271話 春の妖精王
「もう! なんで言うの!! びっくりさせ
ようと思って言ってなかったのに!!」
「スイマセン。てっきり知ってるもの
と思っていましたノデ……」
デルフィは頬をパンパンに膨らませ
ながら、オキザリスに突撃している。
「春の妖精王、デルフィが……?!」
ジークスはデルフィを見ながら両眉を
あげる。そんなジークスに郁人は尋ねる。
「ジークス、春の妖精って?」
「春の妖精とは文字通り、春を運ぶ
妖精だ。不毛な大地に春の妖精が
降り立てば、たちまちそこは花が
咲き乱れ、生命豊かな大地となると
謂れている。人々の間でもっとも
会いたい妖精とも言われている妖精
でもあるんだ」
ジークスの説明に郁人は口をポカンと
開ける。
「そんなスゴい妖精なんだ……!!」
「その中でも春の妖精"王"となれば
春の妖精のなかでもとくに力があり、
会える確率はさらに低く、会うために
旅に出る者もいたり、研究する者まで
出てくるくらいだ」
かなり希少なことなのだとジークスは
説明した。
「そういえば、春の妖精は出逢いや
良縁を運ぶとも謂われていたな。
あと、会えば幸運に恵まれるとも
聞いたことがあるぞ」
篝は思い出しながら、デルフィを
じっと見た。
〔春の妖精ってたしか妖精のなかでも
穏健派とされ、絵本とかで書かれるほど
手助けをしてくれる心優しい妖精と
されているわ。妖精の特徴的に恐れられ
てるけど、春の妖精だけは1度は会って
みたい妖精とも謂われているのよね。
しかも、その王様なんてかなりレアよ!〕
まさかこんな身近にいたとはね
とライコは声をあげた。
「俺もう妖精王じゃないもん! たしかに
春の妖精王で前と能力とかいろいろ一緒
だけど王様じゃないもん! もう疲れた!」
俺はデルフィだもん! とプリプリ
怒っている。
「疲れたってなにかあったのか?」
尋ねる郁人に聞いて聞いて! と
デルフィは答える。
「あのね! 俺ずっっっと忙しかったの!
春を届けるために飛び回らないと
いけないのはわかるけど、俺が全部
行かなくてもいいのに、私達だけでは
不安だから来てほしいって嘆願書出されて
結局全部に付き添わなきゃいけなくなった
し、春の妖精だから手助けしてくれって
四六時中探し回られて狙われるし、
穏健派だろう? ってなめられて同族が
拉致されそうになったり、ヒドい目に
あったから俺がボコボコにしたら
春の妖精らしくないってなぜか仲間
から言われるし……!!
俺だっていろいろ遊びたいのに仕事も
多くてもうイヤだったのっ!!
ヤダヤダヤダ!!」
デルフィは心から叫び、イヤだイヤだ!
とテーブルをダンダンと叩いた。
それほどまで鬱憤が溜まっていたことが
見てわかる。
「……大変だったんだな、妖精王って」
〔目の下にクマを作って、額に冷えピタ
貼って、エナドリ飲みながら仕事してた
同僚を思い出したわ……〕
あいつも休みがないって泣いてたもの
とライコは呟く。
郁人は叫ぶデルフィを抱えて優しく
撫でた。篝は慰められるデルフィに
尋ねる。
「やめるとき止められなかったのか?」
「もう限界だったから、何も言わずに
やめた! あっ、でもちゃんと引き継ぎ
資料は作ったよ! こうしないと次の妖精王
は長続きしないから気をつけてねみたいな
恨みつらみこめたやつ!」
「………本当に限界だったんですな」
してやったりと自慢げなデルフィに
かなり溜まっていたなポンドは察した。
「でもでも、今は幸せだからいいもん!
で、そんな俺が作ったから、この子達は
ちゃんと妖精なんだよ! 春の妖精!」
<妖精だよー! えっへん!>
デルフィは胸を張り、オクタも真似して
胸を張った。
チイトはそんなオクタをじっと見て呟く。
「……こいつらちゃんと妖精になってるね。
元妖精王が関わったとしても人工で妖精が
作れたとなると、見つかれば厄介なことに
なるぞ」
「だからここで保護をしている。女将に
相談したのち、白団子もいる大樹の木陰亭
に移動させようと考えたが……ここがいい
と言い張ってな」
チイトの言葉にシトロンがため息を
吐いた。
<だって、はかしぇごはんちゃんと
食べないんだもん! ねてくれないから
見てないと心配!>
「本当にそうですよネ!」
バタンって倒れちゃうかも! とオクタは
説明し、オキザリスは同意して続ける。
「我が友の世話を一緒にしてくれるので
私はありがたいデス! 実験の協力もして
くれますカラ!」
「なるほど。やはり前に言っていた
助手はこいつらの事だったのか」
〔こんな小さい妖精にも世話されてる
のね……この鬼才……〕
「こいつの世話焼きが似たようだな」
チイトは呟き、ライコはあきれ、篝は
オクタを見た。
「で、我が友のシェフ! この妖精が
ここにいてもよろしいですカ? 許可なく
貴方の髪を使って創ってしまいました
カラ。嫌でしたら、見えないところに
移動させますガ……」
「そんなことしなくていいよ」
オキザリスの言葉に郁人は首を横に振る。
「俺から隠れなくていいから。たしかに
驚いたけど、嫌とかはないからさ」
「良かったデス! 掃除、洗濯もこなして
くれて、料理も振る舞ってくれるとても
良い子達ですカラ! もう彼らがいない
生活は考えられまセン!」
オキザリスは本当に良かった
と安堵の息をもらした。
「なるほど。道理で前に来たときに
比べると綺麗だったのですな」
「こいつは手伝い関係の妖精なのか?
ここがよく爆発すると聞いたが大丈夫
なのか? 巻き込まれねえのか?」
ポンドは納得し、篝が尋ねた。
「そこは大丈夫です! この子達は
危機察知能力がとても高く、危ない
場所には絶対に行きません! それに、
もし巻き込まれたとしても頑丈です
からネ!」
竜人にも引けを取りませんヨ! と
オキザリスは胸を張る。
「デルフィくんがママを作るなら
願掛けも込めてとても丈夫にしたいと
材料にこだわりにこだわった結果、
本っっっ当に頑丈でどんな環境でも
生きられる個体になりましたノデ!
たとえ、火の中、水の中、爆風の中、
どんな状況でも生き延びマス!」
<へっちゃら〜>
1度、爆発に巻き込まれてしまったの
ですが、傷ひとつつくことなく、大丈夫
でしたので! とオキザリスは親指を立て、
オクタは怪我はないとアピールしている。
「やっぱり巻き込まれてたんだ……」
「火の中や水の中と言ったが……もしや
実験したのか?!」
やっぱり爆発してたんだと郁人は呟き、
ジークスはオクタを指で撫でながら
こんな小さな生き物を……と信じられない
という目で見た。
オキザリスはあわてて弁解する。
「イエイエ! 実験なんてとんでもナイ!!
火が平気とわかったのは爆発したときに
火事になりかけまして、私達が対処する
前に彼らが火の中に入って、まだ使えそう
なものを取りに行ってくれたからデス!
水は彼らがお風呂で潜りっぱなしで
遊んでいましたから判明したのデス!」
<魔法使わなくてもだいじょーぶ!
俺達、お手伝いするから頼りにしてね!
あそんでくれるのも、なでなでも
うれしいの! これからよろしくね!>
オクタはよろしくと撫でていたジークスの
指を小さな手で掴むと、嬉しそうに笑った。
「こちらこそ、よろしく頼む」
「うん、よろしくね」
〔こんな小さいのに魔法も使えて、
生命力や耐久力もずば抜けてるとか
見た目と違って侮れないわね〕
ジークスは微笑ましそうにオクタを見つめ
郁人はオクタを撫でた。
オキザリスは胸を撫で下ろしながら
告げる。
「本当に良かったですネ! オクタ!
ほら、皆も許可はもらいましたから
出てきて大丈夫デス!」
「皆……?」
〔…………………もしかして〕
「やはりな」
郁人は首を傾げ、ライコは呟き、
チイトは納得した。
瞬間
<やったあ〜!>
<大きい人がいっぱいだねえ>
<はかしぇより大きい人がいる>
<こんにちはちは〜!>
物陰からたくさんのイクタンが現れた。
全員同じ姿をしていて、見分けがつか
ないほどだ。
〔やっぱり大量にいるじゃない!!
鬼才達の口ぶりからもしかして
と思ってたけど!!〕
「なんでこんなにいるの!?」
郁人の疑問にデルフィとオキザリスが
答える。
「最初は1体だけだったんけどいつの間
にか増えてたんだよね……」
「どうやら、イクタン達は寂しいと
思ったり、人手がいる思うとどうやら
増えるようでシテ……」
いつの間にか増えてまシタと
オキザリスは頬を掻く。
「いやあ、まさかこのような方法で
増えるとは思いもしませんでしたヨ」
「感情で増えるとは不思議だな」
「どんな理屈なんだよ」
「こいつらの増え方は未だにわからん」
ジークスと篝は不思議そうに見つめ、
シトロンはため息を吐き、そんな
シトロンをオキザリスは見る。
「でも、原因は我が友ですヨ?
我が友が研究に没頭するあまり
倒れたりするので、その様子を見て
増えたそうデス! あと、我が友が構わな
かったりして、寂しくなって増えたんで
スシ……」
<はかしぇ、ちゃんとご飯たべよう
よお〜>
<がんばってつくるから!>
<すいみん大事!>
<はかしぇあそぼ〜>
<はかしぇ、ドリンクつくったから
飲んで〜。栄養ばっちり!>
イクタン達はシトロンに群がり、
それぞれ世話を焼いたり、構ってほしい
と集まっている。
「…………」
<はかしぇー! ご機嫌ナナメ?>
<おいしいのつくるくる?
おなかイッパイなったらご機嫌マル!>
とこのようにシトロンが近づくな
オーラを出してもお構い無しだ。
「ちなみに世話焼きな子が多いデス!」
「俺より構われて納得いかない!」
オキザリスは群がられているシトロンを
見て笑い、デルフィは頬を膨らませた。
「とりあえず、デルフィ。これからは
勝手に作らないことな」
自分と似たような妖精達を見て、
郁人は注意した。
「パパ、世話焼くの好きだもんね。
妹の影響で」
「それで勘違いする輩が多かったから
大変だったな。……まあ、全部片付けたが」
「なにやら含みのある言い方ですな」
「……1人くらいもらえないだろうか?
それにしても、彼はなぜあそこまで
懐かれているんだ?」
チイトは性質まで似てるなあと
ため息を吐き、篝の含みのある発言に
ポンドが尋ね、ジークスはいいなあと
シトロンを見ていた。
(あれ……?)
郁人はふと思い出す。
(デルフィってユーのこと先代って呼んでる
けど、元春の妖精王に先代って呼ばれる
ユーっていったい……?)
イクタンとなにか話しているユーを
見ながら郁人は思った。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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よろしくお願いします!
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「ちなみに、こういった変異個体も
いまス! おしゃべりは出来ないよう
ですが、戦闘力はピカイチですヨ!」
オキザリスが見せたのはジークスに
どことなく似ているイクタンや
ヴィーメランス、エンウィディアに
似ているイクタンだ。
ジークス似は大剣を背に背負い、
ヴィーメランス似は謎の威圧感があり、
エンウィディア似は楽譜に書いてい
たりとそれぞれ特徴的である。
「どうやら息子が取り込んだ魔力に
よって亜種が誕生するそうだ」
どんな理屈なんだかとシトロンは
説明しながら眉間にシワを寄せた。
「じゃあ、俺がジークスの尻尾や
ヴィーメランスの鱗を口に入れたり、
エンウィディアの加護を貰ったから
増えたの……かな?」
「そうみたいだよ、パパ。興味深いね!」
パパの影響がこいつらに出るなんてね
とチイトは微笑む。
「どことなく俺に似ているな……」
「ジークス殿似の方はポニーテール? の先、
ヴィーメランス殿似の方は眼帯の模様、
エンウィディア殿似は頭の輪とそれぞれ
星の形になっているのですな」
「本当にどんな妖精なんだよ」
ジークスは自身に似たイクタンを見つめ、
ポンドは興味深そうに観察し、篝は
頭をかいた。




