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268話 それぞれが伝えたこと




   パンケーキを食べ終えた一行を見送るため、

   郁人達はソータウンを出ていた。

   ライラックも見送りたかったがまだ仕事が

   あるので大樹の木陰亭にいる。


   パンケーキを食べ終え、持ち帰り用まで  

   用意してもらったカーネリアンは

   とてもご機嫌だ。


   「いやあ! 本当に感謝するぞ!

   我が妻の喜ぶ顔が目に浮かぶ!」

   「カーネリアン様! 護衛を置いていく

   のはあれほどおやめくださいと……!!」

   「こ奴らといて狙う馬鹿がどこにいる?

   次は気をつけるから許せ。次回パンケーキを

   馳走してやるのだから!」

  

   転移されたカーネリアン公を追って、

   急いでソータウンまで駆けつけた護衛達に

   パンケーキの感想を告げて自慢していた

   ほど。


   「いやあ、実に美味であった!

   また食べに来る! そのときは我が妻も

   連れてこよう! あっ! そのときもお忍び

   でくるのでよろしく頼む!」

   「つまり、普段通りということですね。

   かしこまりました。またいらして

   くださいね」

   「それまでに余個人からもあのボンクラ

   孫の非礼の詫びとしてなにか用意して

   おこう! 期待しておれ!」

   「え? いや、べつにカーネリアンさんが

   悪い訳じゃ……」

   「なに、ここまで良いご馳走を振る舞って

   もらったというのに何もしないは余の

   プライドが許さぬのよ。ではな!

   息災であれよ!」


   カーネリアン公はワハハと笑いながら、

   護衛が用意した馬車に乗り、去って

   いった。


   その姿を見送りながら、郁人は頬をかく。


   「気にしなくてもいいのに……」

   「貰えるものは貰っといたほうがいいよ、

   イクトくん。あの方はそういった事には

   かなり煩い人だったって聞いたこと

   あるから。身内が無礼をしたのなら

   尚更だよ。女王陛下にも個人的に詫びを

   用意するって言ってたからね」


   もと王族なのにフットワーク軽いん

   だよねとサイネリアは告げる。


   「それに受け取らなかったら、これなら

   どうだ? みたいな感じでどんどん詫びの

   品を渡されるかもしれないよ?」

   「……もらえるものは貰っておきます」

   「うん! そうしておこうね!」


   サイネリアが笑うと、ブレイズを連れて

   ヴィーメランスが挨拶に来た。


   「父上、パンケーキを作っていただき

   誠にありがとうございました。とても

   美味しかったので、また食べに来ても

   よろしいでしょうか?」

   「いいよ。いつでも食べに来て」

   「ありがとうございます!」


   ヴィーメランスが嬉しそうに微笑むと

   ブレイズが郁人に近づき、すり寄った。


   「ブレイズもよかったら遊びにきて

   ほしいな」


   ブレイズの気持ちを汲み取った郁人は

   ブレイズの頭を撫でた。

   ブレイズは嬉しそうに喉を鳴らすと、

   ヴィーメランスの隣に戻る。


   「では、俺達はこれで失礼いたします」


   ヴィーメランスが頭を下げると、

   ブレイズも一礼する。


   「イクトくん達、よかったらドラケネス

   にも来てね! 大歓迎だからさ!」

   「私達も歓迎いたします。お茶会も

   いたしましょう」


   サイネリアとリナリアも微笑むと一礼し、

   ブレイズのもとへ進むとその背中に

   乗っていく。先頭からヴィーメランス、

   リナリア、サイネリアの順だ。


   「ブレイズくんに乗れるなんて嬉しい

   なあ!」

   「こいつのほうが速いからな。

   で、貴様は大丈夫なのか? 先程から 

   様子がおかしいが……」 

   「だ……大丈夫れすので! ごしんぴゃい

   なきゅ!!」

   「…………本当に大丈夫なのか?

   顔も赤いが……」 

   「大丈夫だから! 陛下は初めて乗る

   ブレイズに緊張してるだけだから!」

   「……そうなのか?」

   「ひゃい! そうでしゅので!!」


   サイネリアの言葉にヴィーメランスは

   あまり納得いってないようだが、

   リナリアにも言われ渋々納得したようだ。


   「では、行くぞ。しっかり掴まれ」

   「ひゃい!」


   リナリアが顔を真っ赤にして、緊張

   しながらヴィーメランスのコートの

   裾を掴んだ。


   「おい、それでは落ちるぞ。

   もっとしっかり持て。

   では、父上。またお会いするときを

   楽しみにしております」


   ヴィーメランスはリナリアの両手を掴むと

   自身の腰に回してしっかり握らせて抱き 

   ついた状態にした。

   その後、ヴィーメランスは郁人に再び一礼

   したあと手綱を持ち、ブレイズに合図すると

   ブレイズは飛び立った。


   「ひょえええええ!!」

   「陛下!! しっかり!! 頑張って!!」


   上空からリナリアの声とサイネリアの

   あわてる声が聞こえた。

   見上げながら郁人は思わず呟く。


   「……………大丈夫かな?」

   「あの女、ヴィーメランスのコートの裾を

   握っただけでも失神しそうだったもんね」

   「ヴィーメランス殿は罪深いといいますか

   本当にニブいですな」 


   チイトが郁人に抱きつきなが告げた。

   ポンドはヴィーメランスの様子を思い出し

   はははと笑う。


   「では、僕達もそろそろ行くんで!」

   「……………」


   アマポセドとエンウィディアが告げる。


   「旦那様のことだから、これからも

   抜き打ちチェックすると思うんで

   練習は欠かしちゃだめだよ」

   「発声練習とか欠かさないように

   気をつけます」

   「そうしてね。あっ、君の従魔に

   練習用のやつとか大量に渡しとくわ。

   僕から直接君に渡したら旦那様が

   すねちゃいそうだし」

   「いきなりですな?!」


   量が多いし、説明もしたいから離れた場所で

   渡すねと、アマポセドはポンドの腕を掴むと

   離れていった。


   〔俺様人魚も唐突だけど、あいつも

   結構唐突ね……〕


   ライコは呆れた声で呟いた。


   「おい」


   そこへエンウィディアが郁人に声をかけた。


   「あいつも言っていたが練習を欠かすなよ。

   少しでも落ちてたら2度と地上を拝めない

   と思え」 

   「……了解」


   ギロリと睨まれた郁人は首を何度も

   縦に振った。


   「これ以上エンウィディアを傷つけたく

   ないからな。頑張るよ。俺なりに音楽にも

   向き合っていくから」

   「……………」


   エンウィディアの好意をむげにしていた

   からなと告げる郁人をじっと見つめる

   エンウィディア。

   頭をかいて少し息を吐いたあと、口を開く。


   「……………よく聞け、クソ奏者。

   1度しか言わねえからな」

   「むぐっ?!」


   郁人の口を覆うようにエンウィディアは 

   片手で郁人の顔を掴んだ。

   真っ直ぐ郁人の目を見て告げる。


   「テメェの音を理解出来るのは俺だけだ。

   テメェの音楽を理解できねえクソの(こえ)

   聞くな。俺だけがテメェを音楽の頂点、

   さらなる高みへ導ける。俺だけがテメェの

   音楽に応えることが出来る。テメェだけが

   俺の隣に並べられる。テメェを導くのは、

   隣に立つのは……この俺だ。

   俺に相応しいのもテメェで、テメェに

   相応しいのもこの俺だ。


   ー テメェは俺だけを見ていろ」



   瞬間、郁人の口の中になにかが流れた。



   ーーーーーーーー



   「はい、これで全部だよ。しっかり

   練習するように言っておいてね」

   「とてつもない量ですな……」

   「旦那様が満足する技量だからね。

   これぐらいは当然でしょ?」


   アマポセドから荷物などを受け取っていた

   ポンドだったが、突然頭に声が突然響く。


   〔ちゃんと彼を守りなよ。彼が倒れたら

   旦那様が暴れちゃうからさ。それも広範囲

   で被害が出ちゃうぐらいのね〕

   (承知しておりますとも)


   ポンドは心中で頷いた。

   その姿を見ながらアマポセドは続ける。


   〔たしかに、君は僕より彼のそばにいたん

   だからわかってるか。 

   ………今度こそはちゃんと守りなよ。

   あの子みたいな顛末(てんまつ)は2度とごめんだから。

   僕の加護も利用してくれても構わないよ。

   僕が復活したんだから加護も復活してる

   でしょ?〕

   (……はて、なんのことやら?)

   〔とぼけなくても結構。君、もう思い出して

   るでしょ?〕

   (…………)


   ポンドはなにも思わず、ただ微笑む。

   それを見てアマポセドは察した。


   〔……なるほど、言えない理由があるのか。

   たしかに、少しでも悟られたら厄介そうだ

   もんね。じゃあ、さっきのは僕のひとりごと

   として聞き流しといて〕


   アマポセドはヘラっ笑い、ポンドは平静を

   貫いた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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