273話 ゲート真珠
「ふふ。いっぱい呑んだなあ。
デルフィは……ぐっすり寝てる」
ベッドサイドでカラドリオスの羽根を
使ったクッションの上で寝ている
デルフィを見て微笑ましくなりながら
毛布をかける。
「本当にぐっすり寝てるなあ。
うん。俺達も寝よっか。薬もちゃんと
飲んだから大丈夫」
ユーに頬をつかれた郁人は神々の生き血を
たっぷり呑み、幸せに胸いっぱいになり
ながらベッドに倒れて寝ようとしたとき
「……あっ!?」
あることを思い出して郁人は起き上がる。
「真珠のこと忘れてた!」
〔そういえば、貰ってたわね〕
エンウィディアから貰った真珠のことだ。
イクタンのこともあり、すっかり忘れて
いたのだ。
郁人は真珠を取りだし、エンウィディア
が告げていた内容を思い出す。
「たしか……これを水に入れるんだっけ?」
〔もう適当に風呂場にでも入れたら?
もし爆発しても、扉があるからまだ逃げ
られるし〕
「爆発する想定なんだな……」
物騒じゃないかと郁人は思いながら、
風呂場へ向かう。
すると
「パパー! 今時間ある?」
チイトが扉をノックして、声をかけてきた。
郁人は扉へ向かい、開けてチイトを中に
入れる。
「大丈夫だよ。中に入って」
「遅くにごめんね、パパ」
チイトは眉を下げながら中に入った。
「いいよ。気にしてないから。
で、どうしたんだ?」
郁人は座布団を2つ取り出し、チイトと
自分用に床に敷いた。
チイトは座布団に座ると尋ねる。
「ありがとう、パパ。その、明日って
予定があったりする?」
「明日は特に無いけど」
郁人は思い出しながら告げると、
チイトは顔をぱっと明るくさせる。
「良かった! じゃあ、一緒にヒュドラを
調理してみない? 不安定から貰った
稀覯本に調理法載ってたはずだから。
狩ってきたし、よかったらどうかな?
と思って」
〔こいつ……また狩ってきたの……?!
そんな簡単にホイホイ狩れるものじゃ
ないのよ……!!〕
ライコは思わず声を上げた。ライコが
頭を抱えている姿が容易に想像できる。
郁人はチイトの言葉に目をぱちくり
させたあと、顔をほころばせる。
「良いのか!? 1回調理してみたかった
んだ! あと、美味しいお酒も作れるって
書いてあったから飲んでみたくて……!」
<あんた、絶対そっちのほうが比重大きい
でしょ……>
「あぁ、それも載ってたね。じゃあ
明日一緒に作ろ! 俺は呑めないけど!」
ライコは本当に呑むの好きねとあきれ、
チイトは作ろうと笑った。
そんななか、郁人はあっと声を
あげる。
「明日の楽しみが出来たな!
あっ! 場所とかどうしよう……。
ヒュドラってかなりの猛毒があるから
街中に持ち込んじゃいけないんだろ?」
〔ヒュドラの毒は本当にすごいから
法律で禁止されてるものね〕
どうするのかしらね?とライコは呟き、
郁人が首をかしげるとチイトは笑顔で
答える。
「そこは大丈夫だよ。あの竜人の国から
帰ってきたときに下の草原に行ったでしょ?
そこで解体とかもしようと思って!
あそこなら周囲に影響は及ぼさないから。
もちろん! パパも大丈夫だから心配しない
で!」
「ありがとうチイト!」
自慢げに抱きつくチイトの頭を郁人は
優しく撫でる。
「えへへ。パパに喜んでもらえて
嬉しいなあ! あっ! 今日お泊りしても
いい? プリグムジカでパパと離れてた
時間が長かったから、寂しくて……」
いいかな? と不安そうに尋ねたチイトに
郁人は快く了承する。
「いいよ。俺もチイトと話したかった
から。プリグムジカで頑張ってくれて
たんだろ? その話とかも詳しく聞きたい
から」
〔あのプリグムジカに蔓延していた
病みたいな呪いを猫被り達が対応して
くれてたみたいだものね〕
こいつ、影でしっかり活躍してたのよねえ
とライコは呟いた。
「やった! お泊り会だ! 嬉しいなあ!!
お話ももちろんするよ! 俺、いっぱい
頑張ったからね!」
チイトは自慢げに笑うと、あっ!
と声をあげる。
「あと、パパに膝枕してほしいなあ……。
あいつに無理やりさせられたんでしょ?
俺もしてほしいなあ……」
「いいよ。そうだ! せっかくだから
子守唄も歌おうか?」
「いいの!? 聞きたい聞きたい!!」
チイトは頬を紅潮させ瞳をキラキラと
輝かせる。
「あっ、その前にエンウィディアに
もらった真珠を風呂に入れてくるよ」
「………真珠?」
立ち上がった郁人の腕を掴むと、
チイトは真珠を見る。
「ふーん……貸してもらってもいい?」
「いいけど……」
眉をしかめるチイトを不思議に
思いながら郁人は真珠を手渡した。
「ありがと、パパ! あと、真珠を
入れるものはこれくらいでいいんだよ」
チイトはガラスの花瓶を用意すると、
そこに真珠を入れ、魔力で練り上げた
水を花瓶に入れた。
ー《おい、たしかに水にいれろと言った
が、これはないだろ》
瞬間、声が聞こえた。その声はとても
聞き覚えがあった。
郁人は目をぱちくりさせる。
「エンウィディア?!」
〔なんで花瓶から声がするのよ?!
もしかして……?!〕
「やはりゲート真珠だったか」
チイトは真珠の正体を知っていたようだ。
郁人は首をかしげながら尋ねる。
「"ゲート真珠"?」
「プリグムジカ独特の魔道具の1つだよ。
さっきの真珠を噴水とかに入れると、
真珠を渡した相手は自由に行き来
できるようになるんだ。俺が花瓶に
入れたから、会話しかできないけど」
「あの真珠ってそんな便利なものだった
んだ!」
〔でも、それって前の前の神が……
成る程。あいつがいるから、魔道具も
復活したのね〕
郁人は目をぱちくりさせ、ライコは
ポソリと呟いた。
《抜き打ちチェックするためによこしたのに
これじゃ意味がねえだろ!》
「別に音だけ聞けばいいだろ。テメェは
無駄に耳がいいんだからな。それとも、
あれか? パパの顔を見たかったか?
直接聞きたかったか? 残念だったなあ?」
チイトはわざと眉をあげ、首を
かしげながら嘲笑する。
《……クソうぜえ!!》
《ちょ!? 旦那様どうしたんです!?
ちょっ!? 神殿が壊れるので蹴るの
やめて?! マジで壊れちゃうから!!》
《うぜぇ?!》
ドゴォッ! と破壊音が聞こえ、アマポセド
とメパーンのあわてふためく声が聞こえる。
「じゃあ、俺とパパは今からお泊り会
だからきるぞ。パパー! 膝枕して!
子守唄歌って! 俺のために!!」
《ぎゃあ!! チイトくんだったか?!
旦那様を煽るのやめてえ!!》
チイトはわざとお願いした内容を
告げると花瓶の口に物を置いて
通信をきった。
「通信をきるときはこうして蓋をしたら
大丈夫だよ。向こうから通信がきたら
真珠が光るから、蓋をとったら繋がるよう
になってるんだ」
「………すごい破壊音がしたけど大丈夫
か?」
〔全肯定執事とメパーンの悲鳴が聞こえた
から向こうはとんでもないことになってる
のは間違いないわね……〕
なにごともなかったように説明する
チイトに郁人は頬をかき、ライコは
ポソリと呟いた。
「えー? 真珠を入れる容器の指定を
しなかった向こうが悪いんだもん!
ほら! 明日はヒュドラの調理するから
早く寝よ!」
チイトは満面の笑みを浮かべたあと、
思い出したと声をあげる。
「あっ! ユーに聞いたけど、お酒を呑み
すぎじゃない? 一気にとるのはどうかと
思うんだけど……」
〔……成る程。今調べたけど、これは
あたしも同意するわ。1日で呑む量に
しては多すぎるわよ〕
「……つい、久しぶりだから呑みすぎ
ちゃったんだ」
呑みすぎに関しての説教を郁人は粛々と
受け入れた。
ここまで読んでいただき
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自室にてチイトは明日郁人にヒュドラの
調理をしないか誘おうとしたとき、
ユーがひょっこり現れる。
「どうした? えらく慌てているが?」
珍しい姿に両眉をあげながら尋ねると
ユーはチイトのおでこに触れて、
伝えたい内容を伝える。
「……パパ、呑みすぎじゃない?
これは……うん……まずいな」
1日で呑む量をあきらかに超えている
郁人にチイトは額に汗がつたう。
「パパ、これだけ呑んでも平気なの
ヤバいな……。これはこまめに呑んで
もらったほうがいいな。全く呑まな
かったらその反動で呑みまくるから」
チイトの言葉にユーは何度も頷く。
「ヒュドラのあとに呑みすぎについて
話さないとな……」
チイトは郁人の部屋へと向かった。