280話 懐かれてしまった
ぬいぐるみを作り終えた郁人達は
ラッピングしている。
「こんな感じでいいかしら……?
うん、いい感じだわ!」
〔あんた、本当に手先器用よね!
袋のラッピングも綺麗だわ!〕
(ありがとう、ライコ)
郁人は自身が作った龍を袋に入れ、
リボンで綺麗にラッピングした。
デルフィはそんな郁人の手先の器用さに
感心する。
「母さんは本当に手先が器用ですね。
ぬいぐるみの首にリボンをつけたときも
とても綺麗でしたから」
「ありがとう。デルも綺麗に出来てるわ。
ぬいぐるみもちゃんと出来て良かったわね」
「ありがとうございます。ぬいぐるみ作りは
初めてしてみましたが……楽しいですね、
こういうの」
デルフィは自分の手で1から作り上げた
テディベアを見て満足げだ。
「その……また作ってみたいので、あとで
生地とかみてもいいですか?
入ったときにありましたので」
「いいわよ。一緒に見ましょうか」
楽しかったのを隠しながら、少し
照れくさそうに告げるデルフィに
郁人は微笑ましくなりながら頷いた。
「………お嬢様、こちら本当にお一人で?」
「頑張って作ったの! あたしでも頑張った
ら出来るんだから!」
ベロペロネが作ったうさぎのぬいぐるみを
見ながら尋ねたカーディにベロペロネは
当然でしょ! と胸を張る。
カーディはその言葉を聞いて、目を
見開く。
「あのじっと座っているのが苦手で、
ひたすら槍を振り回していたとされる
あのお嬢様が……?!」
「誰から聞いたのよ、その話!!
言いふらした奴を槍の餌食に……」
「奥方様です」
「もぅ〜〜〜!! お母様〜〜〜!!!
なんでこいつに言うのよ〜〜!!」
返り討ちにあうから無理じゃない!
とベロペロネはうなった。
「あの、ベロペロネさんはとても頑張って
おりましたよ。わからないことがあれば
スタッフの方にお聞きしてましたから」
〔すぐ投げ出すかと思ったらしなかった
ものね〕
疑っていたカーディに郁人は告げ、
デルフィもその言葉に付け足す。
「たしかに……指に針を何度か突き刺して
涙目になりながら頑張ってましたね。
布が真っ赤な血染めにならないか見たとき
心配になりましたけど」
「そこまで突き刺してないわよ!」
「……お嬢様、本当に頑張ったのですね。
旦那様には勿論、奥方様にもお見せ
してあげてください。とても喜ばれると
思いますから」
「……そりゃ当然するわよ。あたしが
頑張って作ったんだから」
カーディに言われ、ベロペロネは大切に
自分が作ったぬいぐるみを抱きしめた。
そのあと、郁人に話しかける。
「ハンカチ……その、ありがと」
「どういたしまして」
「それで……その……」
ベロペロネは渡したあと、緊張して
いるのか何度か口ごもらせた深呼吸
したあと尋ねる
「……ねえ、あの。えっと……
あ、貴女は名前はなんて言うの?」
「? 私の名前ですか?」
「うん。あたしはベロペロネ。
"赤槍のベロペロネ"とも呼ばれてるわ。
貴女は?」
ベロペロネに尋ねられ、きょとんと
しながらも答える。
「私は……"スノウ"と申します」
郁人はこの体験に申し込む際、名前の
記入欄をどうするか悩み、真っ白な
デルフィを見てこの名前にしたのだ。
ベロペロネは名前を聞いて、瞳を
キラキラとさせる。
「スノウさんね! 髪も肌も雪みたいに
白いからピッタリの名前ね!
スノウさんは携帯は持ってる?
コンタットはしてるの? よかったら
連絡先を交換してもらえないかしら?」
「えっと……」
携帯は1つしかなく、郁人の名前なので
コンタットでバレそうな可能性がある為
言葉をつまらせているとデルフィが
代わりに答えてくれる。
「母さんは持ってませんよ。なんです?
そのナンパの定型文は?」
「ナンパじゃないわよ! その……あたしは
このあとは依頼があるし後日でもいいから
ぬいぐるみのお礼が出来たらって!」
このまま関係が終わるのは嫌だと
ベロペロネの目を見てわかった。
あまりに必死なので郁人は考えた結果、
告げる。
「その、携帯は持ってなくて……
ごめんなさいね。でも、大樹の木陰亭の
女将さんと仲良しだから、女将さんに
伝言を言ってくだされば連絡はとりあえ
るわ」
「本当に!?」
持っていないの言葉に肩を落としていた
ベロペロネだったが、一転して目を
キラキラと輝かせた。
そんなベロペロネに目をぱちくり
させたあと郁人は頷く。
「えぇ。頻繁にこちらには来れないけど、
来れた日は必ず女将さんのところに
行くようにしますから」
「やった! 絶対連絡するから!」
「お嬢様、そろそろ……」
「わかったわよ!! ラッピングも出来たから
大丈夫!!」
カーディに声をかけられ、ベロペロネは
席を立つ。
「じゃあ、また!! 会いましょうね!!
スノウさん!!」
ベロペロネは何度も振り返り、手を
ぶんぶんと振って去っていった。
カーディはそれを微笑ましく見ながら、
お辞儀して後を追った。
<……母さん、よかったんですか?>
ベロペロネに手を振り返した郁人を
見ながらデルフィは声をかけた。
郁人は頬をかきながら答える。
(騙してるようで罪悪感はすごいけど、
冷たくしたらあの子すごく落ち込みそうで
さらに罪悪感で押し潰されそうだから……。
俺のことなんかお姉さんみたいに
見てたし……)
<あれ、ライバルとかじゃくて憧れの
お姉さんみたいな目で見てましたもんね。
母さん……好意に弱いんだから>
デルフィはため息を吐く。
<1人で会うのは駄目ですので。絶対に
俺がそばにいるときだけですよ>
(大丈夫。この姿のときはデルフィの
そばから離れないから。子供を置いて
勝手にどこかに行くなんて駄目だろ?)
デルフィは綺麗だから変な人が目を
つけるかもしれないしと郁人は告げた。
<………現在進行系で目をつけられてる
母さんに言われたくないんですが>
チイトに報告しないといけませんね
とデルフィはまたため息を吐いた。
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