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277話 水龍の番




   「ぬいぐるみってこういったもので

   作られるのね! 初めて見たわ!」


   目を輝かせながら辺りを見渡すベロペロネ。

   郁人はベロペロネの姿に目をぱちくり

   させる。


   (なんでここにいるの?! ぬいぐるみとか

   作るイメージは無いんだけど……)

   〔どちらかというと完成品を買うか、

   使用人に作らせるイメージがあるわね。

   ここにいるのはあんたをつけてきたん

   じゃないかしら?〕

   (俺を?)


   頭上にはてなマークを浮かべる郁人に

   ライコは続ける。


   〔だって、あの猫被りは諦めさせようと

   したときに今のあんたの写真を見せた

   じゃない。だから、あんたを見つけて

   追いかけてきたかもしれないわ〕

   (だとしてもなんでだ? チイトが近くに

   いると思ったのか?)


   首をかしげる郁人にデルフィが声を

   掛ける。


   「母さんは決めたんですか?」

   「えっと、じつはもう決めてたのよ。

   ほら」

   「これは……龍ですか?」


   郁人が見せた型紙は龍のものだ。

   翼は無く、首に宝玉があることから

   ドラゴンではないことがわかる。

   デフォルメされており、可愛らしい

   雰囲気となっている。


   「そう、龍よ。珍しかったからこれに

   したの」


   縁起もいいみたいだしと郁人は説明した。


   「龍はたしかに珍しいですね……。

   じゃあ、俺は基本のこちらにします。

   裁縫は初めてですので」


   デルフィは数ある型紙からクマの

   型紙にした。


   「もうお決まりになりましたか?

   あっ! 珍しいのを選ばれましたね!」

 

   グラジオラスはあっと声をあげると、

   パッと表情を明るくさせた。


   「はい。珍しかったのでこちらを

   選びました。本当に珍しいので驚いたわ」

   「じつはその型紙はぼく……ごほん、

   いえ、私が作ったんです! 私、龍が好き

   なのでオーナーにお願いして体験の

   型紙に混ぜてもらったんです!

   あまり選ばれることが無かったので

   とても嬉しいです!」


   弾ける笑顔を魅せるグラジオラスは

   本当に嬉しいようだ。


   「体験が終わったらよかったら

   ぬいぐるみコーナーもありますので

   ぜひ見てください! もちろん! 龍の

   ぬいぐるみもありますから!」

   「ぜひ、見させていただきますね」

   「ぜひぜひ! おや、お悩みですか?」


   郁人が頷くと隣のベロペロネに話し

   かけた。


   <……この人、なんでここにいるんで

   しょうか?>

   (なんでって……えっと、グラジオラスさん

   のことか?)


   デルフィの視線をたどればグラジオラス 

   がいた。郁人は尋ねると、デルフィは

   告げる。


   <だって、この人……>

   「では、皆様決まりましたので次の工程に

   向かいますね!」


   デルフィの言葉はグラジオラスの声で

   中断された。


   <…………あとで話しますね>

   (わかった)


   デルフィの言葉に郁人は頷くと、

   グラジオラスの説明を聞いた。



   ーーーーーーーー



   ぬいぐるみの型紙を布に写したあと

   切って縫っている最中だ。


   「見回っていますので、気になることが

   ありましたらお声掛けくださいね。

   おや、どうしました?」


   グラジオラスは声をかけると、早速

   手を上げた親子のもとへ向かっている。

   郁人は縫いながらデルフィに尋ねる。


   (デルフィ……その……)

   <先程のことですね。店員のグラジオラス

   さんのことですがこの方、番ですよ?

   水龍族のトップの番です>

   (えっ?! 番っ?!)

   〔この人が番なの?!〕


   お嫁さんってこと?! と郁人は目をぱちくり

   させ、ライコも声をあげた。

   デルフィは気付いた理由を述べる。


   (なんでわかるんだ?)

   <妖精の目は特殊でして、魂の色を

   見ることが出来るんです。魂の色から

   その方の性格や生き方などを見ることが

   出来ます。そして、妖精王の目となれば

   その魂に引っ付くものも見れるんです>

   (ひっつく?)


   魂に? と不思議がる郁人にデルフィは

   説明する。


   <魂に引っ付いているもの。それはその

   魂の持ち主を想っている方の想いです。

   その引っ付いているものの捉え方は

   様々ですが、俺には糸が巻き付いている

   ように見えます。そして、その糸を見たら

   どういった種族でその方をどのように

   考えているのかもわかるんです>


   長年見てきたからわかることですが

   とデルフィは続ける。


   <先程のグラジオラスさんにはとんでもない

   糸……いえ、鎖が巻き付いてました。

   鱗が生えた鎖で見ているだけでゾッとする

   ほどの執着具合です。しかも、鎖に水龍族

   の印がつけられていましたので、そこから

   番だと判断したんです>


   なぜ番がここにいるのかは不思議ですけど

   とデルフィは説明した。


   〔妖精の目は特殊なのよね。それも元

   妖精王の目だもの。見えないものが

   ハッキリ見えたりするわ〕


   本当に特殊なのよねとライコは呟く。


   〔それにしても……水龍族のトップの性別が

   変わったタイミングが最近だから、この

   店員が番と自覚したのは最近ってことに

   なるわね。だとすると、店員の前世が

   番で、その記憶を思い出したのかしら?〕

   (どうして前世が番だと思うんだ?)


   尋ねた郁人にライコはわかりやすく

   説明をする。


   〔まず、前提条件として龍の番に

   対する想いは想像するより遥かに

   重いし、凄まじいものよ。

   なんせ、龍は番を生涯に1人しか

   決めないほど一途なのだから。

   龍は寿命が遥かに長いから番が短命種

   だった場合、寿命差があるのは確実。

   だから、生まれ変わっても確実に出会える

   ように印をつけるくらいにね〕


   そこの白いのが言っていた印が

   その印ねとライコは告げる。


    (魂に印って龍ってそんなことが

   出来るのか?!)

   〔龍は幻獣にも数えられるくらい

   だもの。それに水龍のトップとなると

   思い出すように施すことも可能よ。

   調べたけど、昔に自分のことを思い

   出せるように施した水龍のトップも

   いたから。水龍のトップは桁違いの

   強さであるから可能なことね〕


   ちなみにに今の水龍族のトップは

   歴代のトップのなかでも本当に

   桁違いだそうよとライコは告げた

 

   〔そんないろいろと重い龍が自分の

   テリトリー外であるソータウンに番を

   1人で置いておくなんてありえない。

   だから、今店員が目の前にいること

   から今の時代に番になった可能性は

   削除されるわ〕

   (……たしかに、魂にまで印をつけている

   相手をティアマットから離れたソータウン

   に居させることはしないだろうな)


   郁人はライコの話に同意した。

   ライコはそのまま話を続ける。   

  

   〔だから、店員が前世の記憶を

   思い出したと判断したのよ。それに、

   水龍の性別がいきなり変わるのは

   以前に結ばれなかったからの可能性が

   高いもの〕

   (たしかに……グラジオラスさんの

   前世が番の可能性が高いと俺も

   ライコの話を聞いて思ったよ。

   今の時代で番になってたら新聞で

   わざわざ探すような情報が載らない

   だろうしな)


   グラジオラスさんが目の前にいるのが

   証拠になると郁人は頷いた。   


   〔だとすると、本当に不思議なのよね〕

   (なにがだ?)

   〔なんでこの店員は会いに行かないの

   かしら? まず、幻獣である龍の番って

   互いに想い合って、結婚する約束を 

   誓ってから初めて番になるのよ。

   しかも相手が水龍を想ってない限り

   番ではいられないし、逆の立場でも

   いえるわ。だから、店員がトップのこと

   を今でも想っているのは確実だもの〕


   ライコはどうしてかしら? と不思議がる。


   〔本当になんで会いに行かないの

   かしら? 水龍がいるのはティアマット

   だと新聞からでも、観光地としても

   ティアマットは有名だから絶対に

   知っているはずよ〕

   (本当に謎だな……。なにか会えない

   理由でもあるのか?)


   どうしてここにいるんだろうな?

   と郁人は不思議に思う。


   (会いに行けない理由があるとしても

   それを手紙で伝えることもできるはず。

   想っているなら会いたいはずじゃない

   のか?)


   郁人は考えていると、隣から弱気な

   声が聞こえる。


   「うぅ……よく考えたら裁縫ってしたこと

   無かった。ずっと稽古してたし、体動かす

   ほうが楽しいから授業があっても逃げて

   た……。これはどうすれば……」


   涙目でやり方が書いてある紙とにらめっこ

   しながら、糸を通した針を持って困惑して

   いるベロペロネの声だ。


   「うぅ……まだ説明してるみたいだから

   こっちに来れないわよね。強引に来させ

   たら確実にお母様に怒られるし……。

   いったいどうしよう……」


   グラジオラスを呼びたいようだが、

   親子についているので呼ぼうにも呼べない

   ようだ。


   「…………こほん」


   郁人はちらっとベロペロネ側の紙を見て、

   途中まで一緒だとわかるとわざと咳払いを

   する。


   「ここは……なるほど。最初はこう

   やるのね」


   ベロペロネにも聞こえるように呟くと、

   わざとゆっくり進めていく。


   「……!!」


   ベロペロネは郁人の手元を見て、自分が

   つまずいているところだとわかると、

   ちらちらっと見ながら自分も進めていく。


   「やった! 出来た……!!」


   ベロペロネは目を輝かせ、頬を緩める。


   〔…………見てられなかったのね〕

   (いや、だって手元がおぼつかないから

   初めてなのはわかったし、一生懸命やって

   るから……)


   努力してるならこっそり教える

   と郁人は制作に入る。


   「母さん、聞いてもいいですか?」

   「どうしたの?」


   デルフィに声をかけられ、郁人は

   デルフィを見る。


   「ここなんですけど……」

   「ここはね……」

   「………」


   教える姿をベロペロネが見ていたことを

   郁人は知らない。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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