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夏休みの宿題




   夏休みが終わり、学校がはじまる。

   夏休みの宿題は早く終わらす者もいれば、

   ギリギリまでやらずに親に尻を叩かれ

   ながらやる者もいるだろう。


   そんな夏休みの宿題を回収し、採点して

   いるある教師はあるものを目にして、

   思わず固まる。


   「なんで彼だけこんなに違うの……」


   それは夏休みの宿題の1つである

   "日記"だ。


   今日やったこと振り返り、1行にまとめて

   日記を毎日書き、その中で自分が楽しかっ

   た思い出などを絵日記にして書いてもらう

   宿題で、絵日記のほうは最低でも1枚は

   書くようにと伝えてある。


   なので、最低数を書く生徒が多く、

   多くても5枚なのだが、1人の生徒だけ

   やけに分厚いのだ。


   「桃山くん……そこまでやる気ある子だった

   っけ? 彼、成績は優秀なんだけど友達を

   作ろうとしないし、性格もズバズバ言う子

   だから少し心配なんだよね……」  


   学校は人間関係を築く勉強をする場でも

   あるのにと考えていると思い出す。


   「そういえば、三河くんとだけ交流

   していたわね。三河くんはおおらかな子 

   だから衝突したりしないからかも?」


   あの2人が一緒にいるのよく見るしと

   教師は郁人の夏休みの絵日記を見る。


   "7/31 天気 晴れ

   今日は近くの神社でお祭りがあったので

   友達の篝といっしょに行きました。

   射的をしたのですが、ほしいぬいぐるみ

   が取れなくておちこんでいたら篝が

   取ってくれてとてもうれしかったです。

   花火もいっしょに見て楽しかったです"


   と浴衣を着た2人が花火を見て笑っている

   絵とともに書いてあった。


   「三河くん、絵が上手ね! このドラゴンの

   ぬいぐるみもよく描けてるわ!」


   見ていてほんわかとする内容に思わず

   笑みが漏れる。


   「じゃあ、桃山くんもこの日記を書いて

   いるのかしら? ……分厚いから探すのが

   大変ね。これ、ほぼ毎日書いてない?

   毎日書くのは1行だけでいいのに、

   勘違いしちゃったとか?」


   7/31の絵日記を探し当てて、見る。


   "7/31 天気 晴れ 気温35℃

    今日は郁人と約束していたお祭りの日だ。

   待ち合わせ時間は17時。あいつは10分前に

   来た。あいつらしいといえばあいつらしい。

   いつも妹と来ていたらしく、友達では

   俺が初めてだと笑った。あいつの初めてを

   もらえたのは悪くない。約束したかいが

   あった。俺はひそかにガッツポーズした。

    屋台は意外といろんな種類があり、

   あいつは目を輝かせてそれを見ていた。

   リンゴ飴を買ったり、金魚すくいを

   したりと普段興味がなかったがあいつが

   食べたり、やったりしているのを見ると

   不思議としたくなる。本当に不思議だ。

   美味しいねとあいつが笑えば、ただ

   甘いだけのものが美味しくなる。   

   楽しいねとあいつが笑えば、俺も

   楽しくなる。本当不思議だ……。

    屋台を見回っていると射的にあいつが

   しているゲームに登場するドラゴンの

   ぬいぐるみが景品にあった。

   あいつは欲しい! と言って挑戦したが

   当たらず悔しがっていた。よほど欲し

   かったのだろう、目を潤ませる姿に

   突き動かされ、俺が射的をしてそのぬい

   ぐるみを取ってプレゼントするとありが

   とうと言って、笑顔をみせてくれた。

   写真を撮りたかったが、奥から妹の姿が

   見えたので、あいつの腕を掴んで走った。

   あいつの妹のことだ。絶対に合流しようと

   する。絶対に嫌だ。だから逃げた。

    神社の裏手に着いた。あいつに理由を

   聞かれ言い難かったがちゃんと伝えれば、

   今日は俺が2人きりがいいと言ったから、

   会っても2人で遊んだよ。約束しただろ?

   と微笑んだ。同時に花火があがって

   とても綺麗だった。本当に。"


   ー「長いっ……!!! 小説かっ!!」


   読み終わった教師は思わず机を叩く。

   

   「え? あたし日記を読んでたわよね?!

   なんで恋愛小説読んだ気分になるのよ?!

   あぁ!!ブラックコーヒー飲みたい!!」


   教師は買っていた缶コーヒーを

   一気飲みする。


   「桃山くん、小説家の才能があるん 

   じゃない?! 本当に小学生!? 親に手伝って

   もらった?!」


   教師は疑いながらも日記の絵を見る。


   「うまっ?! 花火をバックに笑う

   三河くんよね?! これ何で描いたの?!

   質感的に色鉛筆よね……? 彼、美術も

   いけたの!? 前の図工のとき、互いの  

   似顔絵を描きましょうのときに見た

   のと違うのだけど!? 相手が三河くんじゃ

   なかったからなの?! 手を抜いてた?!」

   

   教師は混乱しながら他の絵日記を見る。


   "8/8天気 雨 気温38℃

    あいつがホラーゲームが好きだと聞いて

   高評価なやつを片っ端から買った。別に

   あいつの為だけじゃない。俺も気になって

   たからだ。他意はない、他意は。

   あいつを家に誘うと、たくさんのゲームに

   驚きながらも目を輝かせていた。

   一緒にやりたい! とお願いされたので

   頷いた。妹がホラー苦手だから買うのを

   遠慮していたからな。ワクワクしながら

   ゲームをする姿は見ていて和んだ。

   少しは怖がってひっついてくるかと

   考えていたのでそこは残念だった。

    初めてゲームをしたが、意外と楽しめた。

   アクションに力を入れているものやホラー

   描写、ストーリーやゲームによって様々で

   興味深い。ただ、スプラッタ系は苦手

   なのかあいつがゲームしている俺の

   背に隠れながら見ているのは良かった。

   しかも、寝るとき手をつないで一緒に

   寝たいとお願いされた。この傾向のものを

   追加で買うべきか?"


   「だから長い!! そして甘い!!

   イラストも一緒に寝たいとお願いしてる

   三河くんのイラストよね?! 描写力

   ありすぎない?!」


   恋愛ゲームのスチル見ている気分だ

   と教師は頭を抱える。


   「これ……全部見なきゃダメ?

   ……他の子のを見て気分転換しましょ」


   教師は適当に決めて日記を開く。


   "8/8 あいつがいきなり来てお兄ちゃんを

   攫ってった。

   8/9 お兄ちゃんはどうやらお泊りすること

   にしたらしい。心配だ。

   8/10 お兄ちゃんはまだ帰ってこない。

   ホラーゲームをクリアするまでいたい

   そうだ。絶対あいつの入れ知恵だろう。

   8/11 お兄ちゃんはまだ帰ってこない。

   心配になって電話したら、まだクリア

   するのに時間がかかるみたい。

   会いたいと言おうとしたらあいつが出た。

   しばらく帰す気はないと言われた。

   8/12 いい加減お兄ちゃんを返せ!!

   8/13 お兄ちゃんを奪い返した!

   お兄ちゃんはあたしに甘いから目の前で

   泣いたら帰ってきてくれた。

   8/14 あいつ諦めてなかった!! 家まで

   来ていつも通りお兄ちゃんの部屋に

   居座る気だ! あいつはお兄ちゃんを  

   独占するチャンスを狙ってる!!

   8/15 とっとと家に帰れ!! "


   「ものすごく怒ってるう……!!」


   もう読むのはやめようとページを

   閉じた。


   「これ、三河くんの妹さんね。

   文字からして怒りが凄まじいわね……。

   というか、桃山くんいつも三河くん家に

   いるのね……。そういえば、登下校時も

   一緒にいるイメージが……。

   もしかして、桃山くんの1行日記は……」


   "8/8 ホラーゲームを利用したお泊り

   計画開始

   8/9 計画順調。これで独占できる

   8/10 妹からの電話。だが、クリアする

   まで帰らないように話している。

   説得したかいがあった。

   8/11 また電話だ。しぶといな。

   俺は帰すつもりはないからな。

   8/12 あいつが殴り込んできた。

   8/13 取られた。ウソ泣きは卑怯だろ!

   あいつをせっかく独占できたのに!!

   8/14 家に居座ってやる!!

   8/15 ぜったいに帰らないからな!!"


   「バチバチに喧嘩してるう!!

   仲良くしなよって……無理か」

   

   普段の2人の様子を思い出した教師は

   ため息を吐く。


   「いつも言い合ってる理由が判明

   したわね。お互いに取り合ってるから」


   ライバル同士でもあるのかと教師は

   納得した。


   「三河くんの前だと喧嘩しないから

   まだマシなのかもしれないわね。

   さて、ちゃんと見ていかないと……

   桃山くんのは最後にしよ。あと、

   缶コーヒーも買っとかないとね」


   教師は篝の日記の量を見ながら

   目を遠くした。

         

   後日、教師は生徒に宿題を返す際に


   "信じることは大切なことですが、少しは

   疑うことも大切です"


   と郁人に対して記しており、


   "視野を広げてみましょう。そうすれば

   自身の行動を振り返る機会にもなります"


   と篝に対して記している。


   

        

   

ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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