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満月うさぎのハロウィン




   蝶の夢にて、従業員専用の建物内を

   興味深そうに歩く幼い少女とうさぎ達。


   「なんだか皆様、うきうきしてますね〜。

   なにかあるんでしょうか?」


   幼い少女、満月うさぎはキョロキョロと

   周囲を見渡し不思議そうだ。

   足元にいるうさぎ達も気になるのか

   耳を音がするほうへ向けている。


   「おっ! 満月うさぎ達じゃないか!

   今日はどんなご入用で?」


   満月うさぎ達に気づいたのレイヴンは

   声をかけた。


   「今日は望月キキョウの花畑を

   観に来ました! ですが、その……」

   「いつもと雰囲気が違うことが

   気になるのか?」

   「はい! なんだか皆様、ソワソワ?

   ウキウキ? と言うべきでしょうか?

   とても楽しみにしてられるような……」

   

   満月うさぎの質問にレイヴンは笑顔で

   答える。


   「それはだな、全員ハロウィンを楽しみ

   にしてるからだよ!」

   「はろうぃん? えっと……たしか……

   魔族狩りから娘さんを守ろうと村の方々

   一丸となったお話からはじまったもの

   でしたか?」

   「そうそう! ハート・オア・トリート!

   と魔族の格好をして菓子とかもらうやつ!

   全員、それの準備で浮かれてんだよ」


   レイヴンは紙を見せる。


   「女将がイベントとか好きでな。それで

   蝶の夢でもハロウィンイベントをしてる

   んだよ。ほれ、これがそのチラシだ」

   「わあ! 皆様、素敵なお召し物を着て

   とても綺麗です!」


   レイヴンが見せたのは蝶の夢で行われる

   ハロウィンイベントの内容が載った

   チラシだ。 

   

   「ハロウィン限定で全員が仮装してんだよ。

   だから、この日の予約数はヤバいぜ?

   とくにトップ3は抽選だからよ」

   「レイヴンさまや恩人さまはされないの

   ですか?」

   「俺様達ももちろんするぜ? 女将に

   一緒に楽しもうって言われちまった

   からよ。そういや……」


   レイヴンはもう1つのチラシを見せる。


   「手前らも参加するかい? 蝶の夢で 

   働いてるちびっ子達も参加するからよ。

   外に出なけりゃ問題ないだろ」


   レイヴンが見せたのは蝶の夢に勤める

   子供達が仮装してお菓子をもらおうと

   練り歩くものだ。その内容に満月うさぎ

   達は目を輝かせる。


   「いいのですか?! 私達は働いている

   わけでもありませんのに……」

   「構わねーよ。手前らが参加して目くじら

   たてる奴はここにいねーよ。ほれ、

   色香大兄に参加するって言ってこい」


   レイヴンは満月うさぎの頭を撫でる。


   「手前らだって遊びたいだろ?

   たまには羽目をはずしちまえよ」

   「………はい! 恩人さまに参加したいと

   お伝えしてきます!!」


   満月うさぎ達は頬を紅潮させ、

   嬉しそうに尻尾を揺らしながら

   走っていった。


   「子供は元気なもんだ! さて、俺様も

   準備にかかろうかねえ?」


   レイヴンは満月うさぎ達の背中を

   見送ったあと、去っていった。


   ーーーーーーーー


   ハロウィン当日。

   蝶の夢はハロウィン一色である。

   カボチャはもちろん、従業員一同が

   それぞれ仮装をしているからだ。

   もちろん、蝶の夢の食事もハロウィン仕様

   となっている。


   そんなハロウィン一色になっている

   蝶の夢の従業員専用の建物にて角つきの

   三角帽子をかぶり、カボチャのポーチを

   つけた魔法使いの格好をした満月うさぎの

   姿があった。足元には角とコウモリの羽を

   つけたうさぎ達がぴょんぴょん跳ねている。

   

   「女将さんが用意してくれた魔法使いの

   魔族さんの衣装、とてもかわいいです!

   うさぎ達の衣装も用意してくださって

   本当にありがたいです! このポーチも

   とても可愛いです!」

   「そう言ってもらえると嬉しく思う。

   ポーチは俺が作ったんだ」

   

   喜ぶ満月うさぎの隣には案内兼

   護衛に黒い猫耳をつけ、執事の姿を   

   したナランキュラスがいる。


   「そうだったのですか?!

   ナランキュラスさんは手先が器用

   なのですね!」

   「女将さんの指導のおかげだ。

   ほら、着いたぞ」


   ナランキュラスはある襖の前で立ち止まる。


   「用意はいいかな?」

   「勿論です!」


   満月うさぎが頷くのを見たあと、

   ナランキュラスは勢いよく襖を開け、

   満月うさぎは襖の向こうにいる者達に

   声を掛ける。


   「は、ハート・オア・トリート!

   です!」

   「あらまあ、可愛らしい魔女さんが

   来てくれたわぁ」


   襖を開けた先には際どいスリットが

   入ったチャイナドレスを着こなす

   キョンシーの仮装をした美女、タカオ。


   「キャー! 本当にカワイイ!!」


   その隣には薔薇色の髪に猫耳を

   ぴくぴくと動かし、ミイラモチーフの

   ドレスを着こなす元気いっぱいの

   美少女、モゼ。

   

   「満月うさぎちゃん達が参加するって

   本当だったんだ」


   満月うさぎ達を興味津々で見つめる

   ツギハギの特殊メイクをしても   

   綺麗さが際立つ、ゾンビの仮装を

   したダウナー系の美女、シーラだ。

   隣には同じツギハギの特殊メイクを

   したシーラの従魔である亀もいる。


   「わわっ!! 蝶の夢のトップ3が勢揃い

   です!! 衣装もとてもお似合いです!」

   「ふふ、おおきに。満月うさぎはんも

   可愛らしゅうてよう似合っとるよ。

   ハロウィン楽しんでくれると嬉しいわあ」


   タカオは大輪の花が咲き誇るような

   笑みを浮かべながら満月うさぎに

   棒付きキャンディを渡す。


   「うさぎはん達も食べれるとフェイルート様

   のお墨付きや。受け取って」

   「ありがとうございます!」

   「あたしからはこれ! 地元のマルト

   マルシェで生えてるお花を使ったクッキー

   だよ! 満月うさぎちゃん達も食べれるよう

   に作ったから!」

   「あーしからはこれ。うちの子達、

   とくにこのあーしの横にいるアンコの

   オススメのゼリーだよ。地元の

   ティアマットで大人気だから味は

   保証するよ」


   モゼ、シーラも満月うさぎに渡す。

   満月うさぎは嬉しそうに顔を綻ばせる。


   「ありがとうございます!」

   「喜んでもらえてなによりやわあ。

   他の人達も来るの待っとるから

   行っといで。キュラスはんは

   満月うさぎちゃん達をよろしゅうね」

   「はい。きちんと案内してみせます」


   タカオに礼をするナランキュラスに

   モゼはアハハと笑う。


   「キュラスくんは相変わらず固いなあ!

   せっかくのハロウィンなんだからハジケちゃ

   えばいいのに! 満月うさぎちゃん達も

   もちろんハロウィンを楽しんでね!」

   「ハッピーハロウィン!」 

   「はい! ハッピーハロウィン! です!」

   「では、失礼いたします。

   次に向かおうか」  


   満月うさぎは嬉しそうにもらったお菓子を

   ポーチに入れ、満面の笑みを見せた。

   ナランキュラスは襖を閉めると、

   次の部屋へと向かった。



   ーーーーーーーー


   しばらくして、フェイルートの部屋に   

   来た満月うさぎはポーチに入りきらない

   お菓子を両手に抱えながら嬉しそうに

   報告する。うさぎ達ははしゃぎ疲れて

   座布団の上で気持ちよさそうに寝ている。


   「皆様からこんなにいっぱい

   お菓子をいただいちゃいました!」

   「楽しんだみたいでよかったな!」

   「それら全部は君達も食べれるもの

   だから安心して食べていい。

   俺達もお菓子を用意しているんだが……」

   「!? 御二方! ハート・オア・トリート!

   です!」         

   

   フェイルートの言葉に目を丸くしたあと      

   満月うさぎは笑顔で告げた。

    

   「こりゃイタズラされたら大変だなあ。

   ほらよ、俺様のオススメだ」

   「俺からはこれを」


   レイヴンからはマシュマロ、フェイルート

   からはカボチャの形をクッキーだ。


   「わあ!! ありがとうございます!!

   とても嬉しいです!!」

   「おっと、もう1人、渡したいのが

   いるみたいだぜ? 意外とこういった

   イベントが大好きな奴が」

   

   はしゃぐ満月うさぎにレイヴンは

   悪戯っぽい笑みを浮かべながら告げた。


   「もう1人?」

   「君の隣にいるだろ? 渡すタイミングを

   逃して焦っている男がね」

   「…………レイヴンさんとフェイルート様

   にはお見通しのようですね」


   フェイルートの言葉に満月うさぎは

   ナランキュラスを見た。   

   ナランキュラスは両眉を下げながら

   頬をかいた。    

   

   「渡すタイミングを見計らっていたの

   ですが、なかなか掴めませんで……。

   満月うさぎ、俺にも合言葉を言って

   ほしい」

   「今日1日お世話になったのにいいん

   ですか?」   

   「俺は君達の付き添いをしたまでだ。

   世話なんてとんでもない。むしろ一緒に

   ハロウィンを楽しんでいた。だから

   合言葉を」 

  

   ナランキュラスは楽しかったと笑う。

   その笑顔に嘘はないとわかった満月うさぎ

   は嬉しそうに合言葉を紡ぐ。


   「ナランキュラスさん!

   ハート・オア・トリート! です!」

   「どうぞ、これでイタズラは許して

   くれないかな?」

   

   ナランキュラスは満月うさぎに      

   グラノーラのクッキーを渡す。


   「わあ! 木の実とかも入っていて   

   美味しそうです!」

   「それはよかった。ぜひ食べてくれ」

   「今日、初めてハロウィンに参加しまし

   たが、とても楽しいものなんですね!

   ハロウィン最高です!」

   「来年も参加するかい?」

   「もちろん! 参加させていただきます!」


   フェイルートの言葉に満月うさぎは

   満面の笑みを浮かべた。


 

 

ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーー


「そういえば、恩人さま方は仮装しないの

ですか?」

「俺様は天狗、色香大兄は吸血鬼の仮装

してたんだけどなあ……。色香大兄を見て

倒れるは襲いかかるは数が多くてよ」

「あまりに多いからやめたんだよ。

レイヴンも付きまとわれて仕事に

ならなくなったんだ」


ため息を吐く2人に満月うさぎは

納得する。


「お2人は人気者ですからね。一目でも

見たかったのでしょうね。私も見たいと

思いましたし。お2人の仮装姿を」

「………少しだけなら着ようか?」

「色香大兄は本当に優しいこった」


フェイルートの言葉にレイヴンは

頭をかきながら女将に声を掛ける。


「悪いな、女将。衣装を用意……

もう用意したのか。早いな」

「さて、着替えてこよう。

ここで待っていてくれ」

「はい!」


去り際にフェイルートとレイヴンは

満月うさぎの頭を撫でていった。


「よかったな、満月うさぎ」

「本当によかったです!」


ナランキュラスの言葉に

満月うさぎは嬉しそうに笑った。






「色香大兄、人間にもその優しさを

分けちゃくれねえか? そしたら俺様が

やってる仕事が減るんだけどよお」

「こっちを見るやいなや襲いかかる

連中に気を配れと?」

「……色香大兄から見たら人間、いや

人型の奴らは大体そうなるからなあ」


こりゃ無理だなとレイヴンはこぼした。




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