29話 軍人の拠点
ヴィーメランスが拠点としている塔は
城と同様、白を基調としており、
高さと重厚さは他に比べると
群を抜いていた。
扉も重厚なもので、人を拒んでいる
ようにも思える。
その扉をヴィーメランスが開き、
3人を中に入れる。
「靴はそのままで構いませんよ」
扉を閉めたヴィーメランスが靴を
脱ごうとする郁人に気付き指摘した。
「教えてくれてありがとう」
癖で脱ごうしていた郁人は履き直す。
(ここでは靴はあまり脱がない
らしいからな。
いつまで経ってもこれは慣れないな……)
<パパの部屋に靴箱置いてあったもんね。
長年の習慣?文化かな?
慣れてたら違和感を覚えるよ>
チイトが郁人に同意した。
「……意外と広いんだな」
履き直した郁人は内部を見ながら呟いた。
入ってみると内部は外観から予想
されるより圧倒的に広く、見上げれば
吹き抜け構造で、螺旋階段が先まで
続いている。
掃除もきちんと行き届き、
必要なものだけが存在して、
飾りなどのインテリア類は見られない。
拠点の主の性格が伺える内装だ。
ヴィーメランスは前に進むと
壁にかけてあった鍵を取り、振り返る。
「しばらくの間、ここで過ごしてもらう。
部屋は各自用意してある為、
晩餐までの間そこで過ごせばいい」
そして、チイトと頭巾を解除した
ジークスに投げ渡した。
左右に立つ2人の手元を見ると、
古そうな鍵に2ケタの数字が
彫ってあった。
(アンティークみたいだ。
よく見ると柄も細かく彫られていて
気品を感じる。
彫った人の技量の素晴らしさが
わかるな)
郁人は職人業に目を輝かせていると、
ヴィーメランスは説明する。
「前の数字が階数、次の数字が部屋番号だ。
勝手にくつろいでいろ」
鍵の説明を終え、郁人の前に進み
1礼する。
「父上には特別な部屋を
用意しておりますので。
ご案内します」
ヴィーメランスの対応にむず痒さを覚え、
落ち着かせようと郁人は内部を
見渡し尋ねる。
「部屋まで用意してくれてありがとう。
ところで、この塔は何階立てなんだ?」
「7階立てです」
「外観的にもっとあると思ってた」
答えに郁人は口をポカンと開けた。
驚く郁人にヴィーメランスは話を
続ける。
「部屋の天井がかなり高いので階数は
外観から比べるとないんです。
部屋はブレイズが入っても余裕の
高さですので」
「成る程な。
でも、これだけ高いと昇り降りが
大変じゃないか?」
螺旋階段を見上げれば、かなりの
高さに首が疲れてしまうほどだ。
エスカレーターやエレベーターもないので、
インドアな郁人にはキツイこと間違いない。
「俺は飛べますので不便さは感じません」
「……飛べるなら問題ないな」
飛べる事実を郁人は思い出し、
階段すら必要ないのではと思いながら
頷く。
「父上の部屋は7階に用意しておりますので
上まで飛んでお送ります」
「その必要はない」
ヴィーメランスが郁人を抱えようと
手を伸ばす。
が、チイトがその手を叩き落とした。
そして、郁人に触れさせないと
2人の間に立つ。
叩き落とされたヴィーメランスは
険しい目で睨む。
「なんだチイト。
お前の部屋は3階だ。さっさと行け」
「パパにベタベタと触れさせる訳ないだろ」
「どの口がほざくか。
お前の方が父上に馴れ馴れしく
触れているだろう!」
「2人共!落ち着いて!」
「どうかしたのか?」
火花を散らし合う2人を郁人が
止めようとしていると
後方の階上から声がかかった。
振り返り見上げると、ジークスがいた。
2階からこちらを見ると、手すりに足をかけ
勢いよく飛び降りると綺麗に着地し、
何事もなかったように郁人へ駆け寄る。
(……2階からでもかなりの高さがあるのに
無事着地するってスゴいな)
ジークスの身体能力の高さに息を呑む。
「何かもめていたようだが……」
「貴様には関係ない。
とっとと2階に戻れ」
ジークスが現れたことにより
矛先が変わった。
声のトーンが下がり、冷気を感じさせる程。
2人から庇うように郁人はジークスの
前に立つと状況を簡潔に説明する。
「俺の部屋が7階にあるみたいでな。
ヴィーメランスが抱えて送ろうと
してくれたんだ。
それをチイトは嫌がってさ」
「そういうことか」
ジークスは説明に頷くと、提案する。
「7階まで行くには時間や体力もかかる。
君にとっては重労働だ。
抱えて送ってもらったほうがいい。
しかし、彼に昇り降りを毎回して
もらうのも君には気が引けるだろう。
なら、俺と部屋を変更しよう。
そうすれば、問題ない」
「父上を俺達より階下で過ごさせるとは……
不敬にも程があるぞ!!」
ジークスの提案をヴィーメランスが
拒絶した。
振り向くと、ヴィーメランスは
眉間のシワを更に深くし、額に青筋が
走っている。
「尊く慈悲深い父上が居られる御部屋の
上を歩くなど……俺にはできん………!!」
筋肉や血管をピンと張りつめ、
ヴィーメランスは断言する。
「ゆえに、父上の居られる場所は……!!
7階以外に有り得ない……!!」
意思は鋼のように固く、少しも
譲る気はない。
その姿から意思を感じ取れた。
(俺的にはどっちでもいいんだが、
下に居るとヴィーメランスが
発狂しそうだな……
俺にそこまでしてもらう必要ないのに)
郁人が頬をかいていると、
ヴィーメランスの隣に居るチイトが
口を開いた。
「こいつが居れば、ジジイが部屋を
譲る必要や貴様が送る必要もなくなる」
空間を出現させ、あるものを取り出す。
「なんだそれは?」
「なんだろ、コレ?」
それは手のひらサイズで
夜を連想させる黒い球体だ。
中央には上下を分けるように、
縫い目が横一直線に3分の1ある。
「ボール?」
ジークスと郁人が球体をじっと見ていると
少し揺れ、何かが球体の上部左右から
生えてきた。
「角……?」
何かは闘牛の角のようだった。
下部からは粘土をこねた際に
人差し指と親指でつまんだ形のものが
4つ手足のように生え動き始める。
後部には緑色の蛇のようなものが
生えてゆらゆら揺れた。
突然の出来事に固まっていると
縫い目の上に白いビー玉が左右に
見えた。
消えたり現れたりを繰り返しているので、
瞬きをしているから消えたりして
見えるのだとわかる。
その現象から、ビー玉は瞳だと察せた。
球体だったものは郁人をしばらく
見つめるとお辞儀する。
「うわっ?!」
勢いよく飛び跳ねると郁人の肩に
着地し、頬にすり寄ってきた。
頬に当たる感触は赤子の肌のように
しっとりとし、マシュマロのように
柔らかい。
手を伸ばすと乗り移ったので、
撫でてみると生き物は喉を鳴らした。
「かわいいな」
「君に随分懐いている」
懐く姿に心を弾ませる郁人に、
チイトは説明する。
「パパにあげる。
これは“妖精の籠“を元にいろいろと
組み合わせて出来た産物なんだ。
マスコットに見えるから愛玩動物に
最適かと思って。
ワイバーンを羨ましそうに見てたしさ」
「妖精の籠?」
どこかで聞いたことがある言葉に
頭を回転させ、思い出した。
「お客さんから聞いたことある。
たしか、妖精が産まれることがある
貴重な植物で、妖精が住む国にしか
生えない……だったかな?
それを元ってどういうことだ?」
「妖精の籠についてはまた説明するとして
俺が見たときにはもう枯れかけてたから
再利用しようと思って、魔物とかと
色々合成したらこいつが生まれたんだ」
チイトは淡々と説明した。
「………妖精……の籠……?!」
ジークスが目を見開き固まっている姿から
とんでもない事をしたのだと理解する。
「チイトがとんでもないことをしたのは
なんとなく理解できた」
「もしやドラゴンも混ぜたか?
こいつからその気配を感じるんだが……」
ヴィーメランスがじっと球体を見ながら
呟く。
「混ぜたが、ジジイの父親ではないぞ。
ドラゴン以外にも混ぜたからキメラに
近いか……」
「名前はなんていうんだ?」
「名前は決めてないよ。
未確認生物に近いからUMAって呼んでる」
「そのままだな……」
「だって、興味本位で作った産物だし」
球体はUMAの単語に反応しており、
本当にそう呼ばれていたことがわかる。
「興味本位で生命体造るなよ。
造ったからには責任持たないと」
「次からはそうする……」
郁人に注意され、肩を落とすチイトの
頭を撫でる。
「この子を俺にくれてありがとな。
大切に育てるから。
よろしくな、えっと……ユー?」
単語に反応していたので、
あまり変えないほうがいいと判断し、
郁人が呼び掛けるとちぎれそうな程
尻尾を振った。
「俺より大切にしちゃダメだからねパパ。
じゃあ、そいつに運ぶように命じてみて」
「わかった。
ユー、上まで俺を運んでもらっても
いいか?」
チイトの発言に頬をかきつつお願いすると、
ユーは頷き手から降りる。
そして宙に浮かびながら体を振るわせた。
すると、風船が膨らんでいくように
大きくなっていき、1人が乗れるくらいに
までなった。
「すごいなユー!」
「この生き物……ユーは大きくも
なれるのか?!
しかも空も飛べるとは……?!」
郁人とジークスが声をあげるなか、
ユーは乗ってほしいのか郁人が
座りやすい位置につき、足をつつく。
「座ればいいのかな?」
郁人は恐る恐るユーに腰かけた。
「うわっ?!」
すると、ユーはエレベーターのように
どんどん浮上していき7階まで上がると、
またゆっくりとチイト達の元まで降下した。
「イクト!大丈夫か!?」
「パパ乗り心地どうだった?」
「大丈夫だ。
それに乗り心地とても良いぞ。
かなりフワフワだ」
慌てるジークスに告げると、
ユーから降りて、ありがとうと撫でる。
撫でた感触もマシュマロのようで
心を弾ませた。
「本当にどんな生き物なんだ…?」
ヴィーメランスは眉をしかめながら、
凝視する。
ユーは凝視されても気にしておらず、
手のひらサイズに戻ると郁人の
ジャケットの左胸ポケットに入った。
目つきの鋭いヴィーメランスに凝視されても
怯える素振りを見せないことから
肝が座っているのは確かだ。
郁人は思い出したように口を開く。
「晩餐までまだ時間あるかな?」
「はい、ございますが」
「良かった。
荷物とか置いた後に喚んでみたいと
思うから付き合ってもらってもいいか?」
「勿論です。
お供させていただきます!」
「パパ俺も!」
「喜んで付き合おう」
3人同時に答え、顔を見合わせる。
特にチイトとヴィーメランスは眉をしかめ
不快そうにジークスを睨み、
睨まれている当人はそれをものともせず
受け流す。
「場所とかどうしよう!
この中ではまずいだろ!!」
剣呑な雰囲気を変えようと郁人は
声を出した。
ヴィーメランスは腕を組み、
顎に手をあてた後、提案する。
「そうですね……。
では、ブレイズの小屋付近にある
庭はどうでしょう?
広いので鍛練によく使う場所なのですが」
「じゃあ、そこでしよう!
荷物置きに行ってくる!ユーお願い!」
郁人の声を聞き、ユーはポケットから
勢いよく飛び出すと大きくなり郁人を
上へ運ぶ。
(剣呑な雰囲気を出すのは
やめてほしいな……
いつ手が出るか気が気じゃない……)
3人が暴れれば被害は確実に甚大だろう
と考え、胃薬を飲もうと決意した。
「そういえば……
ユーの背中にあるこのチャックは
なんだろ?」




