270話 イクタン
郁人達がいるのはシトロンとオキザリスの
研究所であり、居住も兼ねている建物。
その1室にて郁人達はあるものを見ている。
「これが……デルフィが俺を作ろうとした
結果か……」
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重い口を開けたデルフィが話したのは
とんでもない事だった。
『あのね……俺……ママを作ろうとしたの。
出来て動くけど……ママに似なかった!
ママに似なくてごめんなさい!』
『えっと……待って。俺を作ろうとした?
しかも、出来たって……? え??』
〘とんでもないこと言ってるわよ!
この白いの……!!〙
泣きじゃくるデルフィの言葉にしばらく
頭が真っ白になったあと混乱する郁人と
ライコ。そんな郁人にライラックは説明
する。
『どうやらデルフィくんは寂しくて
イクトちゃんを作ろうとしたみたい
なの。シトロンさんとオキザリスくん
に協力をお願いしてね』
『シトロンって……まさか、あの魔道具
研究、開発の最先端を行くあの鬼才か?!
他にも幅広い分野にも手を出して、数々の
功績をあげているあのシトロンか!?』
なんでそんな奴が協力してるんだよ?!
と篝は思わず声を上げた。
『そうだよ。あの人、すごく頭良いから
手伝ってもらった。ママは1人しかいない
から。もう1人ママがいたらまた旅に出ても
もう1人いるから寂しくないと思って……』
『それで作ろうとしたのか。だが、
あいつが頼まれてはいそうですかと
協力するとは思えないが……』
シトロンの性格を思い浮かべたチイトが
告げると、デルフィは答える。
『えっと、ママを作ろうとした材料に
俺の殻や貰ったカラドリオスの羽が
あったからだと思う。かなりレア
なんでしょ? それを分けることや
他の実験に協力することを条件で
協力してもらったもん!』
俺の殻は他のと比べると特別だもんね
とデルフィは説明した。
『妖精の卵の殻か、たしかに貴重な
代物だ。シトロンでも手に入れるのは
難しいからな。だから協力したのか。
ところで、パパは回収してなかったの?』
『その、デルフィに驚いてて……。
しばらくして、回収しようと思ったら
なくなっててさ……』
〘あのとき、それどころじゃなかった
ものね〙
郁人とライコは思い出しながら告げた。
『じつは俺がこっそり回収してたの!
いつか使えるかと思って!』
『そうだったんだ』
『ママを勝手に作ろうとして本当に
ごめんなさい!!』
デルフィは謝り、泣きじゃくる。
そんなデルフィを郁人は抱っこする。
『……もう勝手に作ろうとするなよ。
しかも、生命あるものをさ。かなり
とんでもないことをしたんだからな。
これからは絶対にしちゃ駄目だぞ。
いいな?』
『うん! もう勝手に作ろうとしないもん!
ちゃんと確認とる!』
デルフィは郁人に宣言した。
『いや、確認とっても駄目だからな。
命をそう簡単に作ろうとするものじゃ
ないから。責任重大なことだからな。
……とりあえず、デルフィが創った
俺? みたいなのを確認しないと
いけないな』
『動くって言っていたからな』
『生きているのは確実でしょうな』
郁人の言葉にジークスとポンドは頷いた。
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そうして、郁人達の目の前にはデルフィが
作った、いや、創ってしまった生命がいる。
〔生命を創るって、なにしてんのよ……
しかも出来ちゃってるし……〕
ライコは驚きすぎて、語彙がなくなって
いる。郁人達はそれを見て感想を呟く。
「手のひらサイズなんだな……」
「後ろ姿がお前の後頭部に似ている。
手足をもあるが小さいな」
「ユー殿やデルフィ殿と同じ丸い
フォルムですな」
「なんとも不思議な生き物だ」
「……パパと似た気配はするから、
パパに似せようとしたのはわかるな」
郁人達の視線の先には、デルフィと
同じく真っ白な1等身の体に、郁人の
髪型を再現したようなアホ毛があり、
そのアホ毛の先には星がついている。
究極に郁人をデフォルメ化したような
生き物だ。
「?」
その生き物は机の上で不思議そうに
こちらを見上げている。
「いやあ、まさか独断とは思っても
いませんでシタ」
「だから、体液など必要だと言っても
髪しか持ってこなかったのか」
オキザリスは苦笑いし、シトロンは
納得していた。
「ママには内緒だったもん。体液は
お願いしないと……」
「もし頼まれても許可はしなかった
からな」
デルフィはしょぼんとし、郁人は
断言した。
そんな郁人にシトロンは説明する。
「こいつは息子であって、息子でない
生き物、種族名は"イクタン"。
こんななりだが妖精の分類に属する」
「私が名付けまシタ!」
かわいいデショ? とオキザリスは
誇らしげだ。
「性格は息子に似て温厚。人の手伝いを
したりと働き者が多い。貴様の髪が使わ
れているからか、貴様になにかあれば
それを察知し、この白団子に伝えるように
なっている」
「このコが我が友のシェフのピンチ
をお伝えしたんですヨ!」
「だから、デルフィはあのときプリグムジカ
に来てたんだ!」
プリグムジカにて郁人が倒れたときに
デルフィが来ていた理由がわかった。
「俺は白団子じゃ……ん? どうしたの?」
「もいもい!」
デルフィがシトロンに抗議しようと
したが、白いのに阻止された。
白いのは何かを訴えているようだ。
「もい?」
「この子は鳴くのだな」
「変わった鳴き声ですな」
「……声がお前の小さい頃の声質だな。
懐かしい」
「もいもい! もい!」
郁人達はそれぞれ白いものを観察し、
篝はあごに手をやっている。
白いのは郁人達に向かって、なにか
言っているのだがわからない。
「なんて言っているのかわからない
な……」
なにを伝えたいんだろうと郁人が
首を傾げていると、白いのはハッとした
あとお辞儀する。
<ごめんね! こうしないと伝わらない
のわすれてた。こんにちは! おれは
イクタンのオクタだよ! よろしくね!>
もいもいと話しているのだが、脳に
直接言葉が流れ込んでくる。
「えっ?! これなに?!」
〔もしかして以心伝心使ってるの?!〕
郁人とライコは息を呑む中、冷静に
チイトは分析する。
「こいつ、結構高等なことするんだな。
自分の話した内容をこちらが分かる
言語に変換するように術を使っている」
「魔道具無しでですかな?!」
「こいつらは妖精だからな。魔道具なぞ
必要ない」
驚くポンドにシトロンは告げた。
篝は片眉をあげながら尋ねる。
「こう言っちゃあれだが……人工で
創られた妖精なんだろ? ここまで高等な
技術を魔道具なしで出来るのか?」
「以前、聞いたことがある。
自分達の手で妖精を作ろうとした結果、
その研究所は壊滅し、創られたものは
妖精とはかけ離れたものだったと」
文献に載るほどの事件があったなと
ジークスは思い出した。
オキザリスはあっと声をあげる。
「あぁ! あの事件ですネ!
ティフィアル研究所の者達が人工で
妖精を作り、その妖精で自分達に
かかった呪いを解こうとした事件!
私達はあの研究所とは違い、妖精の
血肉を使ってませんし、なにより妖精の
彼が協力しておりますノデ!」
問題ありませんヨ! とオキザリスは
親指を立てる。
血肉の言葉に郁人の血の気が引く。
「……血肉が使われてたんだ」
〔調べたらあったわよ、その事件。
ティフィアル研究所の奴らがやらかした
結果、春の妖精王に呪われた。その呪いを
解こうにも簡単にはできない。ましてや、
温厚で名高い春の妖精を怒らせた結果
だから、解いたらこっちにも火の粉が降り
かかるのでは? と解ける可能性がある
人々は恐れて関わろうともしなかった〕
春の妖精って温厚で優しいことで有名
だからとライコは説明していく。
〔それで、自分達で呪いを解いてくれる
妖精を創り上げようとした結果、その
妖精もどきに殺されてしまったそうよ。
作る際には妖精の血肉を使用していた
のは本当よ。……その人工妖精を倒した
あと、いろんな種類の妖精の血肉の
残骸になったのだから〕
(………いろいろとヤバい事件だったん
だな)
郁人は内容を聞いて顔を青ざめた。
「出来たとしてもおぞましいもので
しょうな。妖精は恨みなどは忘れない
種族ですから」
そのおぞましい何かが呪いを解くとは
思えませんしとポンドは告げた。
「その、妖精である彼が協力したと
しても、彼はまだ生まれて日が経って
いないだろう。力はあまり無いのでは?」
不思議そうなジークスにオキザリスは
告げる。
「そこは問題ないですヨ! 今は使いこなせ
ていませんが、実力うんぬんは受け継いで
いますし、なにより彼は前"春の妖精の王"
ですノデ! そこら辺は問題ないデス!」
「前の妖精……王……?」
「デルフィがっ?!」
オキザリスの言葉にジークスは目を
見開き、郁人は口をぽかんと開けた。
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(これがパパを作ろうとした結果か)
チイトはイクタンを見やる。
(あのストーカーが言うにはパパの小さい
頃と声が似ているとか。シトロンやあの
ホムンクルスが協力したからこそ出来た
産物だな。とくにシトロンはホムンクルス
を創った経験がある)
この2人がいなかったら出来ていないと
チイトは判断する。
(パパはまだ少し混乱してるから
そこまで理解してないけど、生命を
作れるなんてほんの1握りの奴にしか
できない所業だ。他の奴らが知れば
自分もと技術とイクタンを狙いに来る
だろう)
チイトは軽く指を振るうと研究全体に
結界を張る。
(こんな作られた生命だってパパは
気にするだろうから害意ある者は
入れないようにしておくか)
「チイト」
術に気づいたシトロンが小声で話し
かける。
「悪いな。俺もしていいが強度がいまいち
でな」
「そうだろうよ。貴様は常にソータウン
全域に特定の輩が入れないように術を
施しているからな。……だが、それも
そろそろ終わりが来そうだぞ」
「……どういうことだ?」
「その輩、どうやら1番敵にまわしては
いけない相手に手を出したそうだ」
両眉をあげるシトロンにチイトは
イービルアイを影から取り出すと
シトロンに渡す。
「貴様なら情報を抜き取れるだろ」
「……」
シトロンはイービルアイを持つと、
指先を軽くあてる。
「……そうか。ついにそこまでしたか」
情報を見たシトロンはため息を吐く。
「馬鹿は死んでも治らないというが
その通りだな。あれはもう手の施し
ようがなかったからな」
「もし、気にかかる奴がいるなら
俺が言ってやってもいいぞ?」
「いや、問題ない。むしろ遠慮なくやれ
と伝えろ。あれは何度かこっちに来ては
罵声ばかりでやかましかったからな」
なにもわかってはいない愚鈍でノロマ
だったからなとシトロンはこぼす。
「では、そう伝えておこう。貴様に
切り捨てられた事実を受け入れてない
奴に引導を渡せと言っておく」
「そうしてくれ」
チイトはイービルアイを影に潜ませ、
とある相手に飛ばした。




