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30話 契約を結んだモノ



塔から3分程歩いた場所に4人はいた。

ジークスは勿論頭巾を使って身を

隠している。


周囲が木に囲まれ、芝生が整備された

ひらけた場所で、ヴィーメランスの

言う通り、鍛練にはもってこいだ。


奥にある石で作られた小屋から

ブレイズが様子を見ながらご飯を

食べている。


ヴィーメランスは周囲に気配がないか

確認し、口を開く。


「ここなら問題ないでしょう」

「気配はないように思える」

「じゃあ、パパ喚んでみよう!」

「うん……」


3人は何が起きても動けるように、

態勢を整え、郁人から少し離れる。


郁人は深呼吸をし、気を引き締めた。


(……あれ?)


どう喚べばいいのかわからないことに

今更気付く。


(ライコは無意識でスキルを使うと

言ってたし、意識して喚ぶのは難しいの

かもしれないな。

どう喚べばいいんだ……?

何か手順でもあるのか?)


顎に手をあて考えると、声がかかる。


<会いたいって思えばいいんじゃ

ないかな?>


振り向くと、チイトが見つめていた。


<だって、今から喚ぶ奴は自分からパパと

契約したんだから会いたいはずだよ。

だから、パパが会いたいって思えば

きっと来るよ>


以心伝心(テレパシー)でチイトは伝えると、

無邪気に微笑んだ。


(……そうかもな)


チイトの言葉がストンと心に落ちる。


(知らない内に自分から契約してきたんだ。

喚んだら来てくれる筈。

顔も見たいし、なぜ契約したのかも

知りたい。

だから……!)


郁人は念じ、声に出す。


「お願いだ!来てくれ……!」


瞬間、体中の血が沸騰したのかと

思うくらいに熱くなった。


熱は取られたかのようにすぐ収まり、

力が一気に抜ける。


「っ……?!」


立っていられなくなり、踏ん張ろうと

したが無駄だった。


「イクト?!」

「パパ?!」

「父上?!」


地面に倒れそうになる郁人に3人は

駆け寄り手を伸ばす。


が、誰のでもない4人目の手が郁人の腕を

前から掴み、倒れるのを防いだ。


「ありが……とう……」


手から視線を上らせていくと、

年期の入った重そうな鎧を身に纏った

騎士がいた。


目玉がある筈の場は空洞で、顔には

皮膚も肉も存在しない。

見えるのは無機質な白い骨のみ。


郁人にはとても見覚えのある姿だった。


「スケルトン騎士(ナイト)……!?」


スケルトン騎士は郁人を立たせると、

深く1礼する。


「もしかして……パパが迷宮で会った奴?」


駆け寄っていたチイトがスケルトン騎士を

見て、郁人に尋ねた。

質問に郁人は頷く。


「多分……そうだと思う。

!!……あの時の騎士なら!」


郁人はホルダーに入れていたハンカチを

取り出し、スケルトン騎士に見せる。


きちんと洗濯し、機会があれば返そう

と持っていたのだ。


「これ……わかるか?」


すると、スケルトン騎士は郁人の鼻を指し、

首を傾げる。


どうやら、会ったときに郁人が鼻血を

出していたことを示し、大丈夫か?

と尋ねているようだ。


「うん、もう大丈夫。

ハンカチもありがとう」


郁人が手渡すと受けとり、ハンカチを

しまった。


「イクト、この騎士が例の……」

「うん。

迷宮で助けてくれたスケルトン騎士だ」


左に立つジークスに聞かれ、

小声で郁人は頷く。


「君から聞いた話を照らし合わせると

このスケルトン騎士はおそらく……

昔に亡くなった者が変わり果てた姿の

ほうだろう」


ジークスは顎に手をやった。


(話からすると……

スケルトン騎士に種類があるのか?)


頭に疑問符を飛ばす郁人にジークスは

説明する。


「スケルトン騎士は2種類に分かれている。

1つ目は鎧に魔物が取り憑いた者、

2つ目は未練を持って亡くなった者が

年月を経て魔物になった者になる。

彼はこちらの言葉を理解しているので

2つ目のほうだと判断したが……」

「成る程……」


郁人はジークスの話を聞き頷くと、

スケルトン騎士に尋ねる。


「あのさ……スケルトン騎士は鎧に

取り憑いた者、未練を持って亡くなった者が

年月を経て魔物になった者のどちらかに

分かれているみたいだけど……」


頭巾の力でジークスの話は郁人以外に

聞こえていないので、代わりに答え合わせを

すると、2本指を立ててスケルトン騎士は

頷いた。


「2つ目のようだな」

「なぜ貴様は父上の許可をとらずに

契約した?」


郁人に危害を加えないか警戒し、

右前方に控えていたヴィーメランスが

問いかけるが、スケルトン騎士は答えない。


いや、答えようとしているのだが骨が

鳴るだけだ。

乾いた音だけが響く。


「紙に書いてもらえるか?」


郁人は紙とペンを渡し、スケルトン騎士は

受けとる。


しかし、書こうとしてもインクは出ない。

首を傾げながら何度も書こうと

挑戦している。


チイトはペンについて述べる。


「そのペン、パパのスキルだよね?

ユニークスキルは他人が使うことは

出来ないから書けないんだよ」

「……無意識で使ってた。

ごめん。そのペン俺以外に使えないんだ」


郁人は無意識で使っていたようで、

口をポカンと開けた。


スケルトン騎士から紙とペンをとりあえず

返してもらう。


スケルトン騎士の先程の動きから、

ジークスは分析する。


「文字を書こうとしたことは、

生前、彼が上流階級の者だと判断できる。

文字を書くとなると別だからな」

(そうだった……。

日本とこっちの世界では違うん

だったな……)


この世界の識字率は日本に比べると

かなり低く、読むことが出来る者は

多いのだが、書くとなるとまた別の話に

なるのだ。


紙やペンなど買う金があっても、

書くには勉強する時間が必要になる。


時間を設けるとなると貧しい身分の者は

その時間を生きるために働くことに

使うだろう。


勉強する暇があるなら稼ぎたいからだ。


となると、時間を設けられるのは

金銭面等に余裕がある者となる。

ゆえに、上流階級出身と判断した。


上流階級の者ならば、書けるということも

上流で居続ける為に必須条件なので

書くことが当然できる。


(俺の居た世界基準で行動していたな……。

さっきの行動で気を悪くする人が

いるかもしれない。

スケルトン騎士は気にしてないようだけど、

これからは気を付けよう)


自身の行動を振り返り、反省する。


「意志疎通できるのはいいが、

やはり話せたほうがいいな……」


チイトは考えると、郁人に提案する。


「ねえ、パパのスキルを使うのは

どうかな?」

「俺のスキルを?」


提案に郁人は自身を指差す。


「うん!

紙に舌を描いて口に入れるの!

迷宮のときも出来てたし、その要領で

出来るかも」


チイトが右腕に抱きつくと、空間から

画板を取り出し手渡す。


「……やってみるか」


受け取ると、郁人は画板のストラップを

首にかけ、常に持っている紙を固定する。


「君は描くのが上手いからな。

君に書いてもらえれば絶対に大丈夫だ。

メニューに描いてある料理のイラストも

見事なものだからな」

「当然だ。

父上の絵は素晴らしいからな」


ジークスは自分のことのように

誇らしげだ。

ヴィーメランスも自慢気に胸を張る。


「舌か……チイト。

ベーって舌を見せてもらってもいい?」

「いいよ。

影にならない場所に立ったほうが

いいかな?」

「ありがとう」


スケルトン騎士の舌の代用なので、

想像で描いて失敗しては困るので

お願いした。


快諾したチイトは、一旦右腕を放すと

日陰にならない位置にいき、

言われた通り、郁人に舌を見せる。


頼られて嬉しいのだろう、チイトの

表情は穏やかだ。


郁人はチイトを見ながら描き始める。


ジークスやヴィーメランスは郁人の気を

散らさないように、描いている姿を

後ろから少し距離をとりつつ見守る。


2人と同じように離れたスケルトン騎士も

興味深いのか観察しながら腕を組む。


(見守られているの懐かしく思うな。

なんでだろ……?

妹……ではないか、別の……)

<どうしたの?>


なぜかと首を傾げていると、

チイトに声をかけられた。


(なんでもないよ)


舌を出してもらいっぱなしは申し訳ないので

郁人は気持ちを切り替える。


切り替えてからのペンは素早く、

あっという間に描きあげた。


大丈夫か確認して、郁人は頷く。


「……よし、描けた。

チイトありがとうな」

「どういたしまして!」


頭を撫でられチイトは嬉しそうに微笑む。


完成品を2人はスケルトン騎士に

持っていく。


「あとはこれを入れてっと。

……ごめん。

悪いけどしゃがんでもらってもいいかな?」

「こいつも何気に高いよね。

足を削ればいいんじゃないかな?」

「それはダメ」


スケルトン騎士はジークスより少し

低いくらいだが、ヴィーメランス同様、

背が郁人より10㎝以上差があるため

入れようと頑張っても、紙が届かないのだ。


背の高さにチイトが唇を一文字に結び、

ヤスリを取り出したのを郁人は抑える。


スケルトン騎士は頷くと、

言われた通り郁人の前にしゃがむ。


「ありがとう。

じゃあ、入れるぞ」


郁人が入れた瞬間、口内の紙が淡い光を

放ち消えていく。


「これは……」


目の前のスケルトン騎士から

涼やかな低い音が聞こえた。



ーいや、"音"ではなく"声"だ。



スケルトン騎士は勢いよく立ち上がり、

身を震わせる。


「このように声を出せるように

なるとは……?!

懐かしい……これは……私の……!

私の声だっ……!!」


喉に手をあて、嬉しいのだろう、

あーと声を出し続ける。


「すごいよパパ!」

「やったな、イクト!」

「流石です。父上」


郁人の腕をとり、チイトは上下に

勢いよく振る。

ジークスは瞳を輝かせながら駆け寄り、

ヴィーメランスも尊敬の眼差しを向ける。


「ありがとうございます、マスター」


スケルトン騎士は郁人に頭を下げる。


「マスター?」

「貴方は私の主ですから。

イクト様でしたよね?

これからよろしくお願いいたします」


マスター呼びに首を傾げた郁人に

スケルトン騎士は答え、再び頭を下げた。


ヴィーメランスは警戒を怠らず、

いつでも剣が抜けるようにしながら

尋ねる。


「話せるようになったのならもう1度

問おう。

なぜ勝手に父上と契約した?」

「それは……」


問いに、スケルトン騎士は口を開いた。


ー瞬間




「あー!?本当に帽子取ってる――!!!」




喚声が1帯に響いた。






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