279話 相性が悪い
別室へ隔離されたデルフィとベロペロネ。
そんな2人の前に郁人とガーベラがいる。
なぜあのような状況になったのか
郁人は尋ねる。
「どうしてあんな状況になったの?」
「……この女が突然、母さんを紹介しろ
って言ってきたんです。母さんを敵視
していた方にどうして俺がわざわざ紹介
しなければならないのか……全くもって
理解できません」
わざとらしくため息を吐き、メガネを
指であげるデルフィ。
「たっ……たしかに睨んでたのは事実よ!
でもでもっ! 体験しているうちに気が
変わったの!!」
(え? 俺、睨まれてたの?)
〔気づいてなかったのね、あんた…。
気付いてなかったから、あんなふうに
親切にしてたのね〕
鈍い郁人にライコは思わずため息を
吐いた。
〔あんたはバレやしないか緊張して
いたから気づかなかったのでしょうね。
このマゾっ娘、最初はあんたをずっと
睨んでたのよ〕
本当にこっそりとだけどとライコは続ける。
〔あたしは気付いてたけど、手作り体験が
はじまったらそっちに夢中になってたから
言わなかっただけ〕
(そうだったんだ! でも、なんで睨んで
たんだ? チイト関係ぐらいしか思い
浮かばないけど……)
首をかしげる郁人にデルフィは
説明する。
「この女、偶然母さんを見かけて
追いかけてきたようでして……。
母さんに危害を加えようなら……
俺は対抗しますから」
「たしかにこの女がチイトくんの……! と
思って敵意はあったけど今は違うわよ!」
目を吊り上げるデルフィにベロペロネは
反論する。
「あたしが睨んでたのに、困ってたら
さり気なく助けてくれて……! 裁縫でも
あたしよりスムーズに進めるのに、
難所のところであたしがわかるように
ゆっくりしてくれて……!! あたし、どん
どん敵意を持ってたのが恥ずかしく
なって……! だから、謝りたかったの!!」
もう敵意すら無いわよ! とベロペロネは
訴えた。そんなベロペロネにデルフィは
尋ねる。
「なら、体験終わりに声をかけて
謝れば終わりです。わざわざ俺に
紹介を求めなくてもよいのでは?」
「………友達になりたくなったの!」
ベロペロネは恥ずかしさに顔を赤く
しながら答える。
「敵意無しで見たら、立ち振る舞いとか
本当に綺麗でお母様がよく立ち振る舞い
には気を遣え! って言ってた理由が
わかったもの! 何もしなくても立ち振る
舞いをきちんとしてたら自然と目を
引かれるんだってわかったから!」
所作1つ1つがとっても綺麗なんだもの!
とベロペロネは絶賛する。
〔たしかに、あんた女装してるとき
所作が綺麗よね。淑女しかりとした
貴族でもそんなに綺麗な人はなかなか
いないものよ〕
(ありがとう。囮捜査のときに頑張った
からな)
ライコにも褒められ、郁人は夜の国での
努力の成果が現れていたんだなと実感した。
ベロペロネは郁人をチラッと見たあと
続ける。
「それに見た目も本当に綺麗だし、
優しさも押し付け感なくて素直に受け
止められて……!! チイトくんが惹かれた
のもわかったから、友達になって綺麗
さの秘訣とか所作についていろいろ
教えてほしいと思ったのよ!」
あたしも立派なレディになれるかも!
と目を輝かせるベロペロネにデルフィは
提案する。
「教えてほしいなら別に友達じゃなくても
先生でいいのでは?」
「それじゃあ仲良くなれなそうじゃない!
あたしは友達になりたいの!」
「貴方……母さんにも友達を選ぶ権利は
ありますが? ご存知でない?」
「なによその言い方は!! あたしは友達に
ふさわしくないって言いたい訳!?」
たんたんとした物言いながらも
敵意むきだしのデルフィと
ぐるると唸るベロペロネは火花を
散らし合う。
そんな2人の間にガーベラが入り、
話を整理する。
「お2人とも、落ち着いてくださあい。
ようするに。ベロペロネさんは御婦人と
友達になりたくて、息子さんは嫌なん
ですよねえ?」
「はい。母さんを敵視してましたので。
聞きましたが、貴方はチイトさんを
狙っている方ですよね?」
聞いてるんですからねとデルフィは
メガネをあげる。
「貴方は母さんと仲良くなって
チイトさんとの架け橋になってほしい
んでしょう? そんな下心しかない、
食べ物に仕込む常識無しの輩は
お断りです。とっととハウスしたら
どうですか?」
とデルフィはシッシッと手で
ベロペロネを払う。そんなデルフィに
ベロペロネは反論する。
「架け橋とかじゃないから! あたしは
綺麗になるコツとか教わりたいだけ!
仲良くなって一緒にお茶とか飲んで
ケーキ食べたりしたいの!!」
「まあ、たしかに母さんは綺麗です
からね。教わりたくなる気持ちは
わかります。けど、お茶とかは
同年代の方としたらどうです?
……あぁ、そうですか。失礼しました。
貴方、いなそうですもんね……。
同年代の女友達」
「うぅ〜〜〜〜!!!!」
鼻で笑うデルフィにベロペロネは
図星をつかれたのか涙目で唸っている。
〔あの丸っこいときの素直さはどこに
行ったのよ……。猫被りの口の悪さ
とかうつってない?〕
「デル! 泣かせちゃダメじゃない!」
ライコはため息を吐き、郁人は
ベロペロネに謝る。
「うちの子がごめんなさいね」
「こいつが母さんを敵視したからです。
先手必勝。このまま完膚無きまでに
叩きのめしてやりますよ」
容赦のないデルフィに郁人は制止し、
謝罪をうながす。
「戦いじゃないのだからやめなさい。
ほら、泣かせちゃったらどうするの?」
「……図星をついてすいませんでした、
見栄っ張りボッチ女」
「うわぁぁぁぁん!!」
「デル! いじわるしないの! うちの子が
本当にごめんなさい!」
泣き出したベロペロネに郁人はデルフィ
を叱ったあと謝罪する。
「……貴女は悪くないじゃない。
あたしこそ、敵視してごめんなさい」
「気にしないで。貴女は敵視しても
攻撃してこなかったのだから」
郁人は涙をポロポロ流すベロペロネに
ハンカチを差し出す。
「そんなに泣いたら目が腫れちゃうわ。
こちらを使って」
「ありがとう……」
「お嬢様こちらにおられましたか!」
ベロペロネがハンカチを受け取っていると
額に汗をかいたカーディが現れた。
よほど探していたことがわかる。
「見つけましたよ!! 勝手に動かない
ように言いましたよね!」
「ごっ……ごめんなさい……」
「ほら、行きますよ! これから依頼が
ありますから!」
「でも……ぬいぐるみ……まだ……」
「あの、少しお待ちいただいても
いいかしら?」
カーディに連れられそうになる
ベロペロネを郁人が引き止める。
「彼女はぬいぐるみ作りをしていまして、
あと少しで完成なのです。ですから、
完成させる時間だけでもいただけま
せんか?」
「こちら側としましても完成させずに
お渡しするのはねえ〜。その方、きちんと
ぬいぐるみ作りの体験の料金も支払って
ますからぁ」
ガーベラも伝えると、カーディはしばらく
顎に手を当てた後、口を開く。
「なるほど、そう言うことでしたか。
かしこまりました。お嬢様、完成させた
あと依頼に行きますよ。依頼人は以前、
お嬢様がご迷惑をおかけした方ですので」
「わかった! ちゃんとするわ!」
手を抜いたりしないわとベロペロネは
頷く。
「では、体験に戻りましょうかあ〜。
グラジオラスさん、案内してあげて
ください〜」
「かしこまりました!」
グラジオラスに案内され、郁人達は
教室へと戻った。
<母さんは優しすぎです。食べ物に
仕込まれる可能性だってあるんです。
とことん締めなければ>
(そこはきちんと怒ったからしないはず
だよ。守ろうとしてくれたのは嬉しい
けど、やりすぎたらダメだからな?)
<……もし、怪しい動きをしたら容赦
しませんので>
デルフィはしぶしぶ納得したようだ。
そんな郁人の背中をじっと見る
ベロペロネ。
「お嬢様、目元が赤いですがどうされ
ました? そのハンカチも……」
「気付くのが遅いわよ。あたしの
行動には目ざといくせに。
このハンカチは……あとで返すわよ」
ベロペロネはハンカチを大切そうに
握りしめた。
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