デルフィは材料を集める
これは郁人がプリグムジカにてスパルタ
授業を受けていた頃の出来事……
シトロンとオキザリスの研究所、
自身にくれた部屋にてデルフィは
悩んでいた。
ー それは郁人を創るにあたっての
材料についてだ
「俺の妖精の殻とカラドリオスの羽根で
じゅうぶんだと思うけど、ママが健康で
丈夫になるように願いも込めたいなあ」
デルフィは郁人を創るときに自身の願いも
込めようと考えていたのだ。
「ママは体が弱いからジークスの尻尾を
食べないと旅に出ることも難しいって
ばあちゃんが言ってた! お出かけするの
好きなママにとっては一大事からね!
なら、お願いも込めて創る!」
デルフィは前の妖精王としての能力を
活かしてこっそり集めた材料を空間
魔法から取りだして机に並べていく。
「えっと、まず妖精樹から採った最高級の
蜜でしょ。あと、花を咲かせる春告鳥の巣に
俺の魔力を込めた魔石に、煎じて飲めば
若返る春告茶葉に、身につけたら邪気を
祓う銀麗の鈴と……」
デルフィは妖精の生態を研究する者や
不老不死を求める者が喉から手が出るほど
ほしくなる物をポイポイ机に置くと、
息を吐く。
「ママの健康を願って集めたけどまだ
足りないかも……。あっ、そういえば
前の俺の休憩場所の近くに食べれば
たちまち丈夫になる果物がなってた!
今の時期なら収穫できる!」
デルフィはあっ! と声をあげたが、
肩を落とす。
「でも、その近くに厄介な魔物の巣が
あって、そいつらにもう食べられてる
頃合いだ……。前の俺ならそいつら倒して
魔力をこねこねして果物を構築し直して
回収できるけど、今の俺じゃ倒せない。
依頼しようにも、倒せるのはAランク
以上の冒険者だし……」
ママを創るのにどうしてもほしいと
考えていると思いつく。
「……会うのは嫌だけど、ママのため!
俺、頑張る!!」
デルフィは姿消しの魔法を使うと
研究所を飛び出した。
ーーーーーーーー
「清廉騎士様! 先日は助けていただき
ありがとうございました! ぜひお礼
を……!!」
街中にてベアスターに助けられた冒険者
が感謝を告げていた。
「いえ、居合わせたのがたまたま私だけ
だったことですので。あなたが無事でした
ことがなによりです」
ベアスターは良かったと心から微笑む。
その姿は清廉そのもの。清廉騎士と
呼ばれるのも頷ける清らかさだ。
「それでは、私は仲間を待たせており
ますので。同じ冒険者としてお互い
頑張りましょうね。ご機嫌よう」
「……!!! 本当にありがとうござい
ました!」
ベアスターは仲間を見つけると助けた
冒険者に微笑み、去っていった。
清廉さを感じる背中に冒険者は頭を下げ
続けた。
「お待たしてすいません。
では、買い物を続けましょうか」
「いや、全然待ってないっすから!」
「名を体を表すというけれど、貴女は
本当にそれを体現しているわね、
清廉騎士さん」
ベアスターはグルーシスと艶やかに
微笑む緑髪の美女のもとへと歩み寄った。
ベアスターはグルーシスと美女と3人の
パーティーを組んでいるのだ。
美女の言葉にベアスターは整った眉を
寄せる。
「からかうのはやめて、エミュレー」
「あら? からかってなんかないわ。
あたしは貴女を見て感じたことを述べた
だけよ」
「私がその異名に納得していないことを
知っていて言ってるのだからそう思う
のは当然でしょ?」
緑髪の美女、エミュレーはフフと微笑み、
ベアスターは唇を尖らせた。
「え? 納得してないんですか?!」
「えぇ、そうなのよ。このコ、初めて
呼ばれたときは驚きすぎて固まった
くらいなの」
「そうだったんすね! ベアスターさんの
思う清廉ってどれだけなんすかね……?」
「そう思うわよね。このコ、どれだけ
理想が高いのかしら?」
「お2人共! からかうのは……」
ー <聞こえる?>
グルーシスとエミュレーに言葉を紡ごうと
したが、とある声が脳に響いた。
それは中性的で声だけではどちらとも
ハッキリ断定できない、綺麗な声だ。
「……もしや?!」
心当たりがあったベアスターは周囲を
見渡すが見つからない。
「? どうかしたんすか?」
「なにかあったの?」
グルーシスとエミュレーはベアスターの
挙動に不思議そうだ。
<聞こえているようですね。この声は
貴女にしか聞こえてませんのでこちらに
早く来てください。1人で、こちらに>
ベアスターにしか聞こえていない
声が聞こえると、光の線がこちらだと
誘導するように路地裏へと紡がれていく。
「申し訳ありません! こちらで
少々お待ちくださいませ!」
「ベアスターさん?!」
「あらあら」
ベアスターの行動にグルーシスは
目を見開き、エミュレーは口に手を
当てた。驚く2人を背に、ベアスターは
導かれるまま、足を進める。
「貴方は……!!」
路地裏にてベアスターを導いた者、
以前出会った原石がいた。
「そこまでで結構。あまり近づか
ないように」
そこにはあのときの少年、人型モード
のデルフィがいた。
デルフィは建物の影に隠れながら話す。
「俺からお呼びしたのは依頼を受けて
いただきたく、このような形で呼ばせ
ていただきました」
「依頼……私にですか?」
「はい。貴女はAランク冒険者と
聞いております。依頼内容はこの
魔物を討伐し、持ち帰ることです」
デルフィは携帯を操作すると、
壁にスクリーンを投影させる。
ベアスターは投影された魔物を見て
あごに手をやる。
「……これは宝石トカゲですわね。
ダイヤモンドのように硬い輝く鱗が
特徴で毒といった状態異常も効かない」
「えぇ、あいつはとにかく頑丈です。
力任せに攻撃しても通用しない面倒な
魔物ですが、俺はその魔物が欲しい」
デルフィは拳を握りしめると
まっすぐベアスターを見る。
「ですから、貴女にお願いしたい。
ギルドを通していない依頼ですので、
信頼はされないでしょう。ですので、
その宝石トカゲの居場所を示した
地図。そしてこれは先払いです」
デルフィはサイドポーチからあるもの
が入った小袋を投げ渡す。
「Aランクの貴女なら存在は知ってる
でしょう。こちら妖精の涙です」
「妖精の涙ですか?! 妖精の魔力を
固めると出来る魔石!! 市場に出回る
ことはなく、妖精と縁がある者しか
手に入らない幻の宝石?!」
受け取った小袋の中身を見てベアスターは
腰を抜かしそうになった。
「妖精の涙はあふれでる魔力と虹色に
輝くのが特徴ですが、この小袋の中身
全て本物……!!」
「Aランクに依頼するのでしたら
これぐらいかと思ったのですが、
足りませ……」
「足りますわ! むしろ多すぎます!
1つで十分ですわ!!」
ベアスターは小袋を路地にあった
木箱の上に乗せる。
「これはいただけません」
「………依頼は引き受けてもらえませんか」
「いえ、引き受けますわ」
「え?」
目をぱちくりさせるデルフィにベアスター
は胸に手を当てながら告げる。
「私は以前、貴方にご迷惑をおかけし
とても怖がらせてしまいました。
その謝罪として依頼を受けましょう。
お渡しする場所などは……」
「待ってください! 貴女はAランク
冒険者なのでしょう?! そんな安請け合い
しては……!」
「ランクは関係ありません。これは
私の謝罪の気持ちを表明するもの、
ただの自己満足です。ぜひ狩らせて
くださいませ」
ベアスターは謝罪を表明するように
真摯に頭を下げた。その姿からは
以前の清廉とはかけ離れた姿は想像
出来ないほど。
「……………わかりました。では、依頼
させていただきます。狩った魔物はこちら
に入れてください。その魔物を入れれば
俺に通知が来るように施してますから」
デルフィはまたサイドポーチから袋を
取りだして投げ渡す。
「通知を受け取り次第、先程のように
また連絡します。……引き受けていただき
心から感謝を」
デルフィは胸に手を当て、綺麗な一礼を
すると光となって消えていった。
「…………あの少年は何者なのでしょう?」
ベアスターは袋を持ちながら
しばらく口をポカンと開けていた。
ーーーーーーーー
「うぐぅ……緊張した……!!」
姿を消して場を去ったデルフィは
研究所の1室にて人型から戻ると
ホッと息を吐いた。
「あの人、普段はあんな感じなんだ。
ママとの約束を守って近づかなかったし」
あの怖かった人と同じとは思えない
と呟く。
「でもでも、引き受けてくれてよかった!
……流石になにも渡さないはあれだから
魔法でちょちょいと妖精の涙をパーティーの
メンバー分こっそりあの人のポケットに
入れといたけど。いくらお詫びだとしても、
宝石トカゲは倒すのはAランクでも大変
だもん」
無駄に固いしとデルフィは思い出す。
「魂を見ても嘘ついて無かったし、
きちんと依頼は達成してくれそう
だったし、これで材料問題の1つは
解決した! あとは俺に出来ることを
やって行くぞ!」
デルフィは郁人を創る材料と
向かい合う。
「ママをがんばって創るぞ!!」
デルフィは意気込むと、創る案を
紙に書き出した。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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ベアスターは合流後、喫茶店にて説明した。
「なるほど。貴女は以前、依頼主に迷惑を
かけてしまってずっと気にしていたの」
「そんで、その相手の依頼を無償で
引き受けたと」
「もう会えないと思っておりましたので、
この機会を逃せば謝罪の機会はもう
得られないと思いましたの。
これは私のただの自己満足です。
しばらく単独で行動しますので、
申し訳ありませんが、貴方達だけで……」
「地図をもらったんすよね?
見せてもらってもいいっすか?
最短ルート割り出したいんで」
「宝石トカゲ、柔らかくするには
魔術が必要よね。あたしの魔術が
どれだけ通じるか……楽しみだわ」
グルーシスは地図を見せてほしい
とお願いし、エミュレーは魔道具である
人形を撫でながら微笑む。
「貴方達は別行動を……!」
「仲間外れは嫌っすよ、ベアスターさん」
「そうよ。パーティーなんだもの。
ぜひ協力させてほしいわ」
「ですが、これは私の……」
「謝罪であり自己満足だろうと、俺達は
ついて行くっすよ」
「そうよ。貴女がそれほど気にする事だ
もの。協力させてちょうだい。それに……」
エミュレーはベアスターのカバンを
指差す。
「依頼主さんは貴女1人で行かせる気は
到底無いみたいよ」
「……これは?! お返ししたはず!!」
ベアスターはカバンを確認すると
3つ妖精の涙が入っていたのだ。
机の上に置いてベアスターは頭を抱える。
「いつ入れたのかしら……?!」
「うひゃあ〜コレが妖精の涙っすか?!
王族が喉から手が出るくらいに欲しがる
やつ……!!」
「これだけの魔力密度、相手が会っている
妖精はかなり高位の妖精ね。そんな妖精が
関係している相手に迷惑をかけちゃったら
それはかなり気にするわね。まあ、貴女なら
関係なく気にするでしょうけど」
グルーシスは触れるのも怖いと
妖精の涙からのけぞって距離をとり、
エミュレーは妖精の涙をじっと見つめた。
「さて、観念して地図を見せてください。
安全なルートを割り出してみせるっすから」
「そうよ。この妖精の涙がある以上、
あたし達も指名されたも同然なのだから」
一緒に行くっす(行くわよ)と目でも訴える
2人にベアスターはついに折れた。
「私の自己満足ですのに……。本当に
よろしいの?」
「水臭いこと言いっこ無しっすよ!」
「私達はただ貴女の力になりたいだけ
なのだから」
ベアスターの言葉に2人は笑った。




