは眉を下げて苦笑する。
「多すぎて把握出来ていないのです。
思い出せる限りですと、百発百中、心眼、
追跡、速射、気配遮断、体術熟練、回避術
熟練、騎乗熟練、武器百般、毒無効、精神
無効、武神、常勝無敗、剣聖、槍聖、弓聖、
斧聖と……」
「待て待て!!! 多過ぎるだろ!!」
「常勝無敗は人生で1度も負けたこと
無い強者しか持てないレアスキルだぞ?!」
「武神とか全ての武芸を習得した上で
それら全てがえげつなく強くないと
獲得できねえ伝説級じゃねえか?!」
両手で指折り数えて思い出すポンドに
フェランドラ、ジークス、篝は開いた
口が塞がらない。
のんびりしていたユーも目を見開き、
郁人は理解が追いつかず、思わず
ポンドをじっと見てしまう。
「………あまりスキルとか詳しくない俺でも
ポンドがどれだけすごいかわかるな」
<ポンドすごーい!! 俺もポンドに教えて
もらったら強くなるかな?>
「パパ! 俺もすごいからね!
俺だっていろんなスキル付きそうに
なったけどパパが考えたスキル以外
いらないから断ってるもん!」
〔……この黒鎧、本当に何者なのよ!!!〕
デルフィは目をキラキラさせ、
チイトは張り合い、ライコは思わず
叫んでしまった。
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